【第9話】綾崎マリア ( No.35 )
日時: 2017/11/12 00:37
名前: ロッキー・ラックーン

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
約1年ぶりですね。止まり木も変わってしまってちょっと寂しく思いますが、存続していただける限り細々とやっていけたらと思ってます。

今回はマリアさんの話です。ひさびさに「Cuties」だなと思いつつも、久々の投稿なのになにもイチャイチャできないハヤヒナ。すまん!
サブタイトルに苗字がついているのは「せっかく判明したんで」くらいの勢いです。深い意味ゼロです。

それでは、どーぞ!


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     しあわせの花 Cuties 第9話【 綾崎マリア 】



AM4:30起床、メイドさんの朝は早いです。まずは着替えと身だしなみを整えて、早速キッチンへ。5時にヒナギクさんが起きて日課のランニングに向かうので、それより早く共用のテーブルを整える事から始まります。


「おや、今日は私の方が早かったですね」


独り言がむなしくキッチンに響く。というのもヒナギクさんが5時に起きるのだから、もちろん彼氏のハヤテ君はそれに間に合うように起きて特製ドリンクを作るというのがここ数ヶ月続くムラサキノヤカタの台所風景。(※ここの読者さんならお分かりかと思いますが、ドリンク作りはハヤテ君が彼氏になってから自分で勝手に始めた事です。ヒナギクさんが作って欲しいと頼んでいる事ではありません。念のため)キッチン朝一番乗りはしばらくハヤテ君が続いていたので、今日のような光景はひさびさです。
いつもより遅いと言ってもまだ5時前。たまにはちょっとした朝寝坊もご愛嬌と思い、私がヒナギクさんのドリンクを作り始め…ようと思ったら来ました来ました。


「おはようございますマリアさん!今日は寒いですね〜…」

「ハヤテ君、おはようございます。そんなに言うほど寒いですかね?」


もう春も近く、特に今日は夜の冷え込みが弱かったと思いましたが、朝の挨拶のついでの会話だと思って特に何も感じませんでした。


「ハハハ、寒いですけど今日も張り切ってお嬢様を起こしちゃいますよぉ!」

「ウフフ、じゃあ今日は頼りにしてますからね」

「ハイ、お任せください!」


いつもの感じ、いつものやり取り。特にいつもと変わらぬ一日が始まったと思ってました。


「あ、ヒナのドリンク…ひょっとして手を付けられてますか?」

「いえ、まだですよ。ハヤテ君いつもよりちょっと遅かったから、そのまま寝かせてあげようかなーってボトルを開けたところです」

「すみません、遅くなってお気遣いさせてしまって…」

「いいえ、私が好きでやろうとしたことですし」

「じゃあ、僕が作るんでボトル頂きますね」

「ええ、お願いします」


バターン


「えっ!?」


背後からものすごい音がして、振り返ってみたらハヤテ君が頭から倒れていました。


「ハヤテ君!?どうしたんですか!?」

「ハヤテ君!ハヤテ君!!うわ…すごい熱…」


額を触ってみると、今まで人の肌で感じたことの無い熱さを覚えました。これはかなり危ない…熱すぎる。


「とにかくお医者様を…」

「マリアさん…だい…じょうぶ…ですよ…」

「大丈夫な訳ないでしょ!布団まで運びますから、ヒナギクさんを呼んで来るんで待っててくださいね!」


朦朧とした意識の中でも強がりを言う彼に呆れてしまいます。なんにしても今はまず部屋に運んでお医者様を呼ぶ。早くしないと!


「ひ、ヒナギクさん!」

「あわわわ、マリアさん着替え中です!!」


ノックをするのも忘れてヒナギクさんの部屋に突撃。スポーツウェアに着替えようとしていた彼女は下着姿で慌てふためきます。


「それどころじゃないんです!ハヤテ君が…」

「えっ!?」


事情を説明し着替えを済ませて二人でキッチンに戻ってみるとハヤテ君は眠っていました。というか気絶してると言う方が正しい気がします。


「部屋には私一人で運べますんで、マリアさんはお医者さんを…ってまだこんな時間じゃ…」

「大丈夫です。三千院のかかりつけでちょっと無理言っても対応してくれますので」

「じゃあお願いします!」


このお医者様はアパートの住人の皆さんに何かあったときに昼夜問わず駆けつけてくれます。実はアパートの隠れた魅力のひとつだったりします。
電話を終えてハヤテ君の部屋に行ってみるとさすがヒナギクさん、ハヤテ君を一人で部屋まで運んで寝かしつけてくれていました。


「ハヤテ…かなりまずいと思うんですけどマリアさんはどう思います?」

「確かにちょっと体温が異常ですね。大事じゃなければいいのですが…」


ヒナギクさんの問いに気休めにもならない言葉をかけます。


「あんな苦しそうなハヤテ初めてで…私、どうすれば良いのか…」

「お医者様もすぐ来てくれます。私たちの出来る事をしましょう。貴女が前を向かなかったら、ハヤテ君も治ってくれませんよ?」

「マリアさん…そうですよね。私がハヤテより元気無くしてちゃダメですよね」


震える手を取って、肩を叩いて励まします。私もどうすれば良いのかまだ分からないけど、この人が諦めた時がハヤテ君の終わりというのだけは分かります。とにかくどうにかするしかない。





あれから数十分でお医者様も来てくれて、診察と処方も済みました。長年溜まり続けていた疲労が爆発したもので、重い病気などではなく、それに関してはひと安心。


「マリアさんすみません、ハヤテの事お願いしますね」

「ええ、私に任せてください。だからヒナギクさんはお勉強の方にしっかり身を入れてくださいね」

「ハイ。アリスはマリアさんの邪魔しちゃだめよ?」

「誰に物を言ってるのです?私は寝てご飯をいただくだけなのでハヤテには触れません。大丈夫ですわ!」


時刻は7:30。なんやかんやで起こしたナギと一緒に普段より遅い登校時間のヒナギクさん。同じくなんやかんやで起こしたアリスさんと一緒に見送ります。ハヤテ君自身は面会謝絶なので他の入居者の皆さんは普通に登校してもらってます。


「ナギ、ちょっと…」

「なんだ?」


出がけの玄関でナギを呼び止めます。


「今日はヒナギクさんの事、しっかり見ててくださいね?ハヤテ君の事になるとあの人、なにしでかすか分からないですから…」

「なんだなんだ、マリアもアーちゃんと同じ事言うんだな。私に任せておけ。不沈艦アー●エンジェルに乗った気でいろ!」

「私はどちらかと言うとエ●ーナルの方がいいのですが…とにかく、コッチは大丈夫ですからお願いしますね!」

「はいはい、では行ってくるぞ!」


高校生の皆さんを送ってようやくひと段落…という暇も無く、ハヤテ君の看病の前にお洗濯だけは済ませないといけません。


「マリアさん」

「はい?」

「私に出来ることがありましたら言ってくださいね?貴女が倒れたらここは終わりですわよ」


アリスさんも自分なりに危機感を覚えてくれているのか、どこか頼もしい雰囲気です。


「ありがとうございます。今日の仕事は最低限に済ませて無理はしませんので、安心してくださいね」

「そうですか」グー


緊張の糸が途切れてしまうようなお腹の虫の音。恥ずかしがりもせずに、その音の主は私のスカートの裾を握って離しません。アリスさん得意の空腹をアピールする仕草です。


「とりあえず朝食にしましょう。一息つきましょうか」

「そうですわね。私は起きただけですけど」


お洗濯などの仕事は後回し。まずは私がバテないようにしっかりと栄養補給ですね。
朝食が終わったらアリスさんは邪魔をしないよう二度寝へ。食事の時の話し相手になってくれるだけでお姫様の存在は助かります。





洗濯物を干し終えて、ようやくハヤテ君の看病へ。といっても薬が効いてずっと寝ているのでそんなにする事もありません。


「まったく、貴方が元気じゃないとヒナギクさんもナギもアリスさんもみんなダメダメになっちゃうんですからね。いつも言ってますけど、あれがあーでこれがこーで、クドクドクドクド…」


すやすやと寝息を立てる彼の水まくらを替えながら言いたい放題。日ごろの鬱憤を晴らします。


「これでよし!」


汗拭きと着替えも済んでひと段落。起きるはずも無い彼のおでこを撫でていたら、鬱憤以外にこれまで溜まっていたものが出始めます。


「今だから言えますけど…ハヤテ君の事、私もスキだったんですからね」


衝撃の告白。と言ってもヒナギクさん編6話でそんな事を口走ってましたが…。
ヒナギクさんがハヤテ君を好きだというのを知ってから気になる事が増えて、気持ちがモヤモヤして仕方なかったので、思い切って歩さんに相談してみたらはっきりと分かりました。
はっきりと分かったのは良かったけど、ナギが彼を好きな事…こればかりが自分の恋心を縛ってしまい、何も出来ずにいたらヒナギクさんに取られてしまった。なんて情けない初恋でしょう。
まあ私の初恋が終わってしまったのは仕方ないとして、今置かれた現状を整理してみましょう。
部屋には私と彼の二人きり。邪魔な恋人も、心の枷になっていたご主人様もいない。今日だけ、今だけ、この一回だけだから…。


「……」


10センチ…5センチ…もう少しで…


「ふぁ〜あ。お腹が空きましたわねぇ〜」

「ファッ!?」


驚きすぎて何がなにやら分からない奇声を上げてしまいました。そうだ、アパートにはまだこの子がいました。


「アリスさん、いつからそこに!?」

「たった今来たばかりですが、何か問題でも?」

「…見てましたか?」


冷静に、あくまで冷静に取り繕ったつもりでしたが、見返してみると完全に取り乱してますね。お恥ずかしい。


「ん?何の事ですか?私はマリアさんがハヤテを手厚く看病してる姿しか見えませんでしたが」

「そ、そうですか」

「ひと段落ついたのなら、一緒に休憩しませんか?」


今起きたばかりでは?というツッコミもこのお姫様には野暮というものです。


「ええ、ではおやつにしちゃいましょうか。お紅茶を淹れますね」

「お願いしますわ。…良かったですわね、間に合って」

「?」

「いえ、こっちのお話ですわ」


やっぱり見られていたようです。私も疲れが溜まっていたのか、なんであんな事をしようとしたのか…。
でも、アリスさんにとってのパパとママである二人を守れて良かったのは確かですが、なぜ私に「ですわね」と言ってきたのか、この時は分かりませんでした。


◆5日後◆


いよいよハヤテ君復活の日です。3日目くらいで体調は戻っていましたが、仕事は一切させずに、アリスさんと一緒に2日ほどぐーたら休んでもらいました。そんな事言ったらアリスさんに怒られますかね?


「おはようございます、ハヤテ君」

「おはようございます、マリアさん!」


起きてキッチンに向かうとヒナギクさんのドリンク作りに精を出している彼の姿が。朝のいつもの風景も復活です。


「マリアさん、ほんっと〜〜にご迷惑おかけしました!」

「いいえ、お身体の方は大丈夫ですか?」

「ハイ!治った後に二日もアーたんとダラダラさせて貰いましたので、身体も心も休養十分です」

「それは良かったですね」


挨拶からの流れで会話を続けていると、ヒナギクさんもやってきます。


「おはようございまーす、マリアさん」

「おはようございます、ヒナギクさん」

「おはよう、ハヤテ」

「おはようございます、ヒナ」


ハヤテ君の様子を見て安心したのか、ふうと一息つくヒナギクさん。昨日までで元気になっていたのは知っていても、やっぱり不安なものですよね。


「マリアさん。ハヤテの事、本当にありがとうございました!」

「僕からも、本当にありがとうございました」

「…あっ」


今になってようやく分かりました。あの時のアリスさんの「良かった」の意味が。きっとあのままハヤテ君にキスをしていたら、私は物凄く後悔していたのだと思います。ハヤテ君もヒナギクさんも、私の事を完全に信頼してくれています。私がしようとしていたのは、その信頼を裏切る行為。何も疑う事無く私に感謝を告げる二人の姿に、罪悪感で押し潰されそうになっていたに違いありません。だから私にとっても、アリスさんが止めてくれたのは良かったという事なのです。


「どうかしましたか?」

「い、いえ。困ったときはお互い様ですよ。とにかく、ハヤテ君もこれからはもう少しご自愛くださいね?貴方一人の身体じゃないんですから」

「は、ハイ。気をつけます…」


お説教もそうそうに、ランニングに行くヒナギクさんをお見送りしてハヤテ君と朝食の準備に。いつも通りの朝がやっと帰って来ました。


◆また数日後◆


「アリスさん、お茶を淹れたんですが飲みませんか?」

「ありがとう、いただきますわ」


先日のお礼をしたく、昼食を終えて縁側でボーッとするアリスさんに声をかけます。渋いお茶も好きなお姫様と緑茶でアフタヌーンティーとしゃれこもうと思います。


「この間はありがとうございました」

「ん?なんの話でしょうか?お礼を言うなら、パパを看病して頂いた私の方ですわよ。ありがとうございました」

「そうですか…どういたしまして」


あくまで無かった事にしてくれるようなので、その厚意に甘えさせてもらいます。
私の淹れた緑茶を美味しそうにすするアリスさんは自分から話を進めようとはしません。私のペースで…という事なんでしょうね。


「私、自分の恋を探してみようと思います」

「そうですか、それは素敵なことですわね。私も応援してますわ」


いつまでも終わった恋に未練を持っていてはメイドは務まりません。恋に仕事に精一杯生きようと改めて誓いました。


「マリア」

「ん、どうしました?」


キッチンの方からやってきたのは私のご主人様。珍しくというか、モジモジとしおらしい感じで話し始めます。


「あの、な。これから一樹が来るから…髪をとかしてくれ」

「……」


この子も、新しい恋を見つけて前を見て進んでいる。
このアパートの中では一番のお姉さんのつもりでしたが、実は私が一番お子様なのかもしれませんね。


「ん?どうかしたのか?」

「い、いえ。ブラシ持って行くので部屋で待っててください」

「終わったらお茶の準備も頼むぞ」

「はいはい、メイドさんにお任せですわ!」


お茶の時間も早々に、急に忙しくなった休日の昼下がり。お客様とご主人様のためにメイドは頑張ります。


「メイドさんは忙しいですわね」

「ふふっ、今はご主人様が恋人みたいなものですから」

「そう遠くない未来、きっと運命の出会いがありますわよ」

「??」

「お姫様のたわ言ですわ」

「そうですか、たわ言ですか。では、私は失礼しますね」


たわ言とはいえ、アリスさんの言葉に心が躍ってしまいました。運命なんて言葉はそんなに信じていませんが、楽しい事ならアリかもしれませんね。
ご主人様の待つ部屋の扉を開ける腕も軽やかになってしまうメイドさんなのでした。


【つづく】


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【あとがき】

1年ぶりの投稿でハヤヒナの出番がほとんど無いお話でした。
ネタ出しの段階で止まっている話がこの他にもかなりありまして…いつ投稿できるのやら。期待せずお待ち頂ければ幸いです。

さて内容について。
前スレでチョロっと出したマリアさんハヤテが好きだった説を完結させました。ハヤテの体調不良は、ただ物凄く疲れていただけです。今後これが原因で大きな病気とか、そーいった展開はこの話にはありません。いちおう。
見直してみると、ヒナギク視点で学校に行くけどソワソワして全然集中できない…みたいな話も作れそうですね。

裏設定といいますか、アリスちゃんの「良かったですわね」には「姉弟でチューという展開にならなくて良かったですわね」という意味も含まれてたりします。今後この話では特に姉弟だったネタを扱うつもりは毛頭ありませんが…。お姫様はなんでも知ってますね。

さて、久しぶりのお話でした。次回もいつになるか分かりませんがお付き合い頂けると幸いです。
ありがとうございました。