Re: 第八話『性欲ラプソディー』 ( No.24 )
日時: 2013/01/06 17:08
名前: 迅風

2013年、あけましておめでとうございますなのだにゃん♪

いやはや遂に新年突入、新たな年ですねー!! 今年はへびさんですよ!!

へびさんと言えば昔、庭を二メートルの蛇がうねりながら這いずりながら去って行ったときは小さいながらに驚いたものです。今まであんな大きなへびさん見た事なかったからね。

夢で脱皮の様をみると幸福になれるとか昔訊いた覚えがあるけど一度も見たことは無い。

何時かみたいな、今日みたいなとか願いつつ。

今年も執筆頑張ってゆきますのでよろしくお願いするのですー!!

と言う事で止まり木の皆々様、改めましてあけましておめでとうございます!!

今年もよろしくねーっ!!!

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 第八話『性欲ラプソディー』



        1



 ――I am the bone of my lust.(体は欲望で出来ている)

 ――Homosexuality is my body, and love is my blood. (血潮はエロスで心は本能)

 ――I have asked over an akashic records.(幾度の濡場を超えて不敗)

 ――Unknown to Law.(ただ一度の躊躇はなく)

 ――Nor known to Life.(ただ一度の迷いも無い)

 ――Have withstood criticism to find many books. (彼の者は常に独り美男子の丘で美貌に酔う)

 ――Therefore, it is satisfactory in the life.(故にその生涯に後悔はなく)

 ――So I wish such, KALOKAGATHIA BIBLIO.(その体はきっと欲望で出来ていた)

「そう!! それこそがこの僕!! ガチホモ=メンズラバーズさっ!!!」

「服を着てください!?」

 船上の上、寒々しい寒風がビュオオッと吹き荒れる中にも関わらず臨戦態勢を取ったかと思えば何時の間にか全裸にネクタイのみという服装に変化した、この際格好よく服を脱ぎ捨てている、彼は全裸で雄々しく立ちそびえながら告げた。

 そんな彼に対して「服、服を着て……!?」と懇願するも聞く気配はまるでない。

「服なんか着る必要はないさ、綾崎君」

「いや、必須ですよ!?」

「いいや、いらないさ。何故なら僕は欲望を身に纏っているのだからね☆」

「服を着てください!?」

 全く話を訊く気配のないメンズラバーズと言う実にふざけた名前を告げた青年に対して綾崎はわけがわからないよとばかりに頭を抱える。それはそうだろう。何故、唐突に救世主かと思った存在が降ってきたかと思えば変態なのだろか。

「そもそも何で上から……」

「僕としては下から突き上げる様に来たかったんだけどね」

「それはそれで何かイヤなんですが……」

「まぁ、上から襲いくる様に来るのも好きなんだけれどね」

「どっちにしても嫌なんですが……」

 言い回しがもう何か狙ってる様で厄介すぎる人だなぁ……、と綾崎は苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 そんな呆れた様子の綾崎とは別に業を煮やしたのは別の人物であった。拳銃をくるくると回転させてにじり寄る『銃勝手技(スケルツォマーケティング)』ことディエチ=トッレ=デル=グレーコであった。

「さっきから見てれば……ふざけてるのか、お前ら……? 僕たちを――いや、この僕を前にしながら何をさっきからゴチャゴチャ喋ってるんだよ……」

「おや。いけないな。早速、嫉妬した子が一人現れちゃったよ」

 グレーコの容姿はそこそこ格好いい。故に美男子認定したのであろう。メンズラバーズは友人にでも語りかける様な気楽さでおちょくる様な発言を発した。

「SHIT!! 誰が嫉妬してるだぁ、誰が? お前ら二人が禁断の恋愛関係だろうが、何だろうが知らないけどよ、僕を巻き込むんじゃねぇよ。撃ち殺すぜ?」

「いや、僕を恋人みたいに言わないでくださいよ!?」

「愛人の方が好みかい、ハヤテ君? だったら、そっちでも構わないぜ?」

「どっちも嫌ですよ!! そして下の名前で呼ばないで貰えませんかねぇ!?」

「五月蠅いぞ、ジャップ」

 もう我慢ならないとばかりにカチカチ、と拳銃が音を発する。

 真っ暗闇の海の上で一段と黒光りする拳銃の形状から見るにM1911コルトの一丁だとは思えるが如何せん識別は難しい。そしてその拳銃をチャキっとメンズラバーズへ向けた。

「安心しておくれ。君の想いはすでに僕の胸に届いているよ? バッキューンってね」

「うるさいわ!?」

「だが僕も罪作りな奴だぜ。誰か一人のものにならないから、君の様に殺す事で僕を永遠に自分のものにしようとする輩が大勢いて参ってしまうよ」

「殺す気が失せるなぁっ!?」

 鳥肌を立てて青ざめたグレーコとは別に綾崎は「……殺されそうだったのは襲われたくなかったからなんじゃ……」と現実的に実際事実の発言を零していた。

「まぁいい。世界の汚れ、汚物を処理すると思えば僕もいい事したな、珍しくって感じだしな。じゃーな、どこか知らない国籍不明のへん、たい、くん」

 そう告げながらグレーコはトリガーに手を掛けて。

 引き金を引き絞った。

 彼の一点特化『銃勝手技』の性質は火薬量の調整と言う必要のあるものか分かりづらいスキルである。第一、火薬量を多く込めたなら銃は発射の折に暴発する可能性も大だ。だが、しかしそれは結果として強烈な一撃を放てる事にも繋がる。

 グレーコはその最強の一撃を求めて火薬量を徐々に徐々に増やして限界を見極め続けた。

 そんな彼に目覚めた異質性はどれほど詰め込んでも暴発せず発射出来る不思議な火薬の力である。大砲に使う様な大量の火薬すら彼の手で行えば銃に込められてしまう。銃で勝つ、スキルではない。銃に勝つ手技。

 それがグレーコの『銃勝手技』である。

 辺りが鎚で打ち震われた様な激震が走る。駆け巡る。

 とても一丁の拳銃から銃弾一発放たれた音とは思えない。大砲でも放ったかの様な巨大な爆発音である。そして通常よりも段違いの速度で風を発破し突き進む銃弾がメンズラバーズの眉間目掛けて迫り来る。

 その時、メンズラバーズはそれよりも早く右手を動かした。ピースサインを作りながら動かした。そして顔の横で目の部分だけ見せる形で構えた。

 彼は告げた。

「キラッ☆」

 弾が音を立てて砂塵になった。

『…………』

 一瞬の静寂。静寂が辺りをシン……、と静かに包み込んでいる中でグレーコが叫んだ。

「なんっじゃッ、っそらぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?」

 ガクン、と両膝を付いたと思えばそのまま、両拳で床を打ち付ける。

 自らのスキルである『銃勝手技』が破られた事を信じられないのだろう。信じたくないのだろう。何よりも通常、銃撃にこんな形で対抗した奴がいないかったのだろうから、信じられないのも当然と言えた。

「見たかい、美男子の皆。これぞ僕の『股ぎ瞬き(ガチホモ・ウインク)』さっ!!」

「ウインクで銃弾を風化させてんじゃねぇよっ!?」

「おや、良く『股ぎ瞬き』の攻撃方法を見抜いてみせたじゃないか? 後でキスを送るよ」

「いらんわっ!!」

 目の前で見せたメンズラバーズの有り得ない防御術にも驚かされたがグレーコの言った発言に対して綾崎は仮説ながらも一つの可能性に対して「ええ〜〜……?」と冷や汗だらだらで呻いていた。

 彼は先程、風化させてんじゃねぇよ、と言っており、メンズラバーズもそれを肯定した。

 即ち、あの防御術は瞬きで風を起こして――即ち、物質が何万回もの間、何年もの間に渡って風に吹かれ続ける事で削れて行く現象『風化』。

 つまり『股ぎ瞬き』とは即席の『風化現象』なのである。

(でも、それだと何十万、いや、何十億回、そんな事をしたらそんな事が……!?)

 常人とは思えない。そもそも登場から逸脱してはいるが。

 それでもメンズラバーズと言う青年の身体能力、技術はいったいどれほどのものだと言うのだろうか? 綾崎は体に鳥肌が立ったのを感じた。

「だが、仮説が正しいってんなら……!!」

 メンズラバーズの攻撃に一定の仮説を立てたグレーコはジャキ、と拳銃を構え直す。

 それも二丁。二丁拳銃だ。

「質より数だ。スケルツォマーケティングっ!!」

 その叫びと共に先程と近い轟音を打ち鳴らし――否、撃ち鳴らして数多の銃弾がメンズラバーズ目掛けて降り注ぐ。そんな銃弾の雨を迎える青年はやれやれと首を振って、

「流石に『股ぎ瞬き』で防ぎ切れる数じゃあないなぁ」

 そう呟くとメンズラバーズはただ余裕の笑みでその場に佇みながら、

「僕流異質性――『性の乱れ』を勃発させて頂くよ」

 ふふ、と不敵な笑みを浮かべてただ立っている。

 何か言葉のチョイスが嫌だなぁ……、と頭の端で想いながらメンズラバーズさん危ないと心配しながら綾崎は見守った。するとどうだろうか。彼は何事もなかった様にただ立ち尽くしているだけであった。

 だが出来事はあった。

 銃弾が次々に彼の後方の船体へ音を上げて着弾している。すり抜けているのか、としか思えない光景だが何かが違う。何かの違和感がある。けれど、綾崎にはその何かが何なのかまではわからなかった。

 それよりも、

「お前……!? 何なんだ……!?」

 銃撃全てが無駄な行為として結果を残すしかなかったグレーコはガクガクと手を震わせているだけだ。それはそうだろう。文字通り成す術がないのだから。

 そんなグレーコを見ながらメンズラバーズは耳元で優しく語りかける様に呟いた。

「何の事はないさ。僕が誰かって? なぁに唯の変態だよ。淫乱で危険で逢っちゃいけないただのそこらへんにいる道端の変態さ」

 そして、と呟いて。

「美男子が大好きなだけの――ねっ」

 その言葉と共にグレーコの頬をぺろりと妖艶に舐めた。

「かふぅっ」

 気絶した。情けなく気絶した。失神して失禁した。

 だがそんな彼を情けないと思う者も目を覆う者もこの船には誰もいない。むしろ誰もがエールを送る様に心を合わせて呟いた。

(ご愁傷様やぁ……)

 同情の声に何名もが同乗する結果となりグレーコは敗れた。

 そして少しの時間、周囲がシンとした後にハッとした様子で身構える。何故ならばこれから彼と戦うのはグレーコではない。自分自身なのだから。彼ら自身なのだから。

『やべぇ……、俺、襲われる……!!』

 皆が声を同じくする。

 そんな声に呆れ声交じりに「いやいや、僕が襲うの美男子だから。ただの男子に興味はないんだよ?」と手をひらりと振って困った表情を浮かべた。

 容姿を見て美男子ではないと認識された数名が怒りに燃える。

 綾崎だけは「いや、見られたら一巻の終わりだと思うんですけどね……」と現実的な事実をまたも口にしているが。

「ちっ。だがどちらにせよおんしゃは危険じゃ。早々の処理させてもらうぞい!!」

 信楽厚遇が叫ぶ。

「迸る淫らな欲求は貴方の手には余りますよ、厚遇さん」

 何か違う意味でメンズラバーズが異を唱えた。

「言っておれ!! だがな。おんしゃがどんな振る舞いを見せようが!!」

 その言葉を皮切りにひゅっと動こうとしたメンズラバーズの頭上からふっと影を生んで何かが数本迫る。何だ、とメンズラバーズが呟く中で綾崎はその正体を知っていた。

「『横暴な横槍(インタラプト)』――!!」

「あったりぃいいいいいっ!!」

 綾崎の言葉に対して、彼が。アージョ=サン=セヴェーロが実に不可思議な事に何もない空間に、空に逆さまになりながら手を下へかざしていた。

「何で何もない場所に立って――!? それ以前に、何で逆さまで落ちてこない……!?」

 綾崎が横で驚きに目を見張る中でメンズラバーズは何処からか取り出した一冊の書物を読本しながら呟いた。

「うーん。まぁコレが正解なんだろうね。信楽厚遇。『優先的な座席(プライドシートベルト)』か……。空間系統の空間占拠の異能かぁ……」

 彼が手に持つ本には漢字で『信楽厚遇』とタイトルが振ってあった。

 何なのだろうかアレは、と綾崎が疑問に思う中でメンズラバーズは一センチまで近づいた槍の数々を全てリズミカルな動きで回避したかと思えば跳躍し、彼の唇にキスをした。そして断末魔の様な泣き叫ぶ声を数分間上げ続けた後にひゅっとメンズラバーズが地面へと落下して着地した。

 そして彼の戦利品も「…………」無言で地面に崩れ落ちた。

 周辺の男性陣が皆、怯えた表情で震えている。

「さぁ……。次は誰が僕の夜ご飯になるのかな?」

 ぺろりと妖艶な仕草で唇を舐めてから恍惚とした笑みを浮かべて告げる。

 そんな気配に誰も動けない。そう感じた瞬間である。メンズラバーズの横にひゅっと現れた影。印象は薄いが見覚えはある。名乗りを上げなかったメンバーのうちの二人である。どちらも女性だ。

「貴様ァッ!! よくも私の彼氏に……!!」

「許さない……!!」

 二人の女性船員。どうやらセヴェーロの彼女といったところか。彼氏が唇を男に奪われた事に対して怒り心頭なのだろう。綾崎は敵ながら何となく申し訳なく思わざるを得なかった部分がある。

「……そしてやっぱりアンタだったのね、彼の浮気相手は!!」

「お生憎様。年増には彼は譲らないわよ!!」

 そして二股をかけている様子である。

「なにこの面倒くさい船……」

 人身売買はあるし異能とかいうのあるし泥沼もあるし。やってられないよ、とんばかりに落ち込む綾崎の向こうでは何時の間にか双子少女は魚釣りを勤しみ、五十嵐雷に至ってはカチンコチンになったままゴロゴロ転がっている始末だ。

 カオス過ぎる……、と綾崎は思わず頭を抱えた。

 そんな中でここで顔を引き攣らせたのはメンズラバーズだ。

「ここで女性相手とはなぁ……」

 ぽりぽりと頬を掻きながら困った様子で彼女らの刀剣と銃弾を回避しながら呟く。

 少し回避を続ける中で「ハァ……」とため息を零した後に、メンズラバーズはまたどこからともなく数冊の書物を取り出した。目のいい綾崎にはタイトルが見えた。三冊の書物には『綾崎颯』と『五十嵐雷』に『安栖里仮』と漢字が記されている。

 まず『安栖里仮』の書物を広げたメンズラバーズは顎に手を添えて攻撃を躱しながら「ふぅむ……」と唸る。やがて「なるほど、持続なのか、仮面……」と呟くと「そうなると直に外す以外に道はないけど……」と回避を続行しながら呟いた。

「何をゴチャゴチャと呟いているのよ……!!」

 苛立った様子の女性に目もくれず、メンズラバーズはパラパラと『綾崎颯』と書かれた書物を開くと右手に一本の羽ペンをくるくる回して本に書かれている一文に線を引いた。

 ――『横暴な横槍を受けて負傷』

 と言う内容の文面に二重線を引く。それと同時に綾崎は驚いた表情を浮かべた。体がふわっと軽くなった。自由になった感覚だ。

「何が……? ――!?」

 思わずめくった上着の中の身体に驚きを示す。完治しているのだ。セヴェーロの『横暴な横槍』による力で傷ついていたはずの傷跡が跡形もなく。

「おーい、ハヤテ君!!」

 そしてそんな綾崎へ声を掛ける。

「悪いね。僕、諸事情でちょっと手間取りそうだからさ。申し訳ないんだけど、そこの雷君を連れて海へ逃げてもらえるかな?」

「え……っ!?」

「極寒の海で申し訳もない。でも船が港へ行くのもそう時間はかからない距離だ。ああ、流血の事なら平気だよ。僕がとりあえず『線引き』しておいたからさ。君の肉体なら、そう心配する事も無い。泳ぎ切れる距離だからね」

「うえ……!?」

「大丈夫だよ。後で裸で温めあおうね」

「それはお断りしますが!!」

 泳ぐの事態に文句はない。むしろ最終的にはそれに行き着いていただろうから。

 確かに視線を一方へ向ければ灯りが、都市が見える。

 だけれど問題はそこではなく。傷が治った事なのだが。一応は、重傷に近い傷跡が完全に治っている事に関して綾崎は驚きを禁じ得ない。

(この人……、どれだけの事が出来るの……!?)

 そう内心で驚く綾崎へ向けて発破する様にメンズラバーズが叫んだ。

「早くっ!! 行くんだ!!」

 その声に一瞬びくっとしたが、持ち前の瞬発力で五十嵐雷の石像の様な体を抱えて、次いで船首で魚釣りする双子を「ああっ!? お魚さんがー!?」「もうちょっとで連れたのにー!?」と叫ぶ彼女らを抱えて、綾崎は息を飲んで暗い海面を見つめる。

 一瞬だけ目を深く閉じた後に振り返り告げた。

「メンズラバーズさん、ありがとうございました……!!」

「気にするなよ。君の胸元、セクシィーだったぜ?」

「すいません。もっと普通な別れの言葉を期待させて頂けませんでしょうかねぇっ!?」

 こんな時でもキャラが崩れないメンズラバーズへ向けてツッコミをした後に、綾崎は意を決していざ海面へと足を跳ね上げる。その瞬間である。

「逃がすかいっ!! 『優先的な座席』ッ!!」

 厚遇の怒鳴り声と共にふっと綾崎達の前面へパッという音と共に「……え?」と呟く舌をべろーっと出している青年の姿が現れた。バンボラ=サッサリである。

「何で俺なんだZE!?」

「じゃかぁしい!! おんしゃの力で逃げにくい様にせんかい!!」

「うええ、んな事言われても困るんだZE……!?」

 あたふたした様子でその場でいくつもの人形を見てどれだどれだと慌てる彼を見ながら綾崎は左を抜き去って海へ飛び込もうと考えると左へ足を速めた。

 その行動に驚き逃がすとマズイと感じたのだろうサッサリは「ええい、何でもいいんだZEッ!!」と叫びながら一つの西洋人形を彼へ向けて定めた。

「糸繋ぎ――『奇せ変え人業(ヒューマンモーション)』!!」

 彼の声が綾崎の耳へ届いた瞬間である。綾崎はふいに体がふわっとする不可思議な感覚に捕らわれた。なんだ、と驚いて自らを見る。その瞬間、悲鳴を上げた。

「わぁー、もふもふの羊の着ぐるみだーっ♪」

 と呟いて、

「何でひつじぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!?」

 と、叫ぶ。

 文字通り綾崎の姿は羊の着ぐるみであった。もふもふの白い真ん丸な体躯。ヒヅメに耳としっぽ。顔の部分だけ刳りぬかれた形で綾崎だと判断できる姿であった。

 周囲はそんな彼を見ながら「おい、サッサリ。お前何で羊の着ぐるみなんだよ!?」「しょーがないんだZE、焦ってたんだから仕方ないZE!!」と聞こえる声、そして「はぁ……はぁ……、もきゅもきゅ言われたら襲いたくなる……!!」と言う危ない変態の声に身の毛をよだたせて「ちょいやぁっ!!」と変態から逃げる様に綾崎は飛んだ。

「って、ヤベェ逃げる!!」

「どいつかどうにかせんかいっ!!」

「任せろッ!!」

 厚遇の叫びに答える様にビュオッ、と風を吹き荒らして彼が舞った。仮面使い、『高鼻面』を装着した安栖里が空を飛びながら、

「――悪いが、君が誰とも関わりにくい様にさせてもらうよ?」

 海面へ落ち行く綾崎へ向けてそう囁いた。

 何の事だ、と疑問に思う綾崎を余所に安栖里はピッ、と一枚のレシートの様な紙を取り出して素早い動きで綾崎の顔面にソレを叩きつけた。

「あの変態がいる以上、ここで君を捉えるのは不可能だろうから……」

 悪いけど、と呟いて。

「『面財符(マスクドレスアップ)』――」

「ぐっ、あぁあああああ……!?」

 ずるるるる、と気味の悪い感覚が顔を覆う。五十嵐もこんな感覚を味わったのか、と言う感想を抱きながら綾崎の身体はドボン、と言う音と共に水面へと着水した。

「これで少しは君を今、逃しても平気だろう」

 安栖里は『高鼻面』の中でほくそ笑む。

「まぁ、そもそも『硬化敵面』を喰らったお友達と一緒に逃げ切れるのかな? 女の子二人も抱えて……」

 更には、と呟いて。

「『亡羊の嘆面』を受けた状態で君は平気かな?」

 精々頑張る事だね、と呟いて。

 ぐわしっと言う自分の肩に置かれた手に冷や汗をだらだら流しながら、

「……私は終わりかもしれないがね……」

 その言葉を最後に安栖里はメンズラバーズの毒牙に狙われた。



        2



 耳にどぶんっと言う鈍い水音が鳴り響く。体全身を冷たい温度が次から次へと這いずる様に駆け巡ってくる。寒い、と言う単語が脳内に幾度となく羅列した。

 海面に沈んだ。

 その事を認識するのは実に早く済む話だったが、綾崎にとっての問題はそれだけでは済まされないものだった。身体の自由がまるで効かない。

 だって羊の着ぐるみ着てるから。

「――!! ――!!?」

 水面で口を開くと言う愚行を重ねないまでも現在、綾崎は大混乱の渦中にあった。渦潮にでも飲まれたかの様な混迷の最中である。バタバタともがく真っ白いもふもふの手が妙に悲しみを誘う。なんぞこれ、と。

 それに混乱の最中にいる原因はそれだけではなかった。

 双子の少女が現在、どうしてしまったか。あんな小さい少女二人がこの冷たい海の中で平気なのだろうかという不安と、カチコチに固まっておりおおよそ泳げはしないであろう五十嵐が大丈夫なのかどうかという危険性。

(五十嵐君は一応、逆境に屈しない……!! いや、逆境には屈しないけど現実に屈する敗北率が若干高いから不安だけども、彼女らは……!!)

 先に双子少女を助けるのが先決であろうと考えて黒く透明な視界を見渡す。

(――いたっ!!)

 見覚えのある双子の少女の姿が見て取れた。ツインテールの髪が水面にゆらゆらと揺れ動きながら彼女たちは今までの様にその場の空気を読まずに見事に、

(すでに溺れてるぅ―――――――っ!!?)

 実ににへらとにやけた顔をしながら溺れていた。何故そんな気持ちよさそうな顔で天寿を全うしようとしているのだ。そんなに海が気持ち良かったんですか、と投げかけたくなる様でふにゃら〜っと海の中を漂っていた。

 だが溺れているのは事実。ヤバイ、と思いながらジタバタと着ぐるみの所為で動き辛い足をバタ足させて綾崎は一直線に突貫し、双子の少女の小柄な体躯を両腕で挿む様に抱き抱えた。

 双子を回収し終えてよし、と頷くと次いで即座に視線を走らせる。

 五十嵐は比較的背丈の高い体躯をしていたから、発見は容易なはずだ。そう、石像を捜せばいいのだから。何処ですか五十嵐君石像……!! と考えながら辺りを見渡す。

 そんな時である。

 見つけた。五十嵐雷の姿を。相変わらず微動だにする様子は見られない。ただ、一点だけ変わった点があった。何かに巻きつかれている……というか胴体部分が陰になっていて判別できない。

 何でだろう、と思いながら綾崎は暗い水面下で目を凝らした。

 その時、その正体を知る。

「…………」

 サーっと綾崎の顔から血の気が引いてゆく。

《ゴゴゴゴゴゴ……!!》と言う擬音が聴こえてきそうな程の状況であった。綾崎はその光景を見ながら息を吐き出しそうな気持を抑えてダボダボと汗を全身から噴出する。

 イカVSドラゴン。

 傍目に見た光景をより単純に、わかりやすく簡略化した答えを発するのならばそうとしか言いようのない光景が水面下に広がっていた。互いに全長一五メートルは優に超えているのだろうか。

 しかしイカはむしろクラーケンと言った方が正しい程のサイズだ。長い十本の手足をふよふよと海面下でたなびかせている。一番ツッコミ入れたいのはジャキン、と鋭く尖ったブーメランのごときサングラスだが。

 そして片方のドラゴンに関しては形相はまさしく竜だ。しかし例えるなら首長竜の一種に近い。全体に橙色した巨躯に長い首を持ち、翼ではなくヒレを持つのは海竜といった印象だ。ただ、一番の特徴はある意味背中に見える甲羅と思しき物体。

 そんな二頭の怪物が前方でメンチ切り合っていた。

 なお五十嵐の身体はクラーケンの足の一本に捕まられている形である。

 つまり、

(あ……、僕、詰んだかも……)

 顔に影を差して(うおお……?)と内心冷や汗だらけの綾崎は五十嵐君さようならと告げて別れを告げるべきか否かにしばし悩んだ。

 だが当然ながら見捨てる選択肢なんて選べない。

 けれども、戦う選択肢に死亡フラグしか見えてこない。最早、どうしたらいいのかまったくもって綾崎には判断付きかねていた。双子の少女を抱えた状況でどうしたらいいのだろうか。

 対する目の前の二頭はブチギレ気味の目で互いに睨み合っている。人で言うこめかみ付近にビキリと血管が浮き出ていた。

 その切迫の空間の中でまずドラゴンが口を開いた。

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

 何と言う恐ろしき叫び声だろうか。

 恐竜の叫びなんて聞いた事も無いけど、仮にTレックス辺りが吠えたのなら、こういう鳴き声が出るのかな等とどうでもいい事を考えて現実を逃避しつつ(ああ、勝てないや……)とあきらめに似た感情を抱いた彼を責められるものはいない。

 その叫びを蹂躙する様にクラーケンがぶわっと全身を広げて漂わせる。

「ぷにゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」

(無駄に鳴き声可愛っ!?)

 恐怖感はあまり無い鳴き声が悍ましい巨体から鳴り響いた。

 そして始まる二頭の戦い。そもそも何でこんな港付近の海に化け物いるのとか泣きたくなりそうになりながら綾崎は二頭の競り合いを見守った。とりあえず理解できるのは二頭が互いに五十嵐を狙っている様で片方はヒレを振って、片方は足で守ってを繰り返してブチギレ状態である。

(五十嵐君、エサか何かの扱いなんだろうなぁ……)

 傍観していていいはずもないけど傍観者以外の道が無い綾崎はそう考えていた。

 しかしよくよく見ると五十嵐の身体から、正確には口元からコポコポと泡が噴き出している。どうやら体内の空気が抜け出ている様だ。そう言えばあの仮面は石化ではなく硬化と言っている以上は空気の循環が必要なのだろう。

 つまり放っておくと死に繋がる、と。

(ヤバイじゃん、それぇっ!?)

 ゆっくり見守っている暇も無かった。いや、正確には体の自由はほとんど聞かなくて水面下にふわふわ漂っているだけしか出来ないのだが今の自分は。

 だがこのままではいけない。

 こうなれば破れかぶれだ、と綾崎は自暴自棄気味に行動を起こす決意を示した。担いでいると邪魔になる、そしてこれからやる事は危険だからと双子の少女を一度出来得る限り、水面に近い程高い場所へ、上へと放る。

(溺れてるのにゴメンね……!!)

 そしてふわふわな羊の着ぐるみの中から一筋の希望を取り出した。

(頼みます白桜!!)

 刀剣、白桜。有り得ない程の圧倒的切れ味を有する白濁の色合いを持った剣をジャキ、と前方へ向けて構えた。目指すは一筋の希望。一点突破し、脚をブ千切る。

 突進突きだ。

(おぉおおおおおお……!!)

 呼吸を体全身に巡らす。力を巡らす様な呼吸に呼応する形で全身に力を満たしてゆく。

 そして水面を駆けた。

 グングンと駆けた。バタ足で。剣を軽く後ろへ引き絞りながら綾崎は脚とヒレの殴り合いで激闘中の二頭を目指して突貫してゆく。

(でらァあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)

 遂にはグン!! っと剣を前方へ押し出した。勇ましく、力強く。

 ギラリと水面下で鈍い光を発光する白桜の突撃が今、まさに化け物達の命を刈る。

 それとほぼ同時刻、ヒレと足の戦いにより五十嵐雷の体躯がヒレで弾かれてぽーん、という効果音と共に綾崎目掛けて飛んできた。

(………………………えー……?)

 丁度よく、目の前に。

 剣を突き立てて全力で渾身の力を込めた突き技やってる最中の綾崎の目の前に。無防備で硬化程度では防ぎ切れないだろう斬撃を前に。

(はっ!? え、嘘ッ!? いがら……!?)

 止められない。停まる速度ではない。

 あのクラーケンの足一本薙ぎ倒すくらいには強く貫く所存の一撃なのだから。人体が喰らえば死は避けられないと自分でも思うぐらいに。

 硬化の可能性に賭けたいが白桜の一撃は許さない事だろう。

(どうにか……!! 逸れろ……ッ!!)

 刀身を必死で逸らそうとした。けれど勢いづいた一撃は無情にも一筋のルートを逸れる気配もなく、そして間に合う時間もなく白桜の刀身は五十嵐の身体を否応なく貫いた。

 ――シュパンッ

 と、唐突に音が鳴った。まるで吸い込まれて消え去ったかの様な音が。

(……へ?)

 綾崎はその際に唖然とした表情を浮かべる。

 それは当然だろう。急に体も心も軽くなってしまったのだから。手に持っていた重量も、殺してしまうと思っていた重責も。同時に未然に消え去ったのだから。

 その手に白い剣等姿形もありはしなかったのだから。

 けれど、それでも一瞬だけ彼の目には白桜の最後の光景を捉えていた。

 そして。

 砕ける様な音を立てて五十嵐雷の顔を覆っていた仮面に亀裂が入ってゆく。


【続】

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上(船の上)も下(海の下)も荒ぶってる幕開け本文。

何故、こうなったとか思いつつ。

さぁ、何か色々逸れてきました我が作品!!←

綾崎「…………」←何か活躍の場面とか一切やってこない執事君

五十嵐「出番、来たぁあああああああああああああああああああああ!!!」←おおよそしばらくはでなくなるから最後であろう活躍場面の少年

綾崎「……どうでもいいですが……」

五十嵐「……荒ぶりすぎじゃねぇの変態……?」

書いていくと不思議に彼は暴走してゆくのだよ……!! 基本、彼は何か身勝手に小説で生きている気がするから……!!

そして最後はまぁとりあえず……。

試に五十嵐君にしてみたぜ!!

綾崎「何か僕の出番すぱっと削りましたよね!?」

ちなみに怪物も前回から増量の二体にゃああああああああ!! クラーケンなのにゃあああああああああ!! 食べちゃダメだよぉおおおおおおおお!!

五十嵐「最後の一文必要なのか!?」

さーて、それでは次回だ。次回は……もしかしたら、彼女の元へ連れてける……とまでは自信がないし言わないにゃ。←

五十嵐「お前、無駄に長くなる性質があるからな」

さぁ羊の着ぐるみ着た綾崎君と何か起きた五十嵐君の運命やいかに!!

では、次回!! さらばです!!

綾崎「……どうでもいいんですが、何で僕羊の着ぐるみの上に変な仮面つけられてるんだろうか……」