Re: 第二話『邂逅イヴニング』 ( No.3 )
日時: 2012/10/21 23:40
名前: 迅風

更新初の日……私は二話目を更新する次第。

越後谷……お主も悪よのう。特に言った意味はないです、言ってみたかったシリーズなだけです、ええ。

さて第二話目ですが――少しだけ原作と違いますね、ええ。

そして覚えている人に至っては、私のリメイク前とも全然違くね? な話です。

兎にも角にも第二話目。

閲読宜しくお願いします、ぺこりーっ。


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 第二話『邂逅イヴニング』



        1



 自殺なんて良くない。生きてこそ人生は勝利と言えるのではないか。

 そんな風に考えていた時期が彼にもあった。

 明確に言えば、ちょうど二五分前にはそんな事を胸に抱き生きていた。のにも関わらず彼の心はへし折れて風に吹かれれば折れた先がどこかへ飛んでいきそうな気持である。

 しかし悲しい哉。

 少年のそんな想いを蹂躙する様に惨劇は起こった。

 少年の体中に激しい倦怠感と疲労感が募りに募る次第である。何かこう先程まで遠い過去を追想して生きる決意に身を滾らせていた記憶があった……様な気がする。

 さて、彼こと綾崎ハヤテがそんな心境に至る理由は単純だ。

 蹂躙よろしく――自転車に轢かれたからに他ならない。

 逃走の最中に脇道を潜り抜ける様に走っていた結果であろう、突然飛び出してきた彼が悪いと言えば罷り通るが実に悲しい話だが飛び出してきた綾崎は物見事に自転車の車輪に蹂躙ならぬ蹂輪されたと言える話。

 何かこう生きる決意とやらが何処かへ事故死した気分にもなるものだ。

 自分の背中についた明確な痕跡の跡が生々しく物語る現実。

(へへへ……。自転車に轢き殺されてエンディングかぁ……)

 げふっという虚しい呻き声を上げながら菩薩の様に澄み切った――いい得て変えれば死んだ魚の目なのだが、綾崎は何となしに(ああ、でもこんなゴミを轢いた事で殺人罪とかを受けたら相手が可愛そうだなー……)とどこまでも自らを卑下する次第。

 そんな綾崎の頭上では実に綺麗な音色の声が聞こえた。

「あの……」実に心配の色を込めて「だ……大丈夫、ですか……?」

「大丈夫ですよ、ここに他に人いませんから〜……」

 貴方が轢いたのはゴミ屑ですから〜、という死んだ魚の目をしながら呟く少年の姿に茶色の髪をした女性はなお、心配そうに「本当に大丈夫ですか!?」と問いかける。

 その声に、ああ、何て優しい人なんだろうと感動を覚える。

(ゴミに気を掛けてくれるなんて優しい清掃員さんだなぁ〜……)

 本当に大丈夫か甚だ不安でならない。

 完全に自分をゴミと揶揄する状態の綾崎は心身中々に衰退している様子で、

(あ。でも良く考えるとゴミってリサイクルできるし、その点リサイクルも出来ない僕ってゴミ以下じゃないか……。ゴミの下、新器物『はやて』の誕生だね……)

 と虚しい構想を得ている始末。

 だけれど相手の人柄故か。散り様悲しく終わりを迎えようと考える綾崎の心を引き戻す分の魅力を彼女は備えていたと言えよう。

「貴方、本当に大丈夫ですか……?」

 と言う声と共に軽く背中に触れる温かい手の感触。

 本当に優しい人だな……と感動を覚えつつ、そして久々に暖かな優しさに触れて、これ以上心配かけるのも気が引けて。綾崎は胴体を起こしながら「あ、はい。大丈夫――」と言い掛けた所で声が雲に隠れる様に途絶える。

「あの……。お医者様、呼びましょうか?」

 自分を心配そうに見守る女性の声に綾崎の思考が軽くショートする様に停止する。

 自分へ投げかけてくれる声も耳に中々入らない。何だろうか、目の前のこの光景は。相手は気付いていないのだろう――だが、綾崎としてみれば眼前の光景はあまりにも景色に似合う様な暖かくて美しい光景だった。

 雪降る夜にコートとマフラーを着る茶髪の女性。

 その見目麗しさに綾崎の心臓がどきっと脈打つかの様であった。

 人生で見た女性の中でも限りなく上位に食い込む様な美しい女性。年頃の彼の前には目に毒あるいは目の保養とでも言える程に綺麗な女性がいた。心まで綺麗な人は外見まで綺麗とか反則ですよと言いたくなる。

 しかし……どこか懐かしい気持ちが湧くのは果たして何故なのだろうか?

 そんな疑問を提示する綾崎の思考は少しずつ落ち着きを取戻し。クリアになる世界から受信する音声にはっと気づく。

「あの……体は?」

 と言う自分を案じてくれる声に感動を覚えながら綾崎はすくっとまるで何事もなかったかの様に直立すると、

「はい、大丈夫ですよ、ははっ♪ 体がどうかしましたか?」

 浮かれた。

「…………」私この子轢きましたよね確か……と思いながら「えっと……」と言葉を濁す。

 そんな気配に気づく事も無く、年上と思しき美人女性を前に年頃の少年は浮かれた様子で「御心配なく。頑丈なだけが取り柄ですから、自分」ときりっと格好つける若い少年。

 そして顎に手を添えながら若干赤らんだ顔で天へ問いかけた。

(……ふぅ)と内心一拍置き(驚いたよ……パトラッシュ……。世の中にはこんな綺麗な人がいるものなんですよ……。ダルビッ○ュもびっくりなレベルの美人さんだ……)と浮かれた気配の少年を案じる様に後方では「あの〜? もしもし〜〜?」と問いかける声。

「えっと……」綾崎の様子を先程と別の意味で心配そうに見守りながら「本当に大丈夫……ですよね?」と問えば。

「へっ?! はい、もちろん!! 頭のゆるゆる以外は問題なしですよ!!」

「はぁ……?」

 女性は得心行かぬ様子であったが外観上の問題と言うものは見当たらなかった様子で、やがて落ち着いた様子でそっと言葉を発した。

「その……ご無事でしたら、少しお尋ねしたい事があるのですが……」

 よろしいですか? の声に綾崎の返答は決まっている。

「そりゃここまで優しくされたなら何でも答えますよ、どぞっ!! ささっ、どうぞお姫様っ!!」

「何でそんなに下手に出てるんです!?」と、とにかくですね、と呟いて「この辺りでその……金髪ツインテールのちっちゃい、可愛い女の子御見かけしたりしていませんか?」

「金髪……ツインテール……ですか?」

「一三歳になる子なんですが……」

 一三歳。金髪。ツインテール。ちっこい。

 それだけ条件が絞られれば該当者は物凄く絞られるだろう。となれば記憶に合致する様な少女がいるかどうか。そこまで考えて、記憶を思い起こして綾崎は結論を下した。

「ゴミ屑ですいません」

 土下座するしかないじゃないか、と。

「何で下手から更に土下座を!?」

 女性の驚きの声を耳にしながらも綾崎にはこうする他に無かった。なんて使えないんだ僕はというネガティブな感情が彼女の役にすら立てない借金野郎の自分をどこまでも痛めつけている様だった。ドリアンで。

「あ、あの……。お見かけしていないのでしたら、それはそれで構わないと言うか何と言いますか、ですね……!!」

「価値無くてすいません、役立たなくてすいません……!!」

「土下座から雪の中に頭を埋める程ですか!? 本当にそこまで心痛めなくても構わないんですよ!?」

「じゃあ年齢的に心配な誘拐とかは今すぐにないですか……?」

「…………。……いえ、凄くありますけど……」

「死んできます」

「ですからそんなに落ち込まなくて構いませんからね!? これだけ親身に対応してくださっただけで私はとてもありがたいと思ってますから!!」

「どこまで……どこまで人を泣かせたら気が済むんですか……!!」

「男泣き!?」

 その後、しばしぽろぽろと涙を流す綾崎を女性は優しく宥めて数分。落ち着いた様子の綾崎はやがて、捜している少女に関して幾つかの疑問を呈した。

「あの、そもそも……何でクリスマスの夜に一人で出歩いていたりするんですか? もしかして親に借金一億五千万を押し付けられてヤクザに臓器を狙われていたりとかですか?」

「いえ、そういう奇特な理由ではないんですが……」あはは、と苦笑しながら「実はすぐそこの迎賓館でのパーティーに出席していたんですが……」

 あの子ったら、と呟いて。

 何でもその子曰く『こんな煙草臭いところ、これ以上いられるか!!』と叫んで飛び出していってしまったとの事。彼女曰く、カードも携帯も持たずに飛び出したらしい。

 だが着眼点は別にある。

 迎賓館でパーティー。一般家庭では中々出来る事ではなく、むしろお金持ちの領域だ。ふと見てみれば彼女の自転車――唯のママチャリではない。世界で最も高級と呼ばれるセ○ーヌ製の一品ではないか。

 先程、誘拐の可能性高いと言っていた言葉からも、お金持ちなのだと予測付く。

 そしてこの女性はこれだけ親身になって一人で捜索しているのならば――血縁者なのかと考えもしたが、捜している子とは髪の色とか差があり過ぎる気がして。

「あの……その子は貴女の妹さんか何かですか?」

「妹? ……いいえ、違いますよ。家族ではありません」と告げた後に軽く空を仰ぎ見る様にして何処か過去を慈しむ様な表情で「……でもまぁ、家族の様なものですかね? 手のかかる子で……本当にいつも、心配させられます」

 言葉ではどこか厳しい。

 しかし、彼女の表情から察するにそれをどこか微笑ましく思っており、本当に親身に感じている間柄なのだろうと予測もついた。

「それに、まぁ。そこが可愛いところでもありますしね♪」

「そうなんですか……」

 そっかー。と少し寂しげな気持ちでそう内心に呟く。

(その子にはこんな綺麗で優しい人が……心配してくれる人がいるんだな……)

 自分にはあんな酷い親しかいやしないのに。

 その子の事がとても羨ましく感じる様なものであった。自分でも卑しく感じる程に醜悪な劣等感だと断じざるを得ない。けれど、過去を記憶を連想し、思い起こしながら。

(……これが――皆に酷い事ばっかりやった僕とその子の差かな……)

 思い出せば繋がりを失った理由も自分の馬鹿さ加減だったな、と自嘲する。

 羨ましいな、こんな関係。そう思いながらもその子がこの人を失ったりしない事を心から願っていた。そして何の役にも立たない自分がどこまでも下らなく思えた。

 そのくだらなさこそが、この発言だ。

「すいません……。見かけてない、ですね僕は……」

「そうですか……」

 先程の行動を見ていれば察しも付くのか気落ちした様子はなくただただ穏やかな表情を浮かべながら仕方ないですね、と言う様子に呟いた。

 優しくしてもらった人の役にも立たないんですね、僕は……と悲しく思いながらその場を去ろうとする。これが自分の価値なのだろう。

(せめて誰か別の人が見かけていてくれればいいなぁ……)

 その一念でそっとその場を去ろうとする少年に女性はそっと声を掛けた。

「あの……ちょっと待ってください」

 と告げて。ふわり、と優しい音が聞こえる様な温もりが首元に触れた。

 まるで聖母に抱かれる様に優しい暖かさに思わず硬直し停止する。そんな綾崎に対してピン、と人差し指を立てながら優しい笑顔で「こんな寒空で薄着だなんて……風邪ひいちゃいますからね♪」と言った。

 何と言う不意打ちだろうか。そして優しさか。

 堰を切った様に溢れ出す――涙。

「泣いてやるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

「何でそんなに強気気味に号泣!?」

 なんだまだ優しい人はいるじゃないか。

 その考えが綾崎の心を優しく包み込む。上司には怒られるわ、親に捨てられわ、ヤクザには追われるわ、の波乱の人生。人の優しさをここまで感じたのはいつ以来か。高校より先の日々だった様に思える。

(パトラッシュ……!! ネロは正しかったよ!! たとえ最後が死亡だとしても真面目に生きてればすっごい価値がある様に思えてきたよ!!)

 そしてこの時点で聴覚のいい綾崎の耳はある声を捉えた。

 この場所にいては彼女に迷惑かけるやもしれない。綾崎は「それじゃあ僕はこれで!!」と言葉を発して彼女の元から颯爽と去る。その途中でくるりと振り向いて「あの、これ……マフラーありがとうございます!! 凄い……救われました!!」と言って手を振る。

 女性は一瞬きょとんとしたがやがて小さく微笑みながら手を振った。

 ただそれだけのやり取り。だけれど、綾崎の心は本当にほんのりと安らかな気持ちに浸れた。近くに聞こえる自分の名前を叫ぶ厳つい声も気にせずに。

 デメリットしかないだろうが――。

「逃走経路でばったり件の相手を見つけちゃう――なんてよくある事だよ」

 そう呟きながら綾崎は雪の積もった街道からなるべく身を隠しながら行動すべく近くの公園『負け犬公園』へと身を隠し、捜し人を獲すべく歩みを進めた。

「……ま。不幸体質な僕じゃ空回りが精々だけど――さっ」

 それでも少しくらいあの人に恩返ししたっていいじゃないか。そう考えながら追手から身を潜める様にがさごそと生い茂った樹木の中を掻き分けて綾崎は公園の中へと入ってゆく。

 これで少しは撒けたのではないだろうか。

 声も聞こえなくなっているし……、そう考えながら公園の隅に隠れる様に綾崎は小さく息を吐き出した。女の子の所在を気にしつつ、同時に――これからどうしようかなと考えながら。そんな自分を傍のベンチに寝転がる青年が少し興味深そうに眼をこちらへ向けていた。

 切れ長の透き通る様な赤い瞳が印象的な端正な顔立ちの青年だ。

 この寒空の下でジャンパー着ているとはいえ、寝転がるとはタフだなぁ、と考えながら樹木の中から出てきた自分はどんな風に見られているんだろうと考えると少し恥ずかしくなる。そんな気持ちを払拭しようと綾崎は天啓を得た様な心地で遠目に淡い発光が見える場所、おそらくは自動販売機があると考えて、そこへ向かおうとする。

「どこだ綾崎!! どこ行ったぁあああ!!!」

「――ッ!?」

 びくんっ、と体が跳ね上がる。同時にヤバイと警戒信号を脳が発して、どうしようどうしようという感情が全身を駆け巡る中で思わず茂みの中へと身を隠す。

 茂みの中から怯えながら見る視界の中には明らかに『学館組』の三名。

 出てくる気配がないから叫ぶのを止めて、こちらの油断を誘ったのだろうかと考える。だとしたら意地悪い話だ。そんな悪態をつきながらも絶望的な状況に怯えが止まらない。何故ならば綾崎はベンチに座る青年に見られているのだから。

 尋ねられたら一発KOだ。

 ヤクザに脅される具合に尋ねられたら彼は話してしまうに違いない。だが逃げようにも逃げれば音が零れるのは必然。どうしようもなかった。

 そして周辺を捜してもいる気配がないのを確認すると、舎弟、五城目がベンチに寝転がる青年に。

「わりぃが兄ちゃん。一つ尋ねたいんだが、ここら辺を水色の髪したなよっちいガキを見なかったか?」と問いかける。

(なよっちぃは余計です!!)

 そんな涙目の綾崎を茂みの向こうに寝転がったまま青年は「水色の髪したガキ……ね。年齢はいくつ頃なんだ?」とまだ学生と思しき容姿としては実に大人びた格好いい声を発する。溢れ出る色気ある声が印象的であった。

「歳は一六歳だな。サバ読んで可能性もあるっちゃあるが」

(バイトの時は――ノーカーンっ)

 セーフ、セーフですよーとジェスチャーする綾崎を茂みの向こうに「一六歳か。俺と変わらないな……」

「そうかい。んで? 見たか見なかったか何だが、どうよ?」

「見たと言えば見たな。ついさっき……あっちの方へ走って行ったはずだ」

 青年の言葉を訊いた瞬間に思わず安堵と感謝の心が湧き出る。庇ってくれた様だ。

 良かった、という想いを胸に抱きながらこのまま少し待っていれば……と考える綾崎であったが、戸原がそこで発言した。

「本当にあっちに行ったんだな?」

「ああ、そうだ。何だ、信じていないのか?」

「いやな……。かつても同じ様な事を言って庇ったパターンが過去に二四件ありやがるんで、一概に信用できないんだよ……」

 だから、と呟いて。

「もしも……もしも、嘘ぶっこいてたら、今度また逢った時は少しばかりお仕置きする事になる――そう覚えておきな坊主。そして協力ありがとうよ」

 成る程、自分だけじゃないのか、と感心する。

 そして確かにいつの日か通じなくなるパターンの様に思えてしまい少しぶるっと身を震わせた。そんな綾崎に対して青年は悠然と、

「どういたしまして。見つかる事を祈ってるよ。それと……今度仮に逢ってお仕置きされるとしてら――本気でかかってきた方がいい」

 瞬間にぶごぉっと『学館組』の二人に対して凄まじい威圧感が襲う。

 組員、柏木が「わけーのに、こりゃまた大したもんだな」と煙草をふかしながら呟くと戸原が「こりゃお仕置きは長い道のりになりそうだ」と軽く手を振ってくるりと背を向けながら歩いてゆく。五城目だけは何が起きたのかわからないまま少し青ざめた表情で去って行った。

 そうして組員性質の姿が見えなくなる頃にがさごそと音を立てて、綾崎は現れた。

「あの……、ありがとうございました」

「別に律義に感謝される程の事はしてないが……どういたしまして、と返しておこうか」

 そう呟くと青年はベンチ上の一冊の本『学園革』と言う手に隠れていない部分だけ読み取る事が出来た。その本を開いて顔を隠す様に乗っけると、

「それにしても随分、難儀な状況みたいじゃないか。大変だな」

「ええ……その、まぁ……あはは……」

「手でも貸そうか?」

「えっ!? いや、それは悪いですから……。さっき庇ってもらっただけで十分ですよ本当……!! それより何で庇ってくれたんですか……?」

「理由か……。そうだな……」有体になるが、と呟いて「お前が悪い奴には見えなかったからと言うのが半分。そして理不尽に苦労してそうな奴だなが半分だな」

「うはぁ……」

 凄い的確に見抜く人だな、と言わざるを得ない。

 だが何にせよ助けてもらった事は事実。何も出来ないが、丁寧に感謝を申し上げた後に「それじゃあこれ以上迷惑かけたらアレですから……僕はこれで。本当にありがとうございました!!」と言ってその場を去ろうとする。

 そんな綾崎に対して青年は「まぁ待て」と声をかけると、

「え?」

 と思わず振り向く綾崎の胸元にひゅっと円柱の物質が投げつけられる。ぱしっと受け取ってみればそれは一つのコーヒーだった。恐らくは公園内で買ったのだろう、まだ温かい『keyコーヒー』であった。

「何も出来ないが餞別だ。さっき買ったばかりの『あたたか〜いコーヒー』だ。それでも飲んで温まるといい」

 その何ともクールな格好よさにくすっと微笑みを浮かべて「ありがとうございます!!」と最後の言葉を告げて、淡い発光のある方向へと綾崎は走って行った。

 図らずも、彼にとって最良の出会いである事を知るのはまた後日の話。

「とりあえず学館組の方々は遠のいてるし……」

 このまま逃げおおせるか。あわよくば肝心の少女を発見出来るか。

 そんな事を胸に抱きながらザッ、と自販機の光が辺りを照らす場所を通り過ぎて公園を出でて逃走をしようと考えた、その時であった。

 一つ茂みの向こうには一人の少女がいた。

 金髪で。躍動的なツインテールが印象的で。一般人には到底手が出せない様な可愛らしいドレスに身を包んだ。吊り目がちの子猫の様な印象の少女。

(そしてちっこい……!!)

 そう思った瞬間に、彼女の表情が何か苦渋に満ちた。

 何でだろう、等と綾崎が首を捻る中。

 件の少女はむっとした表情で、

(今、何か誰かに『ちっこい』って思われた気がするのは気のせいだろうか……?)

 実に悪口には地獄耳な少女の発見であった。

 茂みの奥。鬱蒼と、茂る草木の向こう。

 その場所から直線状に少女の背中を見つめる綾崎には確信的なものがあった。先程にあの綺麗な女性――そう言えば名前を訊くのを忘れていたなと仄かに思いながら、あの女性の告げていた特徴を上げる度に見事に合致する容姿であるのはまず間違いなかった。

 少女の後姿を見据えながら「きっと、あの子が……」。

 あの人の探している女の子に違いない。金髪にツインテールという特徴は中々珍しく該当するにも苦労がいるが、小柄な体躯という部分まで物見事に一致を示す。

 早く声をかけて伝えよう。捜してましたよ、と。

 自分としては追われている身の上だし余裕も無いのが現実――けれど、あの女性にあれだけ優しく接してもらい、あの青年にも時間を作ってもらった。

 首元の温もり。コートにしまった熱い缶コーヒーの温かさ。

 その二つに感謝を示す意味でも綾崎はここで声を掛けないわけにはいかなかった。

(よし、行くぞ)

 胸の内で小さくトン、と呟いていざ綾崎は足取りをなるべく自然に流す様に少女の元へと歩み出すのだった――。

「君々!! くぁわぁいいね――――ッ!!」

「ヒェア!! ヒェア!! イェー、折角のクリスマスイブに一人かぁい☆ 俺達と一緒に寝具の上で激しくヒートしないかいヒェア!!」

 一手ならぬ一足遅かったと言えば遅かったが。

 少女の目の前に現れた中々容姿の整ったサングラス掛けた今風男子に明らかに外国人と思しき人物の二組。誰だお前らと問いかけたい気持ちを抑えつつ。少女の「え? へ?」という事態を把握出来ていないだろう声を耳にしつつ。

 とりあえず綾崎の取った行動は。

「年齢制拳骨を食らえぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 大地を踏み込み、躍動感そのままに拳に込めた力を前方目掛けて爆発させる!!

「うぇ?」と言う青ざめた二名の表情を怒り籠った視界に映しながら吹き飛ばせば「そどっ!?」と言う鈍い悲鳴が顔面に響き、「っむっぺぽらぁああああああああああああああああああああ!!?」と言う奇声を上げてぶっ飛んだ。

 がふぅっ、と受け身を取りつつ地面に転がる二人に対して「ネロの命日にナンパとはいい度胸ですね!! アンタらどこの不作法ものですかぁっ!!」と叫ぶ。

「クリスマスイブの日に告白を邪魔する不作法ものに言われたくねぇがな!!」と頬を抑えながら外国人風の男性が反論する。

「言われてみれば!? ですが、この年頃の子相手にトーハチクラスの内容を発言しているだけで十分アウトだわぁっ!! 帰る家がある奴はさっさとゴーホームッ!!」

 と言う逆切れ気味の綾崎の言葉を訊くと涙交じりに外国人風の男性は「ちくしょう、バーカバーカ!! 行こうぜ稗島君!!」と叫んで「マフムー、行こ行こっ!! ヒェア!!」と捨て台詞を吐いて去ってゆく。

「ふしゃーっ!! ふしゃしゃーっ!!」

 そして威圧的な言動を吐きながら綾崎は少しして背後から声を訊いた。

「あ、あの……」

 はっ、と意識が戻る。それと同時に綾崎は少し思った。

(……あれ? コレ、僕さり気無く少し不審者じゃね?)

 と。

 いきなり出てきてわけのわからない理論を吐いて、激怒の表情を見せたら不審者は言い過ぎでも若干、怖がらせていたりしやしませんか……と。

 声のする後ろへそろそろと表情を向けると、そこにあったのは――微笑みだった。

「ありがとう」

 小さいが確かに放たれた感謝の言葉。

「なんだか知らんが……」仄かな微笑みを表情に浮かべながら「助かったよ……♪」

 そう告げる少女の顔を見て綾崎は何となしに可愛い子だな、と感じた。

 成る程、確かにナンパされる程には整った顔立ちの少女だ。まだ幼いのは当然なのだがそれでも結構な美少女なのだろう。綾崎は別に年下興味がないので何とも思わないのだが。

 そして自分へ感謝を示す少女に「ああ、気にしないで」と簡素に答える。

 何せ助けた理由はあの人への軽い恩返しの様なものなのだ。これ以上感謝されても返しきれないじゃないですか、と思いながら見ていれば少女が小さく「さむっ」と呟くのに気づく。

「……寒そう、だね……?」

 と問い掛ければ「ん?」と少女は呟き「ああ、ちょっとな……」と答えた。

「色々あって近場のパーティーから飛び出してきたんだ。だからコートとか諸々忘れて来てしまってな……」

 成る程、と思うと同時にあの人が言っていた少女で間違いないと確信する。

 パーティーに出席していたというのだからまず間違いない。とすればこのドレスはパーティードレスに当たるのか。そう、考えながら、綾崎はポケットから缶コーヒーをズボンのポケットへ移し替えた後にいそいそとコートを脱ぐと、そっと少女の身体にかけてあげた。

 ぴん、と指を立てて指摘する。

「女の子が体を冷やすのは良くないから……着てなさい」

 ああ、寒くなったやぁ……と感じながら綾崎は少女へ告げた。しかし寒さを差し引いても自分の首には彼女の優しさが。ズボンのポケットの中には彼の暖かさがあるのだから。

 寒くなろうがプラマイゼロさ!! と内心で断言する。

「安っぽいなーコート」

 対して彼女は臆面なく外面で断言した。

 綾崎の心臓付近にドズン!! と言葉の矢が突き刺さる。

「作りは荒いし」

(ごめんなさい。安月給で現在無収入のホームレスの汚らしいコートでごめんなさい)

「生地は重い」

(申し訳ないです。バーゲンセールの安値、安価大安売りの大量生産品なんかをオーダーメイドの衣服の申し子さんに着せちゃって申し訳ないです)

「おまけにサイズはぶっかぶかだっ」

(言葉もありません。僕なんかがコート購入なんて販売元の会社も嫌でしたし、着られるコートも嫌でしたよね。今までごめんなさいコート。着させてごめんなさいお嬢さん。言葉もありませんよ……!!!)

 コートを着用しくるくると確認する様に回る少女の言葉の数々にすでに綾崎は直立不動のままに死んだ魚の目を通り越して、抉り取られた魚の目の後の穴状態に化していた。

 しかしそんな言葉に傷ついた少年を救うのもまた――少女だということ。

「だが温かい。気に入ったぞ♪」

 少し照れる様に笑みを浮かべる少女の表情を見て綾崎は少しきょとんとした後に「それなら……良かったかな」と小さく笑みを浮かべて答えた。

「さて」と少女は呟くと「助けてもらってばかりでは悪いからな。私からもお礼がしたい」

「お礼?」

「うむ」少女は自信満々に「なんでも構わんぞ。言ってみるがよい♪」

「なんでも……?」

 その言葉を訊いて綾崎の心の中に僅かな希望が生まれた。

 迎賓館でパーティーを開く程のお金持ち――ならば自分の借金総額を支払えたいしないだろうか。いや、それどころかそれ以上の金額も……。自分は金持ちになれたりしないだろか、と考えて。

(なーんて……。そんな事言えるわけないですけど、ね……)

 今回の事は彼女への手助け。ここで少女からお礼を貰っては意味がない。

 何よりも――たったこれだけの事で一億五千万欲しいなんてのは、あまりにも礼儀知らずの厚顔無恥だ。だから綾崎には『お礼が』何て言えないから、

「お礼はいいですよ。もう十分ですから」

「……む、そうか……? と言うか何がだ……?」

 わけのわからないと言った表情の少女に対して綾崎はしゅるっと軽く首元のマフラーを緩めて彼女の存在を伝える様に、

「それよりもさ。僕にこのマフラーを下さったすっごい綺麗な人が……。多分君の事で合っているとは思うんだけど、捜していたよ?」

「そのマフラー……綺麗な人……」

 少女は綾崎のマフラーを見つめて、綺麗なという単語から即座に連想しえたのだろう。

「マリアが捜しているのか?」

「マリア?」

「お前の言う綺麗な人って言うのはこう……前髪に癖があって、瞳の色は赤ではなかったか?」

「あ、それそれその人で間違いないよ!! かなり……綺麗な人だったなぁ」

「まぁな。しかし、そうか……マリアがな……。やれやれ仕方ない」

 少女はそう呟くと、それでマリアは何処に? という声に向こうの方で逢ったよと伝える。それに加えて、自分でも少し羨ましさが籠ってる――そんな風に思う声で「それと……君の事凄く心配しているみたいだったから早く安心させてあげてほしいな」

 お願いするとしたらコレだったかな、とか考えながら。

「血縁者ってわけでもないのに凄く君の事を想ってるみたいで……何かほっこり来たよ」

「そ、そうか……恥ずかしいな、マリアの奴め……」

 そう呟きながらも少女の表情はとても和らいでいるもので。

 ああ、この子も彼女の事を家族の様に慕っているんだな、と感じながら心温まる。なんだろうかな、大変至極な一日な癖をして存外、心安らぐ一日でもあったじゃあないかと考えながら少女を見送る形で軽く手を振って送り出す。

 少女も元気よく手を振りかえしながらふと気付いた様に声を上げた。

「ああ、そうだ!! 私の名はナギ!! 三千院(サンゼンイン)ナギだっ!! お前は何と言う名前なのだ――――っ?!」

 三千院ナギ。

 それが彼女の名前なのか。先程の聖母の如き女性も名は体を表すよろしくまさしく『聖母マリア』と言った風貌であったわけだが、彼女もまた――三千院とは如何にも雄大な苗字を持つ少女であった。ナギと言う名前の意味はわからないが。

 風は凪ぐ――であろうかとか予測しながら。

 威勢よく弾ける声に答える様に綾崎もまた声を発する。

「僕は――僕の名前は綾崎ハ「見つけたぞ綾崎テメェえええええええええええええ!!」おっ!? まっ!? るっ!!?」

 もう戻ってきた!? と驚愕を露わにする綾崎の遠方からは黒服に身を纏った『学館組』の三人の姿。どうやら周辺散策していたが、やはり怪しいとでも踏んだか戻ってきた様子だ。そこまで考えれば即日実行。

「ゴメン。僕はこれでっ!!」

 その言葉を発してドン!! と土煙を巻き上げて疾走する。

 彼女への恩返し手助け程度とはいえしたと思う。気分はいい。だからこの高揚した気持ちを大事に綾崎は先陣切るがごとくその場から離脱する。

 追い掛ける『学館組』の面々を何とか引きはがす様に必死で走り続ける!!

 後に残された三千院ナギは目の前で起こった光景に目を白黒させながらも彼の名前はなんだったのか――そう考えながら、

「綾崎なんなのだ……。は、お……綾崎覇王……か?! 覇王!?」

 そんなとんでもないネーミングにされている最中。

 その場所近く、ベンチの上では例の青年が小さく苦笑を零す。

「本当に忙しい奴だな……大変そうだっ」

 おかしなものではない。

 けれど微笑ましくもどこか思う様な不可思議さに優しい微笑みを零していた。

「……あの子の事は……ま、安全確認できるまで見届けておくとしようか」

 彼の残り分くらいは手を貸してやろう。

 そう思いながら青年が見上げる満天の星空は何処までも澄み渡っていた。



【続】


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出るの速くね? と言う声が聴こえた気がするとか電波受信みたいな事を言う私。

でも出番速いと言えば速いよね!! 彼!!

まぁここまで新鮮味ないっちゃないですが……。この小説の特徴はまさしく分岐点。綾崎君のこのキャラの印象も原作とは違って諦めてないものがある的な設定です。

然りーっ。

や、今の『然りーっ』には特に意味ないです、言ってみたかっただけです。はい。

さて、第三話目からある程度変わるのですが……まぁ書きあがってないですにゃん☆

というわけで後日だいぇーいっ!!

それでは皆様、良い夜をお過ごしくだされ、アデュー!!