Re: 君と共に! 第一章 ( No.1 ) |
- 日時: 2012/12/26 16:55
- 名前: 李薇
ザザァ、と強い風が頬をかすめていく。
水色の髪の少年はふと、空を見上げながら呟く。
「………あれから、どれくらい経ったのかな」
それに対しての返事はなかった。
それでも。
返事がないとは知っていても、少年は空に向かって問い続ける。
「…君は今、どこにいるの?」
第一話 『プロローグ』
それはあの日に始まった。
とはいえ、少年―綾崎ハヤテ自身はその日に何かが起こる、なんて思っていなかった。
それも当然で、始まりなんてものは案外意識していない時に起こるものだからである。
だから彼にとってこの日は特別でもなんでもない―日常だったのだ。
「いや〜…にしても、今日もお客さんいないね〜…」
喫茶店どんぐり、という彼らのバイト先にてバイト仲間である西沢歩は呟いた。
呟き、というかは不満を述べたぼやき、の方が正しいかもしれない。
潮見高校に通うごくごく普通の女子高生の少女。
ハヤテとは例の借金が出来る前からの数少ない知り合いの1人だ。
「………本当ヒマだな、ここでのバイトは…」
と、そこで、椅子に座って机に頬杖をつきつつナギも賛同する。
どうみても店員には見えない態度だが、元々彼女は大金持ちの娘であるのだから仕方ない。
そんな不満を述べる2人に対して、
「まあまあお2人とも…。いつお客さんが来るかわからないんですからそんなにダラダラしていてはダメですよ」
なだめるような優しい声。
我らが主人公の綾崎ハヤテの声である。
唯一きちんと立っている少年は半ば苦笑気味にナギ達に注意していた。
「えー、でも暇は暇なのだっ。なんか眠くなってきたし…ふぁ」
まぁ、お昼時の丁度眠い時間帯だから無理もないかもしれない。
ナギは欠伸をして涙目になっている状態で、
「おい、ハムスター。お前コーヒーでもいれてこいなのだー」
「ちょっ!? 何で眠そうな状態で私に命令!?」
「あ、良いですよ西沢さん。僕がいれますから」
こういう時こそ執事の出番っ、と言わんばかりにハヤテはキッチンへと向かう。
元々バイトの時に厨房担当をしているのはハヤテなので何がどこにあるかはほとんど把握している。
「…ってあれ?」
いつもの棚を開けてみると、ない。コーヒー豆が何故かない。
客が全然来ないのにもうなくなっちゃったのか? と少し疑問に思いつつ、ないと大変だし買い出しに行った方が良いかな、と判断する。
「お嬢様ー、西沢さん」
ハヤテはエプロンを脱いで、お店の資金を手に、
「コーヒー豆がきれてるので僕買ってきますね」
「…えー、なら紅茶でもいいぞ?」
「でもお客さんが注文するかもですし」
「客何か来ないだろうこの調子じゃ。いいじゃないか」
「よくありませんよ、お嬢様。きれているときに限ってお客さんはコーヒーばかり注文してきますから」
それは確実にハヤテが不幸だからなのだが、もうツっこむのはやめることにした。
ハヤテはもう買い物に行く準備万端だし、それをいまさらやめさせるのもどうかと思ったし、いずれは買わなきゃいけないものだから。
「ってことで、行ってきます!」
「気を付けてねー♪」
「不幸に巻き込まれるなよー」
それは約束しかねます、と思いつつハヤテは扉を押す。
カランカラン…と扉についている鈴の音が鳴り、
―それとほぼ同時だった。
「ッ!?」
バッ!! とハヤテは、振り返る。
今、ほんの一瞬だったが何か殺気のようなものを感じた。
彼が使えるのは三千院ナギ。
いつ遺産関係で狙われるか分からないのだが―………、
「……消えた…」
それはすぐに消えた。
もしかしたら、ただの杞憂だったかもしれない。
少し引っ掛かりを覚えつつもハヤテは足を進めて行った。
「ふう〜…」
コーヒー豆を買ったハヤテは、少し古びたお店から出てきた。
マスターに聞いたところいつもここで買ってる、ということでわざわざ隣町まで来てしまった。
やはり、常連さんは同じ味が良いだろうしな、と考えつつもちょっと遠くまで来すぎたかな…と思わなくもない。
もし、お客さんが来てたら、厨房が空いてしまうし早く帰らなきゃ、と思い結論―…、
「近道しようかな」
彼は、ナギの執事をする前に様々なバイトをこなしてきたので、この辺の地理は結構詳しいのだ。
だから路地裏などの入り組んだ道をどう通れば近いのかなんとなく分かっている。
てなわけで、すぐ横の路地裏に入りこんだところで、
「アンタが―…綾崎ハヤテ?」
「!」
不意に後ろから少女の声がかかった。
少女―…とは判断したものの、妙に大人びた声質だった。
いや、落ち着いた、の方が正しいかもしれないがどちらにせよ透き通った声だ。
「え?」
振り返ると、そこにいたのは思いの外小柄な1人の少女だ。
年は同じくらいだろう、と思いたいが彼女の日本人離れした外見では判断しがたい。
肩甲骨の辺りまで伸びた光り輝く銀髪と青い瞳。西洋の人形のような白い肌。
美少女、と称して申し分のない外見だ。こんな路地裏ではなく、ステージの上などにいる方が似合いそうなものである。
が、1つ華奢で小柄なその少女にそぐわない物が。
それは―小柄な少女が持つとは思えない、長く重そうな…透き通った剣。
「…えっと…君は?」 果たしてあからさまに外人に見えるこの少女に日本語が通じるか、と思ったが、思い返せば先ほど日本語で話しかけて来ていた。
なのでそこまで心配せずに日本語で話しかけてみると、
「私はアイよ」
やはり通じた。
それどころか違和感を感じるくらい、流暢な日本語だった。
それにしても質問に対して、もの凄くシンプルな解答だった。
ハヤテが聞きたいのは名前とかではないのだが……、
と思った次の時点で、
「天界に存在する10柱の神の内の1柱。属性は氷、名はアイ。アンタのパートナーよ」
「………、」
なんだかますます状況を混乱させる少女の説明。
ハヤテは、その説明に僅かに黙ってから執事服からメモとペンを取り出す。
そしてサラサラと何かを書きながら、
「この地図通りに行くと精神科の病院があるんですけど…、」
「アンタねぇ…」
アイと名乗る少女は、少し頬をひきつらせながらこっちをにらんできた。
そのキツそうな青い瞳での睨みは結構鋭く、まさに氷を連想させるものだった。
が、普段から良く色々な女の子たちに睨まれているハヤテにはそんなに効かなかったのだが、まぁそこは置いておこう。
「いや、だって神とかって…信じられませんし……」
「………、」それもそうか、という風に少女はため息をついてから、「…だったら、証拠を見せてあげるわよ」
「え?」
瞬間。
カッ!! と閃光が発せられた。
「!?」
あまりの眩しさに思わずハヤテは目をつぶった。
しばらくすると、それも収まったようで、そっと目を開けてみる。
すると、目の前に驚愕の光景が広がっていた。
―少女の背中から、銀色の羽がはえていたのだ。
驚愕はしたが、それ以上に幻想的な光景だった。
まるで、神話や聖書の物語の1ページのようにそれは美しかった。
「………、」アイはポカンとしているハヤテを見て、「どう?信じた?」
「………、え、ああ…、よくできた偽物ですね」
「ねえ、今の私にはアンタをぶん殴る権利があると思うんだけど? そんなに信じたくないわけ?」
真顔で言われたので、今度は流石にハヤテの背筋が凍りついた。
とはいえ、クリスマスにあんな散々な目に遭ったハヤテは神様とかそういうのはなかなか信じがたいのだ。
すると、アイは本日何度目か分からないため息をついて、
「じゃ、飛ぶか」
と言った。これにはさすがに「え?」だった。
なんていった? 飛ぶ? FLY?
と、ハヤテが考える間もなく、
―バサッ、という音がハヤテの耳に聞こえた。
そして、気付いたときには、いつの間にかハヤテは空の真ん中にいた。
「!?」
アイの翼が大きく天を仰ぐ。
今、ハヤテはアイによって手を掴まれている状態だが、
―今彼女が手を離せば間違いなく死ぬだろう。
「ちょっ!? お、おろしてください!!!」
「ここで?」
しれっ、と言ったがそれは死ぬ!? と思い、
「足! の!! つく!! 場所で!!! お願いします!!!」
「断る」
「何でですか!?」
「時間がないの。だからこのまま飛んでくわよ」
このままどこに浚われるのか不安を感じつつ今は彼女に従っておくのが得策だろう。
そう思ったのでハヤテは大人しくすることにした。
まぁ、暴れれば本当にこのまま空から捨てられかねないし……。
「で? 信じた?」
流石に信じざるをえない状況なのでハヤテは素直にうなずく。
と、少女は少し満足げな顔をしていた。
しかし、この少女会ってから真顔か怒るかのどちらかしか見ていない気がする。
「んじゃまー、説明するけど、」
彼女は少し面倒くさそうな声を出しつつ、説明を始めた。
実際はしたくないのかな? と思いつつ耳を傾けていくと、
「この世にはね、神様がいるのよ。」
「はあ…」
まぁ、今自分の手を掴んでいるのがその神様なのでもうツッコミはなしだ。
彼の曖昧な返事が気に食わなかったのかは分からないが、彼女はまた顔をしかめて、
「あ、神っていっても私達とは違うの。その上の…もっとも最上位の神がいてね。ようは聖書に出てくる創造神、って奴よ」
まぁ、聖書には詳しくないのだが、そうらしい。
「で、その神が自分の力が強大すぎるが故にそれを10個にわけてそれぞれある属性に特化させた個体をつくった。―それが私達。俗に神の下位個体なんて言われてるわ」
嫌な呼び方だけど、と彼女は付け足した。
つまり彼女たちはその子供のような存在なのかな、と曖昧に理解しておく。
聞いてるんだけ聞いてないんだかわからないハヤテの態度にアイは訝しげな眼をしつつも、すぐに説明を続行して、
「そして私の属性が先ほど言った氷。全てを凍らせ、はたまたとかし、何かを形作る―…そんな力よ」
「…はあ…。で、さっき言ってたパートナーっていうのは…?」
「ある日、例の上位の神がヒマつぶしでパーティーという名の下位個体同士の戦いを考案したのよ。結構前の事なんだけどね」
パーティーという名の割に戦いって…とハヤテは思う。
パーティーというと優雅な社交界のイメージが強いのに天界では血なまぐさい闘いのことのようだ。
しかも、きっかけが暇つぶしな時点で天界なんなんだ? と思わざるをえない。
「で、神ごとによって能力値、能力の方向性が異なるし、何度も続ければその内結果が変わらなくなるでしょう? それじゃ面白くないってことで、人間のパートナーをつけて人間界で戦うことになってるのよ」
で、アンタはそのパートナーに選ばれた、とアイは続けた。
彼女の言い回しじゃ、そのパートナーとやらはその上位の神が選んでいるようだ。
しかし、それはつまり、自分も戦わなくてはならない、ということになる。
「僕…戦いとかは…」
そもそも借金返済で忙しいし、そういう血なまぐさい闘いに正面から参加したいとは思わない。
そりゃあ、ナギ達を傷つける奴がいて、余儀なく強いられる戦いなどはまた別だが…。
そのハヤテの反応を見てふう、とため息をつきつつ、
「確かにアンタには拒否権もあるわ」でも、と彼女は続け、「残念だったわね。天界で私のパートナーに選ばれてしまったアンタにはもう逃げ場はないわ」
「え…?」
それは意味の分からない言葉だった。
それに対して、アイはすっ、とある地点を指差す。
最初は何だろう、と思っていたハヤテだったが、すぐに分かった。
―アイが指しているのは、喫茶店どんぐりであると。
そして、そのどんぐりから何か―得体の知れない殺気のような物を感じると。
「………ッ!? どうなってるんですか!?」
明らかに異常だ。
今、どんぐりで何かが起こっている。
取り乱すハヤテだが、アイは左程慌てずに、
「生憎ね、私は結構神の中で強い方でね。―戦いで強い奴から潰しときたいのは当然の真理なんじゃない? そして、私を倒せないならパートナーから崩そうとするのも鉄則よ」
「なっ…! 僕はまだ承諾してないのに…!?」
「…そんなの聞いてくれるほど、神は良心的ではないのよ」
突き放すような答え。
ぎり、とハヤテは拳を握った。
「あそこに向かって下さい! 僕がお嬢様を…!」
「ええ、そのつもりで最初からそこに向かってるわ」
と言うと、アイはすいっ、と徐々にゆっくりと地面へ向かっていき、人気のない場所におりた。
それと同時にハヤテは喫茶店へ向かって走る。
あの殺気。どうして気付かなかったんだ、とハヤテは自分の唇をかみしめた。
「お嬢様!」
バンッ! と思い切り扉を開けると、喫茶店の中はメチャクチャだった。
机といすは倒れ、その辺は焦げていた。
誰がやったかはすぐに分かった。
―真ん中に立っている金髪で長身の男。
良く見ると、男の体からバチバチ、と紫電が出ていた。
「……ッ!」
そして、見つけた。
奥の方。ナギと歩が瓦礫の向こうで倒れていた。
「お前……ッ!」
それに対しての返答はない。
あったのは、ふっ、という笑みだけだった。
そして次の瞬間、ハヤテの頬を電光がかすっていった。
「………ッ!」
怒りが、不意に恐怖に変わる。
全く見えなかった。何が起こったのかも分からなかった。
「兄とはだいぶ違うな」
「…え? いまなんて…」
バヂィッ! という音。
ヤバイ、と本能がハヤテに告げていた。
今度こそ間違いなく電撃が直撃する―……と思っていたが、
「ストップ」
ピタッ、と電撃が止まった。
いや、違う。―凍ったのだ。
見ると、後ろの扉の所にアイが立っていた。
聞かなくても分かる。今のは彼女がやったのだろう。
「……ようやく来たか。クイーン」
「……ええ」
重苦しい金髪の男の声にアイは応答しつつハヤテに近づき、
「私のパートナーになりなさい」
「え?」
「宣言すればいいの。そうすればアンタは私の神の力のほんの一部が与えられて、氷結能力が使えるようになるわ」
「え、でも……」
「早くして。アンタが断っても、敵はアンタを私のパートナーとみなしている。今後もアンタの周りが狙われるわよ? ……アンタの大切な奴を、守りたいんでしょ?」
調子のいいことを言ってるようにも見えたが、アイの表情は真剣だった。
上手くのせられているのか、判断は出来なかったが今考えるべきは1つ。
自分が使える主を―全力で救うことだ!
「―……わかりました」ハヤテは頷き、「…パートナーになります」
「………、それでいいのよ」
ふっ、とアイが笑みを浮かべて、ハヤテの右手を掴んだ。
え? と疑問を持つまでもなく、アイはハヤテの右手を前に真っ直ぐ伸ばし、
「さっきの私と同じ感じでやるのよ。氷結、って言うだけだから」
「え? え? いや―…、」
そして、バヂイッ! と紫電のはじける音がした。
先程と同じ電撃。もう避けるのは無理。ならば、―凍らせろ!
「―氷結ッ!」
パァッ、とハヤテを中心に光が発せられた。
そして、凄まじい轟音がしたと思ったら、ハヤテの鼻先のところで電撃は止まっていた。
「…なっ」
思わず声を出したのは男の方だった。
ハヤテは凍らせたことに安堵しつつも、今までの恐怖などもきてはぁとため息をついた。
ふと横のアイを見ると、何故か満足げに笑っていた。
「こりゃ思った以上かもね」
「……兄が兄なだけあるな」
と、アイと男が意味深なやりとりをした後に、
「……、さてどうする? 電光神。契約が終了した以上、いったん退くことをお勧めするけど」
「……そうさせてもらおう。貴様とサシで勝負する気はないんでな」
そして次の瞬間、金髪の男は消えていた。
やれやれ、といった感じにアイはため息をつくと、
「いきなり巻き込んで悪かったわね。とはいえ選んだのは私じゃないから承知して頂戴」
「あ、いえ…。まぁ、なし崩し的な面はありましたけど…、でもさっきの兄とはだいぶ違うな、って……」
「………、」
それに対して彼女は「後々ね」とだけ言い、ハヤテと向き合った。
「パーティーに関してはまだまだいう事があるわ。でも今はそれどころじゃないし、とりあえず改めて自己紹介だけしておくわね」
綺麗な銀髪をかきわけつつ、
彼女は綺麗な青い瞳をハヤテに向けて、
「―氷を司る神、アイ。アンタのパートナー。よろしく」
「……綾崎ハヤテ。よろしくお願いします」
これが、ハヤテとアイの出会いにしてすべての始まり。
そして、アイにとっては忘れることの出来ない2人目のパートナーとの出会い。
後にこの2人がゴールデンコンビ、と呼ばれるまでにパーティー内で力をつけるのは…またこれからのお話し。
第一話 END
中身が結構変わってます。
でもキャラとかには左程変化はないですので、今まで読んでた方も初めての方も楽しめるように書いていきます!
今回だけではまだまだ謎は多いですが、アイやパーティーに関する説明の詳細はまた次回に!
では、次回更新は凄く遅いですし、皆様への感想も遅くなると思いますが…李薇はこちらに参上しましたので!
今後ともよろしくお願いします☆ ではまた☆
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