Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.9 ) |
- 日時: 2013/03/04 17:53
- 名前: 絶影
- どうも、またまたまたまた絶影です(くどいわ!
それでは第五話です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第五話 答えを見つけだすこと以外に「旅」から得られるものが他にあるだろうか
「まったく……どうして私なのよ!」
ヒナギクは苛立っていた。(若干照れもあったが) 何故自分がハヤテと共に旅に出されたのかが分かっていたからである。
「理由が『戦えるから』だなんて 私だってか弱い女の子なのに……」
「はは、でも僕はヒナギクさんと来ることが出来て嬉しいですよ」
「なっ!!」
ヒナギクは頬を真っ赤に染めた。
今二人が歩いているのは黒影が治めているという静岡の城郭(街のようなもの)の中である。 執事服に制服というこの時代では異色の服装をしている彼らは 図らずとも周囲の注目を集めてしまっている。
その上ヒナギクは美少女であり、ハヤテはそこらへんにいる男達に殺意のこもった目で見られているのであるが 二人は全く気がついていない。
「ちっ俺よりも貧相な顔の野郎が……」
「あんな可愛い子と一緒に歩きやがって……」
モブキャラは放っておいて先に進みます。
「で、どこに行くのかしら?」
「えっと黒影さんがくれた地図によると……」
言いながらハヤテは地図を取り出す。
「随分詳細な地図ね」
今ハヤテ達がいるところは静岡領の静岡と書かれている。 ちなみに目的地は山梨領の甲府である。
「この地図によれば清水ってところを抜ければ山梨領ね。 それから南部、身延、市川三郷を抜ければ甲府に着くみたい。 私達なら三日で着くんじゃないかしら? だからハヤテ君、早く行きましょう」
「はい!」
注意)私は地理は得意ではないので……間違いがあればご指摘お願いします。(一応日本地図を見たんですが……)
二人は順調に歩を進めた。 その日の夕方ごろには街道の関所に辿り着いた。 それぞれの領には関所があり、衛兵がいるらしい。 (不審者を領に入れないための配慮だが、賄賂なども横行しやすくなっている)
「ここを越えれば山梨領みたいね」
「そうですね」
二人は通り過ぎる時、衛兵らしき人に止められた。
「何用でここを通る?」
「山梨領の領主、日野吾郎さんに黒影さんからの手紙を渡しに来ました」
ハヤテが黒影の手紙を見せながら答えると衛兵は驚愕の表情を浮かべる。
「し、漆黒の!?……分かった。通っていいぞ」
ハヤテ達は何も要求されなかったが 他の旅人は何がしかの通行料金を払っているようだ。 通行料金を払えない旅人は追い返されているのも見えた。
「そんなに尊敬されている人なんですね、黒影さんって?」
「尊敬されているって言うより、恐がっているように見えたけど?」
ハヤテ達は南部と呼ばれている地域の小さな村の近くで脚を止めた。 さすがに一日中歩き続けたので疲労が溜まっていた。
村に入って行くと他の家より大きな家がある。 おそらく村長の家なのだろう。
ハヤテはその家を訪ね、一晩泊めてくれないかと頼んだ。
「いいですよ」
その家の主人は快くハヤテ達を引き入れてくれた。
「大したものは出せませんが、ゆっくりしてくだされ」
「いえそんな。泊めてくださってありがとうございます」
食事を終え、主人が布団を持ってきた。
「何から何まですみません」
「いえいえ、私にもあなた達と同じくらいの息子がいましてな。 なんとなく息子が嫁を連れて帰ってきたような感じなのですよ」
「「よ、嫁!?」」
顔が熱くなるのを感じた。 ヒナギクも顔を真っ赤にしている。 主人は首を傾げた。
「おや?そういう関係ではなかったのかな?」
「は、はい!!ですよね!?ヒナギクさん!」
「え、あ……そうね」
ハヤテはヒナギクの迷惑にならぬよう必死に否定し、同意を求めると ヒナギクは心なしか言葉を詰まらせているような気がした。
いかん。この流れは怒っているよな……。と判断した ハヤテはこの気まずい空気を変えようと
「息子さんはどうなされたんですか?」
と尋ねる。 主人は溜め息をついて答えた。
「息子は……八年前に死にました」
「……」
さらに空気が気まずくなってしまったな、と反省した。
「賊に襲われてしまいましてな」
「そうだったんですか……」
「あなた達も旅を続けるのなら本当に気をつけてくだされ。 この辺にはまだ賊徒も多いと聞きますので」
「……分かりました。お休みなさい」
運が良いのか悪いのかは分からないが部屋は三部屋あり ハヤテとヒナギクはそれぞれの場所で寝ることができたという。
翌日
ハヤテ達は世話になった主人と別れ、再び旅を続けた。 二人は出来るだけ急いで歩いてはいたが、市川三郷という地域に入った頃には夕方になっていた。
ハヤテは近くに街や村がないか探したが、それらしきものは見当たらない。
ヒナギクもいるし、できれば宿などを取りたい(変な意味ではないですよ)と 思っていたハヤテだったが、さすがに諦めた。
「すみませんヒナギクさん。今日は野宿をしましょう」
この時代の季節は分からないが、冬ほど寒くはない。 だから野宿するのは問題ないだろう。
「まぁしょうがないわよ。小さい頃野宿した時に比べれば格段にましな状態だし」
前に野宿した時には危うく凍死しかけた、とヒナギクは笑った。別に笑うところではないのだが。 ハヤテ自身も野宿したことが多く、薪を集め、手馴れた手つきで火を熾した。
「ところで食べ物はどうしましょうか?」
こういうときのために黒影から路銀を貰っていたわけなのだが使う気にはなれなかった。
……ヒナギクのお腹が鳴るまでは。
「べ、別に何でもないんだから!!」
顔を真っ赤にしているヒナギクを見て、ハヤテは微笑んだ。
「僕がどこかで食料を調達してきますよ」
「わ、私も行くわよ!」
まだ少し顔が赤いヒナギクと共にハヤテは近くを歩き回った。 しかし何も見つからず、やはり何もないのか、と諦めかけた時(ヒナギクは泣きそうな顔をしていた) 人影のようなものが見えた。
ハヤテ達が近寄っていくと、どうやら行商(旅商い)の人だったようだ。 ほっと一息ついて彼に食べ物を売ってくれるよう頼んだ。
彼はハヤテ達の服装を見て怪訝な顔をしたがハヤテは取り出した銀貨を見て 驚愕の表情を浮かべる。
「あの、これでどのくらい買えるんですか?」
ハヤテが問いかけると、
「こ、こんな大金崩せないよ!」
と、取り乱しながら答えてきた。 彼は抱えていた荷物を放り出して
「それをくれるなら好きなだけ持っていってくれ!」
と言うとハヤテの顔を遠慮がちに見てきた。 ハヤテは苦笑いした。
「ではこれだけ頂いていきますね」
一抱えの食料を取り、銀貨を渡した。 その様子をヒナギクは訝しげな表情で見ていた。 どれほどの大金を渡されたのか疑問に思ったのだろう。 ハヤテは、黒影にもナギやマリアと 同じようなところがあるのだろうという程度にしか考えなかった。
行商人に丁寧な挨拶をされて、ハヤテ達はさっき火を熾した場所に戻った。
いや、正確には戻ろうとした。
「待ちな」
この言葉を聞き、振り向くと物騒な武器を持った盗賊が十数人程いたのだ。
「金の入った袋を置いていけ。そうすれば命だけは助けてやる。」
その中のリーダーらしき人が言う。 言葉から察するに彼らは先程の会話を見ていたのだろう。
「……断ったら?」
ハヤテが静かに問いかけると、 男は下卑た笑みを浮かべながら叫んだ。
「殺すだけだ!」
十数人の盗賊に囲まれたハヤテ達であったが、ヒナギクは白桜を取り出し、 ハヤテは鞘のまま、黒影から貰った剣で敵を次々に打ち倒した。
数分後、立っている者はハヤテとヒナギク以外にはいなかった。 ハヤテはリーダーらしき人に近づく。
「こ、殺さないでくれ!」
情けない声を上げて怯える男にハヤテは問いかけた。
「殺したりなんてしませんよ。 ただ、聞きたいことがあります」
「……な、何でしょうか……?」
男は震えた声で聞き返す。
「どうしてこんなことをするんですか? 真面目に働けばいいじゃないですか!」
若干声を荒げていることを自覚していた。 だが、働かざる者食うべからずの信念を持つハヤテにとって このような盗賊行為は許されるものではない。
「働いてもどうにもならないからだよ!」
ハヤテが問いかけた男とは別の男が叫んだ。 その男に目を向けると、男は倒れていた体をなんとか起こした。
「俺たちが働いても国が収穫のほとんどを持って行っちまう! そんな生活なんかしていられるか? だから俺たちはお前達のような金持ちから俺たちが貰うべき分を貰ってるだけなんだよ! これは当然の権利なんだよ!」
言葉に詰まった。 実際ハヤテはこの国の税制度が適正なのかは知らないし、 彼らの言っていることが正しいのかは分からない。
男はさらに続ける。
「お前達は俺たちが飢えに苦しんでいることを知らないだろう! 俺たちが盗賊して得た物を心待ちにしている家族がいることを知らないだろう!」
「それでも……こんなことをしていては何の解決にもなりませんよ!」
言い返したが、ナギに拾われる前の自分の状態を思い出す。 彼らも自分と同じではないか、と。
「じゃあどうすればいいんだよ!」
声を荒げて言い返す男にハヤテは言った。
「ここにお金があります」
盗賊達の前に銀貨が入った袋を置く。 額はよく分からないが、さっきの行商人の態度を見ると相当な大金であることは分かっている。 彼らが生活するには十分な金額のはずだ。
「このお金で何とかあなた達の生計を立て直してください。 そしてこれからは真面目に働いてください。いいですね?」
男達は困惑した瞳でハヤテを見つめた。
「こ……こんな大金を……俺たちに?」
「ええ」
ハヤテはにこりと笑った。 男達は泣きながら何度もハヤテに平伏して礼を言った。
「あ、ありがとうございます!……ところであなたのお名前は?」
「僕は綾崎ハヤテと言います。それでは」
ハヤテ達は彼らに見送られながらその場を去った。
「まったくハヤテ君は本当にお人好しなんだから……」
盗賊たちと別れて歩いている最中 ハヤテはヒナギクに文句を言われながら苦笑いしていた。
「しかもあれは黒影さんから貰ったお金でしょ? 全部あげちゃったなんて、何て説明するのよ!」
「でもあの人たち困ってましたし……」
「まぁ……しょうがない、か」
結局許してしまう辺り、ヒナギクも相当なお人好しである。
彼らは火を熾したところに戻り、消えかけていた火に薪を入れた。 再び燃え盛った火をじっと見つめながらハヤテは口を開いた。
「僕には……あの人たちが好きで盗賊行為を働いているとは思えません」
ヒナギクはしばらく黙っていたが、頷いた。
「そうね」
「この世界で僕達に何か出来る事は無いんでしょうか?」
ヒナギクは黙り込んだ。 考え込んでいるようだ。
五分程経ってヒナギクはようやく口を開いた。
「ハヤテ君は黒影さんの麾下に入れって言われたのよね?」
「?……ええ、断りましたけど」
突然別の話題になりハヤテは困惑する。
「もしかして私達が旅に出されたのって、この国の現状を見せるためなのかもしれないわね」
「え?ということは……?」
「ハヤテ君がこういうことを考える人だと見抜いて、麾下に加えようとしているのかも」
ハヤテには困っている人を放ってはおけず、そのために自分を犠牲にしてしまうという 人間としては素晴らしいが、ある意味困った性格の持ち主である。 黒影はそんなハヤテの性格を利用して麾下に加えるつもりなのではないか、ということをヒナギクは言っていた。
ハヤテは笑って答えた。
「もしそうだとしても僕は絶対に彼の麾下に加わりませんよ」
この時、彼らが黒影の本当の意図に気付いていたとしたら 彼らは一目散にこの任務を放棄していただろう。
黒影が求めた『答え』とはもっと単純かつシビアなものだったのだ。
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第五話終了です。 それではまた。
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