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出逢ってから1年と50日
日時: 2013/02/14 21:27
名前: 唐笠

バレンタイン記念ハヤナギ小説です。
爆弾はいまだ爆発していない設定となります。





















ナギSIDE


「むー」


もう何度目となるかも解らない不満をもらす私。
端的に言えば気にくわないのだ。要するに不味いわけである…


私の作ったチョコが…


去年は一緒に季節外れの柿を食べることでよしとしてしまったが、やはり今年こそはチョコをあげたいものである。
しかし、それが上手くいかないのだ…

別に金さえ積めば、美味しいチョコなどいくらでも買えるだろう。
しかし、私はハヤテからお金では買えないもの沢山貰っているのだ。
だから、それを金で買うようなことはしたくないのである…

だが、現状は正に悲惨であった…
失敗することを見越して買った100枚の板チョコはもう3枚しか残っておらず、キッチンのそこらかしこにはチョコの跡やらボウルやらが転がっているのだ……


「一度……片付ける………か…」


そう呟くと、私は気分転換のためにも片付けを始めた。
普段ならば、片付けなどはハヤテやマリアに任せるのだが、マリアにはキッチンに入ってくるなと、ハヤテには期末試験に向けて勉強しとけと言っているためそうはいかない。

しかし、マリアのあの含みをもった笑みはいつ見てもムカつくな…
大方、私が失敗するとでも思っているのだろう。


………………………………

………………………………………………………………

………………………………………………………………………………………………


たしかに失敗一歩手前であった…

いやいや、私はこんなところで挫けるわけにはいかないのだ!

じゃないと…

そう……でない…と………

脳裏によぎる一つの可能性。
それが私の中から消えていかなかった…

考えるな…
今は目の前のことに集中しなければ……
そう、私はチョコを作らなければならないのだ。


―――――なぜその必要性がある?


首をもたげた疑問は私に問いかけてくる。


―――――私とハヤテは両想いなのだから、わざわざそんな必要性があるのか?


それでも、日頃の感謝や改めての想いを込めてだな…
それに、普通は恋人間でもやるものだろう?


―――――だとしても、わざわざ馴れないことをする必要性はない。市販ので済ませばいいはずだ


それでは想いを伝えられないではないか…


―――――両想いなのに伝える必要性はないだろ?


でも…

たぶん、心のどこかで私は理解していた。
いや、気付いてしまっていたのだろう…
だからこそ、バレンタインという日にかっこつけて伝えたいと思っている。



私は本当にハヤテが好きだと



あの日の告白を抜きにしても、私はハヤテが好きなのだと…
もう受け取っただけの想いではなく、私自身の想いなのだと……

きっと気付くまでの私は恋に恋していただけなのだろう。
ハヤテから与えれる『愛』だけで満足してしまっていたのだから……

でも今は違う。
与えれるだけでも、与えるだけでもない。
二人で共に手に入れたいものがあるのだ…

だから、私のことを"好き"でいてくれても、私が踏み出さなければ、私が伝えなければそれは始まらない。


「あれ、お嬢様。
こんな時間になにやってるんですか?」


「って、うぉぉぉ!?は、ハヤテぇぇぇ!?」


「あっ、はい、僕ですけど…」


私が意気込んでいる中、突如してキッチンに現れたハヤテに私は戸惑いを隠せないでいた。


「な、なんでお前はここにいるのだ!?
た、た、た、たしかき、期末試験に向けて勉強しとけと言ったはずだぞ!?」


そう、私はたしかにそう言った。
だから、ハヤテがここにくることなどあり得るはずがないのだ。
そう脳内では冷静に分析しているが、身体はチョコを作ってるのを隠そうとあたふたしてしまっている…


「いえ、勉強はしていたんですけど喉が渇いてしまったので…」


そう言いながらハヤテは照れくさそうにはにかむ。
幸いなことにハヤテは未だにキッチンの入口におり、私の身体とハヤテからの死角でチョコを作っているのはバレてはいない。
しかし、それ以上キッチンに入ってこられれば確実にバレてしまうだろう…


「そ、そうか!
よ、よし、わ、私が飲み物くらいとってやるぞ。何が欲しいんだ?」


「いえ、眠気覚ましも兼ねてコーヒーを淹れようと思ったのですが…」


まずい…
このままでは確実にハヤテは入ってくるだろう……


「それよりもお嬢様はさきほ「入ってくるなバカ者ぉぉぉ!!」


ゴーーーン!

入ってこようとしたハヤテに対して私は手短にあったボウルを投げつけた。
それは見事にハヤテの顔面に直撃し、KOさせる…
まるで決着のゴングがなりそうな程にのびてしまっているハヤテ…


「し、死んで……ないよな…?」


そーーっとハヤテに近付いてみると、たしかに息はしていた。
だが、意識を失っているのかピクリとも動きはしなかった…

とりあえず投げつけたボウルを回収し、これからのことを考えることにする。
まず、ハヤテの身体を私一人が移動させるのはほぼ不可能。
それはマリアに手伝ってもらえばいいのだが、チョコ作りがことごとく失敗している現状を見られるのは癪である。

要するに私がすべき最優先事項はキッチンの片付けであり、次いてがハヤテの移動という訳か…

そう一人合点をすると、私は早速作業に取り掛かった。
ボウルや鍋、ヘラを洗い、乾燥機の中に入れる。
洗っているとき、何度か落としそうになったが何とかなったし、そもそもがステンレス製なので割れる心配はないのだ。

そして証拠を隠滅するために、残った3枚の板チョコも片付けようと手にとる。


――――――諦めるのか?


そう、ここで片付けてマリアを呼んでしまえば、私は強制的に寝かしつかされてしまうだろう。
それは実質的に今年のバレンタインが失敗したことになる…

そんなのはイヤだった…

だけど、先ほどから視界の隅で倒れているハヤテをほっとくことなどできる筈がないのだ…
だから、私は掴んだ手を放さずに冷蔵庫を開ける。


そう、チョコなら明日これをあげればいいのだ…


きっと、それでもハヤテは喜んでくれるから…


だって、ハヤテは優しいから……


「来年…また挑戦しよう………」


パタンッ


冷蔵庫を閉める音だけが虚しく響く…


「これで……よかったのだ…」


だから、私は………

























「良くなんかありませんよ」


「えっ…ハヤ……テ………?」


私の呟きに反応する優しげな声に振り返ると、そこには倒れているはずのハヤテがいた。
私はそれに目を見開いて立ち尽くしてしまっている…


「な…なんで……」


「お嬢様の悲しそうな声が聞こえましたから。
そんな時、僕にできることがあるのならば、いつでも力になりますよ?」


いつもの笑顔、いつもの優しさで接してくれるハヤテ。
でも、私はそれに対していつも何もしてあげれないでいた…

それでも、ハヤテは私に優しくしてくれる…

その虚しさと嬉しさは滴となり、私の頬を伝う。


「ハヤテ…ハヤテ……
わたし………わたしはな…」


言葉が続かない…
自分でも何を言いたいか解らない…


「お嬢様。一緒に作りましょうか」


ハヤテが私の右手を掴み、空いた手で冷蔵庫からチョコを取り出した。


「で、でもお前は試験勉強が…」


「たしかに試験も大切です。
ですけど…こんなに悲しそうにしているお嬢様をほっとけないですよ」


ハヤテの言葉に自分でも火照ってきているのがわかる。
きっと、繋いだこの手からそれもバレてしまっているだろう…
その考えが、更に私を火照らせ、思考に靄をかけていった……


「明日のチョコを作ろうとしていたんですよね?」


ボウル等の器材を用意しながら尋ねるハヤテに、私はただ頷くことしかできなかった…

でも、たぶん私の頭は聞かれてる内容の半分も理解していないだろう。
ただこの一瞬を余計な考えで邪魔したくなかったのだ。


「準備ができましたから、一緒に作りましょうか」


私の手を優しく掴み、次々と作業を進めていくハヤテ。
私は余計なことを考えずに、ハヤテが導いてくれる通りに手を動かした。

不思議と肩の力が抜けているのがわかる…
この手の温もりが傍にある限りは、なにも心配するこなどない。素直な私でいればいいのだと…
そんな根拠のない確証を感じることができた。

きっと、これは素晴らしい一時。
普段気になっている疑問を挟むことさえ無粋な時間。
だから、私はただ笑顔でいた。
そして、私の後ろから私の手を導くハヤテの顔は見えないけど、それも笑顔だと確信できる。

まるで一つになれたような感覚だ…
もしかしたら、ハヤテにも私のことが伝わってしまっているのかもしれないとさえ錯覚してしまう。



だけど、そんな時間にもいつかは終わりはくる



「はい、これで後は固めるだけですよ」


そして、それはハヤテから告げられた…
そう、夢であろうと幻想であろうといつかは終わる時がくるのだ。


「ありがとな、ハヤテ♪」


だって、孤独や後悔がいつまでも続かないのと同じように…
私はそれを知っているから、笑顔を返した。


「いえ、お嬢様の力になれたならなによりです」


そう言うハヤテも笑顔だった。
だけど、一瞬。ほんの一瞬。普段の私なら気付かない程のそれに陰が落ちたことに気付いてしまったのだ…

その悩みを私が拭いさってあげたい。
そう思うのは、私のわがままなのだろうか?
人には誰しも聞かれたくないことがあるものだと言うことくらい理解はしている。


「あのな、ハヤ「お嬢様、今日はもう遅いですからお休みください。僕ももう一勉強したら寝ますから」


まるで私の言葉に重ねるように言い残し、キッチンから去っていってしまうハヤテ…
やはり、私では出過ぎた真似だったのだろう……


「力になってあげれなくて…ごめんな………ハヤテ…」


私の言葉に反応するものはいない…
ただ、言葉が残されただけだった……






〜翌朝〜

バレンタイン当日、私はまだ朝日が昇っていないような時間に目が覚めてしまった。
時間が気になり時計を見れば、3:48という夜更かしをした時にしか見れないような時間を示しているではないか…


そろそろチョコ固まったよな…?


そんなことを覚醒しきらない脳内で考える。
そして、気になったの半分、ハヤテに早く渡したいの半分で私はキッチンに向かった。





ガチャッ

誰もいないキッチンの冷蔵庫を開けると、昨日作ったチョコを取り出す。
と、そこで初めてチョコを入れてある箱に小さな紙がついているのに気付いた。


「なんなのだ…?」


それを裏返し、私はそれを読む。

『勇気を持って渡してあげてください。お嬢様から貰えたチョコなら、きっと相手の方も喜んでくれますよ。byハヤテ』


ん?
私はハヤテに渡すチョコを渡そうと思っていたのに何を書いているのだ?

そう疑問に思ったが、とりあえず今はおいておこう。
それよりも、ハヤテが寝ている間に机にでも置いといた時の反応が楽しみである。

そんないたずら心を芽生えさせた私は颯爽とハヤテの部屋へと赴く。
しかし、いざ部屋の前まで来ると緊張してしまう自分がいる…
と言うか、ハヤテはまだ寝ているのだからこれでは夜這いにきたみたいではないか…

そう意識した途端、私は真っ赤に茹であがってしまった…
しかし、ここで退くわけにもいかないのだ。


自分から一歩踏み出さなければ何も変わらない…


昨晩、自問自答の中で出された答えを胸の内で反芻する。
だが、それでもドアノブにかけた手が動くことはなかった…


やはり諦めてしまおうか…


チョコを渡すタイミングなどいつでもいいではないか…


だけど、ハヤテが貰う一番最初のチョコが私のものにするには、ここが一番なのもたしか…


でも、踏み出せない…


諦めよう


そう自身でこたえを出し、後戻りしようとした時、ハヤテが書いてくれた紙の内容を思い出した。


「…………私から貰えれば……ハヤテも…嬉しいか…?」


ガチャリ


まるでそれは開かずの扉を開く秘密の呪文。
それを唱えた私はハヤテの部屋へと入る。

隅々まで小綺麗に片付いた部屋。
その部屋のベッドで寝るハヤテは安らかな寝息をたてていた。

それを視界の隅に納めた私は起こさないようにそっと、チョコの入った箱を机に置く。



ハヤテ、お前のおかげで私は一歩踏み出せたよ



きっと面と向かってじゃ、私はお礼なんか言えないから…



「いつもありがとな…ハヤテ」


誰にも届くことのない声


私の唇に触れる柔らかな頬の感触


多少大胆過ぎたかもしれないが、今日くらい許されるだろう。
だって、今日は特別な日だから…


「おやすみ……ハヤテ…」


それだけを言い残した私はそっと扉を閉める。
また朝に「おはよう」と声をかけてもらうために…





ハヤテSIDE

「……………………………」


お嬢様が部屋から去って早十数分。
未だに頬に触れた温かな感触が残っている気がした…

目を瞑っていたからたしかなことはわからない。だけど、あれはたぶん…

そう意識するとイヤでも火照ってくるのがわかる…
って、いやいや、しっかりしろ綾崎ハヤテ御年18歳!
そう自制してみるが一行に改善する気配がない。


「眠れないんだから…仕方ない……ですよね…」


まるでお嬢様みたいな言い訳をして僕は机に置かれた小さな箱を手にとる。
そして、今日の事を少しだけ振り返る。

お嬢様がチョコを作っていることは最初から知っていたのだ。
去年は作らなかったチョコなのだから、この1年でお嬢様は恋をしたのだろう。
事実、いつの頃からかお嬢様の瞳の奥には誰かが住んでいるのが見てとれた。
そう、それは盲目でも独りよがりでもなく、真剣な恋。

だから、僕はそれを応援してあげたいと思った。だけど、それと共に一抹の寂しさを感じたのもまた事実…
それを振り切るために、お嬢様の背中を押すために紙に言葉を残した…
でも、もしかしたらお嬢様はどこかで僕の寂しさに気付いていたのかもしれない。
だから、気を利かせて僕にもチョコをくれたのだろう。

そしてもうひとつ…
本当はお嬢様が部屋の前に立っていた時から気付いていた。
だけど、声をかけるだけの勇気が無かったのだ…
あそこで声をかけていれば、なにかが変わったのだろうか?
それにこたえをくれる者はいない。


だけど、僕は今でも充分に幸せだから…


そこまで考えた僕はさっと包み開け、中のチョコを一口かじる。


「ちょっと……甘く作りすぎたかな」


これは、また来年も僕が手伝わなきゃですね…

そんなことを考えた僕は窓から見える月に微笑みかけた。
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