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そのウソを一秒でも長く(1話完結・2/5加筆修正)
日時: 2013/02/04 13:53
名前: 唐笠

皆様、こんにちは。唐笠です。
なんかまた短編が書きたくなったので、投稿します。
前回同様、今日一日で終わらせる一話完結型です。

※警告?※
拙作はシリアス・ハヤテ→ナギの要素で構成されています。
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Re: その嘘を一秒でも ( No.1 )
日時: 2013/02/04 14:13
名前: 唐笠

ハヤテSIDE


きっかけは偶然だった。

いつものように書斎の掃除をしている時、一冊の本を落としてしまったのだ。



『DIARY』



なんとも解りやすく書いてあるそれを拾うと、僕は本棚に戻そうとする。

しかし本を傾けたためか、それに挟まっていた紙が一枚宙を舞ってしまう。

それを何気なく拾う。そのまま戻せば良かったのだ…



なのに僕は裏返して読んでしまった。


そんなことをしなければ、僕らは"日常"の中で生きられたのに…






2004/12/24

私の前に一人の男が現れた。

そいつは会ったばかりの私に対して「君がほしいんだ」といきなり告白してきた。

先程助けられたこともあってか、私はそれを受け入れると共に執事として迎え入れた。

日記なんてものは初めてだが、これからはあいつに言われて嬉しかった言葉を綴っていこう。

願わくば、この筆が止まることがないように願って…






「えっ……」




僕は自分の目が信じられなかった…


これを書いた人物は十中八九でお嬢様。そして、あいつとは僕のこと…


お嬢様が日記をつけていたことが意外だったわけではない。


内容そのものに問題があるのだ。なぜなら、僕は告白などしていない。



あれはお嬢様を誘拐しようとして言った言葉なのだ…

だけど、お嬢様の認識は違った…

そして互いの認識が違うまま、今の今までやってきてしまったのだ…



言うならば、僕とお嬢様の生活はウソの上に成り立っていた。

その上で僕らは偽りの関係を演じ続けてきたのだ…

もし、お嬢様がこのことを知ったらどうするだろうか?












怒る












泣く











すねる










ふさぎ込む










追い出される













どれも正しく、どれも的を射ていない気がした…


でも、それは僕が黙っていればいいだけのこと。


そうすれば僕らはまだウソの上で生きていられる。


このすばらしいウソの中で生きていけるのだ…







そうだ。なら黙っていよう…

そうすれば誰も傷つかないんだ…

わざわざ傷付けることなんてないんだから…









『君を泣かせようとする奴から…僕が君を護るよ。それで…いいかな?』








その言葉にウソはなかっただろう。

だけど、それすらウソの上に成り立った無意味なもの。

そして、この事実を知ったお嬢様は泣くだろう。



そんなやつがお嬢様を泣かせないようにする?



我ながらなんと滑稽な約束をしたことだろう…

僕のウソが…この日常がお嬢様を泣かせてしまうのは明白。



そして、それは遠くない未来に訪れるだろう。

僕が手を加えずとも、綻びは亀裂となり僕とお嬢様を繋げているウソを引き裂く。

でも、対処法がないわけじゃない。









『約束だぞ。私とハヤテはいつまでも一緒だ』








またウソを重ねればいいだけだ…

どうせ……ウソの上に成り立った約束なのだから…





僕がいなくなればお嬢様は、僕達の日常のウソに気付かない。

それがお嬢様にとって一番幸せなのだろう。

そしていつの日か約束を守れない奴がいたなぁ程度に思い出してくれれば……それでいい…




なぜそんなことを考える?




考えるな。それに気付いたらウソじゃなくなる。

ウソで…ウソだけで塗り固めるべきなのだ。

























『これから先の未来は…おまえが私をまもってくれ』






















その言葉にもウソをつこう。
























『必ず帰ってきますから』































自分の言葉にもウソをつこう。































『過去でも未来でも僕が君を護るから』


























そして、この僕のウソじゃない言葉も……想いにも…すべてにウソをつこう…



僕はなにも気付いてないし、なにも思っていない。




『執事』としてお嬢様を傷付けないようにするだけだ。




だから、この場からそっといなくなればいい。













でも、最後にお嬢様の顔を…



いや、そんな必要なんてないはずだろ?



必要ならある。今までお世話になったお礼を言いに…



そんなことしたら、いなくなるのを察しられるだけだ。



でも!



でもも何もない。もう……会う必要なんてないんだ…



いきなりいなくなったら探すはずだ。



置き手紙がある。



それでも、探すだろう…



なぜ?



『執事』がいなくなったから…



なら、逆だったらどうする?



探すに決まってる。



なぜ?



『主』がいなくなったから…



だが、それすらウソの上で成り立った関係だ。



それでも僕は…



なぜ?



そこから先は…僕に必要ないんだ……



ウソをつくのに邪魔なだけ。



ウソの中で気付けたらしあわせだったろう…



だってそれはウソを変えられるたった一つの言葉。



そしてそれが僕の……



もう……やめにしよう…









そこまで考え、僕は思考を放棄した。



帰る場所も行き着く場所もない。



ただ、過ぎ去る風のように僕は彷徨えばいいだろう…



その風がやむまで……
































さよなら……お嬢様…



言葉にならない言葉だけを残して僕は屋敷を出ていった…


この見慣れた屋敷を…


ウソをすべてはらんだ屋敷を…


もしかしたらウソを変えれたかもしれなかった屋敷を…


それからどれだけ歩いただろう。

あてもなくさまよっていると、いつの間にか雪が降ってきていた…

そう言えばあの日も…

もう戻らないあの日。ウソが始まったその日。


思い返せば幸せだったと実感できる…

学校のみんながいて、西沢さんやワタル君もたまに遊びにきて、そしてマリアさんやクラウスさん、タマ。そしてお嬢様がいる…


あぁ…

なんて素晴らしい日常だったのだろう…




「やり直したいな…」



ぽつりと出てしまった言葉。

それは"僕の中のウソ"に亀裂を入れていく…


ダメだ…

考えないって、ウソをつくって決めたじゃないか…













『ハヤテ』

やめてくれ。
その声で僕を呼ばないで…





















『ハヤテ』

やめて…
その笑顔を僕に向けないで…

















『ハヤテ』

や…めて…
僕に…気付かせないで…



















「ハヤテ」

君が…誰よりも……好きだったと…

僕は倒れ込む。そこで微笑む君の幻覚へ向けて…































本当は最初から解っていたんだ…


僕がウソをつき続けているって…




いつからそれに気付いたのか、いつからそうなったのか解らない。


だけど確かに約束は形を変えていったんだ…


最初は『主』と『執事』の約束。それはすぐに『主』と『綾崎ハヤテ』の約束へと変わった。


そして、それはその先にも変わっていった…




でも、僕はそれにウソをつき、気付かないふりをして、あたかもないように振る舞った。
今なら解る。それこそがウソを変えることができるものだって…


きっとそれを認められていたのならば、ウソが解っても僕達はもっと長く一緒にいられただろう。




認められない理由なんて解っている…


身分・年齢・過去・体裁。その全てが僕をウソつきにさせたのだ。




でも、今なら迷いなく言える…


そんなものは気にならないほどに好きだと…


でも、遅すぎた。僕は既にウソに溺れてしまったから…


僕の存在そのものがお嬢様の日常を壊してしまうのだから…






やり直したい





今日に酷似したあの日から…


そう思い、立ち上がろうとした僕は初めて気付く。


自分が地面につっ伏していないことに…












「ハヤテ」

確かに僕の耳へと届く声。


それはウソの中では当たり前で、ホントの中では存在しないはずのもの…





「おじょう……さま…」





そう、僕はお嬢様に支えられていたのだ。

あの小柄なお嬢様が僕を支えていてくれたのである。







「あぁ、私だハヤテ」






そのほほえみは僕の日常。

そうなることを望みながら捨てたもの…






「どうしてここに…」





ウソの世界は終わったはずなのに…


………いや、まだ彼女はウソの中にいるのだ…






「今日はハヤテにあることを伝えなきゃと思っててな…

だけど、いざ実行しようとすると気持ちの整理がつかなくてここに来てしまったのだ」





舞落ちる雪を仰ぎながら言葉を紡ぐお嬢様に言われて初めて気付いた。


そう、ここは僕らの出会いの場所。負け犬公園なのだ。






「なぁ…ハヤテ…

笑わずに聞いてほしい話があるんだ…」






「はい、何でも聞きますよ」






僕は何をしているんだ…


このままじゃお嬢様の世界を壊してしまうじゃないか…



逃げなきゃいけない。


なのに足が動かない。それどころか、お嬢様の横顔を見つめてしまっている…








「私はバカなんだ…」





そう切り出した、その顔はどこか悲しげだった…


まるで悲劇の結末を知ってるかのようなそれは、どこかで見たことがある気がした…





「あるやつが私を誘拐しようとしたんだ」





自分でも驚くほど解りやすく息を呑む僕。

まさか…お嬢様が話そうとしてるのは…




「だけど、私はその時の言葉を告白だと勘違いしてしまった…

まったく…こんなバカらしい話など世界中探してもないだろ?」



泣いていた…

空を仰ぎ、語るお嬢様の頬には銀色の滴がつたっているのだ…


























『君を泣かせようとする奴から…僕が君をまもるから』





ウソが一つ変わろうとしていた…

『三千院ナギ』と『綾崎ハヤテ』の交わした約束として…



















「しかも滑稽なことに、私はそいつを執事として迎え入れた。

愚かにも両思いだど勘違いしてな…」







僕にできることはただ一つだ。

だけど、それをお嬢様がそれを望んでいるかどうかは解らない…






「だけどある日知ってしまったんだ…

マリアとジジィの電話を聞いてしまってな…

私の世界はウソの上に成り立っていたんだと実感した…」






同じだ…

お嬢様もある日、突然知ってしまったんだ…






「言い出せなかった…

ウソでも、この日常が続くならそれで良いと思った…」





僕だってそこに逃げたかった…



お互いにウソだと気付いてでも、それが許されるならそうしたかった…





「だけど、それはそいつを騙すことになる。

ウソでも私にとっては最高の毎日だったから、今日はそいつにお礼を言いに来たんだ」





お嬢様は強い。

ウソを受け止めることができるのだ…

僕がウソにウソを上書きしたのとは違って向かい合っているのだ…






「ありがとう…ハヤテ…

今まで、とっても楽しくて…幸せで……嬉しくて…最高の日々だった…」





僕だってそうだ…

自分のウソに埋もれていた僕も、ホントの僕もそれは同じはずなのだから…









「そういうことだ…

今まで騙し続けた詫びだ。借金はチャラにするから好きな所に行くといい」







そう言い残すと、お嬢様は僕に背を向けて歩き出す。








これで最後だろう。







住む世界が違う僕らが出逢うことはない…







これでいいのか…?









こたえろ!『綾崎ハヤテ』!








『執事』じゃない。想いを伝えるんだ『綾崎ハヤテ』!











「待ってください…」




「…………」







短い言葉と無言。その距離は約5m。


二人の溝はどれ程なのだろう…


でも、どんなに大きな溝も、どんなに高い壁も邪魔させない!






もうウソも後悔もしたくないんだ!


なにより、僕は知っているから。





お嬢様が泣いていることを…

































『君を泣かせようとする奴から…僕が君をまもるよ』

































『約束だぞ。私とハヤテはいつまでも一緒だ』









































『これから先の未来は…おまえが私をまもってくれ』




































『過去でも未来でも僕が君をまもるから…』




































それだけで…それが僕のウソを変えていく…









きっと、もうウソに変わることはない。








だからもう一度始めよう…







「お嬢様!」






そう叫び僕は自動販売機に手をついてお嬢様を逃がさないようにする。

最後のウソが消えるのもうすぐそばだ…









































「君がほしいんだ」





偽りない言葉に頷くお嬢様。僕たちは互いに手を取り合う。



雪の冷たさが互いの温もりを感じさせた。



確かに僕らはここにいる。もう、そこにウソはない…



最初のウソはすべてのウソを作り上げたもの。だから、それがなくなれば僕らは…







「かえろう……私たちの家に…」





「はい。ですけど、僕はもうクビですよ?」




「わざわざ、私の返答が必要か?」




「そうですね。やはり、再出発には必要かと」





確かに僕らの生活はウソで成り立っていた。



だけど、僕は……僕らはそんな日々でも大切だったから…



たとえ、何度やり直してでも同じ未来を掴みたいから…





「まったく、ハヤテはまったくもう…」



「すみません。お嬢様」



「なに、私もその方がすっきりするからな」





そう言ってお嬢様は一呼吸おく。





「私の――――をやらないか?」





意外な言葉だった。


てっきり、あの日を再現すると思っていたから…


だけど、今の僕にそれを断る理由なんてどこにもないから…





「もちろんですよ。ナギ」



頬を赤らめるナギに僕ははにかむ。





































僕の名前は綾崎ハヤテ。































特技は幸福なことです。






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Re: その嘘を一秒でも ( No.11 )
日時: 2013/02/04 17:46
名前: 唐笠

以上で終了です。


なんか前回の短編以上に疲れました…←オイ



実は拙作はとある歌が元になっていたり…


分かる方、いますかね?



まぁ、何とか最後はきれいにまとめられたと思います。



ご指摘などありましたら、よろしくお願いたします。



では、今回はこの辺で
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