Re: 第七話『全面ペルソナ』 ( No.19 )
日時: 2012/12/31 21:07
名前: 迅風

さぁ皆々様いよいよ今年も終わりです!!

年末年始の年末足る今宵!! 私はハイクオリティと盲信して自画自賛して第7話をお送りさせて頂きます!! 変態もこぞって出るだろう小説をよろしくです!!←

では新年に向けて年末最後の更新なのです!!

では、どぞっ!!!!

__________________________________________________________________________________



 第七話『全面ペルソナ』



        1



「さて、困りましたねぇ」

 まるで旧来の友人にでも語りかける様な穏やかでゆるやかな声で青年、安栖里仮は語り出す。

 戦場足る船上の元に談笑を行う。

「熟考してみてください紳士淑女の皆様方。果たして、考えを足して考えてみればお分かりになられる通りでしょうが、この状況をどうやって打開するかを。打開せず他界したくもないのでしょう? 二一対二の戦いに戦いと呼べる現象は、そう易々と起きたりは致しませんと告げておくよ」

 まるでこれから楽しいショーが開幕するかの様な身振り手振りで口振りする。

 始まると言えば始まるだろう。圧倒的有利による殺戮ショーの様な出来レースが。この船上に於ける有利不利は誰の目に見ても一目瞭然であるのだから互いの立場は明確だ。二一人を相手どる事等、そんな簡単な話ではありえないのだから。

「船上での行動を把握した分には、君ら二名、中々に強い。それは讃えようじゃないか。――ですが、いえ、だからこそ理解出来ているのではないか? 君ら二人の戦力は――、決してどうして我ら二一人には及ばない、及ぶべくもないという実態に」

 スッ、と安栖里は天狗の仮面を取り出し仮面の向こうに顔を隠す様に呟いた。

 その行動の意味を知るべくもない綾崎と五十嵐はただただ疑問を呈す他にないが、彼の言論に対しては威風堂々に異論を唱える。

「へっ。やってみねぇとわからねぇだろうがコノヤロウ」

「確かにやったところで結果は見えているかもしれません。と言うか正直見えています、ですけれどそれで諦められるかどうかに関しては――諦める気はないんですよ僕は」

 逆境であり苦難であるから――それで諦められるのだったら二人は今ここにいない。

 とっくに墓場の中で悠々自適に屍ライフを満喫して平穏を楽しんでいる頃あいだ。

 不幸な人生を送ってきた綾崎と。浮浪な人生を歩まざるえなかった五十嵐は。

 人生を諦める事を選び取っていたならこんな船の上で二一人相手取っている事はなく、もっと早くに死を選ぶなりなんなりしていた事だろうから。

 何事もやってみなければわかりはしないのだから。

 だからこそ諦めない。

「『諦めたらそこで試合終了』――ってよく言うよな。まったくだぜ、諦めたら本当に試合終了だ。俺達はまだ相手に一九点くらい格差つけられてロスタイム間近って立場だ。けどなホイッスル鳴っても俺は諦めないぜコノヤロウ。場外乱闘だ」

「それ迷惑ですよ」と苦笑を浮かべつつ「僕なら審判を仕留めます」

「お前の方は完全に犯罪行為じゃねーかよコノヤロウ」

 くくっと笑う五十嵐に対して「じゃあいっそ時計でも壊しますか?」と軽口を叩く様な気楽さで綾崎は告げた。その言葉にいいや、とばかりに首を横に振って五十嵐は告ぐ。

「もっと普通に、王道に――逆転劇だコノヤロウ。二〇点シュートぶち込めばそれで済む話なんだからな」

 威勢のいいキレのいい覇気のいい顔つきだ。

 五十嵐はニッと白い歯を光らせて勝ちを得る為に、価値のある戦を仕掛ける猛獣の様な勝利を狙う者の顔を浮かべた。その顔を見ていると綾崎も胸の内からゴッと勇気の様な感覚が湧き上がってくる。沸々と。

 軽口を叩く様に綾崎は呟いた。

「訊いてませんよ五十嵐君」

「何をだ?」

「そんなとっておき持ってるなんて、ですよ。電気とか格好いいじゃないですか」

 使用後の光景を一度見ていたから何となく――信じられない心地ながらも、その可能性を検討していたにしても電気を操れる等とは格好いいとばかりに羨ましげで――頼もしげな表情を浮かべた。

「カッ。悪かったなコノヤロウ。とっておきだからこそ秘密にしてたんだよ」

 バリィ、と激しい音を光らせながら綾崎の右肩をコツンと拳で叩く。

 自分は強いから――安心して背中任せろ、と言う彼の内心が体中に痺れる程に伝わった。

「行くぜッ、綾崎っ!! お前が一〇人、俺が一〇人!! 半々づつ喰らって勝利の凱旋歌ってこうじゃねーかぁあああああああああッ!!!」

「ええっ!! やりましょう、五十嵐君!!」

 白桜は危険すぎる。白桜を武器の盾代わり程度に構え、ぐっと拳を握りしめる綾崎。その顔に一切の不安は無い。綾崎の隣でギラギラに傍目あくどい笑みにすら見える顔をし《バリバリ!!》と電撃を放つ五十嵐もまた同様だ。

 後方から聞こえる双子の少女の、

「かーっこいーっ♪」に続いて「コノヤロウお兄ちゃんもー」に続いて「綾崎のお兄ちゃんもー」声を合わせて「「頑張れぇええええええええええ!!!!」」と応援を叫ぶ。

 小さいながら小さい子だけれども自分達を応援する声に勇気を貰い。

「行くぜ、雑魚共っ!! 冥土の土産に覚えておきなっ、この五十嵐雷の名前をなぁあああああああああああああああああああっ!!!」

 空気が打ち震える様な紫電が駆け動作に準(なぞら)え翔けた――!!



 五十嵐雷は帯電体質である。

 幼い頃から数回に分けて落雷に打たれた過去を持つ彼の身体は幼いながらに電気という存在に順応してゆく奇跡的な結果を運び込んだ。原因足るのは幼少期から一人で外に野宿する様な形で数年に渡り生活していた事による副産物であった。

 そうした事による一点突出はやがて特殊な力として覚醒に至る。

 五十嵐雷の能力『蓄電記(オウガバイアグラフィ)』は電気を溜めこむ異能である。

 電気を帯電する事に特化したこのスキルの性質は電気を操るには、どれほど願えども届かないにしても、強力な力である事実は揺らがない。操れないまでも扱えないわけではないこの力を五十嵐は子供時代から今へ至るまでの間にある程度の制御を行えている。

 例えば地面に間接的に電流を走らせる事で相手に気付かれにくい状態で関電させる地根通発電(グランドスパーク)≠始めとして電塊を銃撃の様に発する『銃電(ショックガン)≠ニ言った遠隔技を持つ。

 そんな彼の帯電体質の成す十八番であり最強技とも呼ぶべきが近接距離に於ける関電。

 スタンガン人間。

 その時の五十嵐雷はまさしくそう言った存在であると言えるだろう。備蓄された電力を周囲へ放散する事により周囲を電撃で打ち倒す。単純だが、故に強力な攻撃だ。

 自らが放電する事による周囲を倒す。その時の光景はまるで『電の華』と呼べる様な美しさすら放つ程だ。

 そんな五十嵐の放電技自華発電(アクシンデントディスチャージ)=\―その技が繰り出される事となれば並大抵の相手では抑え切れる代物ではない――。

 そもそもな話が自然系統の力に恵まれているという時点で五十嵐雷はある種の達成者であり超越者でもあり加護を得た者の一人であるとも言えるだろう。日常生活に於いても電気という存在の利便性は知れ渡っている様に電気という存在の応用性は尋常ではなく高い。電磁力学、電気分解といった科学的な応用範囲を含め、やり方次第で発電による火を起こす事も可能であるのだから電気という存在の加護は比較的大きいものがある。五十嵐雷のスキル『蓄電記』にそこまでの火力は無いにしても、電気系統の力を得たものの力量と言うものは図られた様に強大な力を兼ね備えるものである。



 ――そう言う前議は特に関係も無く彼は敗北したが。

 全身ズタズタに切り刻まれた五十嵐は弱音も敗北の声も発する事が出来ず、首根っこを掴まれて床から数センチ足が浮く形で完全敗北に喫した。

「五十嵐君……!?」

 致命的とまではいかずとも相当量の出血で重傷の五十嵐の容体を案じる形で体中を通常よりもハーフサイズ程度の槍で床へ縫い付けられる形に突っ伏した綾崎は告げた。

 まさしく完全敗北である。

 何と恐ろしい事にもこの場の勢力は今現在二一対〇だ。一人も倒せず――手も足も出せずして綾崎、五十嵐の両名は見事なまでに当たり前の様に負けた。両名、怪我による負傷は中々目を背けたくなる様なのに反比例するごとく総勢二一名の船員ことクルー達には目立った外傷は見て取れない。

 あるのは先刻五十嵐が突破口を開いた際に振り回したアックスによる負傷程度だが、それも現在では大した傷ではなくなっている。

「げっ、げっ、がぼっ」

 そんな五十嵐の口元から苦しげに吐血が噴き出た。

「おやおや。苦しそうだなあ坊主」

「るっせぇよ……!!」

 五十嵐は自らの首を鷲掴みする敵――、天狗の仮面を被った安栖里に対して苦しそうな顔だが明確な敵対心を表現した顔つきで呟きを零す。

「くららら」と奇妙な笑い声を発して「何だ元気じゃねぇか坊主」

「そりゃあムカつく奴の前で元気じゃねぇとこ何か見せたくもねぇしな」

 にんまりと意地の悪い笑みを浮かべながら張りぼての元気を示す。

 実際には見た目通り、見た目十割に五十嵐の肉体はボロボロの一言で済まされた。ズタズタに切り裂かれた皮膚から流血は酷いし体は麻痺して右半身が動き辛いし何より痛みで意識が途切れそうだった。

 それもこれもやったのは眼前のこの男――安栖里仮に他ならない。

(不気味なお面掛けやがって……!! コノヤロウ、この天狗の仮面を掛けた瞬間に人が変わったし、何か得体のしれないものへ切り替わりやがった――!!)

 そう。

 先の落雷で蓄電された電撃を身に纏い突撃した五十嵐を撃退したのは――出来たのは安栖里がこの面貌に切り替わってからであった。例え蓄電後すぐに敵を倒す為に使用したにしても、保存しておいた電力が少なくなっていたにしても――常人に電撃をどうにかする術など早々ないにも関わらず五十嵐は負けた。

 その事実は他ならぬ五十嵐が電気を扱えると言う実態を知る綾崎には驚愕だった。

「まさかたった一分で五十嵐君が……!!」

 戦闘の時間としては、言う通り一分で蹴りはついた。

 電撃を走らせて突進する五十嵐であったのだが天狗の仮面をつけた瞬間に安栖里は人が変わった様になり、五十嵐の電気を鷲掴み吸収。その後安栖里の電気を纏った拳を右肩に直撃され、更に信じられない事に風を操って刃の様な攻撃を続々命中。最後に頭突きを喰らわせて今現在の首根っこを掴まれて敗北した――というのが大まかな流れだ。

「テメェ……なにしやがった。そんで何者だよ……!!」

「一船員ですよ、割と真面目に。艦首に従うただちょっと異質なだけの船員です」

「何がちょっと異質なだけだよ……!!」

 電気使いである自分にこうも易々買っただけでも信じられない気持ちあるってのに。

 自画自賛になるが電気は自分のとっておきで、自信だったのにも関わらず成すすべなく屈服した現実に五十嵐は内心流石にキツイものがあった。

「その仮面に秘密がありそうだよな……!!」

 と言うかそれ以外にないだろう。仮面をつけた瞬間、彼は変貌したのだから。

「へっ。特殊な面なのか知らねぇが……ドーピングみたいな力に頼って買っても、それは自分の力じゃねーって話なんじゃねぇの?」

 皮肉る様に言葉を並べた。

「御心配ありがとう。だけれど坊主とワシは同じだよ。坊主が『電気を扱うスキル』を保有している様にワシは『仮面を使役するスキル』の持ち主。ただそれだけの他愛ない違いさ」

「仮面を……?」

 何だろうか、良くわかってはいないがさっきから超常現象に巻き込まれている綾崎にはそう言う特殊な話はちんぷんかんぷんなのだが判別がわかりやすい『電気』であった為かどうにか話に入り込もうと思えれば思える。難しいが。

「祝人身売買の御祝電に解説してやろう寝転がってる坊主」

 コンコン、と長い指で自分の仮面をつっつきながら、

「世の中、常識に収まらない者は探せば出てくるものなのだよ。そう言うものの異質性は事情次第で常識の枠組みを超えて『定式知らず』になってしまう。そう言った人種は異能と言うべきかスキル、と言うべきか。そう言う変わった趣向に凝り始める。なぁに世界的ピアニストが魅せる芸当に、高名な著作者が織り成す感動に、大人気スポーツマンが震わす高揚感に、さして大差ない些細な才なのだ」

 そうは言うが……と綾崎は思わざるを得ない。

 いや確かにどの分野に於いても一流の者は確かに常識の枠組みを超えたものに至っているというのはわかる。言ってしまえば、告げてしまえば『別世界の人の住人』と言う言葉の通りに自分達とはどこか違う尊む様なものに感じる。特に芸術の世界、スポーツの世界に於けるその差異は大きい。

 だが『定式が違う』存在等、綾崎は今日まで知りもしなかった――、

(……いや、結構知ってた)

 様な気がしていたが即座に補修する。

 びっくりしていたのが途端馬鹿らしいものに思えてきた。よくよく考えれば五歳児の頃に城とか剣とか化け物とか魔法とかよく見かけていた記憶がぽんぽん湯水の様に湧き出てくる。なんだったのだ今まで戸惑っていた自分。

 とすると、そうかと納得する。

 五十嵐の電気を見てもさして怯える事も無く距離を置くへもなく、ただ頼りになるなあと言う感想を抱けたのは昔があったからか。と一人得心がいった。

「……まぁ大体わかりましたよ、仮面使いさん」

「それは重畳。いや、驚きだよ。大概、こんな事言いだすと上っ面のおかしな人種と思われてしまうのだが理解が早くて助かるよ」

「って言う事は貴方の特化している事は……」

「そう。ワシの場合はまさしく『成り切り替わる』事だな。仮面の恩恵を得るのが私の特性の様なものだ。そんな今現在のワシの仮面は高鼻面=\―天狗になっているのだよ。得る力は飛翔能力、風力操作と言った類の恩恵だ」

 いや強いですよ、と苦々しげな表情で呟く綾崎。

 風を操作する上に飛翔能力まで持っているとは明らかに自然系統、系統こそ違えど五十嵐の電気と同類の類だ。とすると五十嵐の電気は彼の風に絡め取られて巻き込まれて削ぎ落とされて我が物顔で風の吹くままに返されたのだろう。

「鼻高々と天狗になりやがって……!!」

「わはは、先程まで自身の力に過信していた若者に言われる筋合いもないがね」

 単純に五十嵐の能力性質が負けたとは考えにくい。

 性質と言うより力負けしたのだろう。

(五十嵐君は蓄電しなけりゃ力にはならないし蓄えたのだって雷一回分だけど、あの人の場合は風なんてそこらじゅうに強風が吹いてるんだ。強運に富んでますね、まったく)

 船旅はこりごりな気分になりそうだ。

(そして定式に当て嵌めずに考えるなら……)

 チラッと体中、槍に貫かれた状態ながらも綾崎は視線を、この槍を放った者へ――アージョ=サン=セヴェーロへと向ける。セヴェーロは視線が向けられた瞬間「お? 何だ?」と呟きながらニヤニヤとした強者の笑みを浮かべた。

 それはそうだろう。

 力関係として完全に綾崎は屈服して手出しできない体勢にあるのだから。

 それを行ったのがセヴェーロだ。

 綾崎は彼もまた異質であると考えている。なにせ綾崎は五十嵐がただやられていくのを眺めていたわけではない――と言う事はなく『ただ眺めていただけ』なのだから。否、正式には必死に助けようと力を振り絞って彼を助力しようと行動しようとした。

 だが『不幸にも』彼が初手の行動として選んだ対戦相手はセヴェーロだった。

 ものごとに一石を投じる『横暴な横槍(インタラプト)』。

(行動しようと、助けようとしたら横槍を入れられた=c…!!)

 走ろうとしたら槍が足に突き立った。助けようと手を伸ばしたら手に槍が刺さった。庇おうとしたら背中に槍が食い込んだ。横槍を入れられて失敗したのだ。

「なっまいきーっ。なにその睨みつける様な目つき笑えるーっ♪」

 チャラチャラとした態度でくつくつ笑うセヴェーロ。その態度とこの特性とも呼ぶべき性質から想像できる彼への印象は『邪魔者』に他ならなかった。

 必死の行動を邪魔する邪魔者にしか。

 だがそれがいざ具現してみれば悪質極まりないものだった。一々阻害が成功する異能など邪魔でしかない。なぜ、邪魔でしかないかと問われれば単純に、不思議な事に、

「生憎、そこまで痛くないんで。大したことない異能ですね」

 見た目こそ派手に突き刺さっているが痛みはそこまで大きくなかったのだ。不思議な事にそれほどの痛みは感じない。それはおそらく彼が出来る、してきた邪魔が大したものではなかった事の具現なのだろう。

 同時に体が傷つく事に定評のある綾崎には、こうして縫い付けでもしないと効力は発揮できない代物だった。

「はっ。言ってろ。無様にねっ転がってる奴の負け惜しみなんて訊いてる暇ねーっての」

 耳の穴をほじりながらニヤニヤした笑みで返してくる。一応、事実なのだが彼の言う通り構図はそういったものの方が強かった。そして実際負け惜しみだ。どんな形であれ無力化されたこの現状ではどうしようもなく、しょうもないのだから。

 だからこそここで自分は立たねばならない。

「――ッ!!」

 ぐぐっと体中の槍の抜き身がズリズリと体内に痛みを響かせる。けれど痛みに屈するわけにはいかなかった。五十嵐を――ひいては双子の少女を助けなくてはならない。それが綾崎に残された原動力だった。

 槍に身を貫かれながらも起き始めている綾崎を見てセヴェーロは「うええ!?」と情けない驚きの声を零すが、一々耳を傾けているつもりはない。このままどうにか起きて、

「撥頭身(ノーヘル・ヘル・クラッシャー)<b!!」

「ガッ!!? !?」

 途端、背中にひどく重い一撃を見舞われた。体中が一点に集められた痛みに腹の奥の空気をがぼっと吐き出し槍の刀身がより一層深く食い込んだ。飛びそうになる意識の隅で「綾崎っ!!」と言う五十嵐の掠れた声で聞こえる。

 そうしてドシャア!! と崩れ伏す綾崎を見下し佇む男が一人。

 バルダッサーレ=レヴォンツォだ。

「貴方は確か……頭に石斧叩き込まれたはずじゃあ……!!」

 五十嵐の一撃で確かにやられたはずだ。生きていた辺りが正直、不思議でならないが。今は頭に傷など見えずピンピンしているから驚きだ。

「ふふ。ウチには優秀な船医がいるのだよぉ、にっぽんじぃん!!」

「船医……?」

「そう。『大神の手を持つ男』烽火ノ鼻(のろしのはな)大先生がっ!!」

「誰ですかそれ……」

 全く知らない。そんな事を考えると同時に綾崎は薄れた意識の中で自分の声に予想以上に少しばかりも力がこもっていない事実に愕然となる。ダメージが響いているという事に他ならず振り絞っていた気力が一度四散してしまった事を正直に語っていた。

 そんな頭でその烽火ノ鼻と言う先生が多分、医療系のスキルを持っているんだろうなーと漠然とした感想を抱きながら綾崎は次第に意識を失ってゆく……。

「気ぃ失ってんじゃねぇぞ綾崎!!」

 その一言で喝を入れられた。眠りそうだった意識が急激に霧を晴らして清涼になる。

 そうだった。今は窮地なんだった、と当たり前の事を切り捨てて自分だけ安らかに眠りそうになっていた情けなさを咎めながら「寝てませんよ」と小さく呟きながら体を起こそうとするが如何せん力が入らない。こんなんじゃダメだ。

「ははは、しかし五十嵐。お前は実に威勢がいいな。これだけ負傷しているというのに」

「うっせえ。一転特化がスキルだろうが異能だろうが、お前のは万能すぎて特化には至れてないだろうが。単純に天狗の面と電気で戦ったら絶対勝ってたね」

「手厳しいな。だが事実と受け止めておこう。そして」

 パキポキと右手を鳴らしながら安栖里は告げる。

「いい加減君が起きているのはここまでだ。次に目覚めるのは多分、買取人の前だろう」

「断る。絶対にお前を倒してそこらの路地裏でシーツに丸まって寝てるね」

「いや風邪引くからよそうね? それにどうやってワシを倒すと?」

「ヘッ。ご丁寧に自分の能力を説明してたのどこのどいつだよ。要はアレだろ? その仮面さえ壊してしまえば後は無力なお前だけ――ってな」

 こんな場面にも関わらず敗北の色等感じていない様子の五十嵐に対して安栖里は言う。

「その通りだよ。仮面を壊せば君の勝ちだ。しかしだな――その前に体を動かせない君にはもう勝ち目はないのだよ」

 仮面と共に告げる。

「『面財符(マスクドレスアップ)』」

 取り出したのはレシートの様な一枚の紙であった。安栖里はそれをべしっと五十嵐の顔へ張り付ける。五十嵐は突然の事に「!?」と驚愕を示したのだろうが、その表情は一瞬にして隠されてしまった。

 まるで幽霊を見たかの様な驚きの表情を浮かべたお面に遮られて。

「敵を石化したかの様に固めてしまう仮面――硬化敵面=v

 その言葉通り五十嵐は身動きさえ出来ぬ様に固まっていた。驚きにびくつかせたポーズのままカッチーン、という音さえ聞こえてきそうな程だ。

 仮面のスキル『面財符』――ここまで多種多様に効力を発揮出来るのかと綾崎は驚く。

「これで喋れない動けない、ああ安心してくれ眼だけは見えているからね」

 そう呟きながら『高鼻面』を取り外すと安栖里の素顔が目に映った。

「このお面はあくまで固くしているだけで石にしているわけではないのだから」

 そう呟きながらゴトン、という音を立てて石像じみた五十嵐を逆さまにして床に置く。周囲から(いや、何で逆さ……?)という疑問が発されたが気付いた様子はない。

「さて」視線を綾崎へ向けて「後は君だけだ。戦力も君だけだ。双子ちゃんは先程から怖いのか船の船首でバランスゲームをしながらガクガク震えているよ?」

「そりゃ震えるでしょうねえ!! 揺れてんですから!!」

 緊張感無いっていうか何してるんですか!? と叫ぶも双子の少女は「落ちた方が負けなんだよーっ!!」「絶対サッキーには負けないんだよーっ!!」と高い声で言っているが落ちた方は負けではなく死に繋がるだけである。

「というわけで君の不遇っぷりには目を見張るものがあるが、残念な話、人身売買の仕事は重要らしくてね。ここで君も彼と同じ目にあってもらうよ? マスクドレスアップ――」

 確かな声で呟く言葉。それを喰らえば終わりしか残されてはいない。

 その現実だけは飲み込めない。だって綾崎は死にたくないのだから。臓器や人身売買の先には死しか待っていないのだから。終わりたくなんてない。絶対に生きたい。

(こんなとこで……死ぬのだけは嫌だッ!!!)

「死にたくない……!! 誰か……っ!!」

 他人頼りって笑わば笑え。

 だけれど自分は死んでしまって――何も果たせずに終わるのは嫌だった。生きていればいつの日か償える時やまた逢える時――約束があるのだから。

 そんな切実な思いを涙と共に込めて綾崎は懇願した。

 誰か、助けてください、と。


「美男子あるところに、僕あRYIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!」


 台風が直撃したかの様な轟音が船上に激しく打ち震えた。突風で布がはためく際の音の様な断続的な響きが空気を震わし、埃が吹き飛び、海面が唐突に吹き荒れる爆風で波紋状に揺れ動いた程であった。

 そんな現象を起こしたのは一つの嵐。

 天から突如螺旋状に舞い降りた嵐であった。暴風であった。厄介な。

 ゴゥ、と白い帯の様な風が弧を描くように拡散してゆく、その風の中心に一名の男が立っていた。額に手を当て何か格好いいポーズを決め込みながらドン、と立っていた。悠然と。

 そんな彼へ抱く感想は一つ。

『…………………………誰っ!?』

 数奇にも船上にいる全員が同じ感想を抱く。お前は誰だと。

 容姿は一言で言えば信じがたい程のイケメンだ。すらっとした体躯。整った顔立ち。水色の腰まで届く挑発的な長髪。理知的な緑の瞳。美青年、というやつだ。

 だからこそ言おう。誰だ、と。

 船員全員見覚えすらない青年であったからだ。

 まず話しかけたのは『狼咳者(ウルコフボーイ)』ことアルタムーラだ。

「テメェ、どこのどいつよ。俺らの船に突然にやってきて何の何の様だ!?」

「可愛らしいお嬢さん。招かれざる客ながらもやってきた事は謝罪しますよ。ただし突然やってきたのではなく突飛にやってきた――の方が正しいですがね」

「んにゃ……っ!?」

 可愛らしいお嬢さん呼ばわりされたアルタムーラは一瞬かーっと顔を赤らめて後ずさる。そんなアルタムーラを周囲は(乙女か……)と言う感想抱きながらも、次いで声を発する。

「どうやってここへやってきたのか、それはわからんが、おんしゃ……何の様でわっしゃらの船に来たんだ小僧?」

 老齢の男性、信楽厚遇が問い詰める様に問い掛けた。

 その言葉に対して青年はふっと小さな笑みを浮かべて答える。

「僕が此処に現れた理由ですか? 伏線も前触れも無しに突飛に飛んでやってきた理由をお知りになりたいと。僕も常々思っています美男子のお尻に生まれてきたかったと」

「何の話じゃ!?」

 途中から話題が妙な方向へ切り替わった事に驚きを浮かべたと同時に周囲が『なんだこの変な奴!?』という感想を抱くのとほぼ同時、

「まぁいいでしょう。隠すつもりもないですし、赤裸々に告白しますよ来た理由ならね。僕が現れた理由? はっはっは、そんなもの一+一より一と数えるより簡単なお話です」

 ぴらっと右手を軽く振って、右手の人差し指が綾崎含め船上の複数名を次々に指し、


「美男子がいる場所に、僕ありっ。――この世の真理で僕なりの真実です」


 いや、誰もついていけない。

 周囲は頭に疑問符を浮かべ、指さされた者たちは得体のしれない悪寒を感じながら立ち尽くす――ただ唖然と佇むほかになかった。

「美男子いるところに僕あり……? ええい、何を意味の分からない事いるんだZE……?」

 わけがわからないよ、とばかりにバンボラ=サッサリが頭を掻く。

 綾崎だって同様だ。

 同様に動揺を隠せない。何も隠す必要がないとばかりに佇む美青年に対して動揺を隠せずにいる。いや、誰ですかホント、と。

 そんな周囲の有様にくすくすと優しい笑みを零した後に、


「なぁに。難しく考える必要はないよ。僕は単純に美少年が、美青年が、美老父が。即ち全ての美男子が。好きで愛しくて大好きで熱中していて惚れ込んでいて押し倒したくて襲いたくてたまらない――どこにでもいる普通な、ただの変態さっ☆」


 シュピーン、と効果音が鳴りそうな甘いルックスを煌めかせて彼は告げた。

 その一言。比較的長めな言葉に対して船上の全員が同様な感想を抱いて動揺する。

『(へ……っ、へんたいだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??)』

 妙に格好いい気配こそ発しているが言っている事はまさしくゲイ――同性愛者のそれであった。周囲は空から降ってきた飛行石を持った少女ではなく変態性を持った美青年に対して数歩引いた。

 指さされた数名は更に数歩引いた。

「ただ、そんな変態も今日は少し違う事情の元に天から舞い降りたりしてるんだよね」

 やれやれ、とばかりに手を振ってから視線を綾崎へ向けた。

「美男子がいる場所に僕あり」

 だからこそ、と呟いて。

「美男子の声にいち早く駆けつけるのも、また僕さ」

 その言葉からわかる事は一つ。

「……まさか……僕らを助けに来てくれたんです、か……?」

「まさかも何もないよ。僕が現れる時なんて美男子を襲いたくて夜襲をかけて駆ける時か、美男子の助けを求める声の時くらいって相場が決まってる。変態なんてそんなものさ」

「変態だ!?」


「そうっ!! 変態!! 僕こそが変態。美男子大好き、愛してるがトレードマークの甘いマスクの変態だ。何故かって? 何故なら僕はガチでホモ!! この世の全ての美男子の永遠の恋人の名を訊いてもらえばわかる通りに!! 大変な変態って奴なのさっ!!!」


 キラーンと星が輝く様な爽やかな表情で妙に格好よく叫ぶ男であった。

 男の名前は、

「さて綾崎君」

「何で僕の名前知ってるんですか!?」

「恋人の名前を知らない男なんてこの世にはいないさ。いたとしたら大概クズか、秘密を抱えてしまっている子を相手にしてたか、くらいのもの」

「恋人じゃないですけどね!!」

「ハハハッ、つれないなあ僕の伴侶は」

「誰が伴侶でしょうね!?」

「兎にも角にも――」

 青年は視界に映る綾崎のズタボロな姿。五十嵐のズタズタに裂かれた姿を目視した後に前方に佇む主に女性と美男子ではない方々のみに縮こむ様な敵意をぶつけながら、綾崎へ向けて穏やかな声音で呟いた。

「良く頑張ったね、たった二人で。この人数キツかったろうに。こんなにボロボロになってまで……」

 優しくて包み込む様な声で労いの言葉を投げかけて。

「後は任せておきたまえよ。美男子の柔肌を傷つける奴は僕の憎むべき敵だ」

「柔肌言わないでください」


「後はこのガチホモ=メンズラバーズに全てを託して、体全部ベットで委ねる様に託してくれてかまわない!!」


「名前ツッコミどころあり過ぎですよ!? それと体は絶対に託さないですからね!? っていうかさっきから強調的になりまくってませんか、メンズラバーズさん!?」

 そんな綾崎の言葉を背中に受けて毅然とした態度で佇む。

 ゆるやかに流れて全てを受け流し耳障りのいい言葉だけ飲み干す様な風のごとく佇む青年の名はガチホモ=メンズラバーズと言った。

 メンズラバーズは手を小さく胸の前で掲げたかと思えば唐突に二冊の書物を握っていた。

 何時の間に出したのか――それは定かではないが、定まった対象に彼は言葉を投げかける。

「綾崎君」

「……何ですか?」

 頼もしく勇ましい笑みをふっと甘いフェイスに浮かべて、

「この戦いが終わったら――君のキュートなセクシーパンツを見せて欲しいな」

「お断りですよッ!!」

 締まらないままに戦いの火蓋はなお過熱気味に落とされた。

 暴風で船が揺れた際に端っこの方へ転がって放置気味な五十嵐雷を置き去りに。

 暴風の様な変態が戦いを引き継いだのであった。



【続】


__________________________________________________________________________________


という事で嘘を吐いてみましたっ!!

五十嵐「俺の見せどころぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」

綾崎「僕も特に何もないんですが……!?」

ふっふっふ。前回更新しながら私はこう思いました。

『やっべ、打開策どうしよ……』

とねっ!!

五十嵐「何を考えなしに執筆してんの!?」

綾崎「しかもとんでもなくフライング、文字通りフライングしてオリキャラ出現しましたもんねー……」

私もよもや、一番初めにフライングするキャラが彼だとは全く思わなかったよん☆

……しかし『面財符』のスキルも中々どうして書いてて愉快やなぁ……。

五十嵐の『蓄電記』も強力なスキルなんだけれどね……何分、本人が中々どうしてやられてくれるから私もびっくり。

五十嵐「俺の所為なの!?」

兎にも角にも次回はそうですねー。

脱出できるのか否か、果たして仮面で固くなった五十嵐君の命運は。綾崎君の今後はどうなるのか。そして空気を読まず天真爛漫な双子姉妹なにやってるのと思いつつ。

それでは次回!! よろしくなのですー♪

そして新春もよろしくだぜぃっ!!!