Re: 一番大切だから ( No.1 ) |
- 日時: 2013/02/02 13:07
- 名前: 唐笠
ナギSIDE
私こと、三千院ナギは考え事をしていた。 私の執事であるハヤテはどうも誰にも優しくしている節がある。 それ自体は決して悪いことではないだろう。 むしろ主として誇れることである。
だがしかし、私はクリスマスイブのあの日、ハヤテに告白されているのだ。 その手前、他の女と同列に扱われるのは気に食わない。 だからこそ、これを機にはっきりさせようと思うのだ。 ちょうどいいことに今日は休日であるし、ハヤテに直接聞いてみることにしよう。
「ハヤテーーーー!」
「お呼びですか、お嬢様?」
むっ… 相変わらず素早い奴だ。 たぶん、私が呼んでから2秒と経っていないはずである…
「うむ、大した用ではないのだが、少し話に付き合ってくれるか?」
「はい。僕でよろしければ、いくらでもお付き合いいたしますよ」
そう言ってハヤテはにっこりと微笑む。 そうか、そうか、ハヤテも私と話せるのがそんなに嬉しいのだな。 まったく、可愛いやつめ。
「まぁ、そこにでも座ってくれ」
「あっ、はい」
私たちは互いに向かい合う形でリビングのソファーに座る。そこで私は一呼吸おいた。
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Re: 一番大切だから ( No.2 ) |
- 日時: 2013/02/02 13:21
- 名前: 唐笠
- 「単刀直入聞く。
例えば、私とハムスターの両方が誘拐された時、片方のみを解放してくれると言った場合、ハヤテはどちらを解放してほしいのだ?」
「また物騒な例え話ですね…」
「いいから早く答えるのだ!」
まぁ、私がハムスターになど負けるわけなどないからな。 いわばこれは前哨戦みたいなものだ。そう高をくくっていたのだが…
「でしたら西沢さんですかね」
ハヤテの意外な解答に一瞬、私の世界が止まってしまった。 いやいや、今のはあれだ。私にはSPにはついているが、ハムスターは一般人だからな。 流石はハヤテだ。そこまで考えていたとは感心だぞ。
「な、なら、私とヒナギクではどうだ?」
その強がりがウソに変わってしまう前に私は言葉を続ける。 ヒナギクならば一人で切り抜けられるし、今度は私を選んでくれるであろう。
「うーん… だったら、ヒナギクさんですかね」
しかし、またもや私の予想は外れてしまう… そ、そうか、あの二人にあって私にないものと言えば『お金がない』ことだ。 お金があれば、それで人質問題は解決できるからな!
「な……なら…私と…泉は…?」
だけど強がりなど意味を持たなかった…
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Re: 一番大切だから ( No.3 ) |
- 日時: 2013/02/02 13:35
- 名前: 唐笠
- 理由はどうあれ、ハヤテが私を選ばなかった…
その事実が私を深い闇へと落としていくようだったのだ…
考えてみればそうであろう。 私は今までハヤテが嫌がるようなことや迷惑な事を数々してきた…
嫌われて当然
心がここになくても当然
それでもハヤテはお金に縛られているから私の傍にいる
私はハヤテに嫌われている
「それなら泉さんを選びますね」
もはや、それは意外な答えではない。 私の中で必然としてあった答え。
『私とハヤテはいつまでも一緒だ』
いつの日か交わした約束がウソに変わっていく瞬間だった… いつかはくるとわかっていたのに… それが怖くて言葉で縛り付けようとしたのに、ハヤテにとってそれは何でもなかった。 ハヤテにとっては取るに足らないものだったのだ…
気付いたら立ち上がっていた。 きっと私はこの場から逃げ出そうとしているのだろう。 数刻前のウソでも幸せな日常に戻ろうとしているのだろう。
「………………」
だけどハヤテがそれをさせなかった… 逃げることも、戻ることもさせてくれなかったのだ。 ただ、私を抱きしめるという行動で私が動けないようにしている…
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Re: 一番大切だから ( No.4 ) |
- 日時: 2013/02/02 14:08
- 名前: 唐笠
- 嫌われていると解っているのに、胸が高鳴った…
そう、ハヤテが私のことを嫌いでも、私がハヤテのことを嫌いな理由にはなり得ないのだ。
温かった… きっと、それは私がみていた夢の先の温もり。 私一人が勝手に夢見ていたその先なのだ…
本当ならば、ハヤテと笑いあってそこに立ちたかったのに… 今のハヤテの笑顔は私のものではない…
もう限界だった
我慢していた涙が溢れだしてしまう
涙が私の恋心ごと持っていてくれれば…
こんな気持ちを抱かなければ、こんなに辛くないのに…
わかっている
自業自得だ
わがままばかり
迷惑ばかり
そんな私だから嫌われた
最初からやり直させて
あの日からやり直させて
次はちゃんとするから
朝も起きるから
学校にもちゃんと行くから
夜更かしもしないから
望むとおりに動くから
だから捨てないで
だけど、その願いは届かないことを私は知っている。 ハヤテはいつの間にか、すがるように泣いていた私の肩を掴みゆっくりと離した。
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Re: 一番大切だから ( No.5 ) |
- 日時: 2013/02/02 14:16
- 名前: 唐笠
- 意外なほどにあっさりと終わりは訪れるものだ。
私だけが見ていた夢はもうすぐ終わりを告げる… たぶん、これよりいい夢なんてないけど、最期くらいはハヤテのためになることをしてやらなければ…
そう頭では考えているのに… 笑おうとしているのに…
涙が止まらなかった
現実から目をそらしたい。 ずっと夢の中でハヤテと一緒にいたい。 そういった考えしか浮かばなかった…
バカだな
そうやっていつも自分のことばかりだからハヤテに嫌われたんじゃないか… どこまでハヤテに迷惑をかければ気が済むのだ…
「泣かないでください、お嬢様」
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Re: 一番大切だから ( No.6 ) |
- 日時: 2013/02/02 14:33
- 名前: 唐笠
- 完璧な不意打ちだった。
ハヤテの温もりを再度、この身一杯で感じられるなんて思っていなかったから…
でも、なぜ…
…………あぁ、そうか… きっと私は自分の夢に閉じこもってしまったのだ。 共に歩んでいたと錯覚していたあの夢の中に…
でも、それでいい気がした。 ここのハヤテは私のことが好きだから。 どこにいても私はハヤテが好きだから。
それ以外なにもいらない。 ハヤテの一番が私で、私の一番がハヤテで… 叶わなかったものがここにあるなら私はここにいよう。
ここは私の理想なのだから…
「さっきはすみません」
そう、ここのハヤテは私が一番だから私に優しい。私を特別扱いしてくれるのだ。
「でも、お嬢様を選ばなかったのには意味があるんです。それを聞いていただけますか?」
私はただ頷いた。 ここのハヤテは私を傷付けないから…
「西沢さんやヒナギクさん、それに瀬川さんは僕にとって大切な人達です。だから解放してもらう道を選びました。 だけどお嬢様は違います」
その言葉に私は息をのむ。 ここのハヤテは私を傷付けるはずがないという前提が崩れていく気がしたのだ…
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Re: 一番大切だから ( No.7 ) |
- 日時: 2013/02/02 14:46
- 名前: 唐笠
- 「お嬢様は特別なんです。
お嬢様が呼べば、僕はどこにでもいけます。 お嬢様が望むなら、僕は何だってやってみせます。 だからこそ、お嬢様のお友達を助けないとお嬢様が笑わなくなってしまいますからね。 あと、これは個人的なことですが…」
嬉しかった。 一瞬でもハヤテを疑った自分が恥ずかしかった。 やはり、私のハヤテは私を傷付けなどしない。私が一番なのだ。
だから、私はその続きを聞きたくてハヤテに微笑みかける。 それに対してハヤテは少し恥ずかしそうにはにかむと続けた。
「やっぱりお嬢様は僕がお護りしたいと思いまして… ミコノスで約束もしましたしね」
「ハヤテ…」
もう何も言うことはなかった。 ここのハヤテは私と共に歩んでくれているのだ。 それに安心したのか、途端に睡魔におそわれる…
ふらっと倒れれば、床に当たる前にハヤテが抱き抱えてくれた。
「おやすみなさい。お嬢様」
その言葉で私は完全に意識を手放す。 この夢がさめることのないようにと願って…
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Re: 一番大切だから ( No.8 ) |
- 日時: 2013/02/02 15:02
- 名前: 唐笠
- 〜5年後〜
あれから5年の歳月が流れた。 相変わらず私の身体は年齢不相応なのだが、一つ変わったことがある。
そう、なぜだかハヤテの私を見る視線が以前よりも熱いというかなんというか… 私は相変わらずハヤテが好きで好きでたまらないのだから、それはもちろん嬉しい。
「お嬢様、今日はどこかお出かけしませんか?」
しかし、休日になる度にハヤテはこれなのだ… 私はスーパーインドアライフを満喫したいというのに…
「僕と二人っきりはイヤですかお嬢様?」
しかし、ハヤテは私のツボをよく知っている… その魅惑的な単語に私があがらえるはずもなく、さもウキウキしてるように支度を始めてしまう私がいるのもまた事実。
「なぁ、ハヤテ。一つ聞いていいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「夢とはなんだと思う?」
「また哲学的な質問ですね… ですけど、僕から言えることも一つだけあります」
「それはなんなのだ?」
「夢の先にたどり着けた時、初めて夢は夢でありえると思うんです」
「なんだか難しい話だな…」
そんな事を言いながら私は支度の続きを再開する。
あの日から5年間。 私の夢は未だにさめていない
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Re: 一番大切だから ( No.9 ) |
- 日時: 2013/02/02 15:04
- 名前: 唐笠
- というわけで以上で終了です。
拙作がどのような結末を迎えたかは読者の皆様の想像にお任せしようかと←
では、これにて失礼します
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