Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.12 )
日時: 2013/03/04 18:33
名前: 絶影

どうも、絶影です。

それでは、第八話です。
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 第八話 神医


「どうして止めるんですか!?」

ハヤテが賊徒に刺された。
壮馬はその時点で助けに入ろうとしたが絢奈に肩を掴まれ、引き寄せられた。
絢奈は壮馬の眼をじっと見つめてくる。
不謹慎にも自分の顔が赤くなるのを感じ、眼を逸らした。

「落ち着きなさい、壮馬」

「で、でも!」

「まだ綾崎の気が消えてないでしょ?」

確かにハヤテの気は消えていない。
むしろ……強くなっていた。

「まさかあの状態に……?」

賊徒の叫ぶ声が聞こえた。



ヒナギクは四人の男に押さえつけられていて身動きが出来ない状態だった。
口も押さえられているため声を出すことも出来ない。
何が起きているのかさっぱり理解できないが、自分の身が危険であることは分かった。
ハヤテはどうしたのだろうか。
まさか、もう。嫌な予感が頭を過ぎったときハヤテの姿が見えた。
安心しかけたが、ハヤテの腹部から血を流れているのが見える。

「うわ!こいつ、すげぇ馬鹿力だぜ!?」

普段ならば、馬鹿力で悪かったわね、などと皮肉の一つでも返すかもしれないが
この時のヒナギクにはそんな言葉も思い浮かばなかった。
また大切な人がいなくなってしまう。
その想いが恐怖の波となって押し寄せてきた。
だが、四人の男に抑えられていてはさすがのヒナギクでも動けなかった。
しばらく抵抗を続けたが、男の一人に腹に拳を叩き込まれた。
その衝撃で口を押さえていた手は外れたが
息が詰まり、意識が飛びかけた。
もう一発、と男が拳を振り上げているのが見えた。

これは、まずい。
おぼろげだが面影を覚えている両親、姉の雪路、養父母、
生徒会、学校の皆、親友の歩、そしてハヤテの顔が思い浮かぶ。
死にたくない。まだ想いも伝えてないのに。


『言ってくれれば助けに行きますよ』

記憶の中のハヤテが笑いかけてくるのが浮かんだ。

「ハヤテ君!」

ヒナギクは、微かに聞こえる程度の声だったが、
それでも出せる限り精一杯の力を振り絞って声を上げた。
助けを期待した訳ではない。
でも、呼ばずにはいられなかった。
その声と共に男達にどよめきが走る。




ハヤテが立ち上がっていた。

「おいおい、しっかり殺しとけって言っただろ?」

「絶望感を与えてから殺したかったんだよ」

ハヤテは無言で剣を鞘から抜き放った。
刀身の見えた剣が束の間光を放つ。
暫く唖然としていた男だったが、
相手が瀕死状態であることを確認し、再び下卑た笑みを見せて、槍を手に取った。
そして動くことが精一杯であるはずのハヤテに向ける。
だが、ハヤテの動きは瀕死状態の人間のそれではなかった。
突きかかってきた槍をかわし、稲妻のような速さで男に近づき剣を一閃。
男はどさりと音を立てて倒れた。

呼吸にして約二拍。呆然としていた男達が、何とか気を取り直したようだ。
ヒナギクを押さえつけていた男のうち二人が叫び声を上げながらハヤテに向かっていく。
だが、彼らは瞬時に斬り倒された。

「ば、化け物だ!!」

ヒナギクを押さえつけていた二人の男が逃げ始める。
ハヤテがその後を追い、一人斬り倒した。
もう一人は何とか逃げ延びたようだ。

「は……ハヤテ君?」

ヒナギクは何とか起き上がりハヤテに声をかける。
ハヤテは虚ろな目をしてヒナギクを見つめていた。

「怪我の治療を……!?」

みしっ、という鈍い音が聞こえた。
それからハヤテは、ゆっくり崩れ落ちるようにして倒れてしまう。
後ろには人影があった。

「ハヤテ君!」

ヒナギクは後ろの人影に警戒しながら、ハヤテに声をかけた。
さっきの奴らの仲間か、と思った。
ヒナギクは白桜を構える。

「落ち着いてください、桂殿」

「……え?」

ハヤテの後ろにいたのは

「壮馬さん?」

「私もいるけどね」

「絢奈さん!?どうして?」

壮馬、絢奈の二人であった。
壮馬は細くて長い丸太のようなものを持っている。
おそらくそれでハヤテを殴ったのだろう。

「どうしてハヤテ君を殴ったの!」

ヒナギクは怒りの声を上げたが、
壮馬の声は落ち着いていた。

「あのままだと綾崎殿が死んでしまいますので」

若干の矛盾を感じつつもヒナギクはハヤテの状態を思い出す。

「そうよ!早く病院に連れて行かないと……!」

「問題ないわよ」

「え?」

「医者ならもういるから。でしょ、壮馬?」

壮馬はにこりと笑った。

「任せてください。神医壮馬に任せれば死人でも蘇ると言われていますからね」

「神医?」

「壮馬のあだ名よ。
 馬鹿だけど、そこら辺の医者よりもずっと腕は良いわよ?」

「馬鹿は余計ですよ」

とにかく任せる他なかった。




壮馬はハヤテの傷を見つめた。
傷は短刀による刺し傷。幸い臓器には達してないが出血は多い。

あの時のことを思い出すな、と思った。
自分が『神医』と呼ばれ始めた時のことである。


壮馬は元々群馬領前橋の医者の家の生まれである。
幼き頃より親に医術を叩き込まれ、医師になるように育てられた。
しかし、壮馬は何か満ち足りないものを感じていた。

十二歳の時、わずか十三歳の少年が、軍神とまで称された宇佐美天竜を討ち取ったという
知らせが各地に届いた。
十三歳と言えば、自分とほとんど変わらない。
壮馬の心は奮えた。

その時から壮馬は武術を習い始めた。
幸い生活は裕福だったため、武術の師匠を雇ってもらうのは容易いことだった。
才能はあったらしく、様々な武器を遣うことが出来るようになったが、その中でも得意なのは剣だった。
十四歳の時には雇われた師匠を倒すほどの腕になっていた。

自分は強くなった。そう思った時から親と対立した。
軍に入りたい、と言ったのだ。当然親からは反対された。
一昼夜口論を続け、両親を説得することを諦めた壮馬は家を飛び出した。

それから一年間流れ歩き、東京に辿り着いた。
壮馬が十五歳の時である。
近衛軍に入隊を志願した。
剣の腕を見せるとすぐに百名を率いる将校に任じられた。

近衛軍は惰弱だった。
訓練が甘すぎるのだ。
少なくとも自分の配下だけはと思い、訓練をさせたが
鬱々としたものが溜まっていた。

黒影が現れたのはそんな時である。
彼は各地で数々の武功を挙げ、帝に鴎国との最前線である静岡領を任されることになっていた。
その任命の式のために東京に訪れていたのだ。

一方、壮馬は近衛軍の合同訓練をしていた。
兵五千で二隊に分かれ、いかに隊形を崩されず相手の隊形を崩すかという訓練である。
その時、壮馬は配下の百を率いて先頭で相手に突っ込んだ。
相手の隊形は崩れ、壮馬はそのまま先頭で相手の大将だった男を叩き落した。

その訓練の後に黒影に呼ばれたのだ。
自分の麾下にならないか、と言われた。
願っても無いことだった。
壮馬にとって軍神宇佐美天竜を討ち取った漆黒竜黒影は憧れでもあったからだ。

その後、壮馬は黒影に従い各地で転戦した。
黒影にも認められ、一万を率いる部将になったのだ。



一年前、鴎軍二万が攻めてきた時だった。
壮馬は三千の兵を率いて黒影に従い、総勢一万二千の軍で敵に殲滅に近い犠牲を与えた。

戦の後、配下の一人が泣いているのを見て、声をかけた。

「どうしたんですか?」

兵は泣きながら答えた。

「今までずっと一緒に戦ってきた仲間が矢を受けて死にそうなんです」

戦自体は圧勝だったので流れ矢に当たったのだろう。

「その人は生きているんですね?だったら見せてください」

彼は驚いたような表情を見せたが、すぐに頷き、怪我を負った兵のところへ案内した。
矢が腹に突き立っていた。兵は呻き声を上げるだけで何の反応も見せない。
様子を見て取った壮馬は兵に告げた。

「まずは矢を抜きます。血が大量に出ると思いますけど
 それをうまく止めることが出来れば、きっと助かりますよ」

泣いていた兵は弾かれたように俯いていた顔を上げた。

「ほ、本当ですか!?」

「絶対、とは言えませんが、全力は尽くします」

なんとか血止めはうまくいき、その兵は助かった。
それからだった。『神医』壮馬に任せれば死人でさえ蘇ると言われ始めたのは。
もちろん死人でも生き返せるはずはないのだが。

そこで余計な思考を切り、壮馬は目の前の患者に集中した。




壮馬の手が尋常ではないほど素早く動いている。
現代の外科医でもそうはいない、というほどである。
ヒナギクは唖然とした表情でそれを見ていた。

「すごいでしょ?」

何故か絢奈が自慢気に言っている。
壮馬も同じことを思ったようだ。

「何で絢奈殿が得意そうなんですか?」

喋っている間でも壮馬の手は動き続けていた。
絢奈は途端に仏頂面になる。

「別に。壮馬は元々医者の家系でね。
 医術の才能はあるのに軍なんかに入った間抜けよ」

「間抜けとは何ですか、間抜けとは……」

「ほら、グダグダ言ってないでさっさと治療しなさい!」

何だか緊張感ないわね、と思いながらヒナギクは自分も
安堵してきていることに気がついた。
二人は気を使ってくれたのかもしれない。

三十分ほど経った後、壮馬の手の動きが止まった。

「終わったの?」

「ええ、無事に」

ヒナギクはほっとして崩れ落ちた。

「良かった……」

「まぁしばらく安静にしてもらわなければいけませんが」

「そうね」

ヒナギクがハヤテの顔を覗き込むと、
ハヤテは穏やかな表情をしていた。

「ありがとう、壮馬さん」

「いえ!大したことはしてないんで!」

顔が赤くなっているような気がしたがどうしたのだろうか?
壮馬は慌ててヒナギクから離れていった。
そんな壮馬の様子を絢奈はじっと見つめていたが、ふと何かを思いついたように立ち上がり、
先程壮馬がハヤテを殴り倒した際に使用していた丸太を手に取って、後ろに回りこんだ。

「じゃ、壮馬」

「はい?」

壮馬は絢奈に呼びかけられ振り向いた。
そこには丸太を振り上げた絢奈がいる。
絢奈は軽く笑みを浮かべ……それを一気に振り下ろした。

「げぶほっ!」

壮馬は頭を打たれ、棒のように倒れてしまった……。

「……な、何殴ってるのよ!?」

あまりにも酷すぎる暴挙にヒナギクは困惑する。

「え?だって危険じゃない。襲われたらどうするの?」

さも当然のように答える絢奈。

「……」

「さ、寝るわよ?」

「……」

絶対楽しんでましたよね?とは言えないヒナギクだった。

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プロフィール

名前 倉敷 壮馬(クラシキソウマ)
年齢 18歳
誕生日 7月23日
血液型 この世界ではないんじゃないですか?
家族構成 父
     母
身長 157cm(以前は174cmありました)
体重 45kg
好き・得意 絢奈・医術
嫌い・苦手 虫・陸斗
所属 神崎軍
役割 歩兵指揮官

元近衛軍所属。実家は医者で、幼い時から医術を習い、『神医』と称されるほど腕が良い。
医術自体は本人も嫌いではないのだが、医師にしようとする両親をうるさがり軍に入った。
言動や顔からは想像もできないが、剣では彼に勝る者はなく(絢奈を除く。本人曰く本気を出せないらしい)
現在、黒影の片腕。武器は斬魔刀という名の刀を遣う。

賊討伐戦の時に絢奈に一目ぼれ。
それ以来、本人は隠しているつもりだが、
他の者にはバレバレで、よくからかわれる。(特に陸斗)
童顔で身長が低いため、実際の年齢より下に見られることが多く、結構気にしている。
陸斗とは犬猿の仲であり、彼曰く『軽薄そうな所が許せない』らしい。

壮馬の身長は縮みました♪

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それではまた。