Re: 君と共に! 第一章 2月4日更新 ( No.28 )
日時: 2013/02/09 22:28
名前: 李薇

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第六話 誰にも受け入れられない少女


 結局あの後、アイは家に帰ってこなかった。

 そして同様に、次の日学校にくることもなかった。

 …まるで、全てが夢だったと思えるくらい、何もなく、彼女はハヤテの前から姿を消した。










 白皇学院にて。

「………、」

 今日は、ナギは学校に来てくれなかったのでハヤテは1人で学校にきていた。

 ちらり、と何気なくアイの席の方に視線をやる。

 が、相変わらずアイの席は空っぽで誰もいなかった。

 ハヤテの頭の中で昨日のアイのセリフがリピート再生される。

“…綾崎イクサを殺したのは…この私よ”

 彼女は、否定しなかった。

 兄を殺したのは自分だとピシャリと告げた。

 だったら…それはきっと本当なのだろう。そこで嘘をつく理由はない。

『なのに…なんで気になるんだろう…。』

 ハヤテはすっかり頭を抱えてしまった。

 アイが兄を殺したのが本当なら、憎むべき相手のはずなのに―これっぽっちも憎めない。

 多分、気にかかるポイントがあるのだとしたら、これだ。

“私は、イクサみたいな人間を出さないためにもパーティーを止めたい。”

 何故足手まといってことで殺した人間に対してこう言えるのか?

 自分が望んでやったことに対してこんなことを言うだろうか?

 それに以前、三千院家で「アンタは私が守る」と言ったあのセリフがウソだったようには到底思えない。

 あの時のアイの瞳は―本当に真剣で綺麗だったから。

「ハヤ太くん、何考え事してるのー?」

「!」

 不意に聞こえたのは、1人の少女の声だった。

 振り返ると、クラスメートである1人の少女がにこにこと笑っていた。

 瀬川泉―別名いいんちょさんレッド。

「あ、瀬川さん」

 名前を呼ばれると彼女は「にははー♪」と笑ってから、

「アイちゃんの席ずっと見ちゃって…ハッ! もしや恋だったりする!?」

「ち、違いますよ! そうじゃなくて…」

 そうか、意識してなかったけどずっと見ていたのか…とハヤテは思った。

 もう考えるのはやめよう、そうハヤテ決意した。

 どれくらい考えても答えなんて出ないだろうし彼女が肯定した以上はハヤテにはどうしようもない。

 そう思ったところで、

「綾崎。さっきからずーっとプリント出せって言ってる声が聞こえないのかしら?」

「!」

 続いて違う少女の声がした。気の強そうな声だった。
 
 ややキリっとした明るい茶色の瞳に、同色のストレートヘアー。胸のあたりまで伸びたサラサラの髪をなびかせつつ、活発そうな少女は、ジロリとこちらを見ていた。

 新橋エリカ。

 ハヤテのクラスメートの1人で、ハヤテの少ない男友達である新橋ユウマの義理の妹でもある。

「あ、エリカさん。え? プリント?」

 とハヤテはきょとん、としていると、エリカははぁーっとため息をついてから、

「さっきの古典のプリント集めるって言ったでしょまったく…。ヒナギクが生徒会の仕事に行っちゃったから私が集めてるのよ」

「あ、そ、それはすいません! えーっと、待ってくださいねっ」

 ハヤテは、机の中をガサガサとあさって古典の授業で使った1枚のプリントを取り出した。 

 それをエリカに差し出すとエリカは「全く…」と相変わらず文句を言いながら、それを受け取った。

 エリカは続いて泉と向き合うと、

「ってか瀬川。ヒナギクが探してたわよ。」

「にはは〜。いいよ別に♪ 行っても生徒会の仕事押し付けられるだけだし〜♪」

「いや、いつもいつもヒナギクに押し付けてるのはアンタ等でしょ…手伝ってやりなさいよたまには…」

 エリカは、呆れた調子でつぶやくとハヤテの机の上でとんとん、とプリントを整理した。

 見事な手際の良さでそれらをすぐに終わらせると短く「じゃ」と言って教員室へ向かおうとして、―不意に去る直前にハヤテの横で足を止め、

「そうそう綾崎」

「あ、はい、どうしました? 手伝いましょうか?」

「そうじゃなくて…あんたが落ち込んでると教室の空気がじめっとするのよ。なんか悩みがあるなら聞いてやるけど?」

「…え?」

 実はこの新橋エリカという少女は結構鋭い。

 同時に結構世話好きだったりもするので、彼女なりにハヤテのことを心配してくれているのだろう。

 その気持ちは物凄くありがたい。ありがたいのだ。

 だが、さすがに「突然目の前に神様が現れて今その人のことをちょっと考えていまして」などといえばこの少女のゲンコツが飛んでくることは間違いなし。

 そしてその後間違いなく精神科へ行けといわれるだろう。

 なので、そういった諸事情もあって状況説明をできないハヤテは…、

「あ、いえ、平気ですよ! 心配してくれてありがとうございますね♪」

 とにこりと笑いながら答えておいた。

 エリカは少々無言を貫いてから、「べ、別に心配したとかじゃないわよ…ふんっ」と言って教室から出て行った。

 そんなエリカの様子を見て泉は相変わらずにこにこ笑いながら、

「にはは〜♪ エリカちゃんツンデレだー♪」

「…え? ツンデレ…?」

「そうなのだー♪ …ところで、ハヤ太くん悩んでるの?」

「急に話題がシフトしましたね!? いや、そんな大したことでは…」

「ふっふっふ。大丈夫なのだ! 人生に悩みはつきものなのだーっ☆」

 何故か胸を張って言う泉。

 これも彼女なりに心配してくれているのだろう。

 こんなに多くの人に心配をかけるのはハヤテとしてはあまり良いことではない。

 だから、ここは―…

「大丈夫ですよ♪ 瀬川さん♪」

 と答えておいた。

 めっちゃ満面の笑みで。なんかキラキラーとかいう擬音がつきそうなレベルで。

「………、あうぇ? う、うんなのだーっ」

 何故か少々顔が赤くなる泉。

 それがなぜなのかよく分からずにハヤテは首を傾げる。…鈍感は相変わらずである。

 と、次の瞬間。

「見ろ理沙。泉がハヤ太くんを相手にラブコメってるぞ。」

「ああ、流石はハヤ太くんだ。」

「ふぇーん!!! 2人とも何言ってるの〜!! ラブコメってないよぉーっ!」

 突如現れた花菱美希と朝風理沙の方を涙目で見ながら反論する泉。

 まぁ、多分その反論はこの2人には届かないのだろう。

 理沙は「はっはっはー♪」と笑ってから、

「にしてもハヤ太くん。君は自覚がないだろうが、君が悩んでいるとクラスの女の子たちがそわそわして大変なんだからさっさと元気になるのだぞ」

「え…」

 っていうか僕そんなにいろんな人から見ても悩んでる? と思ったが理沙には聞かないで置いた。
 
 というか何でそれでクラスの女の子がそわそわするんだ…?

 そんな疑問が顔に出ていたのだろうか。

 理沙は少しあきれたようにため息をついて、

「………、いや、まぁそんなに気にするな」

 と言った。

 相変わらずの天然ジゴロは理沙のそっけない返答にきょとんとしていた。










 昼休みになった。

 とはいえナギもいないので結構自由な時間だ。

 教室でクラスメートと駄弁ってもヒナギクの手伝いをしにいっても、ユウマと話に行ってもいいのだが…なんか1人でいたい気分だった。

「………、」

 そんなこんなで、ハヤテは緑の茂った道にいた。

 いつ来てもここは基本1人になれるスポットだ。特に昼休みなどはあまりこういうとこに来る人はいない。

 何故か顔に出てしまっているのかいろいろな人に悩んでるだろ的な発言をされてしまったので今は1人になって心を落ち着かせたかったのだ。

 と、その時。

「お前アイと何かあったのか?」

「!」

 不意に上から、聞き覚えのある少年の声がした。

 パッと顔を見上げると木の上にフウが座っていた。

 相変わらず奇抜なファッションなので緑に全然合ってない。違和感ありまくりだ。

 そんなことを思いつつ「あ、どうも…」とハヤテは返事をしておいた。

「昨日からアイの奴一緒にいないみたいだけど…もしかしてケンカでもしたのか?」

 先ほどの問いに返答がなかったので、フウはもう一度核心をつく問いを放した。

 彼とはそこまで接点がないから分からないが、おそらく彼もアイと一緒できっぱりはっきりした性格なのだろう。

 そこまで核心をつく問いを二連続ではなかなか口にできない。

「あ、いや…ケンカというか…」

 別に言えないことというわけではないのだが、妙にしどろもどろしてしまう。

 そのハヤテの様子を見かねてか、フウはわずかに目を細めて、

「…イクサのことでも聞いたか?」

「っ!」

「図星か。わかりやすいなお前」

 うう…とハヤテは口ごもる。

 確かに自分はわかりやすいのかもしれない。

 じゃなきゃ、あんなにクラスメートにも心配されないだろう。

「………、」ハヤテは少し黙ってから、「…アイさんが…言ったんですよ…。私がイクサを殺した、って。足手まといになったから殺した、って…」

「………、」フウはしばらく沈黙して、「…で、お前はそれを真に受けたのか?」

「え?だって本人が言って…。」

「チッ、あいつどんだけ不器用なんだよ…女神ってのは不器用な奴ばっかだなほんとっ」

 フウは、アイの事情を知っているのだろう。

 同じ神だし、…ってかライも知ってたのだからきっと知ってるのだろう。

 が、ハヤテにそれを聞くほどの心の余裕は今はなかった。

 そんなハヤテを見てフウは慎重に言葉を選びながら口を開いて、

「…1個訂正する。アイがイクサを殺したのは本当だ。でもな、足手まといになったからっていうのはアイツの嘘だ」

「…え?」
 
 正直、その一言にますます混乱した。

 フウが何を言っているのか、全く理解できなかった。

「…だって…そこでウソをつく必要性なんて…!」

「アイツは、それでもすべてを背負ったんだよ。自分がイクサを殺したのは確かだから、今更誰かに許してもらおうなんて思わなかった。本当に不器用でお人好しな奴だからな」

 わずかに沈黙がうまれた。

 アイという少女は、いったいあの時何を考えてそういったのだろう?

 それは、ハヤテにはわからない。

 ただ…このままあの少女を放っておいていいのか?

 このまま…いつまでも延々とあの少女のことを考え続けて答えを出さずにいて…いいのか?

「…教えてください…」

「え?」

 気付けば、そう言っていた。

 この謎をとくには聞く。―それが一番早い方法だ。

 だからハヤテは真っ直ぐとフウを見て、問う。

「兄さんと…彼女に何があったのか…教えてください」

 その言葉にフウは、わずかに沈黙した。

 そして、すぐにため息をついてから口を開いた。

「いいよ。教える。誰にも受け入れられない少女の勝ち取った…空っぽの勝利の話をな」










 同時刻。

 アイは1人で街を歩いていた。

 ここがどこか、などあまりよくわかっていない。

 どこへ向かっているのかも全くわからない。

 それを考えるだけの思考回路は今の彼女にはなかった。

「………、」

 足がふらつく。めまいがする。

 その理由は、明確だ。

 神というのは、パートナーといることで力を存分に発揮できる。

 しばらくあの男とは一緒にいない。それが最大の原因だ。

 いっそこのまま自分など、どこかで朽ちてしまえばいいと思った。

 そうしたらせめて天国かどこかで、―イクサに会えるかもしれないわね、とアイはぽつりとつぶやく。

『なんて…そもそも天国に逝けるかすらわからないわね…』

 と、その時だった。

「こんにちは♪ アイさん。」

「!」

 目の前に1人の少女が立った。結衣だ。

 たった1人の少女の接近にすら気づかないくらい、今の自分はどうしようもない状態であることを痛感させられつつ、アイの表情が苦痛にかわる。

「………そんなフラフラの状態じゃ苦しいだろうけど…お相手してください♪ うちのライもちゃんとそこにいますから」

「………っ…」

 結衣が指し示す先にいるのは、紫電を散らす男。

 アイは、ぐっ…とこぶしをつくった。

 逃げることはできない。今の自分にはそんな体力すらない。

 だったらいっそ、やるしかない。

 そう思って、アイはまっすぐと目の前の敵を見た。

 ………フラフラとした状態で。照準のズレた視界で。


                                         第六話 END


さて、本編が修羅場ってるところで終了…!

次回ついに10年前の出来事が明らかに…! リメイク前より多少掘り下げて書いていきたいのですっ!

そして本編が修羅場ってる中でなんですが、今回は番外編も同時更新ですw

しかも異様に長いですw 二本立ての番外編なので…ね! 

内容は新橋兄妹のお話になってます! …まぁほら? この作品内では彼らとハヤテの出会いのシーンとかないし書いてみました!

あとはなんか個人的に思いついたネタを自由に書かせて頂きましたので読んでいただけると幸いです…! では、番外編どぞっ☆