Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.24 ) |
- 日時: 2013/03/04 22:17
- 名前: 絶影
- どうも、絶影です。
第二十話です。 ようやく追いついた…。 それでは ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第二十話 風呂場は死刑場なんですね。わかります。
「気持ちいいわね〜」
ヒナギクは久しぶりにまともに体を洗うことが出来て満足だった。 風呂に浸かっていると、絢奈がこちらをじっと見つめ、にやりと笑ってきた。
「な、何?」
「勝った」
「!」
明らかに絢奈の眼はヒナギクの体の一部分をロックオンしていた。 だが、そんなに差はない……と思う。 それに年齢のこともあった。
「だいたい絢奈さんは18歳でしょうが!私だって18になればそれくらい……」
「無理よ。だって原作者も成長しないって言ってたし」
「なっ!ていうか何でそんなこと知っているのよ!」
「ああ、この小説の作者が教えてくれたのよ」
「あの人、何無駄なこと教えてんのよ……」
何はともあれ二人は風呂に浸かりだした。
「そういえば、絢奈さんはどうして軍に?」
ずっと気になっていたことだった。 いくら強いといっても絢奈は女である。 男ばかりの軍の生活は大変だったに違いない。
「復讐のため、かな」
「復讐……?」
言っていることとは裏腹に、絢奈の表情は暗くない。 復讐というのは建前なのかもしれない。 さらに絢奈は言葉を続ける。
「私は死にたかったのよ。でもそんな時、あいつが生きる意味をくれた」
絢奈の言う『あいつ』が誰なのかはわからなかった。 でもそれを聞くには、まだ自分は絢奈のことを知らなすぎるという気がした。
「まぁ私の話はどうでもいいのよ。それより綾崎とはうまくいってるの?」
「え?……って何でそこでハヤテ君が出てくるのよ!」
「何となく。人の恋路とやらを聞いてみたいなーって思って」
「それ以前にどうして好きだと思ったのよ」
「え?だって好きなんでしょ?」
まるで確かめるかのように聞いてくる絢奈に、 ヒナギクは頷かざるをえなかった。
「どうして分かったの?」
絢奈はやれやれとばかりに首を振って言った。
「あんたを見てればわかるわよ」
というか公然の秘密だと思っていた、と付け加えられた。 そんなに自分は分かりやすいのだろうか?
「まぁ綾崎は鈍感みたいだから、頑張んなさいよ」
「絢奈さん」
「それと、絢奈でいいわよ」
「え?」
「もう私たちは仲間なんだから。わかった、ヒナ?」
「わかった。……絢奈」
その時、風呂の扉がガラッと開くのが二人の眼に入った。 そして現れた人物を見て、目を見開いた。
「ハヤテ君?」
「綾崎?」
そう、入ってきたのはハヤテだったのだ。 彼はヒナギク達には全く気がつかず、ふらふらと近づいてくる。
「綾崎って……女だった、の?」
ヒナギク自身、衝撃を受けていたため気がつかなかったが、 絢奈の声は低く、震えていた。
「いや、そんな訳は……」
「なら……殺していい?」
ヒナギクがハッと絢奈の方を見ると、絢奈が二振りの剣を取り出していた。 一体どこから取り出したのだろうか?
「ダメよ!きっと何か事情が……!」
二人の間で議論が交わされる中、ハヤテは湯船に浸かりだした。 幸い広いので気付かれてはいないが、色々とまずい状態である。
「ヒナ!見られてからじゃ遅いのよ!見られる前に斬るべきよ!」
いつもは冷静な絢奈が剣を持ちながらパニック状態になっている。 今の絢奈の頭の中の選択肢とはこんな感じなのだろう。 1斬る 2斬る 3斬る
「そんなこと言っても……!」
ヒナギクもまた、自分が取るべき行動を思い浮かべた。 1殺す 2死なす 3仕留める
「ええっ!もっと別の選択肢はないの!?」
A.あります。
「それは何っ!?」
4見せる
「できる訳無いでしょー!!!」
その時、ぱしゃっという水飛沫の音が聞こえた。 ハヤテの方を見ると、顔が水に浸かっている。 つまり今のハヤテは……。
「溺れてる!助けなきゃ!」
「待ちなさい。綾崎はそのままにしておきましょう」
そんな発言をする絢奈に、ヒナギクは怒りの視線を向ける。 だが、絢奈は肩を竦めるだけだった。
「良く考えなさい。これは助けている間に綾崎が目を覚ますっていう展開。 助けたら見られることはお約束なのよ?」
冷静さを取り戻した絢奈の鋭い指摘にヒナギクは頷かざるを得なかった。 だが、このまま放っておけばハヤテは死んでしまう。 自分はどうするべきなのか。 ヒナギクが迷っている間に、絢奈は風呂から上がって脱衣所に向かっている。 そうだ、服を着てから助ければいいのだ! 大丈夫、ハヤテなら暫く放置していても死ぬはずがない!
決意も新たに、ヒナギクは風呂から出ようとする。 だが、そんな時……。
「いけない、いけない。うっかり寝てしまった」
ハヤテが顔を上げたのだ。 そして……。
「え?何でヒナギクさんがここに……?」
「それは……こっちの台詞よぉぉぉぉぉおおおお!!」
風呂の湯は赤く染まった……。
時間はハヤテが女湯に入った頃まで遡る。
「良い湯でしたね、黒影殿」
「ん?ああ、そうだな」
「しかし、綾崎殿はどこに行ったんでしょうか?」
ハヤテの姿は男湯の中にはなかった。 疲れて部屋で寝てしまったのだろうと思っていた壮馬に黒影は予想外のことを言う。
「そうだな。例えば、訓練で疲れきっているところに風呂を勧められて そういえば屋敷の中にあったなぁ〜とか思って女風呂に……」
「……え?」
「壮馬が教えなかったせいで。壮馬が教えなかったせいで! 今頃風呂に入っているだろう絢奈や桂に消し炭されているかもしれん」
「お、俺。ちょっと見てきます!」
壮馬はその光景を連想し、駆け出した。
「女湯に行ったところで桂の叫び声が聞こえ、おもわず飛び込んだら 絢奈がいた、なんてことがあるかもしれんから気をつけた方がいいな」
その言葉は壮馬の耳にはもちろん届いてなかった……。
ハヤテが死んでしまう!自分の失態によって! 今、壮馬の頭の中にあるのはそれだけだった。 女湯の前に駆け込み、扉に手をかける。
「ちょっと待てぇええい!!」
壮馬は突然叫び、冷静になる。 中にはハヤテがいるかはわからないが、絢奈やヒナギクがいることは間違いない。 もしハヤテがいなかったら、確実に自分は変態扱いだ。 そこまで考えるところがハヤテとの違いであり、 これで自身の血の惨劇は避けられたかもしれなかったのだが……。
「それは……こっちの台詞よぉぉぉぉぉおおおお!!」
運悪く発せられた、ヒナギクの叫び声。 これで、ハヤテがいることも確実なことになった。 その時点で、自身の危険の回避が消し飛んだ。
「大丈夫ですか、綾崎どのぉおお!!」
扉を開け、壮馬が見たもの、それは……。
「まさか正面から入ってくる奴がいるなんて思ってなかった。 これからは正面にも犬を配置しな、きゃ……え?」
一糸纏わぬ姿の絢奈だった。 逃げなければならない。頭ではそれをわかっているが、体が動かない。
「あ……」
「……」
「あ、あの……」
「壮馬、言い残すことは?」
体を拭く布を手に取り、体に巻きつけながら絢奈は静かに言う。 壮馬が何も言えず立ち尽くしていると、 絢奈はどこからともなく剣を取り出す。
「ないの?じゃあ、打ち首と斬首。どっちがいい?」
「それって意味同じですからぁあああ!!!」
こうして、女風呂は中も脱衣所も血まみれになったとさ♪
「「何で音符!?」」
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第二十話外伝 プロジェクト陸斗〜挑戦者たち〜「今夜は男の夢を懸けた物語です」
俺の名前は片桐陸斗。神崎軍騎兵指揮官だ。 今日は男の夢を懸けた熱い戦いについて語りたいと思う。
その夢とはもちろん……!
覗きだ!!
……おい。待ってくれ。ていうかそんなに軽蔑した眼で見るなよ……。 今日は千載一遇の好機なんだ。 何故か、と言うと……。 女風呂の守護神である壮馬のボケナスが絢奈によって殺されたためなんだ! (普段は陸斗が怪しい動きをする度に壮馬が止めています) そういう訳で、行ってくるぜ!桃源郷へ!
だが、俺が部屋を出て女風呂を目指そうとすると……。
「リク、ト。ドコヘ、イク、ツモリダ……?」
ふらふらと目の前に現れたのは……壮馬だった。 どうやら地獄から舞い戻ってきたらしい……。 眼が狂気の光を放っている。正気ではない。
「やはり俺の前に立ちはだかるのか、壮馬……」
普段ならば俺は奴には勝てない。 チビで子供顔のくせに無駄に強いのだ。 だが、今日は違う。お前は立っているのがやっとのはずだ。 だから……殺るしかない!
「うぉぉぉおおおおおおおお!!」
「う……」
やった。やったぞ俺は。 腕一本持って逝かれそうなったが、なんとか倒した。 これで俺の桃源郷への道を遮る者はいない。
さて、この満身創痍状態で正面から行っても、中に入れずただ死ぬだけだ。 ここはやはり裏から行くべきだろう。 たしか風呂場の近くに木があったはずだ。 その木に登れば中を見ることができるはず!
木に近づく俺の耳に届いたのは、凶暴そうな犬の吼え声だった。 前に現れたのは十匹近い数の犬。 犬歯を剥き出しにして唸っている。
「貴様ら、俺と殺ろうってんだな」
正直、もう辛い。だが、ここまで来て止められるか! 死んでいった綾崎や壮馬に申し訳が立たないじゃないか!
『はい……?』
『ていうか俺を倒したのはお前だろ』
聞こえない。何も聞こえない。 死した同士達よ、俺の勇士を見るが良い!
『『仲間にするなぁぁあああ!!』』
「かかってこいや、犬っころ共ぉおお!!」
動物虐待はしちゃいけないんだぞ♪
「うぅ……」
やっ……た。俺は……やり遂げた……。 後はこの木に登って桃源郷へ……逝くだけだ……。 絢奈やヒナギクが風呂から出ているのは知っている。 いや、そうでなければ困る。 ただでさえあいつらの戦闘力は俺を凌駕している。 ましてこの状態で見つかったら逃げることも出来ず、嬲り殺しされるに違いない。 狙い目は三千院、マリア殿、牧村殿だ。
「よし!逝くぜぇぇええええ!!――ごぶっ!?」
その時、俺の顔に当たった固形物。 何なのかはわからない。だが、異様に目が染みる。
「め、め……目がぁああ!!」
天空の浮かぶ城の力を手に入れようとした男のように叫び、 俺は、力尽きた……。
「また、つまらぬものを」
「ど、どうしたのだ、マリア?」
「石鹸みたいなのを投げてたけど?」
「うぉ!何かこのお湯赤いぞ!」
「温泉なのかもしれないねー♪」
「あ、ここに血の湯って書いてありますね。 効能は肩こり、腰痛、それに老化防止ですって」
「そうか。良かったなマリア!」
「良かったねーマリぽん」
「怒りますよ?」
こうして、男の夢を懸けた戦いは終わった。
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第二十話終了です。 次で今日はラストだぜ! それではまた。
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