Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.8 ) |
- 日時: 2013/03/04 17:50
- 名前: 絶影
- どうも、またまたまた絶影です。
それでは第四話です。
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第四話 黒の思惑
「麾下?」
聞き慣れない言葉にハヤテは疑問符を頭に浮かべた。 黒影は苦笑しながら説明する。
「麾下というのは私の直属の兵のことだ。 さっきお前が話していた絢奈、それに壮馬や陸斗、琉海も私の麾下と言えるな」
頭が混乱した。 話の流れが全く読めない、そう思った。
「ちょっと待ってください。状況が全く読めないんですけど。 ここは一体どこなんですか?それにあなたはどういう方何ですか?」
ハヤテの続けざまの質問に今度は黒影の方が頭に疑問符を浮かべることになった。
「何を言っている? ここは倉臼平八郎様治める畏国だ。 そして私は静岡の領主、名を神崎黒影と言う」
「……?」
「我らの役目は治安維持や敵対する鴎国の侵攻を抑え、 さらに鴎国の首都である京都を陥落させることだ」
「??」
ますます訳がわからなくなった。 静岡だとか京都だとかは聞いたことがあるが、畏国?鴎国? 何だそれは?
「……お前、大丈夫か?」
こちらからしたらお前こそ大丈夫かよ、と思うハヤテであったが 自分達の現状を思い出し理解する。 ここは自分達の住む現代でもなければ、ナギが来ることを望んだ八年前でもないのだと。 だから一部わかったことを自分の知っている言葉に置き換えて尋ねた。
「つまりあなたは軍人、というところですか?」
「まあそうだな」
「そして僕にも軍人になれと?」
「その通りだ」
「どうして僕に……?」
「さぁ?何となく……だな。 お前が麾下に加わるというならばお前の連れの面倒も見るが?」
ある意味、魅力的な申し出のように思えた。 ここにいればナギ達の身を危険に晒すこともないだろう。 黒影が味方であること、さらにデロリアンが直った時に解放してくれること、の条件つきだが。 それにもう一つ。
「軍人ということは……」
当然命を懸けて戦わなくてはならない、ということだ。 ハヤテの言いたいことを汲み取った黒影は頷いた。
「もちろん死ぬ可能性もある。 さっきのように相手を殺さずに戦っていたら死ぬのは間違いなくお前だな」
そこまで言って黒影は黙った。 返答を待っているのだろう。
「……お嬢さまに相談してからでいいですか?」
自分はあくまで執事である。 主の意見も聞かずに独断で決める訳にはいかない。 黒影はハヤテの言葉に首を少し傾げた。
「お嬢さまって誰だ?」
まぁ当然の疑問だろう。
「あの金髪の子です」
この時代にはツインテールという概念は多分ないと思ったので髪の色だけを伝えた。 黒影は記憶を探っているかのような顔をし、それから頷いた。
「あいつか。別に構わないが、とりあえずお前個人の意見を私は聞いておきたい」
彼なりの気遣いなのだろう、とハヤテは推測する。
「僕は……僕個人としては加わりたくありません」
「ほう、何故だ?」
黒影がまたハヤテの眼をじっと見つめてきた。 ハヤテは目を逸らさず、はっきりと答えた。
「僕は人を殺したくなんてありませんから」
ナギを守るためならば別に死ぬことを恐れるつもりはなかったが、進んで死ぬ気はないし、 何より人を殺すというのはいただけない。
「そうか」
黒影は俯いた。 悲しそうな顔をした気がした。 少しの罪悪感がハヤテを包む。 だが……
「ではお前の主がお前に麾下に入れと言うのを期待しているよ」
顔を上げて黒影は笑った。 前言撤回して良いですかね? 言いたいことは言ったらしく、もう行っていいぞ、とばかりに手を振った。
「また明日な」
「あ、はい。お休みなさい」
ハヤテはその場を後にし、ナギ達の元へ帰った。 大広間に着くとナギが目を覚ましていた。
「おおハヤテ。どこにいたのだ? 私はあの大男に変なものを飲まされて……」
「大丈夫ですか、お嬢様?」
問題ない、とナギは言うと、気遣わしげにハヤテの方を見た。
「どうかしたのか、ハヤテ?」
「いえ、特に何も。それよりお嬢さまは元の時代に帰るまではここに居たいですか?」
「え?」
困惑するナギに対し、ハヤテは言葉を続ける。
「お嬢さまはこのお屋敷が好きですか?」
少し焦っているようなハヤテの口調に対し、ナギはにっこりと笑いかけた。
「まぁ他の変なところにいるよりもここにいれれば良いとは思うが。 言っただろ?お前が傍にいてくれるなら…… お前が守ってくれるなら、私は何もいらないと」
「お嬢さま」
「それで?何を言われたのだ?」
ハヤテは黒影に言われた、麾下になればナギ達の身の安全を保障する ということを説明した。 ナギは少し考え、言った。
「それならば私だけではなく他の者の意見も聞かなくてはな。 まぁ何も好き好んでハヤテにそんなことをさせようとする者はいないと思うが」
実際その通りで、続けて起きたマリアやヒナギク、志織に事情を説明すると そんなことをする必要はないと言い張った。 ハヤテが感激の余り涙を流したのは別の話である。
翌日
再び大広間に集結したハヤテ達は黒影に麾下に加わらない、ということを告げた。 黒影は予期していたのか、落ち着いた声で答える。
「そうか。ならばお前達をここに置いておくわけにはいかないが 追い出す前に一つ頼まれてくれないか?」
「何をですか?」
「ある手紙を山梨の領主に届けて欲しい」
それくらいならばと思った。ナギ達の方を見る。 そんなハヤテを見越したかのように黒影は言った。
「お前が帰ってくるまで、連れの安全は私が保証しよう」
さらに黒影はヒナギクの方に眼をやった。
「それと赤毛を連れて行け」
「えぇ!?」
ヒナギクはいきなり自分が話題に出てきたことに驚いていた。
「どうしてヒナギクさんを?」
「道中盗賊がいるかもしれないからな。 一人よりは二人で行ったほうが安全だ。 それに我々にはそれぞれ軍務があるから付いていくことはできない。 となると戦力になるのは彼女くらいだろう?」
ヒナギクを危険な目に遭わせる事になるのではないか、と思った。 だが、昨日のことを思い出し、彼女がいなければ助けが来る前に自分は殺されていただろうと思い直す。
「おい、ちょっと待て」
今まで黙っていたナギが声を上げる。
「ヒナギクが行くなら私も行くぞ!」
「やめておけ。お前では危険だ」
「そうですよ、ナギ。昨日のような人たちに襲われたらどうするんです?」
マリアも止めたが、ナギは一向に引く気配がない。 押問答の末、最終的に黒影は告げた。
「お前が足手まといにならないという自信があるのなら行けば良い」
この言葉にナギは口を噤んだ。 邪魔になるのは目に見えているからである。
悔しそうに顔を歪めるナギに、ハヤテは言った。
「すぐに帰ってきますから心配しないでください」
その言葉でナギは少し安心したようだ。 それから黒影は何かが入った包みをハヤテに渡した。 ずしりと重い。何が入っているのだろうか。
「あの、これは?」
「路銀(旅の費用)だ。全て使ってもかまわない」
「でもこんなにたくさん……」
「大して入ってはいないさ」
陸斗は興味なさそうな顔を、絢奈は普通の顔をしていたが、壮馬は顔色を変えていた。 余程の大金が入っているのだろうか?
「あとこれを渡しておく」
黒影が差し出したのは一本の剣だった。
「これは……?」
「賊徒は剣を持っている奴より持っていない奴の方をよく狙うからな。 それにいざという時は遣え」
「……」
「お前は剣を持っていたな?」
黒影はヒナギクの方を向いて言った。
「あ、はい」
ヒナギクは白桜を取り出し、黒影に見せた。
「ほう、相当な業物だな。 ならばお前はこれを遣え」
「あのお言葉ですが、僕達には戦うつもりは……」
ハヤテの言葉に黒影は苦笑する。
「いざ、という時はだ。お前達だって死にたくはないだろう? お前達が帰ってくるまで三人は我が命に代えても守ると約束する。 だから心配せず気をつけて行って来い」
「……分かりました。では行ってきます」
ハヤテ達が大広間から出て行った後、ナギ達もハヤテ達についていった。 見送るのだろう、と推測する。
壮馬は黒影に詰め寄った。 黒影がハヤテ達に何をさせようとしているのかが分かったのである。
「黒影殿。あなたは綾崎殿と桂殿を……死なせるつもりですか?」
「俺が見立てた通りなら奴らは生き延びてくるさ。 それにもし彼らが死んだ時には俺が全ての罪を負う」
「……見殺しは承知致しかねます」
納得できないという表情をしている壮馬に向かって黒影は頷いた。
「そうだな。だからお前も行って来い。絢奈を連れてな」
「な、何でそこで絢奈殿が!?」
壮馬は思わず顔が熱くなるのを感じた。
「何だ?嫌なのか?」
黒影が軽く笑みを浮かべて尋ねてくる。
「そ、そうではなくて……」
「お前が行かないのならば陸斗にでも一緒に行かせるが?」
「!!……俺が行きますよ!全く……絢奈殿の気も知らないでよくそんなことが言えますね」
「何の話だ?」
「絢奈殿を誘ってきます!」
遊ばれているな、と思った壮馬は強引に話を断ち切った。 大広間の扉に向かって歩いていく。
「壮馬」
黒影が自分の名を呼ぶ声が聞こえた。 壮馬は今度は何だよ、と思いながらも振り向く。
「何ですか?」
「ぎりぎりまで手を出すなよ」
「……分かりました」
壮馬は一礼し、退出した。
それから……
「あ、絢奈殿!」
壮馬は絢奈を探し出して駆け寄った。
「何?」
絢奈は驚きもせず、ただその一言だけを返した。
壮馬はオロオロと説明を始める。
「えっと……あの……そう!黒影殿に綾崎殿達をつけるように命令されました! その……俺たち二人で!」
再び絢奈は一言で返す。
「何で?」
「あぅ……。し、知らないですけど命令です!」
壮馬は「命令」の部分を物凄く強調した。
「ま、いいけど」
こうして二組の男女は旅に出る。
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第四話終了です。 それではまた。
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