Re: しあわせの花 ( No.1 )
日時: 2011/09/22 23:02
名前: ロッキー・ラックーン

「幸福」
そんな花言葉を持った花があります。

その花にかかれば、きっとこの僕にも…





     第1話【傘ひとつ 人ふたり】



その日の空は、僕の主の様に気まぐれだった。


…と、カッコつけてみたものの、雨水の滴る借金1億5千万円の執事がノート片手に呆けているという事実は変わらない。

こんにちは、綾崎ハヤテです。
カンのいい読者様ならもうお分かりでしょうが、今のこの状況を説明させて頂くと…


下校・帰宅

お嬢様が忘れ物(マンガ練習ノート)に気付く

学校に取りに行く(一人手ぶらで)

帰り道、突然の雨

学院敷地内の東屋(あずまや:屋外にある屋根付きの簡単な建物です。公園とかによくあるアレ。)に避難←今ココ


といった具合で非常に困っている所です。
お嬢様のノートも濡れてしまってフニャフニャ。これは覚悟して帰らないとな…

しかし帰るにしても、もう少し雨足が弱まらないとちょっとキツい。
男独りでただ雨宿りしているだけでは退屈させてしまいましょう。
ここで一つ、雨の日の思い出話でも。

それは僕が小学1年生のとき…「ハヤテ君?」

「うひっ!!?」


思い出に浸っていた所に急な一声。
自分の世界から引き戻された僕は驚いて、奇声と共に跳びあがった。


「な、何よ変な声出して…」

「あ、ヒナギクさんでしたか…。スミマセン、急に声をかけられて驚いたもので」


声の主は、才色兼備で文武両道の完璧超人・白皇学院生徒会長・剣道部部長…
と、特長や肩書きを出したら枚挙にいとまが無いアパートの隣人。皆様ご存知、桂ヒナギクさん。
もう部活をしてる生徒も大半が帰ってしまった時間帯に一人。恐らく、生徒会の居残り業務だったのだろう。


「あ…ビックリさせてゴメンね。そんな事より、その格好…」

「いや〜、お嬢様の忘れ物を取りに来たら、降られちゃって…」


流石というべきか、今朝は雲ひとつ無い青空だったにも関わらず、ヒナギクさんは大きめの傘を差している。
びしょ濡れボディを指差され、いささか恥ずかしい。


「風邪引いたら大変ね。ちょっと待ってて…ハイ、これで頭拭いて」


と、東屋に入ってきて差し出してくれたのは薄いピンクのスポーツタオル。


「えええ!?いいですよ、申し訳ない…」

「何言ってるの!ハヤテ君が風邪引いたら、一緒に住んでる私たちにまで伝染っちゃうじゃない。
それに…洗ってあるやつだから、大丈夫よ…?」

「あわわわ…そんなつもりは全然!!」


一度断ってしまった事で、要らんことにまで気遣わせてしまった。
人の厚意は素直に受け取らないといけないな…


「…では、スミマセン。お借りします」

「うん」


一通り身体を拭き終えたら、タオルは絞れるほどに水分を含んでいた。


「スミマセン、せっかくのタオルが…」

「こーゆー時のために使うものでしょ?さ、身体冷やしちゃう前に早く帰って温まりましょう。」

「えっ…?」


と、彼女はごくごく自然に僕を傘に入れて歩き出す。
いわゆるひとつの「あいあい傘」の状態だ。
これはいけない…


「そ、そんな!悪いですよ…」

「じゃあ何?私に同じアパートの住人をずぶ濡れのままほったらかして帰れって言うの?それは無理な申し出ね」

「う"っ…」


笑顔で言い放つヒナギクさんに、何も言い返せない。
というか、逆の立場になってみれば確かにこの状態で帰るのは気が引ける。


「ってワケで、しばらく私と『あいあい傘』だけど、ゴメンね…」

「いえいえいえいえ、ヒナギクさんが謝る必要なんてひとっっっつも無いですよ!!
ていうかヒナギクさんとなら誰だって嬉しいですし…ていうか謝るのは僕の方ですし…」

「クスッ…冗談よ。じゃあ帰りましょう?」


明らかにテンパっている僕に笑うヒナギクさん。
これじゃいけないと思って、一呼吸つく。
少し冷静になって彼女を見てみると、これまた自分の情けなさに気付く。
でも、これは自分の一声で変えられる…


「では、ヒナギクさん」

「ん?」


声をかけると同時に、彼女の右手からは傘を、左手からは鞄を丁寧に取る。
そう、僕は手ぶら(一応ノートは持ってるが)でヒナギクさんの傘に入れてもらっていたのだ。
コレは情けない…


「コレくらいはさせて下さい」

「…ありがと」


彼女も僕の男心を察してくれたのか、何も言い返さずにお礼の言葉ひとつ。
というか、お礼の言葉すら要らないのに…

それからの帰り道は、とても楽しかった。
会話の内容がどうだったとかいう訳ではなく、普段は取ることの出来ない近い距離だとか、僕の何気ない話に対しての仕草だとか、僕だけに発せられている美声だとか、改めて非現実的なまでに美しいと思う顔の造形だとか…ヒナギクさんとの時間・空間が楽しかったのだ。
そんな楽しい時間は矢のように過ぎていき…


「さ、着いたわね。寒くない?」

「はい。ホント、何から何までスミマぷっ…」


急に口を指で押さえられる。


「ハヤテ君、今日は『スミマセン』しか言ってない…困った時はお互い様よ。だから私にはその言葉は要らない。…助けてもらったら『ありがとう』でいいじゃない?私たち…………友達でしょ?」


確かに!!!ここまで読み返してみたら、僕はヒナギクさんに謝ってばかりじゃないか…
彼女の数々の行為に対してふさわしい言葉を僕はまだ言っていなかった。


「そうですね、スミマ…おっと。ありがとうございます、ヒナギクさん」

「うん、どういたしまして!!」


その言葉と笑顔に、思わず胸が温かくなった。
また一つ、この人から学ばせてもらった。


「ところで…」

「?」

「さっき『誰だって嬉しい』って言ってたけど、ハヤテ君は私と『あいあい傘』して、嬉しかったかしら?」

「え"っ…?」


急な質問に、頭が真っ白になる。
先程自分が言った言葉と、質問の意味を理解して、今度は顔が真っ赤になる。


「そそそ、そんな!えーーと…ハイ、嬉しかったです!!」


なんともバカみたいな返答。
「穴があったら入りたい」とは、この事だ。
しかし、きっとこれに対してヒナギクさんは大人びた笑顔で流してくれるだろうと思っていたら…


「天王州さんとするよりも?」

「えっ…?」


先程以上に予想外の質問に、面食らってしまう。


「クスッ、冗談よ。じゃあ、お風呂の用意するから待っててね」

「ヒナ…」


名前を言い終わる前に去ってしまった。
というか、ホントに何から何までお世話になりっぱなしだ。


「お待たせ!お風呂、マリアさんが用意してくれてて、もう入れるって。ハヤテ君が雨の中手ぶらだったのを知ってたみたい。流石ね…」

「そうですか、ありがたい限りです」

「じゃあ、風邪引かないように気をつけてね。鞄持ってくれてありがとう」

「いえいえそんな!こちらこそ何から何までありがとうございました!!」


先程までとは少し距離の離れたその笑顔が印象的だった。






カポーン
とても心地の良い湯船の中。雨で冷えた身体が芯から温まる。


(「天王州さんとするよりも?」)


ヒナギクさんは冗談と言っていたが、僕にとってはあまりに強烈なインパクトの質問だった。
何度も何度もあの声が脳内再生される。


「アーたんよりも…かぁ」


アーたんと『あいあい傘』をする場面を想像…
しようとしたら、先程まで自分のすぐ左隣にあった温もりの記憶がそれを遮った。
僕は気にする事も無く、その温かな記憶に身を委ねて目を瞑った。

今日は良い日だったな〜
と、眠る前までずっと今日の記憶が頭で何度も再生されたのだった。



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ちなみに…



「お嬢様、申し訳ありません!!ノートなのですが…」

「あぁ、大丈夫だ。アレには私の黒歴史の遺産が詰まっていたから、どう処理しようか考えていたのだが…びしょ濡れにしてくれたから迷う手間が省けたというモンだ!」


お仕事に関しては、お咎めナシでした。
と言っても、結果オーライですが…


「それよりハヤテ!私の出番はココだけなのか!?」

「え"…そ、そーみたいですね」

「ぐぬぬ…そんなにヒナギクがいいのか!?胸の大きさなら私と似たようなものじゃないか!!」

「お、お嬢様!!それ以上の発言は命の危険が…あ、皆様お読み頂きありがとうございました!」

「コラ、ハヤテ〜!!あ、みんな次回は『メインヒロイン』の私の大活躍に期待してるといいぞ!!」


次回第2話【みんなもマスター!ナギナギ体操(第2)】(ウソ)


つづく


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いつぞやにあいあい傘モノの一話完結を書きましたが、そのハヤテバージョンといった形です。
まだ彼の中での「好きな人」の対象はアーたんです。
ここからどんどんヒナに刺激して貰おうと思ってます。


ヒナの「友達でしょ?」の前の間はたーっぷりと取って読んで頂けると幸いです。


冒頭のハヤテの小1の時の話は、伏線にしようか迷ってる段階です。
つまりはテキトーです。


ナギナギ体操は、アニメ1期での遊園地(ナギナギランド)でのネタです。
アニメ1期ももう4年も前の話なんですね。時の流れは恐ろしい・・・


お読み頂きありがとうございました。
それではまた。