Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.7 )
日時: 2013/03/04 17:44
名前: 絶影

どうも、またまた絶影です。

それでは第三話です。

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 第三話 館


この世界は一体何の時代なのだろうか?
漆黒竜と名乗る男に付いていくハヤテはそれを考えていた。
まず、車などの電気製品はないらしい。だから現代ではないのだろう。
移動手段は徒歩か馬であるらしい。
それを考えると織田信長などがいた戦国時代に似ているような気もした。

男についていくとちらほらと農民らしい姿が見え始めた。
農民は男を見かけると挨拶をしてくる。
どうやら男はこの一帯で地位の高い人物らしい。

男はある屋敷の前で止まった。
ナギの以前の屋敷ほど大きくはないが、軽く二十人は不自由なく
暮らせそうな屋敷だった。
屋敷の門の前には少年と少女が一人ずつ立っていた。
どうやら男を待っていたらしく、駆け寄ってくる。

「黒影殿。遅かったですね」

少年のほうが黒影という名であるらしい男に話しかけた。

「壮馬に絢奈か、何故外で待っていた?」

「あんたを待っていたのよ。……それより彼らは?」

そう言って、絢奈と呼ばれた女性はハヤテ達に目を向ける。
女性の目つきは鋭く、思わずハヤテは怯んだ。

「賊討伐のときに拾った」

黒影という名の男はぶっきらぼうに答える。

「じゃあ彼らも絢奈殿と同じですね」

壮馬という名の少年は興味津々といった様子でハヤテ達を見つめ、にこりと笑いかけた。
人懐っこい性格のようだ。言動に邪気は感じない。
それに三人ともであるが、あまり年が離れているようには思えない。
おそらく同じくらいの年齢だろう。

「壮馬、こいつらを客間に案内してやれ」

「分かりました」

壮馬が答えている。
彼らは壮馬に先導され、屋敷の中を歩いた。
壮馬は、名前は?とか、どこの出身?とか
あれこれハヤテ達に尋ねた。

絢奈の方も黙ってついてきていたが、壮馬の質問を煩わしく思ったのか

「少し黙りなさい、壮馬」

と一言。
その言葉で、壮馬は体をびくっと震わせ、黙り込んだ。
それきり壮馬は喋らなくなった。

「ここが客間です」

五分ほど黙り込んだ後、壮馬が口を開いた。
中に入ると、そこは旅館の和室のような部屋であった。

「男の方は別にした方がいいでしょ?」

絢奈は言った。
壮馬は頷き、ハヤテについてくるように手で合図をした。

「おい、ハヤテは……」

ナギが抗議の声を上げ、ハヤテについてこようとしたが、
部屋に連れ戻されてしまった。
心配するハヤテだったが、壮馬に後で会えますからと言われたので安心する。
ところで、と壮馬は口を開いた。

「俺と相部屋になってしまうんですがよろしいですか?」

「相部屋、ですか?」

「はい、客間はあの部屋しかないですし、
 男の部屋って四部屋しかなくてですね、
 他の方に相部屋して頂くのもちょっと気まずいでしょうし」

よくは分からないが、空き部屋はあの客間以外にはない、というところなのだろう。

「僕はそんなことは気にしませんので。
 壮馬さんが気にしないのであれば」

壮馬がはっとしたような顔をする。
変なことを言ってしまったのかとハヤテは思ったが、
何でもないと、笑いながら答えられた。

「そういえば自己紹介してませんでしたね。
 俺は倉敷壮馬っていいます。よろしく」

壮馬はそう言って手を差し出した。
ハヤテはその手を握った。

「よろしくお願いします」


「黒影がこの屋敷を広くしないからこの客間には三人が限界なのよ。
 もう一つ私の部屋があるから……」

絢奈はぶつぶつと呟いている。
言いたいことを汲み取ったヒナギクは絢奈に問いかけた。

「つまり二人と三人に分けるってことですか?」

絢奈は頷いた。

「わ、私はできればマリアと……」

ナギが少し落ち着きを失った声で呟いた。
得体の知れない人間と一緒の部屋になるのは嫌なのだろう。
ヒナギクはナギを見て、微笑んだ。

「じゃあ絢奈さんを三人部屋にするのは気が引けるし、私と絢奈さんが同じ部屋でいいかしら?」

「私は構わないよ〜」

志織が言うとマリアも同意する。
それで決まりという感じになった。

「私は三人部屋でも気にしないけどね。
 じゃ、大広間に行くわよ」

「え?」

「今日は月に一度の……まぁ宴会みたいな日なのよ」

「私達も行っていいのかしら?」

「当たり前でしょ?黒影が連れてきた以上あなた達は客人なんだし」

こうして彼女らは大広間と呼ばれているところに向かった。
屋敷の中は装飾品などはほとんどなく、所々に火のついた蝋燭が置いてあるだけだった。
ヒナギク達は絢奈に先導され、重そうな扉の前に着いた。
その扉には『大広間』と書かれた表札が掛けてあった。

「じゃ、行きましょうか」





「あ、宴会忘れてた」

壮馬が何かを思い出したらしい。

「あの宴会って?」

宴会とはあの皆で食べたり飲んだりするものなのだろうか。

「皆で食べたり飲んだりするだけですけど
 一ヶ月に一度豪勢な料理が出るってことでみんな結構楽しみにしているんですよ」

現代の宴会との相違点はほぼないらしい。

「そうなんですか」

「早速行きましょう」


ハヤテと壮馬は宴会に参加するため、大広間に向かった。
そこで見たものは……。

「はれ?お〜ひ、ひゃやて〜」

「お嬢さま?」

呂律の回っていないナギだった。
若干顔が赤いような気がしたので、ハヤテはナギの額に手を当てる。
熱があるようではない。
ハヤテがどうしたのかと困惑していると
後ろから誰かに抱きつかれる感触がした。

「は〜やて君♪」

赤い髪が少し見えた。

「え?もしかして後ろにいるのは……」

ヒナギクだった。
理由はよく分からないが……

「はやて君も飲む〜?」

前言撤回、全て分かったような気がした。
少し赤くなりながらハヤテは抱きつくヒナギクを引き剥がして叫んだ。

「一体誰がお酒なんか飲ませたんですか!?」

「え?これってジュースじゃないんですか?」

平然としていたマリアが驚いて立ち上がった。
酔っているようにはまったく見えない。

「悪いね〜♪」

その横では志織が召使いらしい男に飲み物を注がれている。

「マリアさん、お酒平気なんですか!?」

ハヤテが驚きと共に尋ねると

「え?結構おいしいですけど?」

マリアは未成年らしからぬ反応をする。(ていうか未成年だっ……何でもないです……)

「二十歳、越えてるからじゃね?」

ナギは酔っている所為なのか作者が言えなかった事を言ってしまった!
当然これはマリアの逆鱗に触れ……

「〜!ちょっとナギ!そこに座りなさぁぁぁああい!!」

それからマリアは、私はまだピチピチだとか十七歳だとかいう、信じ難いことを言い募り、
最終的にはようやく酔いが回ってきたのか泣き出してしまった。

「どうして……いつも私は……こんな役回りに……」

「あ……あのマリアさん落ち着いて……」

何とか宥めようとしたが、効果は無いようだ。

「若いものは元気ですな」

男が笑いながらやってきた。

「あ、琉海殿」

琉海という名前らしい。
年は四十を越えているぐらいだろうか。
体格のよい初老の男という風に見え、
なんとなく落ち着いた気が漂っている。

「黒影様が連れてきた方々ですな。歓迎いたしますぞ。
 名はなんと申される?」

「ありがとうございます。
 僕は綾崎ハヤテと言います」

「綾崎ハヤテ殿ですな。
 私は越前琉海と申す。
 何か不都合がありましたら私に聞いてくだされ」

それならば、とハヤテは口を開いた。

「では早速お尋ねしたいんですが……
 誰がお嬢さま達にお酒を?」

「む?彼女らに酒を勧めたのは……
 あの男ですな」

琉海がそう言って指差したのは体長190cmはあろうかという大男だった。
その男は召使いらしき人に大杯に酒を注がせると一息で飲み干した。

「……陸斗か」

傍にいた壮馬が吐き捨てるように呟いた。
その声はその男に対する嫌悪に満ちていた。
人の良さそうな壮馬が嫌うほどその男は嫌な男なのだろうかと考えたが、
その男はこちらを見てハヤテに気付き、近づいてくると親し気に話しかけてきた。

「お前、黒影殿が連れてきた奴だろう?
 こっちに来て一緒に飲もうぜ」

「いえ、僕は未成年なんでお酒は飲みませんよ」

幾分警戒しながらハヤテは答える。

「なんだよ。あの嬢ちゃん達だって最初は嫌がってたけど
 一度飲ませたら気分が良くなってきたって言ってたぜ?」

楽しげに笑いながら答える陸斗に呆れながらも

「……とにかく!僕達未成年はまだお酒に対する耐性が出来ていないので
 体に毒なんですよ?ですからそういうことはやめていただけませんか?」

ハヤテは執事としてナギ達の健康を守らなければならない、と思い必死に説得した。

「まぁいいけどよ。でもそんなに堅いとそっちの壮馬みたいな奴になるから気をつけな」

「壮馬と呼ぶな、陸斗」

壮馬の敵意にも似た感情が感じられる言葉を無視し、陸斗はハヤテに顔を近づけて囁いた。

「で、どれがお前のこれなわけ?」

陸斗は小指を立てながら尋ねてきた。
この世界にもそういう習慣(?)があるのだろうか?

「ええ!?いやいや僕らはそんな関係では……!」

突然の言葉にハヤテは慌てて否定する。
陸斗はにやりと笑う。

「なら俺が手を出しても文句はないんだな?」

「ちょ!何考えてんですか!?」

「決まってるだろう?口説くんだよ」

陸斗はさも当然のように言った。
どうやら彼はナギ達にとって危険な存在になりかねない存在らしい。
警戒しておこう、とハヤテは思う。

それから彼は好みの女性について語り出した。
断りきれないハヤテはその陸斗の言葉をしばらく聞かされる羽目になってしまった。

「ところで倉敷殿?黒影様はどこに行ったのだ?」

「え?まだ来ていないんですか?では俺が探してきますよ」

陸斗の自慢話を聞かされながら、ハヤテは壮馬が出て行く気配を感じた。






扉が開く音がした。

「また……ですか?」

壮馬だった。
彼はこちらをじっと見つめてくる。

「ああ」

「琉海殿が探していましたよ。
 後片付けは俺がやっときますから早く行ってあげてください」

「すまない」

黒影は部屋から大広間に続く道を歩いた。
途中体がふらついたが何とか耐える。

「ここ数日あまり寝てなかったしな」

黒影は自嘲気味に呟き、大広間の扉を開けた。





「でよ〜。俺はこういったのよ」

「はぁ……」

ハヤテはもう一時間以上陸斗の話を聞き続けていた。
しかも全て女性に関することである。
ちなみにナギやマリア、ヒナギクや志織はうたた寝をしていた。

何とか陸斗の話を終わらせたいと思っていたハヤテであったが、その時助けが現れた。

「陸斗……あんたいつまでそんな話をしてんの?」

「げ……。絢奈か」

絢奈である。
彼女は陸斗を睨み付けるとハヤテに向かって言った。

「こいつの言うことは大抵、嘘だから」

「え?嘘?」

あの家が火事で燃えてしまった少女との話や
やばい人たちに金を借りた女性との話、
突然現れた美少女の話、etc.etc...
それは全部嘘だったのか?
ふと陸斗の方を見ると、もうその姿はなかった。
絢奈は溜め息をついて言った。

「他の人も寝てるみたいだし、寝たら?」

「いえ、まだ黒影さんに助けていただいたお礼を言っていないので」

「ふ〜ん。律儀なのね」

微笑みかけられた。
普段はいかつい顔をしてるためか良く分からなかったが
意外にも可憐な顔をしていた。
少し顔が赤くなるのを感じる。

「いえ。それで黒影さんは……」

「私を呼んだか?」

振り向くと黒影が立っていた。
彼は黒い衣装を身に纏っていた。
そういえばさっきの鎧も黒だったなと思い出した。
黒が好きなのだろうか?

「それで?何か用か?」

「さっきは助けてくださってありがとうございました」

黒影の瞳がハヤテをじっと見つめてくる。

「別に気にすることはない。お前達が襲われていようといまいと
 私は奴らを殺すつもりだったからな。
 まさか武器まで向けられるとは思っていなかったが」

黒影はそう言って軽く笑った。
その時の行動を思い出し、反省する。

「そ、それは……すみません」

「気にするな。それより今暇か?
 暇ならついて来い」

ハヤテは束の間迷った。
が、ナギ達は寝ているから心配ないか、と思い黒影についていった。

屋敷の中は大広間以外の明かりは消えていた。
つまり真っ暗な状態だった。
しかし黒影は特に気にした様子もなく黙々と歩き続けている。
ハヤテは何かに躓くのではないかと恐れながらも歩き続けた。

不意に夜風がハヤテを包み、外に出たのだと認識した。
風が頬を撫でる。それが少し心地よかった。
黒影はさらに歩き続け、屋敷の門の外に出ると、衛兵が二人立っていた。
衛兵達は黒影の姿を認めると直立する。
黒影はそれを制して尋ねた。

「お前達は宴会を愉しんだのか?」

「いえ、我らは任務中なので」

「そうか。屋敷の中にまだ食い物があったはずだ。
 ここには私がいるからお前達は食って来い」

衛兵達は狂喜の表情を浮かべ、黒影に一礼すると屋敷の中に駆けて行った。
黒影はハヤテの方に向き直り、静かに口を開いた。

「お前と話がしたかったのだ」

「僕と……ですか?」

「そうだ」

黒影はそう言ったが、続くであろう言葉はハヤテの耳には届かなかった。

「何を……話したかったんですか?」

ハヤテが尋ねると、黒影はしばらく黙っていたが、冷ややかな笑みを浮かべて言った。

「お前、私の麾下に加わらないか?」

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第三話終了です。
あ、変わった部分としては壮馬の身長が縮んでます。

「ええ!?何それ!」

それではまた。