Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.14 )
日時: 2013/03/04 18:40
名前: 絶影

どうも、絶影です。

疲れてきたぜ…!

それでは第十話です。
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 第十話 旧知


ハヤテ達は黒影に静岡の御前崎という地域の村に連れてこられた。
先日泊まった小さな村と同じくらいの規模の村で
黒影の古い知り合いが村長なのだという。

元々知らせが入っていたらしく、村長と思われる男性は家の前で立っていた。

「久しぶりだな、黒影」

「お久しぶりです、修一郎殿」

五十歳くらいの男性で、佐野修一郎という名前らしい。
修一郎はこちらに目を向けてきた。

「それで、この者達は?」

「この村で預かって貰おうと思っている者達です」

「ほう、何故だ?」

「行き場がないのですよ」

ハヤテは少し不思議な心持ちでその会話を聞いていた。
あの黒影が丁寧な言葉遣いをしている、という点からくるようだ。
何となく彼は相手がどんな人間であっても
あの冷たい笑みを浮かべて話すものだと思い込んでいた。

「そなた達の名は?」

それぞれに自己紹介をしたが、ヒナギクだけは何も言わなかった。
修一郎は首を傾げ、ヒナギクに声をかけた。

「そなたの名前は?」

ヒナギクはしばらくの間黙っていたが、ぶっきらぼうな声で答える。
一体どうしたのだろうか。
ハヤテがヒナギクの方を見ると、ヒナギクは束の間黒影の方を睨んだ様な気がした

修一郎もその視線に気付いたようで、黒影を呼び寄せた。
短い説明を受けた後、妙に納得したような顔をし、いきなり黒影の頭を拳で叩き付けた。

「!?」

困惑する一同を無視し、修一郎は言う。

「二人に謝れ」

「分かりました」

黒影はハヤテとヒナギクの方に向かって頭を下げる。

「すまなかった」

「え?あ、はい」

ハヤテは反応したが、ヒナギクはただ黒影を睨み付けるだけだった。

「私からも謝る。綾崎殿、桂殿。本当に申し訳ない」

修一郎も頭を下げながら謝ってきた。



謝られたところでどうしようもない。
ヒナギクはそう思う。
あの時は激しい炎となっていた怒りが、今は冷たい石のように固まり、
体の奥に積み重なっていくのを感じていた。

だが、あの修一郎が何かをしたわけではない、と思い直す。
だから修一郎に対してだけ、

「もう過ぎたことですから、気にしないでください」

と言った。

修一郎はほっとしたような顔をし、
この村についての説明を始めた。

村の外れには畑があり、そこでは今十数人の若者が土を耕していた。
自分達の仕事はそれを手伝うことらしい。
力のないナギなどは大変だろう。

説明を受け終わった後だった。

「それでは修一郎殿。私は帰ります」

「あ!黒影さん」

「何だ?」

ハヤテが黒影の前に行き、持っていた剣を差し出した。

「僕には必要の無いものですから」

「そうか」

黒影はハヤテから剣を受け取ると、修一郎に一礼し、馬に飛び乗った。
そのまま駆け去って行く。
ヒナギクはその様子を束の間睨み、目を背けた。

その様子をハヤテが見ていたような気がしたが気にしなかった。
だいたいハヤテは優しすぎるのだ、と思う。
あんなことをされたにも関わらず、
黒影に対して怒っているような気があまりしない。
一人だけ怒っている自分が馬鹿みたいではないか。

「今日はそなた達の歓迎するための宴を開こう」

この村の農民を全て集めるらしい。
ヒナギクは大して嬉しくもなく、自分の部屋だと言われたところに向かった。


部屋には簡素な服があった。
着替えろということなのだろう。

確かにこの数日、服を着替えていない。
風呂にも入っておらず、濡れた布で体を拭いただけだった。

制服を脱ぎ、その服に着替えようとしたまさにその時……

「あの、ヒナギクさ……」

ハヤテがヒナギクの部屋に入ってきた。

「……」

「……」

そのままの状態で固まる二人。
ヒナギクの今の状態って何でしたっけ……?



少女の悲鳴。そして凄まじい爆音(?)。
ハヤテは部屋から吹っ飛びそのまま昇天した。



「まったくハヤテ君は……!」

着替えが終わり、ヒナギクはハヤテを部屋に招き入れた。

「いい加減ノックというものを覚えなさい!」

「すみません……」

ハヤテは早くも土下座状態である。


「それで?どうかしたの?」

「いえ、ヒナギクさんの様子がおかしかったので……」

ヒナギクはその言葉を受け、顔を曇らせる。
しばらく経った後、ヒナギクは問いかけた。

「どうして?」

「何がですか?」

ハヤテはさも不思議そうに尋ね返す。

「どうしてあの人と普通に話せるのよ!」

気がついたら怒鳴っていた。
だが、いくら御人好しだからといっても、殺されかけたのだ。
それに対する怒りはあっていいはずだ、と思った。

ハヤテはヒナギクの剣幕に戸惑いながらも答える。

「今さらしょうがないじゃないですか。
 もう過ぎてしまったことですし」

「でもハヤテ君は人を……」

殺してしまった、とは言えなかった。
ハヤテは頭を掻きながら苦笑する。

「実を言うとよく覚えていないんですよね。
 それに僕、嬉しかったんですよ?」

「え?」

「ヒナギクさんは僕がその……人を殺めてしまうところを見ていた訳ですよね?
 それなのに僕に普通に接してくれて、心配してくれて。
 本当にヒナギクさんには感謝しています」

そんなことを考えたこともなかった。
だが、自覚した今でも自分のハヤテに対する接し方も好意も変わらない、と思った。

「当たり前じゃない」

「え?」

「ハヤテ君はハヤテ君なんだから」



見つめ合う二人の耳にナギの声が聞こえた。
どうやら自分達を呼んでいるようだ。

「行きましょうか、ヒナギクさん」

「そうね」

ハヤテ達が駆けつけるとナギが腕を組みながら立っていた。

「おお、ハヤテにヒナギク。一体どこにいたのだ?」

「ちょっとね」

ヒナギクはそう答え、少し微笑む。
ナギは少し不機嫌そうな顔になったが特に何も言わなかった。


気がつくと修一郎が傍にいて、ハヤテ達の紹介を集まった人々にしていた。


それから宴が始まった。
暫く経って、ハヤテの元に志織が現れた。

「この後、私の部屋に集まってくれる?」

「え?あ、はい。分かりました」

一体何の話をされるのだろう。
疑問に思ったが、修一郎が話しかけてきたので考え込むことは出来なかった。

「綾崎殿、それに桂殿。少し話があるのだが」

「何ですか?」

修一郎はハヤテの傍にいたナギの方を見て、言った。

「すまないが三千院殿。少しあちらに行っていてくれないか?」

ナギはあからさまに嫌そうな顔をした。
眉間に皺が寄っているのがはっきりと分かる。

「何でだ?」

「聞かれたくない話だからだ」

修一郎の有無を言わさぬ口調にナギは暫く黙っていたが、俯いた。

「わかったよ」

「すまないな」

ナギはマリアの方に向かって歩いていった。


「それで?一体何なんですか?」

ハヤテは問いかけた。
ナギに聞かれたくない話とは一体何なのか。
いや、だいたいの予想はついていたのだが。

「黒影のことだ」

思ったとおりだ、と思う。

「それがどうかしたんですか?」

「私はあいつを小さい頃から知っている。
 決して悪い奴ではないのだ」

「ええそうでしょうね。私たちに現実を教えるために人殺しをさせるような人ですもの。
 そりゃいい人でしょうね」

横からヒナギクの皮肉めいた声が発せられた。
さらにそれが続けられる。

「別に私は気にしてないですよ。
 もう会うことなんてないですから」

あからさまに敵意を見せるヒナギクを見て、
修一郎は戸惑ったようだ。

「そうだな。すまない」

修一郎は頭を垂れ、ふらふらとその場を去って行った。

「ヒナギクさ――「ハヤテ君」え?」

ハヤテの言葉を遮り、ヒナギクは告げる。

「私は誰が何と言おうとあの人だけは許すつもりはないから。
 それだけは覚えておいて」

ヒナギクが去った後、ハヤテはポツリと呟いた。

「……僕のせい、なのかな?」

おそらく100人中100人が黒影が悪いと答える中ハヤテは悩んだ。
自分がもっと強ければ、油断していなければ
黒影の思惑通り人を殺してしまうことなどなかっただろう。
こう考えてしまうハヤテにはヒナギクが純粋に黒影だけを憎んでいる
状況に戸惑いを覚えてしまっていた。






「どうしたんですか、ナギ?」

マリアの少し気遣うような声が聞こえた。
ナギはそれには返事をせず、ただ考え込んでいた。
あの二人はおかしい。
きっと何かあったに違いない。

ヒナギクは何故帰ってきたときに黒影に剣を突きつけたのか。
それにさっき何故黒影は二人に謝ったのか。

あのただ手紙を渡すというだけの旅で二人に何があったのか。
もしや良からぬことを……

『ひ、ヒナギクさん。僕はもう……』

『ハヤテ君、あなたにはナギという恋人が……』

いや、ハヤテならば逆かもしれない。

『待ってください、ヒナギクさん。僕はお嬢さまを裏切ることなんて……』

『うふふハヤテ君♪に・が・さ・な・い・わ・よ♪』

ナギの頭からは湯気が立ち上っていた。
マリアが驚いたような声を上げていたがそんなこと、何の関係があろうか。
とにかくハヤテに問いたださなくては。
ナギはそう思い、駆け出そうとした――。




あれ、体が思ったように動かない?
何だここは、無重力か?

気がつくとナギは倒れていた。

「ナギ!」

場が騒然としていた。
皆、倒れた自分を見ている。

ハヤテが駆け寄ってくるような気がした。

「大丈夫ですか!お嬢さま!?」

体が浮くのを感じた。
ハヤテに抱き抱えられているのだ、と思ったとき、ナギは目を閉じた。




「えっと?原因は何だったんですか?」

「おそらく疲れじゃないかと。理由は良く分かりませんが急激に体温が上がったためでしょうね。
 心配は要りませんよ。では俺はこれで」

「ありがとうございます、壮馬さん」

丁度巡回中だった壮馬にナギを診てもらったのだ。
特に何でもなかったようなのでハヤテはホッと息をついた。

額に濡れた布を変えるとナギが少し動いたような気がした。
どうやら目が覚めたらしい。

「大丈夫ですか?お嬢さま?」

ハヤテが声をかけるとナギは頷いた。

「ああ。他の者たちは?」

ハヤテが答えようとすると、声が聞こえた。

「ここにいるよ〜♪」

「大丈夫ですか、ナギ?」

「まったく。疲れてるならそう言いなさいよ?」

志織、マリア、ヒナギクの三人である。
ナギの部屋の前にいたらしい。

「本当は私の部屋で話そうかと思ったんだけど
 三千院さんが倒れてしまったからね」

「そういえば何の話をするつもりだったんですか?」

ハヤテの問いに、志織は普段見せたことがないような真剣な顔になった。

「うん。この世界についての話だよ」

一同は頷き、それぞれの場所に座った。

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第十話終了です。
それでは、また。