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大事なもののなくしかた(一話完結)
日時: 2013/02/22 21:06
名前: ゆーじ


こんばんわー!

自分の中では本編が一段落ついたので、久々に一話完結を投下です!

と言っても、これはひなたのゆめで書いた『大事なもののなくしかた』という作品をリメイクしただけの話なんですが…。

色々と通報だったり、このサイトの規則とかが怖いですが一応あげます!

この小説は死ネタです。誰が死ぬだとかは言いませんが、とりあえず病み系を目指しました。キャラは基本全員大崩壊しています。

なお、作中で描かれなかった出来事は皆さんに考察して欲しいという意を込めて曖昧にしてあります。皆さん是非考えてみてください!

まぁ前書きは大体こんな感じです。
では読んでくださる人はどうぞー!

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酷く風が吹き荒れた曇り空。この分ではじきに雨が降り出すだろう。
そして、そんな曇り空の下。バルコニーの手すりの上に、ハヤテの後ろ姿はあった。
いつも布団を干している場所。人が立つところではない。


「ハヤテ君っ!そんな所に居ては危険です!危ないから…!だから…早く降りてくださいッ!!」


マリアの叫ぶような声と、必死の形相。
ハヤテが『する』ことを危惧してのこと。
そんなマリアの声もハヤテには届かない。


「僕って…なんで生まれてきたんでしょう?」

「え…?」


唐突に話し出したハヤテに、マリアも私も目を丸くする。


「両親に愛されたことはなく、ずっと働かされて、裏切られ続けて、譲り受けた名前も結局はお金のため…。親が関係なくてもそう…大切な人を傷付けて別れて…」


ハヤテは、己の人生を振り返るかのように空を見上げながら言う。
何を思いながら、その瞳に映る曇り空を見ているかは分からない。


「それは今も同じ…。大切な人を傷つけて、裏切って…掴んだ幸せも自分から壊した…。大切な人を見つけては傷つける、…きっと僕は生涯それをずっと繰り返して行くんでしょうね…」


そしてハヤテは視線を前に戻し、小さく笑い声を上げた。
マリアは目尻から涙を流しながら首を振る。


「そんなことありません…!ないんですっ!だから…!だから考え直してっ…!!」

「考え直したら…また繰り返してしまいます…。変わりはないんです…、今までも、これからも…」

「………ハヤテ……お前、まさか…」


そんな予感はしていた。
マリアもそれを危惧してこうして必死に止めているのだから。

ハヤテは、ようやく私達に顔を向ける。
しかしその顔は風に揺れる前髪で見えない。


「また、傷つけてしまうのならば…、繰り返してしまうのならば……もう、終わりにすればいい…」

「止めて…。もう止めて…!ハヤテ君っ!!」

「来ないでッ!!」

「…っ!」


足を踏み出しかけたマリアは、ハヤテの声にビクンと体を強ばらせて硬直する。
そしてハヤテは口元をつり上げる。


「止めないで下さい。…いいんです、もう…」

「よくない…。いいわけないじゃないですか…!!」

「終わらせたいんです…。もう、誰も傷つけたくない…繰り返したくないんですよ…」

「ハヤテ君…」


ハヤテは俯きながら、体をこちらに向ける。
そして髪を靡かせながら、顔をゆっくりと上げる。
その顔は穏やかに笑っていた。…いつものように、優しい微笑みを、涙を流しながら…。


「今まで…ありがとうございました」

「待っ…! ……っ!!」


再び止めに入ったマリアを、突風が襲う。
まるで『邪魔をするな』と言わんばかりに吹く風に、マリアは頭を抱えながら目を瞑って顔を逸らす。
私はその風の中…笑いながら再び私達に背中を向けるハヤテの姿を見た。
ハヤテは最後にこちらに顔だけを向ける。


「さようなら」


声に出していたのかは分からない。
ただ口の動きがそう言っていた。笑いながら。
そしてハヤテは顔を前に向けると、そのまま手すりから倒れるよう飛び降りた。


―――突風が吹き止み、何かが落ち、そして潰れるような音だけが私達の耳に届いた。








【大事なもののなくしかた】










雨は降り始めから酷かった。
屋敷の屋根からは大量の雨が落ち、外に居る私達も既にびしょ濡れだ。
マリアはそれを見るなりビシャリと水溜りが跳ねる音を立てながら座り込み、顔を手で覆って泣き始める。
私もそれをちゃんと目に映す。

かつては私の執事として仕えたいた『それ』。
雨ざらしになり、大量の赤の中に倒れ伏しているハヤテの姿。
出会った時から綺麗だと思っていた空色の髪は今や真っ赤に染まっている。
その傍らには同じく真っ赤に染まった先が少し尖った岩がある。
落ちたところにこの岩があったのだろう。最期まで不幸な男だ。
…………もしかしたら、それを狙っていたのかもしれない。
それはもう、誰にも分からない…。





○ ○





数日後のこと。
当然ながら学校を休んでいた私の所にヒナギクがやって来た。後ろにはハムスターや花菱、朝風、瀬川もいる。
ヒナギクは黙って私の前に立ちはだかると、力の篭った声で言う。


「どういうことか説明してもらうわよ、ナギ」

「……なんの話だ」

「なんの話?……とぼけても無駄。ハヤテ君の事に決まっているでしょ?」

「言った通りだ。ハヤテは不慮の事故で死んだ。ここに来る前に見ただろう、真っ赤な岩を」

「ええ。ちゃんとこの目で見て、手を合わせて、お花も手向けてきた。…でも私が言いたいのはそれじゃない」

「……………」


私はそこで初めてヒナギクの顔を見る。
その、とても憎たらしいものを見る目を。


「たしかにハヤテ君は不幸すぎる人だった。でも…あんな大きなバルコニーから、どうしたら落ちるのかしら。あそこは普段布団を干すくらいしかしないんでしょう?」

「………………」

「でも生憎、ハヤテ君が亡くなった日は曇りのち雨。日差しがないのに布団を干す馬鹿はいないわ」

「何が言いたい」

「あら、まだ分からないの?」

「……………」


私はまたヒナギクから視線を逸らす。
もう、こいつは全て知っている。


「ハヤテ君は事故で亡くなったんじゃない。………自ら飛び降りたのよ。あの雨の日に…自分から」

「……………」

「ねえ答えて。ハヤテ君の死を嘘で塗り固めないで」


もう、隠すのも馬鹿馬鹿しい。
私はヒナギクを見上げ、睨みながら教えてやった。


「ああ、そうだ。事故じゃない。自分から飛び降りたよ、お前の言う通り」

「なっ…」


ヒナギクは目を見開かせて絶句する。
後ろではハムスターが口元を手で覆って、涙を流していた。


「…止めなかったの…?」

「マリアが何度も止めた。でもあいつが拒否したんだ」

「あなたがよ!!あなたは止めなかったの!?執事が自殺しようとしているのよ!?」

「……………。私は、止めなかった」


ずっと見てるだけだった。
最初から最後まで。


「なんでよッ!!」

「……………」

「……大体分かったわ…。あなたなんでしょ?あなたがハヤテ君に酷いこと言ったから…!だからハヤテ君は…死んじゃったんでしょ!?」


ヒナギクの問いかけに私は目を逸らした。


「何か言ってよ…言いなさいよッ!!」


ヒナギクは叫んで手を振り上げた。
そして思いきり降ろされた手は私に届くことなく止まった。
見ればハムスターや花菱が暴れ狂うヒナギクを後ろから抱きついて止めていた。


「止めてよヒナさん!こんなこと…誰も望んでないよ!!」

「離してよ!この子のせいで…!ナギのせいでハヤテ君は…!!」


ヒナギクを他所目に、私は部屋から出ようと歩き出す。


「待ちなさいナギ!!話はまだ…!」

「………………」

「…っ! ………あなたが一番近くに居たのに…、あなただけがハヤテ君を…。ハヤテ君を幸せに出来るのは、あなたしか居なかったのにッ!!なのにどうして…!どうしてこうなったのよぉ…!!」


叫び、そして泣き崩れるヒナギクを背に私は部屋を出た。




○ ○




私は何もしていない。
ただ、いつものようにしていただけだ。
いつものように喧嘩になって…私はいつものように怒りに身を任せて、出てきた言葉を言い放った。ただそれだけだ。
ハヤテはいつものように、困ったように笑えばいいはずだった。

………なのに、ハヤテは笑わなかった。

全てに絶望したような顔で立ち尽くしていた。
それから泣き出しそうな顔で俯いて、部屋を飛び出して、バルコニーに行って、そして…飛び降りた。
だから、私は何もしていない。何も知らない。私は…悪くない。


「…………………」


………そう、思い込んで…逃げていたんだ。

知ってる。分かってる。
すべては私のせい。私がハヤテを自殺にまで追い込んだ。
全部ヒナギクの言う通り。私のせいでハヤテは死んだ。


「……ちゃんと、分かってたよ」


自分は人を傷つけるだけと。繰り返すだけだとハヤテは言っていた。


「ハヤテが人を傷つける天才なら…私はなんの天才かな…」


大好きな母とは喧嘩して別れた。ハヤテは私のせいで自殺した。マリアとはあの日以来、会話を交わしていない。
大切だった日常は、もうない。


「失くす…天才かな…」

『そうやって大事なものを一つずつ失っていく気ですか? 』


また、同じ。
またひとつ、大事なものを失ってしまった。






○ ○






何個目かの空になったガソリンタンクを投げ捨てる。
もう屋敷内はガソリンまみれだ。
私の足はハヤテが使っていた小部屋に向いている。
ガソリンで湿った絨毯を踏みながら、その狭い部屋の扉の前に着く。
ふと視線を横にすると、私の行動を最初から最後まで見守っていてくれたタマとシラヌイの不安そうな目が私を映す。
タマは日中、ハヤテが落ちた場所でただただ座って見つめていることが多かった。なんだかんだで懐いていたし思うことでもあったのだろう。
シラヌイもマリアが居る部屋の扉を爪で削っている姿をよく見た。シラヌイなりに何か異変を感じ取っていたのだろう。
そんな可愛い子ども達に、私は何日かぶりの笑顔を向けた。


「大丈夫だ、お前達。みんな、ずっと…一緒だから」


何か言いたげに声上げるタマを他所に、私は小部屋の扉を開けて入る。
もちろんこの部屋もガソリンが撒かれていて床は湿っている。
次にポケットから取り出したのはライター。
レバーを押し、オレンジ色で揺れる炎を見つめる。


「………」


そして私は、そのままライターを床に落とした。
落とした瞬間、視界は炎に包まれ一気に息苦しくなる。
この屋敷もじきに火だるまになる。皆逃げられない。助からない。

でも、これで良かったんだ。皆一緒だから。
簡単なことだ。

どうせ失ってしまうのならば――


「今…ここで全て失ってしまえばいい。……そうだろう?ハヤテ」


これで、おあいこだよな。


――燃え盛る炎の中、雫が一滴、ポタリと落ちた。

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Re: 大事なもののなくしかた(一話完結) ( No.1 )
日時: 2013/02/22 21:24
名前: masa

どうもmasaです。

いきなりの急展開!?
そんな感じの始まり方で驚きました。

ハヤテにとっては本当に絶望したんでしょうね。あのマリアさんの必死のお願いも無視して。死を選んだんですからね。


ヒナギクさんにとって、本当にショックだったんでしょうね。好意を寄せる相手がいきなり死んでしまい、真相が分からないんですからね。

ナギがハヤテに言ったのはあの言葉だったんでしょうね。それが不幸の連鎖が重なって偶然同じだった。自分はそう思ってます。


結果として、ナギもハヤテとほぼ同じ道を歩む事になっちゃいましたか。
いや、きっと。



では。

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Re: 大事なもののなくしかた(一話完結) ( No.2 )
日時: 2013/02/23 15:39
名前: 迅風

ふむ……まーアレですか。まずは一言黙祷めいた追悼の念を一匙願いましょう。

安らかに眠るのです綾崎君よ。蓄積して遂に破裂してしまった感情を、不幸な感覚を拭い去ってせめてあの世で安らかに眠れる事を祈ってみるのですよ、じんふーさん的にね。

しかし切ないな……。いつも通りの三千院との喧嘩であったとして……どんな規模の喧嘩になって喧騒に至って疾走し、投身自殺になってしまったのか……。

絶望も一塩か……。マリアさんのお願いも断って自殺を選んだのですから……。

だから許すと思うなよ綾崎君貴様ぁっ!!←理由『にゃー、マリアさんのお願い無視とか許されないよ美人さんのお願い無視だよ有り得ないよ……!!』

ふっ、今一瞬私の中のクラッシャーが出てきてしまった……!!←

そして後日ヒナギクが屋敷にやってきましたか……。まあ、そうなって当然なのでしょう。ハヤテが好きであった少女であり、聡い子ですから……状況を推察してナギと何かあったくらいは行き着いてしまうか……!!

しかも死因が自殺ですからね……!! 悲しいよこれは……!! 止める西沢さんもかなりの心境だろうし……にゃあ……。

そして最後……ナギは最後に屋敷を全て火で……うわぁ……タマの場面もシラヌイの場面もマリアさんがどうなったかも切ないですよこれ……!!!

とりあえずタマに敬礼を送っておく……!!(`・ω・´)ゞ←

っと、まあゆーじさんの一話完結リメイク読ませて頂きました。死ネタと言うのは事前にわかってましたが流石……重いぜ……!! 切なかったさ全体的に……!!

では、本編の方も頑張ってです!! 応援しているですー♪ では、さらばっ!!
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