Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.15 )
日時: 2013/03/04 19:13
名前: 絶影

どうも、絶影です。

それでは、十一話です。
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 第十一話 『世界』についての構想


「まだ仮定に過ぎないんだけど、私が想像するにこの世界は
 どんな世界なのか、三つの可能性があると思うんだよ」

「三つの可能性?」

「そう。まず第一に『過去』という可能性。
 この時代の生活状況、そして武器を見る限り
 ここは鎌倉時代から室町時代にかけての時代に思えるよね?」

家もちゃんと作られているので結構進んでいる文明と言えるが、
まだ鉄砲などは作られていない。
こういう点から見ると、織田信長の鉄砲隊、もっと詳しく言えば
1543年で種子島に鉄砲が渡って来る前ということだろう。

「でもそれならおかしな点がありますよ?」

ヒナギクが口を挟んだ。
ハヤテも同意する。

「そうですよ。僕達が手紙を渡しに言った時に黒影さんから貰った地図が
 現代の地図と同じ地名でしたから」

「え?あれって昔の地名を調べるのが面倒だとかいう作者の怠慢じゃないのか?」

「ちょっとナギ。今は作者なんて言ってる場合じゃないでしょう?」

「う……。すまない」

マリアの冷静な突っ込みにナギは申し訳無さそうな顔になった。

注)ちなみにこれは怠慢などではありません!ちゃんとした理由があるのです!


「え〜と……。次の可能性について話していいかな?」

志織が気遣わしげに尋ねた。
ハヤテ達は頷く。

「次に『未来』という可能性だよ」

「でもそれだと……」

「うん。それだと文明が退化している、ということになるよね?」

電気製品もないという世界。ありえなくはないが、未来だとはとても思えない。

「それで、三つ目の可能性。君達は今の科学者達が
 未来でタイムマシンが造られていないとする根拠を知ってる?」

「?」

この牧村志織という天才科学者は実際にタイムマシンを造ったはずなのに何故こんなことを言うのか、
それが四人には分からなかった。

「そもそも未来からの時間旅行者がいないのが、
 現在から過去に向かうタイムマシンが存在できない証拠、ということだよ」

理論上は分かる。アニメや漫画のようにあのタヌキ型ロボットが未来から来て、
ヤッホーとかやっているのを、いまだかつて見たことはない。
だから未来でもタイムマシンは作られていない、と分かる。
(ハヤテ自身は過去に行ってナギを助けたりしているがそこはスルーで)

「でも先生は造っちゃいましたよね?」

「確かに造ったよ。でも、「未来人が旅行している世界」と、
 現在の「未来人が旅行していない世界」が別々の宇宙に存在していると考えれば、
 矛盾は起きないんじゃないかな?」

この宇宙にはいくつもの世界(パラレルワールドのようなもの)があり、
ハヤテ達が存在していた世界をAとしてみよう。
そして志織の造ったタイムマシンによってハヤテ達はAの世界の過去に行くつもりだったのだが
故障のせいなのか、それとも違う理由なのか、それは分からないが
Bの世界のどこかの時代に行ってしまったというところらしい。

「まるで『JIN-○』だな」

「えっとお嬢さま?何気なく伏字にする気ありませんよね?」

「文句なら作者に言ってくれ。あの戦国時代に行ってしまった現代の医師の話(ちなみにドラマ版)だよ」

「えっと。つまり私達はパラレルワールドに来てしまったということなのかしら?」

ハヤテやナギの作者云々の話に呆れたヒナギクがこれまでの志織の話をまとめるように言った。

「そうなんじゃないかと」

志織は自信の無さそうな声で呟く。
まぁそうだろう。時間旅行をするつもりが
どこかのリアルな鬼ごっこ(こっちは映画版)みたいなことになっているのだ。
まぁ完全な同一人物は出てないけど。

「どっちにしろタイムマシンを直さなきゃ動きようがないってことだろ?」

ナギがまとめるように言うと志織は頷いた。

どちらにしろタイムマシンを直さないといけないことには
変わりないという結論に達したハヤテ達だった。




巡回していた壮馬が帰ってきた。
壮馬は黒影の部屋の前で一礼し、入ってきた。

「異常はありませんでしたよ」

「奴らはどうしていた?」

壮馬が答えてこない。
黒影は顔を上げた。

「どうした、壮馬?」

「そんなに綾崎殿が気になるんですか?」

不満、というより疑問に満ちた顔をしていた。
黒影は軽く鼻で笑った。

「お前なら、わかるだろ?俺にはもっと力が必要だ。
 この乱世を終わらせるために」

この国は鴎国に占領されていたはずだった。
そうすれば、いやそうなっていた方が民にとっては幸せだったのかもしれない。
いつまでも戦が続くことはなく、たとえ鴎国の支配下にあっても民は平和に暮らせたはずなのだ。
だが、それを止めたのは間違いなく自分だった。
だから自分は鴎国を倒す。戦をこの国から無くすために。
そのためには今の力だけでは足りない。
ハヤテを引き入れるのもその一環である、と思っていた。
心の奥にあるもう一つ別の感情については敢えて無視をすることにして。

「もういい。俺は奴を引き入れるのは諦めた。
 どこか一つを吹っ切らせればこちら側に来る気がしたが、
 俺はその一つを間違えたようだ」

「なら良いんですが」

壮馬は再び一礼し、退出した。

その後、黒影は地図を見つめた。
鴎国の動きが活発化している。
一年前、鴎軍三万を壊滅させてからほとんど動きがなかったが、
どうやら力を取り戻してきたらしい。

今は二、三千の兵が国境を侵してくるぐらいだが、
そのうち大軍が来るだろう。

分かっていることは自分の軍が先鋒であること。
そしてまともに戦えるのは日野吾郎の軍、そして埼玉の領主明智英敏ぐらいだということ。
近衛軍は数だけである。
鴎軍五万に近衛軍十万を当ててようやく互角というところなのだ。
まして『奴』の軍がその五万の中にいるなら、到底勝ちは望めない。

そこで黒影は誰かが部屋の前に立っているのを感じ取った。

「誰だ?」

絢奈だった。
何かの報告に来たのだろう、と推測する。

「中継所から報告がきたわ」

領土の各地に通信の中継所を築き、そこに兵を置いていた。
そうすることにより情報が速く伝達できるようになるからだ。
昼間は光を、夜間は火を使い通信できるようにしていた。

「それで?」

「鴎軍一万が国境付近に現れたって」

「旗は?」

旗はその部隊の指揮をしている将軍を表すものである。
例えば、黒影ならば『黒』の旗を、絢奈ならば『絢』の旗を掲げるということである。

戦において敵を知ることは大事だった。
『相手を知り、己を知れば、百戦危うからず』というのは孫子(中国の兵法家)の有名な言葉である。

「『海』とかいう旗らしいわ」

「陸斗に向かわせろ。どうせ様子見だ。無理をするな、とだけ伝えておけ」

『海』の旗ならば矢幡海斗という将軍だろう。
大した武将ではない。一万ほどの指揮をそつなくこなす程度だ。

だが、一万という数は意外に多い軍勢だった。こちらを警戒してのことだろう。
長野辺りの国境を侵してくる鴎軍は二、三千ほどなのだ。
黒影が見たところ、まだ戦機というものが満ちていなかった。
満ちていないと完全に決着はつかない。一方には守る、という意識しか働かないからだ。
だから敵を殲滅させるためではなく、追い返すという感じで良いだろう。



出動の命が降った。
久しぶりの戦である。
一年前、二万の鴎軍を殲滅に近い犠牲を出させてからは
賊の討伐だけで、まともに戦らしいことをやっていなかったのだ。

出動するのは自分の軍の四千だけらしい。
しかもあまり犠牲を出さぬようにと釘を刺された。

犠牲なんか出さねえよ、と思った。
敵は一万。率いているのは矢幡海斗とかいう
聞いたこともないような名前だった。

陸斗は四千を連れ、敵がいるという湖西という地域に向かった。
馬を降りて、丘の上で腹ばいになり敵を見た。

「へぇ」

思わず声を上げた。見事な陣を敷いている。
攻撃にも防御にも即応できるという構えである。
まともにぶつかったら犠牲が出るだろう。
だが、こちらを警戒しすぎているのためなのかもしれないが
どこか堅いな、と思った。撹乱に弱いだろう。


陸斗は四千の部隊を二つに分けた。
副官に任せた二千と自分が率いる二千の部隊である。
副官の部隊を丘から駆け下りさせ、敵に姿を晒した。

敵が警戒して陣を堅め始める。
半数以下の兵力で、まともに陣形を組んでいる相手に真正面からぶつかって勝つことは
出来るかもしれないが、犠牲が多すぎる。
だから、副官の役目は敵の陣形を動かすということにあった。
敵が陣形を動かせば自分が攻め込んで、勝てる。
動かなければ、牽制して撤退を待つつもりだった。

二千が駆け始めた。二手に別れ、一万の両側面に向かう。
さらに百ずつに散らばり、攻め込むと見せかけては、引く。
敵にとっては群がる虫のようなものだ。虫は払いたくなる。
思ったとおり敵の側面が追い払うような仕草で前に出てきた。
左右に注意が向き、中央への警戒が甘くなり、ぽっかりと穴が開いたようになった。
陸斗はそこに向かって駆けた。

さすがに敵の前衛の歩兵が気付き、槍を突き出してきたが、陸斗は構わず突っ込んだ。
槍を払いのけ、先頭で冷艶鋸(陸斗専用の薙刀状の武器)を振り回す。
真っ直ぐに本陣(大将がいる位置)に向かって進んだ。
『海』の旗が揺れていた。こちらの圧力に耐え切れず、退がり始めているようだ。

散らばっていた副官の二千も突っ込んできた。
元々本陣が退がっているのである。
敵はそれほど踏ん張れず、逃げ始めた。
それを追い討ちに討った。

敵が全て鴎国領に退がったとき、陸斗は追撃をやめた。
犠牲は二百ほど。敵はおそらく二千は失ったはずだ。
完勝と言っていいだろう。
大した敵ではなかったが、畏国の近衛軍よりはずっと強かった。
将軍の質も良い。あの将軍ももっと経験を積んでいれば、
今のような感じで勝つことは難しかったはずだ。

「帰還する」

配下の将校達にそう告げた。

兵達を幕舎(テントのようなもの)に帰し、
夜は更け、辺りは真っ暗であったが、陸斗は数名の供回りとともに黒影の屋敷に向かって駆け続けた。
だいたい六時間ほどの行程である。
着いたのは朝日が東の空に現れ、薄明るくなっている頃だった。

屋敷についた陸斗は早速黒影に報告に行った。
一礼し、黒影の部屋に入る。
黒影は起きていた。
というか陸斗は黒影が寝ているところを見たことがなかった。
一日中起きているのではないか、と思うほどである。

「我が領を侵していた鴎軍は打ち払いました。
 敵の損害は二千ほど、我が軍の損害は二百ほどです」

「そうか。失った兵の補充はしておけ。
 陛下へのご報告は俺からしておく」

「わかりました」

陸斗は再び一礼し、退出した。
寝るか。そう思い、自室に向かった。

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十一話…終了です…。
そ、それでは、また…。