Re: 第六話『闘争ランナウェイ』 ( No.13 )
日時: 2012/12/28 00:52
名前: 迅風

ぷっちゃけ今回更新したのは李薇さんと連絡取れた嬉しさから執筆意欲復活ってのが大半なんだよね。正直な話。

やっぱり李薇さんとまた逢えたの嬉しいのですよー……♪

26日はいいことづくめだったですよ……!!

そう言えばハヤテの新アニメやるね、まただよ、どんだけやるのさ、嬉しいじゃないですかと叫びつつ。

特に進展もなく進む本編をどっぞいっ!!


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 第六話『闘争ランナウェイ』


        1


 ――アレは白桜

 ――正義を成す為の剣よ

 遠い記憶の彼方に響く声の主は確かにそう告げていた事を思い出す。

「…………」

 手探りに鷲掴み、黄金色に輝いていた頃の記憶がそう告げる。その記憶に明確に刻まれている出来事が綾崎の脳内で白光するごとく輝きを取り戻している現在であり現実。

 何故。どうして。

 そんな疑問が次から次へと湧き上がっていた。

 確かに五十嵐雷は告げていた。この船には大富豪から盗んだ品々もある、と。しかしまさかコレを盗めたと言うのだろうかというのが彼の心境だ。『白桜』――それは普通の刀剣ではたりえない。明確で、詳細な実態など綾崎は一つも知り得ていないのだからコレが如何に凄いものなのか等は存じ上げていない。

 しかし、だ。あの全てが異質な空間。今思い出しても日常ではありえない空間に存在していた、あの刀剣が易々と盗める様な代物なのかどうか。疑問が尽きない。

 これはそんなに容易く盗める品だったのか。

 そして何故、これが『王族の庭城』から外へ出ているというのだろうか。

「……何で、こんな場所に……」

 信じられない心地で柄をそっと手の平で触れる。

 その瞬間に微かに指先から全身へ駆けて電気が走った様な痛みを感じた。けれどそれは一度きりで、しかと掴んだ時にはすでに何の違和感もなく手に包まれていた。

 いや、違和感がないと言えば嘘になる。

 正確にはむしろ高揚感が身を包んでいた。勝利を勝ち取れる――、そんな感情が。

「……白桜……」

 掴んだ刀剣の名前を優しく呼んだ。当然返答が返ってくることは無い。

 その刀身はかつて庭城で見知った姿よりも若干濁った様なくすぶった様な白色で。幼少期の目には美化されて映ってしまっていたのかな、と僅かに内心で首を傾げる。

「記憶の中のはもう少しこう……綺麗だった気がしてたけど」

 けれどあの頃から一〇年間経っているのだし、こんなものなのだろうかと考えた。全ては時間と共に朽ちてゆくのだから白桜も一〇年の経過で幾分燻ってしまったのかもしれない。

 そう考えると何処となく虚しく感じるものがあったけれど、今は感慨に浸っている暇があるわけではないのだから。綾崎は剣を手に携えてスクッと身を立ち上がらせた。


 綾崎が身を起こすまでの間。こちらでは尚も緊迫裂帛の対決が繰り広げられていた。

 五十嵐雷の猛る雄叫び、裂帛の気合と共に青竜刀は横薙ぎに振り抜かれた。

 けれどその動きを即座に看破したガルガーノは斬撃に怯えた様子をみせず、ゆらりと背中から後方へ逸れる。眼前の虚空をただ虚しく切り裂く青竜刀の軌跡を見据えた彼は振り抜いて隙が出来ている五十嵐へと真下から斬撃を突き上げた。

 顔へ、右目へと迫り来る白刃。

 五十嵐は視界に捉えたそれを押し寄せる恐怖と共に顔を左へ即座に逸らす事で回避する。右目に刀が突き刺さっていたらと思うとぞっとして仕方がない。決して状況を見極めての行動ではない。恐怖からのどうにかによる回避であったのが事実だった。

 五十嵐は日本在住の頃にある程度喧嘩慣れしている。

 親の顔など知らず育ったという特殊な環境の中で育ってきた事はここでは割愛するのだが彼は日本では中々に喧嘩慣れしていた不良ではない少年である。親も無く家も無くの人生を過ごしてきた彼に何かとふっかけてくる人種は絶えなかった事もあり彼はイザコザつけてくる厄介者の対応にして着実に武力を上げていた。

 ――が、命懸けの戦いなどこれが初めてで。今現在もどこか平気だろう、という楽観した気持ちがある事を彼は否定出来なかった。

 しかし目の前の光景はどこまでも本当で。

 一歩間違えれば事実『死ぬ』という事も漠然と理解していた。

 今はそれでいい。

 今に理解してしまえば多分、脚は膝から笑って崩れて。腕は手元から震えて。何をすることもままならなくなる気がしたから。だからこそ五十嵐は今はただガムシャラに戦った。

「ぬんっ!!」

「――っち」

 金属同士の激しい火花の散り合い。反響する金属音。

 未だに、何だろうかこのバトル展開は、と自分で苦笑を零しながら一切手は緩めない。このガルガーノという男、ふざけ気味に倒せた二名とは違っていた。一撃も喰らわせる事が出来ない――。なのに自分は徐々に小さいが確かに一撃を喰らっているのだ。

「ふん、日本人の癖にやるなボーイ!!」

「アンタこそ皿で防ぐとかどうかしてん、ぜっ!!」

 掛け声と共に振るった青竜刀。その一撃を難なく皿でさらりと受け流すガルガーノの技量を見て五十嵐は素直に凄いと感心を抱いた。同時に何で皿を使うんだよと問い掛けたくもなったが。

 しかしこのままでは埒がが明かない。

 むしろ自分が倒されるのが時間の問題であろう、というのが五十嵐の客観的な結論であった。自分は徐々に押されてくる。その未来が少しずつ迫っているであろう事を五十嵐はどうしようもなく実感していた。

 このままではガルガーノ、という男に敗れる、と。

 そしてその思考が命取りになりかねなかった。

「どうした余所見の様に考え事か少年ッ!!」

「いっ!!?」

 ヤベッ、と小さく自然に洩れる声と同時に五十嵐は鉄同士で削り合ったかの様な音を響かせ切迫、迫る白刃をギリギリ躱す。少しだけ遅れてプシャッ、と炭酸飲料水を空けた際の音の様に気楽な響きが耳元に響いた。肩に血がじゅくっと滴る。

 つ、と微かな痛みに顔をしかめたその瞬間。

「喰らえ八閃の奥義……!!」

 ゆらり、とガルガーノが不可思議な姿勢で動きだした。まるで何かをすくい上げる様にも優雅にゆらゆらりとたなびく様な動き。

「『エイト・プレート・ブレード』……」

 その言葉と共に鋭い眼光。そして刀剣の切っ先が牙を剥こうと五十嵐へ向く。

 威圧感、と言うのだろうか。五十嵐は人生で二度目となる恐怖と呼びうるだろう感情をどうにか押し殺しつつ混乱しようと『らっせーらーっ、らっせーらーっ!!』と叫ぶ脳内の声に『何でこの場面でそんな混乱してんの俺!?』とツッコミ入れて冷静になるべく必死に思考を張り巡らせつつ、

(どうしたらいいよ、おい……!!)

 打開策を考えるんだ……。五十嵐がそう嘆いた瞬間であった。

「五十嵐君っ!!」

 後ろから走り寄る綾崎の姿が目に映った。手には見た事のない白い刀剣を握っている。意識を失っているのではあるまいか、と若干懸念していた考えは払拭され目に映るのは頼もしい援軍かどうかは定かではないが確かな味方であった。

「綾崎っ!!」

「今、援護しますっ!!」

「強いぞ」

「見てたらわかります。十分に」

 短いやり取りを行った後に綾崎は手に握る白い剣の確かな感触を抱きながら駆けた。全身が今まさに加速する。五十嵐が綾崎の突撃を視界でとらえた後に即座に青竜刀で一撃ガルガーノへ喰らわせてからの離脱。一度防御を行い攻撃後の隙を生んだガルガーノへ目掛けて猪突猛進――否、疾風猛進である。

「――疾ッ!!」

 そして放たれる疾風の様な一閃。袈裟切りに振り抜かれた一撃がガルガーノの刀目掛けて加速する。大して刀の柄で一撃を防いだガルガーノは切っ先を容易く弾こうとした。

 しかしその柄が壊れる様な音と共に切断される。

「なっ……!?」

 思わず、といった表情で目を見開いた。鉄ごしらえの柄が、相手が切り裂こうとしたわけでもなくこちらが受け流そうと動かした事で切り裂かれた実態――白桜の刀身自体の異様な切れ味に驚愕を示す形となった。

「うぇっ……!?」

 対して綾崎も驚愕を示す。異様な程に切れ味が良かった事で、白桜を対人戦闘に用いるとマズイのでは……という意識さえ生まれたほどだ。

 しかしここで驚いている暇は綾崎にはなかった。

 相手が驚いているこの瞬間を逃さずに打倒せば、ガルガーノをどうにか出来た事だろうが不覚にも自分の獲物に驚いた彼にはそれを行えなかった。

 それを行ったのが五十嵐だ。その一瞬を見逃すはずもなく五十嵐が即座に距離を詰めた。

 手に握りしめる黒くて丸い物体に付いた持ち手――それを握りしめて五十嵐は告げた。

「悪いが……」ニコッと笑って「ここらへんで気絶しおいてくれやっ」

 言葉の最後に星でも付きそうな表情で手に握った武器を振う。

 相手の顔面に平べったくも確かな硬度を兼ね備えた物体が痛烈な痛みをガルガーノへもたらした。《パァンッ》という若干間の抜けた音と共にガルガーノが「Oh……」と短い悲鳴をあげて地面へと崩れ伏す。

 存外呆気なく倒されたガルガーノを綾崎はしばし呆然と見守った後に。

「……どれくらいの力で殴ったんですか?」

「大体、八割くらいだな」

「痛そうなわけです……」

「なー」

 人類共通の痛みがある。平手。そのぺしっと言う痛みは時折握り拳による攻撃が効かない相手にすら痛みを味合わせる。その意味で、この形をした武器は――的確だった。

「でも……フライパンで倒されるとか相手が悲しいですね」

「ははは。まーまるでコメディみてーだよなっ♪」

「いえ、まんまコメディーでしたが。相手に本当、同情湧くレベルで」

「そうか?」

 気にするなよーっと言わんばかりの気楽さで手に持ったフライパンを愉快にポンポンと弄ぶ五十嵐の姿を見ながら綾崎はしょうがないなぁとばかりにため息を吐いた。

「っていうか結局『プレート・ブレード』とやらの奥義視損ないました」

「いや、見なくていいだろ。奥義なんて言う程、厄介なもの発動させるのは億劫だぜコノヤロウ」

「でも犠牲にあるのは五十嵐君だけで済んだでしょうし……」

「俺生贄扱いにされんの!? そんなの視損なっといていいだろ、友人の死を見る羽目になってもよかったとか非道な事言うなよ!?」

「見損ないましたよ、五十嵐君」

「なんでそこで見損なわれたんだ俺!?」

「五十嵐君の逆境からの勝利を信じてたのに……見損ないましたよ、視損なったですし」

「ええー? 俺、結構一応ばかりに逆境から勝利しなかったか?」

「僕が手伝ったじゃないですか。ジャンルはむしろ『友情の勝利』って奴ですよ?」

「いや、確かに決め手はお前の攻撃にあっちが驚いたのがあるけどさ。トドメは俺こと五十嵐雷だったはずだぜ?」

「そのトドメもフライパンですからね……」

「なんだよもう、だったら何を武器に勝てば良かったんだっつの!?」

「ハンマーで、こう……ガツンと!!」

「インパクト大終わり方だな!! 自分でもやり直ししたくなっちまったよ、うん!!」

 しょうがねぇなぁ……、と嘆息気味に呟きながらてってってっと速足で駆けて行き武器のごった返す場所の中から適当に発掘する五十嵐。その手には重量感たっぷりと目で見ただけでも感じる巨大なハンマーがあった。

「うし、コレでいいか」と小さく呟いた後に肩に担いで、どうにも重いのか少しばかり足がふらふらしているながらもガルガーノの傍へ寄ってゆくと「テイク、つーっ」と元気な明るい声で告げて《ドズン》と音をあげてガルガーノの頭部に落とした。

 その際にくぐもった「ぱーりぃっ!?」と言う悲鳴を横に、

「んじゃこれでオッケーって事で!!」

「何か死体を冒涜した気分になってきましたけどね!?」

「ッ大丈夫。死んでねぇから」

「さっきまではね!! 今はどうだか知りませんけどね!!」

「何だよ、ハンマー推奨は綾崎の案だろ?」

「確かにそうなんですけどね。そうなんですけどやり直すとは思いませんでした」

「やり直す機会を与えてくれてありがとうな」

「何でしょう言葉だけ見たら悪事に働いていた人が今までを振り返って善人になるべく動き始めて心を入れ替える切っ掛けになった相手に対して感謝の言葉を述べたシーンみたいな気がしますけど僕がやったのトドメにトドメなオーバーキルしただけなんですが」

「悪に遠慮なんていらねぇんだよ」

「悪事を心の底から憎む人の発言ですね。僕も両親に今後、遠慮する気がなくなった分共感出来ちゃうのがなんとも世知辛いですが」

「それに良く言うだろ。悪には正義の鉄槌をってな」

「文字通り鉄槌制裁してましたしねっ!!」

 おかげで向こうには死んだのではないかという男ことガルガーノの姿が転がっている現在なのだから。

「しかし兎にも角にもさ」

「何ですか?」

「いや、ちょいとした疑問っつーか問答? 訊きたいんだけど……」

 それ何なんだよ? とばかりに指さして問い掛けたのは綾崎の所持している白い刀剣。即ち白桜の事を指し示す他に無かった。

「驚いたっつーか驚嘆したっつーか。ああもスッパリザッパリスッキリとこの男の刀をサクッと切り裂いちまうとか普通の剣じゃねぇだろ、ソレ?」

「ああ……」

 事情を知らない――、と言っても生憎自分もこの剣の事情など露ほども微塵も程々にも知っていないのだから何とも答えようがないのだが。

 五十嵐雷の一般的価値観の目から見ても異様に映った事だろう。

 この白桜という剣の異様な強さ、切れ味に。斬撃以上に刀身の凄まじさ足るや。

 綾崎本人自身驚いた。軽く振り抜いたつもりなのにオーバーキルよろしくオーバー斬るを起こしたのだから。使い手の意思を反映しすぎな一撃であった。少なくともあんなサックリと刀を寸断してしまう様な剣は少し扱いに困る気がして仕方がなかった。

 使い辛い、と言うのが綾崎の内心だ。

「……そうですね。まぁ、この剣は……ある大富豪の場所から盗まれたものじゃないかなってくらいしか知りません」

「いや、所持者を辿れたこと自体が驚きなんだが? なに、知り合いか何か?」

「知り合い……と言えば知り合い、ですね」

 その問いに対して綾崎は自嘲する様な笑みを内心浮かべながら返答する。

 絶好の中だったが絶交の間柄である知り合いだった事は違いない関係性だ。

 今はもう知り合い……という間柄で答えるしかない関係。

(……知り合い、か)

 幼稚園の頃の恋人と言えるのかもしれないが一〇年刊の経過で今ではどんな感情でどんな表情でどういった挨拶を交わせばいい仲なのかも定かではなかった。

 そしてそんな綾崎の暗く沈んだ表情を見ていて五十嵐は(……ヤベ、地雷踏んだかね?)とほほに冷や汗一つ垂らしながら見守っていたが、やがて、気まずくなったのか話題を変えよう、という気持ちのままに言葉を発した。

「ま、まぁ剣の事はー置いといてーですねーっ」

「気を使った感がバリバリですよ五十嵐君」

「ははは、突っ込むなよコノヤロウ」とドスの訊いた声で釘を刺しつつ「ま、何にしてもここでくっちゃべってる時間もねぇし」

 ――さっさと早速、あの子等助けとこうぜ

「……そうですね」

 神妙な顔立ちで綾崎もそっと頷く。

 白桜の事で色々問答するのは後だ。今はあの幼い少女二人救出してさっさと離脱した方がいいだろう。現在、武器倉庫で倒しておいてある三人の男がいつ復活するかもわからない。もしかしたら永眠してるのもいる気がするが、まぁ人殺しはなるべくなりたくないので失神してると言う事で自己完結させておこう。

「まずは一応武器……綾崎はその白くて固くて立派なやつでいいな?」

「ねぇ、何で無意味に嫌な表現で言ったんですか?」

「俺はどうしよっかなぁ……。石斧壊れちまってるし……」

「石斧にこだわりますねぇ!?」

「コレでいいかな……。二形態の武器だし」

「スラッシュアックスはモンスター専用だから人間相手に使わないでください」

「嫌だな、それを言ったら武器自体を人間に使っちゃイカンだろ」

「そこで平和主義の人みたいな発言しても説得力ありませんよ僕ら!!」

 そんな綾崎の言葉を背中で受け止めつつも最終的に五十嵐は手頃なサイズのアックスをガシッと掴んでトンっと肩に乗せて振り返った。

「斧、使うんですか?」

「おうよ。またはハンマーで可だったんだけどな」

「それはまた男らしい武器を」

 綾崎だったら選ぶ武器は大概、剣か拳銃程度であろうから武器に斧使う五十嵐の姿になんとなく新鮮さを抱きながら、

「何にせよ武器選んだんでしたら、早く」

「おうよ!!」

 ここから脱走を急がなくてはならない。二人はそれぞれ刀剣一振り、斧一挺を手に即座に動き出すのであった。

 少女らを救いだし。

 そして明日も生きていてやる、という生への執念を燃やして決意を抱く。


        2


 血で血を洗う決戦が。一歩及ばず、ここではすでに起きていた。

 否、それは闘争。

 燃え上がる炎が周囲を取り囲んでいると錯覚する様な熱気を醸し出しながら二人は闘争心むき出しで互いに鬩ぎ合い、遥か高みを目指すごとく闘争本能を今まさに開花させていたのである。

「今だっ。私はマジカルカード『愚か過ぎた埋葬』はつどーっ!! 墓地から初登場でトラップカード『撃竜槍』の餌食となってやられたモンスター『老山ドラゴン・ラオシェンロン』を手札にもどーすっ!!」

「ふふん、戻したからどうしたってのさミッキー。私の『黒幕魔術師ラスボス・マジシャン』の漫画とかではガチで負傷になるけど現実は安全だよねな直接攻撃は止められないよーっ!!」

「止めないもんねーっ。止めないで留まるだけだよ。トラップカード『信号無視っていけないよね、ちゃんと道路交通法を守らないと交通事故に遭った際に被害者面して甘んじられないよ気を付けようね!!』を発動ッ!! このトラップが発動したターンの攻撃を保留する事が出来るんだよ、そして三ターン先へ先延ばし出来るのだーっ!!」

「何だってー!? くぅ……そこでそうくるとは……ねっ!! 私は場に伏せカードを二四枚セットしてターンエンドだよ!!」

「それじゃあ私のターンだね。ドローっ。じゃあまず私は引いた一〇六枚のカードの中からこのカード『親子どんぶり』を発動し、場の『厳重王カンキン』を生贄に――」

「決意どっかに吹っ飛んだわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 どらっせーいっ!! と言う叫びと共にテーブルがちゃぶ台返しよろしく返され、卓上にあった数千枚のカードがばらばらと無造作に散らばった。否、散らばられた!!

 双子少女の『わきゃぁあああああああああああああああ!!!?』と言う悲鳴が上がるも五十嵐は気にした風も様子もなく怒鳴り声を上げる。

「ねぇ何なんだよこの状況コノヤロウ!!?」

「カードゲームの他に要素ないですよ、五十嵐君」

「冷静にツッコミ入れてる場合かいっ!!」

「うう〜。コノヤロウなお兄ちゃん酷いです〜」

「口癖なのは自覚してるが何か罵倒されてるみたいだな俺!! その呼び方止めて!?」

「発狂お兄ちゃん酷い酷いーっ」

「発狂言われる筋合いどこからやってきやがったぁ!! 発狂じゃなくて発驚してんだよ俺はぁ!! なんだよ、この現状!? 何で俺達、すっごい決意胸に帰ってきたらのんびりとカードゲームで和気藹々してたのこの子等!?」

「それはねそれはねー」と片方の子の発言の後に「ひまだ――つまんなかったからだよ!!」

「うん、言い直した理由を知りたいなお兄ちゃん。ニュアンス大差ないんでさ!!」

「まぁその遊びのおかげで僕ら、この辺を守ってた衛士の隙を付けましたけどね……」

「主に幼女二人が和気藹々と遊んでる光景を見てほわっとした安らぎに満ちた優しい笑顔の方々の後頭部を奇襲するという最悪な形でな!!」

「人でなしだね、コノヤロウなお兄ちゃんは」

「自分で想いそうになるから言うなっ!! って言うか散々ツッコミしたかったんだが、何だったんだよ、そのカードゲーム!! ツッコミどころ多すぎるんだよ!!」

「確かカードゲームで有名な『デュエルバケモノーズ』だったと思います」

「何で普通に英語で通さないかね後半!!」

「と言うか一ついいですか五十嵐君?」

「何をだよ!!」

「そんなに大声でさっきから喋ってるとですねー……」

 口元に手を当ててつーっと頬に冷や汗を垂らしながら視線を後方へと向けた綾崎が、

「……声を訊きつけていっぱい人が集まってきちゃうと言いますか」

 たくさん。総勢一五名はいるだろう人数を見ながら告げた。

「…………」

『…………』

 五十嵐と絡み合い交錯し合う視線と死線。

「綾崎」

「ええ」

「死んでくれ」

「そこは逃げるぞを期待しましたよ」

「なら突破口開くぞ、このやろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 どちらか片方が囮となって逃走する作戦あるいは犠牲となって小を切り捨て大を救うという作戦は失われた。残る道は強行突破ただ一つ、故に五十嵐雷、綾崎ハヤテの両名は武器を手に勇猛果敢に死の淵へと飛び込んだ。

 そんな彼らの生涯を文字通り障害として佇む者達。

「勝てると思うなよジャップ。僕の力『銃勝手技(スケルツォマーケティング)』の前に弾痕に伏せる未来だけを思い描いていろっ!!」

 赤色の目と金髪の青年、銃器の火薬量を自在に操れるディエチ=トッレ=デル=グレーコ。

「安心しろ一秒の苦痛も貴様らは得ないわ。俺様の『狼咳者(ウルコフボーイ)』の雄叫びが一瞬で貴様らを地獄へと吠え飛ばすからなっ!!」

 黄色の瞳にボブカットのスタイルの整った美女、衝撃波を操るグリード=アルタムーラ。

「いやいや君達だけに美味しい思いはさせられないよ。ここは僕にも『追いしい想い(トリップトリッキー)』を彼らに味合わせてあげる権利がある」

 黄緑色の目、ロングヘアーの男性、夢遊病を引き起こす遊遇者、深長町追懐(ふこさちょう ついかい)。

「小僧どもは黙ってな。ここは古株のわっしゃに譲れい。『優先的な座席(プライドシートベルト)』の恐怖を味合わせてやるが一興よ」

 オレンジ色の瞳と白髪交じりの頭。ずんぐりとした体躯。陣取りを行える信楽厚遇(しがらき こうぐう)。

「おいおい爺さん。独り占めは良くないぜ。俺にもつまみ食いの一つはさせろや。『横暴な横槍(インタラプト)』の力に震え上がる姿見たくねぇか、なぁお前ら?」

 紫色の瞳、チャラけた服装の金髪青年、あらゆる物事に一石を投じるアージョ=サン=セヴェーロ。

「うひひひ。つまらんですみん、そんなのみん。それよりもミーの『夜中の一人歩き(ナイトウォーキングペイパズ)』による世界レベルの悍ましさに落とした方が面白いのですみんっ」

 黒色の目、黒髪の汚らしい外見の少年。死んだ魚の様な目でうひひひ、と呟くは幻想を操るオスクーロ=コモ。

「君ら共々に落ち着きたまえ、よ。良く思考してみるがいい。諸君の力が発して本当に面白可笑しい事態は生まれるかどうか。――否、真に愉快痛快な現実を闊歩するならば僕の『面財符(マスクドレスアップ)』の出番ではないか――等ね」

 メガネをかけた知性的な印象の黄緑色の瞳と桃色の頭髪。特殊で奇抜なお面を操れる安栖里仮(あせり かり)。

「どいつもコイツもつまらねぇZE。テメェらよりも俺っちの『奇せ替え人業(ヒューマンモーション)』の方が遥かにいいってもんだZE?」

 多量の数の西洋人形を体のあらゆる場所に縫い付け舌をんべーっと出して挑発的な態度の黄緑色の瞳と赤色の短髪。奇抜な衣装の仕立て人バンボラ=サッサリ。

「ウェイト。自信満々なお前らに告げてやろう。貴様らよりも――」

 更には出番を待ち望む『待ち暴け』ことチンギアーレ=テルニ――、

「何か良くわからん奴らがざわざわうるせぇえええええええええええ!!!」

 しばらく続きそうな名乗りに対して五十嵐はブチギレ気味にツッコミを入れつつアックスで鋭い突っ込みを叩き込み『げぼぉっ!!?』と言う叫び声、断末魔を響かせながら、

「そこどきやがれぇええええええええええええええええええええ!!!」

 般若の形相で突貫、情勢を薙ぎ倒しゆくのであった。

 そしてそんな光景を見ながら、

「何ていうか破竹の勢いで突き進んでるけど……前途多難に不安ですね何か……」

 雄叫びと共にアックスを平面で叩き付ける五十嵐に対し綾崎は「やけっぱちですね……」と苦笑いを零す最中で双子は楽しそうに背中合わせにくるくる回りながら「あははーコノヤロウさん凄いねー♪」「だねーサッキー♪」と愉快に輪廻していた。


        3


 この比較的大規模な船内の中枢。

 他の部屋と比べたら明らかに質が違い、周囲を一流艦船の様に機械、コンピューターが稼働している、どこの戦艦だと問い掛けたくなりそうな中央指令室めいた室内では現在一人の船員の報告を館長たる男性がどっしりと司令官を思わせる佇まいで椅子に鎮座していた。

「艦首!! 脱走者です!!」

「艦首じゃねぇ。ゴンザレスと呼べぇっ!!」

「ゴンザレスは別に頭に対する敬称とかじゃないですよ艦首!?」

「でもなぁ……。格好よくね? ゴンザレスとかよ?」

「確かに強そうなイメージはありますが!?」

「もしくはバルバでもいいんだよなぁ……叫びたいよなぁ『我こそはバルバだっ!!』とか格好よくね?」

「それは別の方に任せておきましょう!!」

「だがまー。名称うんぬんは今はいいや。それよりも何だって? 脱獄者?」

「あ、はい……!! 商品として借金のかたに入手した男二人幼女二人ですが……先に自由になった男二人によって四名共に脱走をしたようで……」

「ああ、流石こういう時の男ってのは頼りになりやがるんだなぁ」

 は〜参った参ったね〜、と気だるそうに首を傾げて煙草を吸っていた艦首はしばし「ん〜〜〜〜……」と考え込む様に唸った後に。

「いいや。最悪の場合殺せ。捕まえられるんならそれもそれでいいが、最悪は殺せ」

「構わないのですか……?」

 大事な商品ですが……、と小さな声で零す船員。

「構わんだろう」よいせっと椅子から立ち上がりながら「逃げられる方が不利益ってもんだ。逃げられるくらいだったら殺せ」

「了解しました。……ああ、ですがもう一つ。逃げる際に武器倉庫から武器を二つ程盗まれたそうで……」

「……ほお」

 武器まで奪って逃げるとは計画犯だな感心する、とでも言いたげな声を浮かべた。

「ってなるとウチの連中と少しは戦りあえちまうかもしれねぇか……」

 くつくつと楽しげな笑い声を零す。けれどその笑い声が唐突に鳴り止むと思い出したかの様な表情を浮かべて。

「さて、ところで一つ尋ねておくが……」

 ――盗まれた武器は何だ?

 と、少し語調の強い声で問い掛ける艦首。その刃物がすっと首筋に触れたかの様な声にぞくっと悪寒に駆り立てられた心地ながらも確かな声で船員は答えた。

「確か……、日本の例の家秘蔵の一刀……シロ、ザクラ……だったかと」

「……そうか」

 ふむ、と顎に手を添えて考え込む様子を見せた後。

「素手で持っていたか?」

「? ……そりゃまぁ。普通にブンブン振ってましたね」

「どっちが?」

「貧相な顔の方でした。水色の頭髪した、こう……貧相な顔立ちの」

「……なるほど」

「……?」

 一人で得心がいったかの様に頷く艦首の表情を見ながら不可思議そうに船員は小首を傾げた。いったいなんなのだろうかと悩むもまるで何も見えてこない。

 そんな表情を浮かべている船員に対して艦首は、

「ああ、報告は以上だな? んじゃ、お前もさっさと現場へ向かっておけ」

「あ、は、はいっ!! それでは私はこれでっ」

「任せたぞ。俺も後から、向かう」

 そう告げて船員を室内から駆り出した後に艦首はどすっと音を立てて席に座り直すと腕組みしながらニンマリと笑みを浮かべて呟いた。

「アレを素手で、か。大概の奴は激痛で持てない代物に関わらず、素手で……となると、だ」

 成る程なぁ、と艦首はくつくつとした笑いを零しながら幾度か頷く。

 そして小さな声で「さて、そんな奴らは今、どうしているかね」と呟きながら艦首は椅子から再度立ち上がり、コツコツと足音を鳴らしながら指令室から姿を消したのであった。



 同時刻。磯の香り、潮の香り、海の匂い。

 そんな芳しく、そして約二名にとって懐かしい匂いが鼻孔を強くくすぐる船の上。そこは現在進行形で船上であり戦場と化しており、そして――、

 圧倒的不利の独壇場であった。

「……追い込まれましたねぇ……」

「……追い込まれたなぁ……」

 総勢二一名の面々に船首に押しやられる形で追い込まれた四人。

「正直」笑えない、と言う想いを抱きながら「ヤバイんですけど……」

「言うなよ、綾崎。俺だってわかってるよ、ヤバイって……」

「一目で実力差がわかるのが嫌になりますよ……!!」

「一目散で逃げてぇよ俺だって……!!」

「目算しても逃亡は無理ですけどね僕ら」

「盲目的に未来が見えないもんなぁ……」

 先が見えない――と言うより、先が見たくない。絶望的未来を視たくはない。

 そんな想いとは裏腹にはらりと薄氷のごとく無情に、じりじりと迫る五倍近い人数に冷や汗を滝の様にかく五十嵐、そして綾崎の二人であったのだった。



【続】


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はい、以上何か無意味に無駄に風呂敷大きくしたようなしなかった様なだったね!!

いやぁ相変わらず何か妙に新キャラとか出るよねこの作品。

そして無価値に登場するキャラに一々名前を付けてるのだ凄いでしょう!!

まぁ兎にも角にもそこは置いておいて……次回でさぁどうなるな彼らなのです!!

しかし何だかんだ今回は結構危ないんだよなぁ……作者的に。

動き出すのは次回かはたまた次々回か……。

何にせよ次回もよろしくです!! それでは!!

……ちなみにカードゲームうんぬんは現実にはないよ、あんなカード!!