Re: しあわせの花(ハヤヒナ)【第2話更新】 ( No.10 )
日時: 2011/10/20 22:34
名前: ロッキー・ラックーン
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7738

こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
めちゃくちゃ時間かかりましたが、ようやく第3話です。
今回でだいぶハヤテの心情は変わっていきます。
それではどーぞ!


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     第3話【家に帰って片付けが全部済むまで遠足は終わらないと思う】


おはようございます、綾崎ハヤテです。
学校は休み、お嬢様は千桜さんと同人イベントへ…という訳で、お暇を頂いている今日この頃です。

ズズズズ…
縁側ですするお茶がウマいなぁ…
天気も良いし、風は心地良いし、花壇の花は綺麗だし、平和ってイイですね。
さて今日は本当にする事が無いし、人生初の昼寝というものでも バターン


「ハヤテ、さっさと支度なさい!!」

「…え?」


かくかくしかじかとアーたんから事情を説明してもらう


「…なるほど、ほんにゃら公園ですか」

「そうよ、私はあそこに行くためにこの姿になったと言っても過言では無いのよ」


要約すると、テレビで隣県にある自然公園のローラー式すべり台(滑る部分がクルクル回るアレです)のCMを見たらしく、その時アーたんに電流が走ったそうだ。
容姿相応の好奇心がとても可愛らしい。(…と言っても元のアーたんでもすべり台に衝撃を受けそうだが)

絶好の行楽日和の今日、ヒマを持て余している僕に断る理由も無い。


「分かった、行こう!じゃあ、僕はお弁当でも作って…」

「その必要は無くってよ!…ヒナ!!」

「はいは〜い。お弁当に飲み物にビニールシートにタオル…準備は完璧よ!」


ホいつの間に!?(←ネタ分かる人がいてくれるだろうか?)
なるほど、同室にはヒナギクさんがいるからあのアーたんがアクティブなのか…
しかし生徒会やら部活やらで忙しいヒナギクさんにまで手が回っているとは、さすがというべきか。


「…というコトよ。ハヤテはその窮屈そうな執事服を着替えて来たらどうでしょう?」

「ハイ」


言われるがままに私服に着替え、手早く出かける準備を済ませて来る。
学校行事以外でのピクニック(サバイバル除く)なんていつぶりだろう…?というか、初めてだ。
自然と胸が高鳴ってくる。


「フンフ〜ン(←鼻歌)お待たせしました!」

「遅くってよ、あまり女の子を待たすものではありませんわ」


おお…いつもヒラヒラフリフリな服のアーたんが非常に動きやすそうな(皆様のご想像にお任せします)格好を…


「ああ…この服?ヒナのお下がりを貰いましたの」

「何故かずーっとお義母さんが取っておいてたのよね。捨てるのも勿体無かったし、サイズの合うものはアリスに着て貰ってるの」

「なるほど」


僕の視線を感じたのか、その新鮮な格好の説明をしてくれる。
いやしかし、そこまですべり台に気合が入っているとは…


「さあ、ハヤテの準備も出来たことですし、出発よ!」

「「オー!」」


なんだかんだで僕もヒナギクさんもノリノリだ。アーたんの掛け声への返事にも気合が入る。


「では…ヒナ!ハヤテ!」


呼びかけと同時にアーたんは僕に左手、ヒナギクさんには右手を差し出す。
即座に僕たちはそれに応え、その小さな小さな手を握る。


「私は一度はぐれたら迷子になる絶対の自信がありますので…二人とも頼みますわよ」

「ハイハイ…では、出発しましょうか」

「そうね」


アパートから駅までの道中、僕たち三人で手を繋いで歩いた。

普段お嬢様の手を取る時も、以前ヒナギクさんと(図らずも)手を繋いだ時もそう。人の温もりは、心まで温かくするものなんだなと思わされる。
だから隣にいるアーたんも、その隣にいるヒナギクさんも、とても素敵な笑顔で…その笑顔は僕の温もりから生まれているのだとしたら、こんなに幸せな事は無い。


「ハヤテ君、幸せそうね…?」

「あ、やっぱりそう見えますか〜?実は僕、こーゆーピクニック的なもの、生まれて初めてなもんで…野宿とかサバイバルとかなら数え切れないんですけど…」


ヒナギクさんの質問への答えも嘘じゃないけど…もっと奥の本心を言うのはちょっと照れくさい。
こういう事をサラッと言えるのがクールな男ってヤツなのだろうか?


「そ、そうなの…じゃあ今日は思いっきり楽しみましょうね!」

「ハイ!」


まあそんな事はどーでもいいや。ヒナギクさんの言う通り、今日は思う存分楽しむぞ〜!

アパートの最寄り駅から公園の駅までは各駅停車で70分ほど。
しかしそこはせっかくのレジャーということで、40分で行ける特急をチョイス。(特急券ひとり500円)
電車の中では、窓の景色にアーたんがハシャぎ、山がちになってきて橋を渡る時にはヒナギクさんが震え上がりと、何かと騒がしいひと時だった。


「いよいよ、着きましたわ!」

「あ゙ぁ〜〜なんで電車があんな高い所を通るのよ…」

「まあまあ…」


ほんにゃら公園駅に到着。
アーたん、駅と隣接する公園の入り口前でなぜか決めポーズ。
ヒナギクさん、何もしてないのに疲労困憊(こんぱい)。その手を取るのが僕。


「さあヒナ、いつまでもしおれてないで早く行きましょう!!」

「わわっ、アリス!?も〜、分かったから!!」


その小さい手で僕から無理矢理ヒナギクさんを引っぺがすアーたん。
ヒナギクさんも口ではああ言うが、顔は緩んでいる。
まるで本当の母と子みたいだと思った。

…となると僕は父親?
そういえばヒナギクさん、小さくなったアーたんと初めて会った時、「子供を産むような行為なんて」とか言ってたけど、ヒナギクさんでもそんな事考えるんだな…
いやいや何を考えてるんだ僕は!
僕はヒナギクさんをそんな目で見た事なんて…でも朝風さんに「ヒナギクさんの体目当て」とか言われた時にハッキリ否定出来なかったし…
いやだから何を考えてるんだ!!
そもそもあのヒナギクさんが僕なんかとそんな…
だからそうじゃなくて!!!


「ハヤテ〜!置いてきますわよ〜!!」

「あれ…わ〜!置いてかないで〜!!」


アーたんの叫び声(叫ばないと聞こえない所まで離されていた)でようやく我に返り、ダッシュで二人を追いかけたのだった。
僕って、ほんとバカ…


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どどーん(ワン○ース的な効果音)

いよいよ着きました、アーたんのお目当てのローラーすべり台です。
さすが、この公園の目玉だけあって大きいですね〜。
小高い丘のスタートから登って、ゴールは遥か向こうに。
…ん、「小高い丘」ですと?
二人の方をおそるおそる向いてみると…

アーたん、目を輝かせ、今にも登って行きたいとウズウズ。
ヒナギクさん、虚ろな目で、今にも逃げ出したいと足がブルブル。


「さ…さぁ!お目当てのものも見れたし、帰りましょ「ヒナ〜?」

「ヒナギクさん、さすがにソレは無理があるかと…」

「ゔ〜」


ヒナギクさんもすべり台を楽しみにしていたのか、とても残念そう。
むむむ…ココは何か力になれないものか…?
と、考えていたら先にアーたんが動き出す。


「ヒナ、行きましょう!」

「えっ!?でも!!」

「怖いなら、私を抱えて滑れば良いですわ。…大丈夫ですから」

「……うん」


アーたんに勇気付けられ、手を引っ張られるヒナギクさん。
ははは…これじゃどっちが母親か分からないや。


「ハヤテ〜!!」

「は…は…ハヤテ君…♪(←精一杯の楽しそうな感じ)」


すべり台の頂上まで登って手を振ってくれる二人に、僕も笑顔で返す。(ヒナギクさん、顔が引きつってます…)
そのまま滑っていくのかと思いきや、やはりヒナギクさんはためらってるようだ。
そんなヒナギクさんにアーたんが一つ耳打ち…
ヒナギクさんの脚の震えが止まり、仲良くスタートに腰を掛け、滑り出していった。

あ、ゴールは何百メートルも向こうだからそっちに行かないと!
急いで三人分の荷物を抱えてゴールまで走った。

ゴール地点では先に二人が到着し、僕が来るのを待っていた。


「お待たせしました。…お目当てのすべり台はどうだった?」

「ハヤテ…私は今、猛烈に感動しています…素晴らしい…」


とても清清しい、何かを達成した時の笑顔のアーたん。
ヒナギクさんは…一応聞いてみよう。


「えーっと…ヒナギクさんはいかがでしたか?」

「こここ…怖かったけど…アリスがいてくれたから…だだ大丈夫…♪(←精一杯の笑顔)」


あちゃ〜、やっぱり怖かったか。
とりあえずは、無事で何より。
それはそうと、滑り出したときの二人のやりとりが気になる…


「そーいえば、滑り出す時にヒナギクさんにアーたんが何か言ってたよね?」

「ええ…勇気が出るおまじないです。もっとも、ヒナだけにとってのかもしれないけど…」

「おまじないかぁ!ちなみにどんな…?」

「それは内緒…本人以外が聞いたら効果が無くなってしまいます」

「ええ〜!?そんなもんなの…?」

「ええ」


そうか、それは残念。
ヒナギクさん、高い所が苦手だから毎回そのおまじないを使えば平気になるんじゃないかな…?


「それよりハヤテ!!」

「は、ハイ!」

「この感動が冷め止まぬ内に…もう一回…もう一回よ!」

「え、でも…」

「私はここで休んでるわ。シートも持って来てるから用意もしておくし…あ、あとマリアさんからデジカメ借りてるから二人で滑ってるトコを撮ってあげるわ!」

「え、あ、じゃあお願いします。って、アーたん引っ張らなくてもちゃんと行くから!」


今度は僕がアーたんに引っ張られる。
数百メートル向こうのスタートまで、この小さなお姫様の歩調は速まりっぱなしだ。


「ホントはね…」

「?」


滑り台までの道のりで急に話し始めるアーたん。
さっきまでの雰囲気とちょっと違い、こちらも聞く態勢を改める。


「ヒナにはあの高さは無理かなと思ったのですが…『私をハヤテだと思って』って言ったら、大丈夫でした。…信頼されているのね」

「え…?」


それってさっきの「おまじない」の話…?
聞き返そうと思ったら、もうスタートに着いてしまった。


「独り言よ…ハヤテ、行きましょう!」

「…うん」


とりあえず細かい事は気にせず、アーたんの後ろを登って頂上に着くと…いや〜いい眺めだ〜!
公園が一望出来る見晴らしで、遥かゴール地点にいるヒナギクさんが手を振っているのも見える。
僕たち二人もブンブンと大きく手を振り返す。


「ではハヤテ…後ろ、お願いね」

「うん」


先程のヒナギクさんと同様に、足を伸ばして座った状態のひざの上にアーたんを乗せる。
こうしてみると、本当にアーたんは小さくなってしまったんだなと改めて思う。
僕が…守ってあげなくちゃ!


「なにしみじみしているの?」

「あ、ゴメン。アーたん、ホントにちっちゃくてカワイイなって…」

「こんな所で、こんな小さな女の子に欲情しているのですか?」

「え゙!?」


なんか、変な方向に話が行ってるような…


「ご主人様もあんなだし、ハヤテは小さい子がご趣味の殿方なのかしら?」

「わわわわわ!!じゃあ行くよ!!」


勢いでごまかしてすべり台スタート。
…おおおお、なかなか爽快なスピード感!
切っていく風も涼しくて気持ちいい。


「ハヤテ!どうかしら〜?」

「最高だよ、アーたん〜!」


自分たちの声を風に置き去りにしながら会話。
それっきりお互い口を開かず、その爽快感に身を委ねる。
何百メートルの距離も、あっという間にゴール。


「いや〜、案外楽しいものだね」

「ハヤテ、感動が少ないんじゃなくって?私はもう感激して言葉も無いというのに…」

「お疲れ様〜」


後からゴール地点にやってきたのはヒナギクさん。
その手にはデジカメが…きっと滑っている僕たちを撮るために場所を変えていたのだろう。


「キレイに撮れたわよ〜!二人とも、本当の親子みたい…」

「どれどれ…おお、よく撮れてますね〜」


見せてもらったディスプレイの中には満面の笑顔の僕とアーたん。
カメラマンの腕が良いのか、ベストショットと言って過言ではない出来だ。
それはそうと、僕たちだけ写真を撮ってもらうのも気が引ける。
次は僕がカメラマンをしなくちゃな…


「じゃあ、次はヒナギクさんの写真を撮りますよ?アーたん、まだ行けるよね?」

「まだもヘチマもありませんわ!何度でも…何度でも行くわよ!!」

「え゙…まさか…?」


会話が終わる前にアーたんがヒナギクさんを連れて行ってしまった。

…お〜、滑ってくる。 パシャリ
ハイ、キレイに撮れました。


「二人ともお疲れ様でした〜」

「ハヤテ、写真はどうでしたか?」

「バッチリだよ、アーたん!!」


僕はいわゆるドヤ顔で自分の撮った写真を見せた。
中々の出来だったし、きっと二人とも感心の声を…


「このヒナ…白目向いてますわよ」

「「え゙!?」」


二人仲良く声を上げる。
改めて見てみると…アチャー、やっちまったな〜。
それにしても、白目向きながらも笑顔っぽい顔を作るヒナギクさんもさすが…


「それじゃあ、撮り直しですね!」

「行きましょう、ヒナ!」

「やっぱりそーゆーオチなのね…」


今度はキレイに撮れました。
引きつってるヒナギクさんの顔も逆に可愛らしく映ってます。…というか、なんだかんだでヒナギクさん3回も滑ってます。


「さて、この感動はまた後で存分に味わうものとして…私、お腹が空きましたわ。ここでお弁当にしましょう。」

「…うん、そうしましょ。(「また後で」って…まだ滑る気なの!?)」

「いやー僕もお腹空きました!ヒナギクさんのお弁当…楽しみです!」

「あんまり期待されても困っちゃうけど…ハイ」


と言いながらヒナギクさんがシートに広げられるは、彩り鮮やかなお弁当。
僕は二人にお茶を行き渡らせる。

…お、やっぱり大好物のハンバーグは欠かしてないな…ヒナギクさん。
うまそ〜!!


「さすがヒナ、美味しそうね。それでは…」

「「「いただきます!!!」」」


三人仲良くご挨拶。
アーたんは何より先にハンバーグを丸ごと頬張る。


「美味しい…ヒナにお願いして良かったわ」

「…ありがと。たくさん食べてね!」

「あら、ハヤテ…こんなに美味しいハンバーグをまだ食べてないのね。ヒナ、自信作なんだし食べさせてあげたら?」

「「えっ!!?」」


チラッ(え?何言ってるの!?アーたんいきなりそれは反則では!!?)
チラッ(そ、そうね…でもこんな小さい子の言う事に付き合えないのも大人げ無いわよね…?)
チラチラッ(では、ヒナギクさん。いいのですか?)
チラッ…チラッ(もう…仕方無くよ!仕方無く!!)

↑一瞬の目配せでの僕たちの心の会話です


「じゃあ…ハヤテ君、あーん…」

「あーん」


ヒナギクさんにハンバーグを口まで運んでもらう。
ハンバーグが口に入りきり、ヒナギクさんがお箸を僕の口から引き戻す。
ただそれだけ、数秒の時間がやたらと長く感じた。

…むむっ!これは!!


「う…うまい!!この肉の粗挽き加減、そして絶妙のコネ具合、そして弁当で冷めているにも関わらず、肉汁をもらさず中に閉じ込めている!!ヒナギクさん、美味しい…美味しいですよ!!」

「そんな、料理まんがみたいな解説をされるとちょっと恥ずかしいわ…」


ジトー(料理まんがみたいな解説が恥ずかしいんじゃなくて、あなたたちの妙なラブラブっぷりが恥ずかしいのではなくて?)
↑手近に皆様の声を代弁する人がいたので、金髪縦ロール幼女(独身・実年齢16歳)にツッコンでもらいました。


「いや〜…ヒナギクさん、なんというか…ごちそうさまでした!」

「そ、そう。美味しかったなら何よりよ…お粗末さまでした!」


アーたんの視線に、僕たち二人の空気も妙なものになる。
しかし、よくヒナギクさんも付き合いとはいえやってくれたな…

そんなこんなで美味しく楽しい昼食も済む。


「「「ごちそうさまでした!!!」」」


ヒナギクさんと僕とでお弁当の片付け。
楽しいお食事のあとのゴミはきちんと分別しましょう。


「スー… スー…」

「あ、アーたん!」


アーたんはというと、ちょっと目を離したスキに眠ってしまったようだ。
無理もない。あれだけハシャいで、食事も済んで、この陽気だ。


「あらあら…じゃあちょっと休憩しましょ」

「ハイ」


シートに直に頭をつけて眠っているアーたんにヒナギクさんが膝まくらをする。
さっき以上に親子みたいだな…


「ヒナギクさん…ホント何から何までありがとうございます。忙しい中での貴重な休みに、怖い思いまでして付き合ってくれて…」

「フフッ、そんな事全然いいのよ。すべり台はちょっと怖かったけど…それ以上に楽しかったし、何より…」

「?」

「この子の事、もっと知りたいし。…天王州さんよね?この子」

「えっ!!?」


なぜそれを!?アーたんは僕以外誰にも言ってないし…
即答で否定できない僕の態度がヒナギクさんの言葉を肯定した結果となる。


「そりゃあ分かるわよ。あれだけ近くで一緒に暮らしてるし、彼女が普通じゃない事を考えたら…ね?」

「…そうですね」

「でもこの子、私の事もハヤテ君の事も覚えてないわよね…何かあったの?」

「いえ、僕も詳しい事は何も…」


僕も、ただ「話を合わせてくれ」としか言われていない。
いったい、なにがどうなってるのやらだ。


「そう…ハヤテ君でも分からないの。でも、こんな小さくなって、記憶も無くしちゃって…何も頼れるものが無いだなんて、そんなの寂しいじゃない?私に出来る事はしてあげないと!って思って…」

「ありがとうございます。…今のアーたんは、迷子になってる普通の女の子です。ホントに非力で…ヒナギクさんが味方になってくれたら、それだけで心強いと思います」


自分だけが背負っていた秘密を共有してもらい、僕も心強い。
事情を知ってくれる味方が一人いるだけで、どれだけ支えられる事か…


「うん、ハヤテ君も頑張らないとね。…好きな人、だもんね?」


ズキン

なんだろう?
急に酷く胸が痛くなって…

ヒナギクさんは変わらない笑顔で話し続けていた。
変わってないはずだったのに、なぜかその笑顔が存在が儚く消えてしまいそうに見えた。
そんな顔を見た瞬間、訳の分からない心境になって…


「そ…そうですね…」


ヒナギクさんの顔が直視できない。
またあの表情が見えてしまうのがイヤだ。
いや、今の自分の訳の分からない顔を見られたくない方が上か…


「ん?どーしたの?」

「あ、いえ、何でも…」


目を逸らして言葉を濁す事しか出来ない。
何なんだ?ホントに何なんだ!?


「あっ…私、余計な事言っちゃった…?ごめんなさい…一番辛いのはハヤテ君なのに…」

「違います!!」


怒鳴るのと同時に、ヒナギクさんから差しのべられた手を乱暴に掃った。

違和感…とでも言えばいいのか?
モヤモヤと黒い膜が胸を覆うような…ダメだ違う、上手く表現出来ない。
忘れたいのに、ヒナギクさんのあの表情が目ん玉にこびり付いて離れない。

脳みそが思考の旅に出てしまいそうだったが、怯えているヒナギクさんの姿が目に入り、我に返った。
違うんだ、こんな事をするつもりなんて…


「す、スミマセン!!こんなつもりは…僕はなんて事を!!」

「…ううん。私こそ無神経だった。ゴメンね…」

「いえいえいえいえ!!ヒナギクさんが悪い事なんてこれっぽっちもありません!!!」


そう、ヒナギクさんは事実を述べ、僕を励まそうとしてくれた。
そんな彼女の行動の何処に否をつけようというのか。
僕はいったい何をしたいんだ?


「ふあ…騒がしいですわね…何をしてるんですか…ふあ〜…」


大きなあくび2回とともにアーたんが目覚めた。


「あらアリス、おはよう。ご気分はいかが?」

「ふあ…寝起きの形としてはイマイチですわね。でもヒナの膝まくらは、えも言えぬ寝心地でしたわね…ありがとう」

「どういたしまして」

「で、どうしてハヤテは土下座なんかしているのかしら?」


やはりアーたんは僕に話題を振ってきた。
そりゃまあ、寝起き一発目に見たのが土下座なら誰だって気になるだろう。
なんて説明したものか。
やっぱ、正直に打ち明けるしか…


「ハヤテ君ったら『僕もアーたんに膝まくらをやらせて下さい!』って、土下座までして頼んでくるのよ〜」


え?ヒナギクさん…それって…


「あら、そうだったの…てっきりヒナに膝まくらしてくれって頼んでると思っていたわ」

「え…?」


アーたんまで何を言って…
またおかしな話に…


「結局のところ、どうなのかしら?ヒナの膝まくらは最高でしたわよ…ハヤテはして欲しくないのかしら?」

「え゙っ!?」


自然とさっきまでアーたんの枕だったヒナギクさんのふとももに目が行ってしまう。
うわ〜、やわらかそうな…ってそうじゃなくて!!
ついさっきまでシリアス気取ってたつもりだったのに、まさか空気読めてないのは僕のほう…?


「膝まくらしてあげたらヒナ?私はこれから一人ですべり台に行ってきますので…」

「あら、一人で?」

「ええ、一人だと二人の時とはまた違った爽快感が絶対に味わえると思いますから…」

「たくましいのね…」

「とりあえず5回滑って来ますので…私が帰ってきたらハヤテは膝まくらの感想を発表なさい」

「へ?もう決定なの!?」

「当たり前じゃないですか…というか、ハヤテだってノリノリではなくて?さっきヒナの脚を見てた時のいやらしい目つきったら「わぁ〜!!ストーップ!!!」


アーたんが言い終わる前に口を押さえたが、それも無意味。
愛想笑いでヒナギクさんの方を向いてみたが、ヒナギクさんは満面の笑顔。逆に怖い…


「というわけで、私は私で楽しんできますので!」


と、キーンのポーズで走り去ってしまった。(きっとまたお嬢様の影響だろう)
そして残された若い男女、目が合う二人…


「…ハハハハハ…」


とりあえずの愛想笑い。
いやまさかアーたんに付き合って膝まくらまではさすがに「…どうぞ?」
ってええええ!?


「いやいやいや、ヒナギクさん!アーたんに付き合ってそんな事までしなくても!!」

「私はハヤテ君さえ良ければ全然構わないわよ?アリスの言う事とかは関係無くて」


…マジで言ってるんですか!?
そんな事言われちゃ僕だってガマンしませんよ…?


「…それじゃあ…お願いします」

「フフッ…甘えんぼさんなのね」


ゆっくり…それはもうゆっくりとヒナギクさんのふとももに頭をのせる。
ああ、やってしまった。やってもらってしまった膝まくら。
髪の毛越しでも分かるヒナギクさんの感触。ここが天国か!?


「でも、ハヤテ君にはいつも助けてもらってるから…たまにはこうやって甘えてくれると、嬉しいな」

「ヒナギクさん…」


僕の頭を優しく撫でてくれる。
恥ずかしくてあまり凝視出来ないけど、本当に優しい笑顔だ。

ああ、小さい子供にとってお母さんってこんな感じなんだ…
ヒナギクさんの子供になる子は、きっと幸せになるだろうな…
僕も、こんな人がお母さんだったら…きっとこんな風に甘えてばかりだっただろうな…

気付いたら、僕の目には涙が溢れていた。


「っ…」

「ど、どーしたの!?何か気分でも悪い?」

「いえ…なんか嬉しくて。『ヒナギクさんがお母さんだったら良かったのに』って…もっと…撫でてもらっていいですか?」

「フフッ…良いわよ。気の済むまで甘えて良いからね」

「ありがとうございます」


優しくて温かくてやわらかくて…こうやって身体を他人に委ねる事なんていつぶりだろう…?
気持ち良くなった僕は、だんだんと意識が遠のいて行くのだった。



「…くん…テ君…ハヤテ君…」

「う…う〜ん…ヒナギクさん?」


優しく頭を揺すられて起こされる。
ああ、僕は膝まくらされて気持ちよくて寝ちゃっていたのか…


「ようやくお目覚めですわね、甘え上手のハヤ坊さん」

「げ…アーたん…」

「ヒナの膝まくらはいかがでしたか…って、存分に満喫してたようですけど」

「ハハハ…」


愛想笑いでなんとか誤魔化す。
ふと時計を見てみると3時半。昼食を食べ終わったのが1時ごろだったから、だいぶ寝ていたようだ。


「なんかすいません、気付いたら寝ちゃってて…」

「良いのよ、ハヤテ君の寝顔も見れたし」

「ゔっ…これはお恥ずかしい…」

「え〜、そんな事無いわよ〜。とっても可愛かったから〜」

「それはそうと、ハヤテも起きて、私も存分に満喫出来ましたし、そろそろ帰りましょうか?」

「「賛成〜」」


というわけで、帰り支度を始める。
ところで、アーたんは僕の寝てる間に15回ほど余計に滑っていたようだ。
さて、支度も整ってさあ帰ろうと思ったときに…


「あ、二人ともちょっと待って!」


急に呼び止めるヒナギクさん。
何だろう?忘れ物かな?


「せっかくだし、3人で写真撮っていきましょう!私、向こうの人にシャッターお願いしてくるわ。」


と、素早い動きで頼みに行った。
その姿をアーたんと二人で見守る。


「幸せですわ…」

「ん?」

「あなたがいて、ヒナがいて、こうやって楽しい時間を過ごせて…私は幸せ者ですわね」

「僕も同じ事を思ってた。きっとヒナギクさんも同じだよ」

「そうね…」

「お待たせ〜!じゃあ、すみません。お願いします!」


と、しんみりムードの中ヒナギクさんがカメラマンとなってくれる女性を連れてきた。
アーたんをヒナギクさんとふたりで挟んで並び、シャッターを待つ。


「撮りますよ〜。はい、チーズ!!」

「ありがとうございます〜!」


なんかお嬢様に似た声の人だな…
などと思いながら、カメラを受け取りに行ったヒナギクさんが女性と話しているのを見てボーっとしていた。
ヒナギクさんが女性に何か言われ、ちょっと照れているようだ。その後挨拶を終え、戻ってきた。


「お待たせ〜!」

「いえいえ。…何かお話でもされたのですか?」

「うん。ちょっとね」

「ヒナ、撮った写真を見せてくださる?」

「ハイハイ、これよ」


アーたんと一緒にデジカメのディスプレイを見せてもらう。
お〜、良く撮れてる。来て良かったな。


「では、そろそろ帰りましょう!ヒナ、ハヤテ、帰るまでが遠足よ!!」

「「ハーイ」」


帰り道も元気良くハシャぐアーたんを僕たち二人で見守る。
特急に乗り込み、席に座るとアーたんはすぐさま眠りに落ちるのだった。
眠るアーたんに、今度は僕が膝まくらしてあげる。
うわ〜、小さい子ってこんなに軽いんだな…
と思っていたら、向かいのヒナギクさんと目が合う。(←ボックス席に座っています)


「今日は楽しかったですね」

「そうね、来て良かったわ…」


さすがのヒナギクさんも元気いっぱいのアーたんに振り回されて、少し疲れているようだ。
ともあれ、アーたんが眠ってるスキに昼間の事を謝っておきたい!


「ヒナギクさん」

「うん?」

「昼間の事なんですが…ホントにスミマセンでした」

「昼間?…ああ、あの事?全然気にしてない…というか忘れてたくらいだし。それより私も協力するから頑張ろうね!」


ドキン

笑顔で返してくれたヒナギクさんの言葉に、胸が熱く…それはもう熱くなった。
その熱さが顔からつま先にかけてまで広がる。
あれ?僕はいったいどうしちゃったんだろう?


「…返事は〜?」

「!!」


うつむいて自分の世界に入っていた僕の顔を、ヒナギクさんが覗き込む。
ヤバイ!なんか知らないけど恥ずかしい…


「はははハイ、頑張りましゅ!!」

「プッ…どうしたの、いきなり?」


盛大に噛んでしまった。その恥ずかしさで余計に顔が熱くなる。


「い、いえいえいえいえ!何でも無いです!!」

「そう?じゃあそーゆー事にしといてあげる。」


それからというものの、無言の二人の時間が続いた。
といっても気まずいとか会話が見つからないとかいうものではなく、ごくごく自然な流れだ。
たまにヒナギクさんと目が合うと、そのつど彼女は笑顔を返してくれた。
その笑顔を見るたびに胸が熱くなって締め付けられそうになるのを感じた。


「ふあ…また寝てしまいましたのね…」

「おはよう、アーたん」


アパートの駅に着く5分前。タイミングばっちりだ。


「あら…今度はハヤテが膝まくらしてくれてたの?」

「うん」

「ちょっと硬かったけど…ありがとう」

「どういたしまして」


そりゃあヒナギクさんと膝まくらで比べられてもといった感じだ。
駅に着き、そこからは行きと同様に三人で手を繋いで帰った。


「着きましたわね…ヒナ、ハヤテ、今日はありがとう!」

「「どういたしまして」」


アパートに到着するやいなや、アーたんはマリアさんに自慢しに行くとヒナギクさんからカメラを借りてダッシュして行った。
残された僕たち二人は荷物の片付けだ。


「ハヤテ君、今日はありがとう」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

「またこんな風に何処か行けると良いわね」

「ええ、行けますよ…行きましょう!」

「フフフッ…ヨロシクね」


家に帰るまでではなく、帰って片付けを済ますまでが遠足なのだとドキドキしながら感じる僕だった。


つづく


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【あとがき(30巻感想も…)】

よーやくハヤテがヒナに恋心を抱き始めました。
といっても、ハヤテはまだ胸の熱さをただの「違和感」としか感じていません。
「自分の好きな人はアテネだ」という、ある意味刷り込み的なものが頭の中にあるからです。
だから、心ではヒナに惚れてしまってるけど、頭ではそれを理解できていないといった感じで読んでいただけると良いかと…。
アリス関連で二人を近づけさせるのはやりたかった事なのですが、なかなかネタが出てこなくて時間がかかってしまいました。

あと、ハヤテは母性に飢えてる…というか分からないのだと勝手に考えています。
膝まくらイベントではそういった母性に甘えたい心8割・スケベ心2割なハヤテを出したつもりです。
ハヤテも一応16歳の男の子なので、人並みくらいのスケベ心を持っているという設定で物語を作ってます。
それにしても羨ましい野郎です。


ところでローラーすべり台って、皆さんご存知ですかね?
自分は結構好きだった記憶と、初めて見たときはすごく新鮮だったので、アリスを動かすネタにしてみました。


あと、色々と解説を…

・ヒナの「ハヤテ君、幸せそうね…?」というセリフは「大好きなアーたんと手を繋げて幸せそうね?」という皮肉が込められてます。
しかしハヤテの心としてはだいぶヒナに傾いている段階なので、「アーたんと手を繋げて」という意識にすら至っていません。

・「ヒナの体が目当てだ」に対して…
13巻での理沙とのやりとりでハヤテは吹き出しのセリフで否定してないんですよね。
アレにとてもイライラした記憶があったので使ってみました。

・ハンバーグあーんイベントのアリスのツッコミは8巻のハヤヒナのパロです。
改めて8巻を読んでみると…今のハヤヒナっていったい…orz
それにしても先日30巻が出たのを考えると、時が流れてしまったと感じますね。

・「なんかお嬢様に似た声の人だな…」
適当に釘宮キャラをイメージして頂ければと…深い意味はゼロです。

・その女性とヒナの会話ですが…
「可愛い旦那さんと娘さんが一緒で羨ましいですね」みたいな事を言われて戻ってきました。
さすがに恥ずかしくてそんな事を言われたとヒナは言えませんでした。

・あとマリアさんもこの日はお休みでしたが、アーたんのお誘いには「家でゆっくりしたい」ということで今回は来てませんでした。
決して誘われなかったとかそういうのではありません!


ここから30巻感想です。(ちょっとネタバレです)
30巻はようやくヒナに出番が回ってきましたね。
マンガの面白さの研究をしてましたが、あのヒナのセリフは自虐ネタにしか見えなかったのは私だけではないはず…

「現状の正確な把握と、情報の収集・選別」
→ヒナが未だに2位に倍近くの差で人気投票で勝てている現状がある

「客観的な立場からの分析・研究」
→読者目線で明らかにヒナ関連のハヤテの言動が10巻くらいまでと現在では異なっている

「そこからより精度の高い理論の構築…描くのは私じゃない。だから伸ばす方向さえ見誤らなければ」
→アテネ以降未だに新キャラ、その伏線ばかり伸ばして、ヒナの恋や伏線回収を進めていない今の「ハヤごと!」の現状への苦言

に見えてならないのです。
さらに言ってしまえば、そういうヒナの考える理屈とかは抜きで好きなのが桂ヒナギクというキャラなのですが…笑

あといよいよヒナの制服を着やがりました、ハヤテ…許せん!



非常に取り留めの無い文章になってしまいましたが、以上です。
ご感想・ご質問などお待ちしております。

ありがとうございました。