Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.25 )
日時: 2013/03/04 23:07
名前: 絶影

どうも、絶影です!
本日ラスト、第二十一話です。
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 第二十一話 臥竜と鳳雛

「どうしてダメなのだ!」

畏国静岡領の領主神崎黒影は、何度と無く拒絶しても聞き入れない
ナギのあまりのしつこさに溜め息をついた。

「だからダメだと言ったであろう?
 お前など、戦場に出しても犬死にするだけだ」

「そんなのやってみなければわからないだろう!」

一度は何も言わず、戦うことを諦めていたナギであったが、
ヒナギクが軍に入ったためか、自分も戦うと言い出したのである。

「戦場にやってみなければ、という言葉はない。生きるか死ぬか、だ。
 それにお前、剣さえもまともに扱えないのだろう?」

「そ、それが何だと言うのだ!
 執事が戦うのに主が戦わないなど、許されることではないのだ!」

そのナギの言葉に、黒影は呆れて首を振る。

「俺が奴ならば、主には安全な場所に居てほしいと思うがな。
 たとえ自分が死んでも主を守る。それが臣というものだ」

「う、うるさいうるさい!もうお前なんかに頼むものか!」

ナギはそう叫ぶと、外に飛び出していった。

「わからんな……」

「何が、でございましょう?」

琉海だった。
部屋の隅に控えていた彼だったが、呟きは聞こえたらしい。

「あいつの言葉がわからん」

「私には少し、分かるような気がします」

黒影は琉海に目を向けた。
琉海は一回咳払いをし、語り始める。

「彼らには、主と臣という繋がりだけではないように感じられませんか?」

「ふむ」

「綾崎殿が人を殺めてしまった後の三千院殿の態度。
 そして、その後の綾崎殿の行動」

「確かにあれには驚いたな」

あの時までは、ハヤテがナギを守るのは臣であるから、という理由だけだと思っていた。
だがあの光景を見たとき、自分が考えていたこととは少し違うのではないかと思ったのは事実だ。

「あの二人には君臣の交わりというだけではなく、
 一種の友情、又は愛情のようなものがあるのではないかと思います」

黒影は溜め息をつき、目を閉じた。

「やっぱりわからんな。だが少しだけ、羨ましいような気もする」




「まったく。どうしてダメなのだ!」

確かに理論的に考えて、自分が戦うというのは少々無理がある。
だが、そうですかと言って簡単に納得出来なかった。
何か出来ることがあるはずなのだ、と肩を怒らせるナギの耳に陸斗の呻き声が聞こえた。

「あー!お前、何でそれに気がつくんだよぉ……!」

「こんな簡単な罠に引っかかるわけないだろ」

見ると、陸斗と壮馬が机の上で向かい合っている。
机の上には、何かの板が乗っていた。

「お前達、何をやっているのだ?」

「おうナギちん。壮馬がいじめるんだ、助けてくれよ〜」

「ナギちん?」

「いじめるとは人聞きの悪い。だいたい勝負を仕掛けてきたのは陸斗の方だろ」

「だから、何をやっているのだ?」

板の上を覗き込むと、歩兵とか騎兵とか書いてある駒が何個も並べられていた。

「これは実際の戦場を想定し軍を動かして大将を討つという、まぁ遊びのようなものですね」

「ふーん」

「負けた方は昼飯奢れって言うんだぜ?全く卑しい奴でよ」

「だからお前が誘ったんだろ!」

さらによく見ると、陸斗の色は白。壮馬の色は黒であり、
どこと無く、チェスに似ているような気もしなくもない。
情勢は圧倒的に白の数が少なく、大将と書かれた駒の周りには大して駒はない。
対し、壮馬は大将の駒の周りをしっかりと固めていた。
陸斗の不利が手に取るようにわかったが、
黒の壮馬側にも隙がないとは言えない。

「おい、陸斗。動かしてもいいか?」

白の駒を掴み、陸斗に言った。

「いいぜ、別に……」

もう諦めたのか、陸斗は力なく答える。

「俺も構いませんけど」

勝利を確信しているのか、壮馬も笑いながら言った。

ナギは、壮馬側の大将の後方に残っている騎兵に目をつけていた。
おそらく、陸斗が何らかの攻撃を仕掛け、逆襲されたのだろう。
それを一つにまとめつつ、自軍の大将の近くに残っていた騎兵を二つに分け、片方は一つに
もう片方は小隊に分けて壮馬の方に走らせた。
大将の前には歩兵を置き、少しずつ下げ始める。

壮馬は騎兵には騎兵を、歩兵には歩兵を当ててきた。
騎兵も歩兵も、兵力には圧倒的な差があるが少しは耐えられるだろう。
歩兵は小さくまとめ、敵が兵力を生かせないようにしつつ、
騎兵は一隊以外は小さく分散した。
壮馬の騎兵は一つにまとめてある方の騎兵を囲み、
歩兵はこちらの歩兵を打ち破るために全力を注いでいる。

壮馬の苛立ちがわかるようだった。
崩れそうでなかなか崩れないナギの軍勢を見て、
壮馬が大将を守るために使っていた駒も前進させ始める。
もらった、と思った。今、壮馬側の大将はほとんど裸同然である。
歩兵にはそのまま耐えさせ、騎兵は小隊に分かれていた部隊を一つにまとめた。
そして、その部隊をそのまま敵の本陣に向かわせた。

「え!?」

自軍の大将の危機にようやく気がついた壮馬は、大将を守るために騎兵を、そして歩兵を引き返させ始める。
そこでナギは一斉に追い討ちをかけた。
隣で陸斗のおおっ!という声が聞こえる。
味方は間に合わない、と思ったのだろう。
壮馬は大将を後方に下げ始めた。
そう、ナギが一番初めに一つにまとめた騎兵の元に。

「う……嘘ぉ……」

待っていたとばかりに大将に襲い掛かる騎兵。
壮馬の大将は討ち取られ、ナギ側の勝利が確定した。

「でかしたぞ、ナギちょん!!」

「ナギちょん?」

陸斗が背中をバシバシと叩く。
痛いではないか!と言いつつも頬が緩んだ。
そうだ、戦場で戦わなくても作戦の立案ならばできるではないかと。

「ほ〜ら、壮馬君。飯食いに行こうぜ〜♪」

「卑怯だぁ〜」

とか何とか言っている二人を尻目に、ナギは再び黒影の部屋に駆け込んだ。

「おい、三千院。さっきの件ならば――」

「軍師をやる!!」

ナギは目をキラキラさせながら叫んだ。

「……は?」

黒影は訳が分からんとばかりに首を傾げる。
傍にいた琉海もポカンと口を開けていた。

「この諸葛亮ナギにかかれば、どんな敵もイチコロなのだー!!」

かの天才軍師、諸葛亮孔明にちなんだ名前を勝手に付けるナギ。
そんなナギに水を差す者があった。

「あなたが諸葛亮を名乗るとはおこがましいですよ、ナギ」

「ぬ!マリアか!!」

マリアである。

「あなたはせいぜいホウ統(漢字で出ませんでした…)が良い所ですわ♪」

「えーあいつ?あいつ簡単に死んじゃう奴じゃないかー」

「いい加減にしろ!!」

戦がどういうものかも知らないナギやマリアに
軍師などを任せることは出来ないと、思ったのであろう。
苛立ちを露にして、黒影は叫んだ。

「軍師などいらん。お前たちの遊びで我々に命をかけさせることなど許さん。
 わかったな?」

だが、黒影の剣幕にも怯まず、それどころかマリアはくすりと笑い、言った。

「では、遊びでなければよいのですね?」

「何……?」

マリアはさっきナギが壮馬と対戦した板と駒を取り出した。

「これを私と黒影さんで対戦して私が勝ったら、私とナギを軍師に。
 負けたらもう二度とこんなことは言わない、というのはどうでしょう?」

「おい、マリア。何でお前が……」

マリアは何も言わず、手でナギを制した。
顔にはにっこりと笑みを浮かべている。

「ふざけるな。何でそんなものをやらねばならん」

「あら、お逃げになるのですね?」

後ろを向いた黒影の体がピクリと反応するのが分かった。

「あの漆黒竜とまで呼ばれて、敵味方問わず恐れられている黒影さんが、
 私のような小娘に恐れを為して尻尾を巻いて逃げると仰るんですね♪」

「ざ、戯れ言を。そんな挑発に私が乗るとでも?」

言葉と裏腹に、黒影の顔はピクピクと引き攣っている。
普段あまりに表情を動かさない彼には珍しい光景で少し面白い。

「しょうがないですわね。私も弱い者いじめする趣味はないですし。
 対戦は黒影さんがもう少し強くなってからで……」

そこまで言うとマリアは言葉を切った。
黒影の様子を窺っている。

「……る」

「え?何ですか?♪」

「……やってやる」

「く、黒影様!?」

「やってやろうではないか。私は壮馬や陸斗とは違うぞ」

「お手柔らかに、ですわ♪」

その後、ナギは琉海に外に連れ出されたため、勝負の結果がどうなったのか知らない。
だが翌日、軍師として就任した。笑顔を浮かべたマリアと共に。

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少々いや、かなりめちゃくちゃでしたが、何とか先に進むことが出来ました(笑)

ちなみにマリアさんとナギにはあだ名がつきました。
マリアさんは臥竜(諸葛亮孔明の異名:雲に乗っていない竜)
ナギは鳳雛(ホウ統の異名:鳳凰の雛)です。
牧村さんには俊英辺りをあだ名にしようかと…

それではまた次回〜