Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.17 )
日時: 2013/03/04 19:26
名前: 絶影

どうも、絶影です。

それでは、十三話です。
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 第十三話 盗賊、再び


何が起こっているのか、わからなかった。
黒影は靡下二百を連れて、修一郎の村に向かっていた。
壮馬からの報告があったのは十分ほど前であった。
静岡一帯に放ってある間者から報告を受けながら巡回していた壮馬は、いきなり三百もの賊徒が集まりだし、
修一郎の村に向かっていることに驚き、すぐに向かったらしい。
一体、何故なのか。黒影にはそれがわからなかった。
黒影が領主となってからの静岡は賊徒が激減している。
大抵の賊徒は警備が厳しいところで悪事は働くことはしない。
たまに現れる賊徒は鴎国軍に追われた者達が領地を通過する際に略奪を行う程度のものなのだ。
だが、今回は間違いなく畏国内部からやって来ていた。

「絢奈、お前は百を連れて村のもう一つの入り口にいろ。一人として逃がさん」

「わかったわ」

絢奈が百ほどを連れ、回り込むように動いた。






「なかなか美味いではないか」

ハヤテ達は早速捕らえた猪達を料理し、猪鍋を作った。
ナギは最初、こんなものを食べるのか、と不満気に呟いていたが、
一旦口に入れると、気に入ったようだ。

久しぶりにのどかな日々だな、と思った。
この世界にやってきて、だいたい十日ぐらい経ったような気がする。
初日はこの世界にやってきて賊徒に襲われ、それから黒影に旅をさせられて――。


自分は人を殺してしまったらしい。
未だにその記憶は思い出せていない。
だが、ヒナギクの話を聞く限り間違いの無いことらしい。
そうだとしたら許されない罪である。
あのどうしようもない両親でさえ、人を殺したことはないだろう。

考え込んでいるハヤテに背後から近づく者があった。

「どうしたのだ?」

ナギである。
彼女はハヤテを見つめるとにっこりと笑った。
ナギは、自分が人殺しだと分かったら、今のように笑みを見せてくれるのだろうか。

「いえ。何でもありませんよ、お嬢さま」

「なら、いいのだが」

ナギに嫌われたくはなかった。
言いかけたこともあるが、言ってしまった後のことを想像すると口が止まってしまっていた。
きっと軽蔑される。恐れられる。ナギはハヤテの人生の中で数少ない、
自分に好意を見せてくれる人間であり、また大切な人だ。
出来れば、それは避けたかった。

ヒナギクはどうなのだろうか。
彼女は自分のしたことを間近で見ていたはずだ。
彼女の自分に対する応対に変わった様子はない、が、
もしかしたら彼女もまた陰ながら軽蔑しているのかもしれない。
いけない。思考がマイナスになってきた。
自分は今自分に出来ることをしなければならないのだ、と思い直す。

「なぁハヤテ。聞いているのか?」

「え?何ですか、お嬢さま」

ナギがまた話しかけていたらしい。

「まったくハヤテは。しょうがない奴だ」

「すみません……」

主を無視するなんて執事としても失格だ、と再び自己嫌悪に陥りそうになった。

「それでなハヤテ。もし戻れたら、私はこの体験を漫画にしてみようかと思うのだが」

「……え?」

「実体験に基づいた漫画だよ。面白いとは思わないか?」

正直あまり面白いとは思えなかったが、適当に相槌を打っておくだけに留めておいた。
喋るだけ喋ったナギはマリアに呼びかけられ、そちらに向かったようだ。

もしかしたらナギも今のどうにもならない現状を
自分の好きなことを考えることによって
少しでも打破しようとしているのかもしれない。
今度話しかけられたときは真剣に返そうと、後ろめたい想いを抱えながらも決意した。
そしてその後ろめたい想いと共に何故か、先程見かけた顔を思い出した。
どこで見たのだろうか。
思い出そうとすると、何かが頭で妨害しているような感じがある。


皆、食事も終わったらしく、がやがやと立ち上がり始めた。
女達は片づけを始めている。
手伝おうと思い、近寄ったが、そのうちの一人に首を振られた。
自分達がやるから休んでいていい、と言う。

働いていないと生きていくことができない生活をしていたためか、
何となく落ち着かない気持ちになったが、
無理やり手伝うのもどうかと思ったので、何か言われたら手伝おうと
村の中を歩き回った。

「ハヤテ君」

突然聞こえた声によってハヤテは足を止めた。
呼び止めたのはヒナギクである。
彼女はハヤテを心配そうに見つめると、言った。

「怪我はもう大丈夫なの?」

ハヤテはつい先日のことだが、何故か相当前の出来事のようなことを思い出した。
傷自体はほとんど治りかけている。これが自分の回復力のためなのか、
それとも壮馬の腕が良いためなのかはわからないが。

「もう大丈夫ですよ」

「そう、なら良いんだけど」

ヒナギクは安心したように微笑を浮かべる。
ハヤテもまた笑みを浮かべ、ヒナギクを見つめた。
暫くすると、見つめられることに耐えられなくなったのか、ヒナギクは顔を背け、
また後で、と言い残し、行ってしまった。
嫌われているようでも恐れられている様でもない、とハヤテは思った。
ヒナギクからは何の敵意も軽蔑も感じられない。
それは黒影に対する怒りで自分への警戒がなくなっているだけのためなのか。
それともナギも同じように受け入れてくれるのだろうか。
思考がぐるぐると頭の中を駆け巡っているのを感じていた。

突然だった。思考を遮るかのように、怒鳴り声が響き渡った。それから、悲鳴。
村の入り口のほうだ。ハヤテは立ち上がり、その方向に足を向けた。
心臓が早鐘のように鳴っている。
何か危険なものが来た。自分の警戒信号のようなものが反応している。
いつぞやの親に捨てられたときに感じたものと同じである。

目を向けるとそこにはガラの悪そうな男達が大勢いて、
その先頭に立っていた男は、どこか嫌悪を感じさせるような声で言った。

「ここに綾崎ハヤテという奴がいるよな?」

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十三話終了です。
それではまた。