Re: 君と共に! 第一章 2月9日更新 ( No.39 )
日時: 2013/02/20 20:48
名前: 李薇

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第八話 繋いだ手が示すもの


 バヂィっ! という音が鼓膜に響く。

 アイは真っ直ぐ前を見据えながら、「くっ…」と小さくうめき声をもらした。

 正直言って、アイはもうまともに立てるような状態ではなかった。

 壁によりかかり、剣を杖のようにすることによってようやく立てるような状態だ。

 とはいえ、ここは空き地。壁がほとんどないのもまた難点だった。

 そんな状態でアイはちらり、とパートナーの結衣を見る。

 彼女には大した戦闘能力はないだろう。自分でも普通の女子高生と言っていたしそれは間違いない。

 そしてライにしても正直ランクで言えば全然下の相手である。

 が、今の自分の体力ではそんな余裕など一切ない。

「………、」

 肩で息をしながら、アイは真っ直ぐにライを睨みつける。

 彼女は左手をすっ、と上にあげた。その動作に合わせてぱぱぱっ、と彼女の周りに氷の破片がうまれた。

「………、」ライは少し目を細め、「…そんな状態で氷の破片をつくるとは…流石はクイーンだな」

「…ふん…。十分余裕じゃない…」

「貴様の方こそ、いつまでその態度が続くか?」

 ドバッ!! といっきに氷の破片がライを襲った。

 が、根本的に今のアイには力が足りていない。

 どんなに大量の氷の破片をつくっても―全く勢いがないのだ。

 それはアイ自身が一番、痛いほどよくわかっていただろう。

 ライはふっ、と笑って、

「…こんなもの、これだけで十分だ」

その言葉と共に、バチバチッ! と電気が弾ける音がして、次の瞬間にはすべての氷の破片が撃ち落されていた。

「…ッ!」

「どうした? やれたとでも思ったか?」

「………、」

 こうなったら、直接切りつけるしかない。

 おそらく、今は氷の遠隔操作などは不可能だ。

 上手く扱えるのは自分の体くらいだろう。

 無論、フラフラの足を見るとそれすらできない可能性も高いが。

『やるしかない!!!』

 ダッ!! とアイはいっきにライまでの距離を詰めていく。

 が、バチンッ! と電光がアイの足元ではじけると、グラッと体が揺れた。

 不意に視線を横にそらすと、ライの横側にいる結衣がくすくす笑っている。

 彼女が放ったのだろう。…パートナーに目を向けることすら今の自分にはできていないのか…とアイは歯噛みした。

 神のパートナーにはその神の能力が少々付加される。そう、ハヤテが氷結能力を使えたのと同様に、結衣も少々雷を扱えるのだ。

 そんな基礎的なことすら忘れていた自分が情けなくて仕方なかった。

「考え事か?」

「ッ!」

 よく見るといつの間にかライが目の前にいて、紫電を散らす剣を振りかぶっていた。

 反応できたのは本当に幸運だっただろう。

 氷の剣でなんとかそれを受け止めたものの、そのまま薙ぎ払われ後ろの壁に頭から激突した。

 頭の痛みがさらに増す。視界がさらにグラグラと揺れ始めた。

 でも、氷の剣で防げなかった今頃真っ二つだっただろう。

「…ッ」

「………、まだ闘争心が消えないのか」

 ライは、やれやれとため息をつきながらもう立つことすらできないアイの前に立った。

 その手には氷の剣。先ほどの攻撃で、自分が落としてしまった剣だ。

 ライはそれをゆっくりと振り上げて、

「なんなら教えてやろうか。お前の前のパートナーが…どんな気持ちで死んだか…。そのために、お前の剣で…お前を刺してやるよ」

「………、」

 キラキラと透き通っている自分の剣を見てアイはきゅっ、と唇を噛んだ。

 こんなピンチの状態で、アイの脳内に浮かぶのは1人の少年。
 
 ―綾崎イクサ。

 が、彼はこない。くるはずがない。これない。
 
 理由は単純で、彼は死んでいるから。―自分が殺してしまったのだから。

 涙が出そうでいて、出なかった。ここで泣くのは何かへの裏切りのような気がした。

 そんなことを考えている間にも氷の剣の矛先がこちらを狙っていた。

「安心しろ。俺は優しいからな…せめて、痛みなどないよう―…一瞬で終わらせてやるよ…クイーン!!」

 ぶんっ!! と剣が虚空を切った。

 もうすぐ自分の頭上へ振り下ろされる。

 もう、終わりだ。防ぐ術も逃げる術もない。

 終わった。そう思いながら彼女は最後に―1人の少年の名を呟いた。

「…イ…クサ………」

 次の瞬間。

 待っていたのは痛みでも残酷な終わりでもなんでもなかった。

 耳に入ってきたのは、ガッキイイイイン!!! という鈍い音。

 聴覚のすぐれている彼女にはわかった。剣と剣がぶつかり合う音だ、と。

「…え?」

 最初は、何が起きてるのかわからなかった。ただ、疑問ばかりがうまれてきた。

 何故、自分はこのままなのだ?

 何故、終わらなかった?

 何故、少し体力が回復している?

 そして…何故…、


「大丈夫でしたか? アイさん?」


 ―水色の髪の少年が…笑顔でライの一撃をおさえている?

 その謎が解ける前に、ライが舌打ちをした。

「…お前は…」

「はい。アイさんのパートナーの綾崎ハヤテです」

 ハヤテの手には、1つの剣が握られている。

 緑色の柄のそれは、確か…風を司る神の持っている剣だったはずだ。

 ということは…フウがハヤテに貸した剣だろうか、とアイは判断した。

 ハヤテは、ぶんっ!とその剣を振って、ライを薙ぎ払う。

 その眼には真剣さが灯っていた。

「チッ!」

 ライがいったん後ろに退いたのでハヤテはくるっとアイの方へ振り返った。

 そして、何のつもりかそっと彼の左手を差し出してくる。

「大丈夫ですか?」

 あまりにも優しいその声に、不意に泣きそうになってしまった。

 それでも、アイは涙を堪えながら、「………、なんでよ…」と問いかける。
 
 それに対して、ハヤテはきょとんとしていた。

 そんな表情を浮かべられる理由も全く分からなかった。

「私あんなにひどいこと言ったのに…! お前の兄を殺したのに…!!」

 悲痛な叫びが、その場にこだまする。

「それなのに…どうしてアンタは私を嫌いにならないのよ!! なんで…助けになんか、きたのよぉ…」

 最後だけ、壊れそうなほど小さな声だった。

 歴代2位の実力を持つ女神であるのに、この時のアイは―ハヤテには小さな子供が泣いているように見えた。

 一体どれだけの痛みを背負ってきたのか、それを一瞬で感じさせるくらい、悲痛な叫びだった。

「………、」

 ハヤテはわずかに黙る。

 なぜ自分を嫌わないのか。彼女がそう問う心理が、彼にはわかった。

 きっとそれは、昔のハヤテと同じ考え方だったから。

 信じては裏切られ続けてきた、彼女が出した残酷な結論。

 ―何かに期待して傷つくなら、最初から期待しなければいい。

 ―何かを失って傷つくなら、失う何かをつくらなければいい。

 ―後になって裏切られるなら、最初から嫌われていればいい。

 ハヤテも昔、そう思っていた。全てに絶望した“あの日”にそう思っていた。

 今のアイの姿は―まるで昔の自分を見ているかのようだった。

 でも、今のハヤテはこう思っている。

 それでは何も変わらない。前に動きだすことなんてできない。

 そう教えてくれた人たちがいたから、―今、ハヤテはここにいる。

“左手ぐらいなら、私が貸してあげますから”

“私の執事をやらないか?”

 脳内に2人の金髪の少女を思い浮かべつつ、彼はもう一度左手を彼女の前に差し出した。

 そして、暖かい笑みを浮かべながら、

「…簡単な話ですよ。だって、僕たちはパートナー、なんでしょう?」

「………、」

アイは青色の瞳をゆっくり、大きく見開いていた。

 しばし、その場に沈黙が続いた。

「…もう一度、立ち上がりませんか?」

「………、」

「僕の事を今は信じられなくても構いません。ゆっくり僕の事を知っていって、それでこいつなら信用できるって思ってからでも良いから…もう1回…前を見て歩いてみませんか?」


 その問いに、彼女は口では答えない。

 ただ…パシンッ、とハヤテの左手をとった。

 
 それで十分だった。

 きっと、これ以上の答えなどなかった。

 彼女は信じてくれた。彼女は認めてくれた。つないだ手が、それを証明していた。

 ハヤテはにこり、と笑うとアイをゆっくり支えるように起こした。

 そして、敵を見る。―今度こそ、横に並びながら。

「…よし。体力も少しは回復したわね」

アイは、そう言うと右手を上に挙げて新たな氷の剣を生成していた。

確かに立てるほどには回復しているが、それでも相変わらずフラフラしている。

 そんな彼女を見て、ハヤテは心配そうな表情で「大丈夫なんですか?」と問う。

 が、そんな心配などいらなかったのかもしれない。

「………、私をなんだと思ってるの?」

 彼女は相変わらずフラフラしている。それでも、決定的に1つだけ違うことがある。

 ―目だ。目に、先ほどまでなかった“何か”が確かに宿っていた。

 ボンッ! と溢れ出す神の力。右手に再び生成する氷の剣。

 そして、何より笑顔で彼女は―こう告げた。


「私はクイーン…歴代第2位の力を持つ―氷を司る神よ…!」


 ダンッ! とアイの靴が勢いよく地面を蹴る音。

 そしてその音がした次の瞬間には、アイはいっきにライまでの距離を詰めていた。

「な…っ!? もう体力が回復して…!?」

「生憎だけど…パートナーとの仲を切り裂かなきゃ私に勝てないような奴に…負ける気はしないわね」

「くっ…!!!」

 反射的にライは剣を横に振る。狙いはアイの腹だ。

 が、アイはそれをひらりと軽い身のこなしでよけると、そのまま剣をないだ。

 ガッキィィィン! という剣と剣がこすれあう音がその場に響く。

 受け止めたものの、ライが一瞬表情をしかめたことから判断するに、結構強い攻撃だったのだろう。

 アイはそのまま勢いをとどめることなく、ライの剣をへし折る勢いで剣へ込める力を強めていった。

「………ちっ」

 分が悪いと感じたのだろう。

 ライは剣を振り上げることでアイをはねのけると、そのまま上空へと飛び立った。

 そしてアイがひるんでいるその隙にと、手を真っ直ぐ掲げて、

「―雷砲…!」

 バヂィィィイイイイイイイ!! とすさまじい音と共に凄まじい電撃が地面にいるアイを真っ直ぐ襲う。

 ヤバい、と傍観していたハヤテは直感的に思った。

 あの電撃は自然現象の雷を遥かに超越している。体力を激しく消耗しているアイに防げるだろうか。

 アイ当人もマズい、と思っているのか明らかに表情が歪ませながら剣を構えていた。

『どうする…!』

 このままでは、アイがやられてしまうかもしれない。

 幾分か体力は回復しているものの、このまま直撃でもしたら―………、

 その時、実際にはハヤテはそこまでの思考はしていなかっただろう。

 ただ、―アイを助けたい。

 その一心で、ハヤテは真っ直ぐに手を伸ばすと―初めてアイと会ったとき、彼女が自分を助けてくれた時どうしてくれたかを思い出しながら、


「氷結――ッ!」


 ハヤテの鋭い声が紫電の音がかき消すくらいの勢いで放たれた。

 そして、声が放たれたのとほぼ同時だっただろうか。

 それは初めて氷結能力を使った時と同様に――ライの放った電撃を固めていた。

「………なっ!?」

 今度はライが目を丸くする番だった。

 先ほどまでバチバチと弾けていた自分の電光が人間の手によって、氷の柱に変えられた。

 こんなの、全く予想できない展開だった。そして、そこで呆気にとられていたのが仇となった。

 気付けば、アイが氷の剣を右手に、―ハヤテが固めた氷の柱を凄まじいスピードで駆け上がって来ていた。

「くっ!?」

 防ごうと剣を構えた時にはもう遅い。

 氷を司る女神は、すでに自分の目前にまで迫って来ていた。


「…終わりよ、電光を司る神!!」


 ぶんっ、と刀を振りかぶる音。

 咄嗟に雷を放つもそれも全てアイの氷の盾によって塞がれてしまった。

 全て防がれた自らの電光の攻撃を見ながら、ああそうだ、とライは不意に思いだす。

 ―この女神は元々、綾崎ハヤテの兄であるイクサとゴールデンコンビと呼ばれるくらい相性が良かったという事と、

 ―この女神はどの戦いのときも、追い込まれるほど凄い力を発揮していたという事を。

 ぐさり、と鈍い音がするとともにパキィィィン! と何かが破裂するような小気味良い音がした。

 そして、それを聞いた瞬間にアイは攻撃が間違いなく通った確信を持った。

 パーティーにおいて、神には“核”なる物が存在しており、それを完全に壊すとダメージ十分ということで強制返還が可能になる。

 今の剣の一撃はその“核”を壊すのに十分だったはずだ、と。

「…がっ…!!!」
 
 ライの苦しそうな吐息が漏れる。

 それを無視して、アイは真っ直ぐ前を見たまま、パーティーにおける強制返還の常套句を告げた。

「電光を司る神―…強制返還ッ!!」

 次の瞬間。

 シュパンッ!! と音がして、ライの姿が光の如く弾けた。

 天界に強制的に返すことができたはず。…まずは一勝だ。

 アイはすとん、と軽やかに地面に降り立つと、ちらり、と横へ目をやった。

 すると、その視線の先にそいた結衣がびくっ!? と怯えるような反応を示す。

 まるで狼に狙われている羊のような反応にアイはため息をついて。

「…アンタらの負けよ…。さっさと去って普通に戻りなさい。…早く戻ってくれないと、流石にさっきまでの恨みがつのってアンタを許せなくなるから」

「…っ! ふ、ふんっ、言われなくても帰りますよーだっ!」

 そう言って去っていく結衣。

 ま、ああいう普通の奴はこういう戦いには巻き込まれない方が幸せだろう。

 彼女の後姿を見送ってからアイはふぅ、と息をつき、

「…疲れた…」

「アイさん!」

 後ろからハヤテが名前を呼びながら駆けつけてくる。

 アイはちょっとむすっとしてから、

「…ねえ」

「あ、はい?」

「私のことはアイって呼びなさい」

「え?」

「あと、丁寧語禁止っ。鬱陶しいし、戦いのときまでそう言われたら面倒よ。今回はともかく今後は一緒に戦うんだから。アンタさっきの氷結凄かったし先が期待できるわ」

「…はあ…」

「そんなわけだからっ」アイはにこり、と笑みを浮かべて、「…よろしくね♪ …ハヤテっ♪」

 それは、彼女がハヤテに見せた初めての満面の笑顔。

 その可愛らしい笑顔にハヤテは少し黙ってから、同じように笑顔を見せて、

「…うん♪ よろしく、アイ♪」

 と返した。

 照りつける太陽の元、綺麗な笑顔が2つ、並んでいた。

                                         第八話 END


ライは咬ませである。もう一度言う。ライは咬ませである。

ハヤテ「…いやあの…」

ま、今回の話の趣旨はやはりアイとハヤテの協力にあるのでライとか結衣はぶっちゃけ関係ないのです…!

ハヤテ「酷い言いぐさ!?」

だが、これでもライとの戦闘シーンちょっと伸ばしたんだぜ! 前はもっと弱かった!

そういや、友達に「ライさぁ…よくハヤテとアイが和解してる間にきりつけてこなかったね」と言われたのですが、多分あのキラキラ空間に入れなかったのでしょう!

ハヤテ「何その適当さ!?」

仕方ない…! あれだよ、よく戦隊物とかでさ、変身とか着替えている間に敵が攻撃してこないのと同じ原理だよ…!

…そしてバトル描写が…下手になってるなぁ…うん…

なんかちょっと納得いかない出来だよ…ブランクかなこれ…まぁ、書いていくうちにもうちょっとマシにはなると思うんだが…なんかわかりにくくて申し訳ない…!

精進していきます…!

ってなわけで、次回からはかわいいアイさんと格好いいアイさん両方お楽しみくださいっ

アイ「…いやいや、何よそれ…」

そして毎回入っているような気もする補足ですが、強制返還の基準となる“核”については今後しっかし説明が入るのでそこで。

さて、次回から新パート! 海外からあのお方もくるかもだぜい! そして次はまともな敵かと思えばまたしても残念な子が…!?

ってなわけで次回以降もよろしくです♪ …いつになったら本格的なバトルが書けるやら…。あ、下にアイのプロフィールのっけといたのでもしよろしければ見て下さい♪


アイ(Ai)

【所属】氷の神
【年齢】1548歳
【身長】158cm
【体重】47kg
【誕生日】3月4日
【家族】なし
【好きなもの・こと】スイーツ・優しい人
【嫌いなもの・こと】卑怯なこと・最新機器

【容姿】
銀髪に青い瞳と日本人離れした容姿の持ち主
銀髪は肩甲骨の辺りまで伸びていて、全体的に小柄で細見の少女
胸部の発達にかけており、本人も気にしているものの、全体的にかなりの美少女

【詳細】
本作メインヒロインで一人称は私
言葉遣いは女の子らしいが、冷めたしゃべり方をする。透き通った声質の持ち主
歴代2位の強さを誇る氷を司る神で、パートナーはハヤテ
強さはぴか一だが、本人談によると細かいことが苦手で気配などを読むのはあまり得意ではないとのこと
パーティーにおいては前回の勝ち抜き者で参加者からは「クイーン」という綽名で呼ばれることが多い

氷を自由自在に使いこなし、また氷から派生させた武器を何でも自在に扱う
パートナーにはあらゆるものを固定する『氷結能力』が宿る

頭はかなり良く、白皇の編入試験を満点で合格しており、作中では教師殺しとして転入早々さまざまなことをやってのけた
またこれは女神の中でも群を抜いているとのことである

当然ながら運動神経も抜群であり、体育の授業では大活躍
転入早々、様々な運動部からお誘いの声がかかっている模様だ

性格はクール…かと思いきや実は結構感情表現多彩な少女である
またいろんな人に言われるようにかなりのお人好しであり、困っている人たちのことをかたっぱしから助けて行かないと気が済まないような面もある