Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.23 )
日時: 2013/03/04 22:09
名前: 絶影

どうも、絶影です。
それでは、第十九話です。
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 第十九話 ただいま訓練中……Bパートに続きます


ハヤテは黒影とすれ違った刹那、馬から叩き落されていた。
もうこれで五十回は落とされただろう。
遣っているのは、ハヤテが剣の長さほどの棒、黒影は槍の長さほどの棒である。

「どうした、綾崎?」


訓練と称され、初めにやったことは、息の続く限り、走ることだった。
戦ではどれだけ駆けられるかで生き残ることかどうかが決まる。
体力のない者はすぐに死んでしまうのだ。
だが、元々ハヤテもヒナギクも人並みはずれた体力を持っている。
特にこの件では問題にならなかった。

次に陸斗に教えられ、馬に乗る練習をさせられた。
黒影に訳を聞くと、将たる者、馬に乗れなくてどうする、と返された。
ただの兵隊として戦うものだと思っていたので意外なことではあったが、
ハヤテは馬に乗ることが実は得意だった。
幼い頃、父親に競馬場に連れて行かれた時に

「これはお馬さんが大好物な薬だよ♪」

と言われ、無理やり馬に怪しい薬を飲ませたり、
また乗馬クラブでバイトをしたりもしていたので
馬の扱いには自信があったのだ。

そのことを伝えると、ヒナギクからは何とも言えぬ表情をされたが、
陸斗からは、疾駆は(馬を本気で走らせること。競馬だと最後の直線コースでするあれ?)
したことはないのだろう、と笑われた。
確かにその通りだったので試しにやってみたら、見事に吹き飛び、陸斗に大笑いされた。

その後、馬に乗るコツを教えられ、疾駆しても落ちないようになった。
ちなみにヒナギクは途中から絢奈に教えられている。
壮馬が現れ、陸斗なんかに教えさせたら何をされるかわからないと騒ぎ立てたからだ。
陸斗は色々な意味で信用されていないらしい……。
少し可哀想にはなったが、以前の陸斗との会話から、擁護する気は全く起きなかった。
それからは馬上での武器の扱い方を教えられた。
馬上では剣を突いたりせず、斬った方が良いのだという。

次は戦いの訓練だった。
黒影と馬上で戦うのである。
勝つことは出来なかったが、最初に比べると少しはましになったと思っていた。
最初などは、剣を振るだけで馬から落ちそうになったのだから。

「もう一度、お願いします」

「よかろう」

再び馳せ違った時、ハヤテは腹を棒で突かれていた。
息が詰まり、気を失いそうになる。
だが、それを堪え、もう一度馳せ違うと意識が飛んだ。

水をかけられ、ハヤテは目を覚ました。
壮馬の顔がすぐ近くにあった。

「大丈夫ですか、綾崎殿?」

頷き、黒影の姿を探したが、少なくとも近くにはいないようだ。
壮馬はその様子に気がついたらしく、言った。

「黒影殿は屋敷に帰りましたよ。
 何かやることを思い出したと言っていました」

「そうなんですか」

これで訓練は終わりなのかな、と思い、立ち上がると壮馬に肩を掴まれた。
微妙な笑みを浮かべてくる。

「実は俺、黒影殿にとある訓練をするように言われたんですよ」

「とある訓練……?」

何故だろうか。物凄く嫌な予感がする。

「これです♪」

壮馬が取り出したのは弓矢だった。
鏃(矢の先端)はついてないが、代わりに重りのようなものがついている。
これが何を意味するのか、戸惑いを覚えると共に嫌な予感が拭えなかった。

「では三十歩の距離から始めましょう」

三十歩?何ですかそれは?
ハヤテが言われた通り壮馬から三十歩の距離に立つと、
突然壮馬が矢を射掛けてきた。

「!?」

ハヤテは咄嗟にそれをかわした。

「ちょっ!いきなり何を……!!」

「かわしちゃ駄目ですよ。掴まなきゃ」

「はぁ!?」

訳がわからなかった。
当たったら痛いじゃないですか!と言うと
逆に戦場で当たったら命に関わるますから、と返された。
確かにその通りである。
だが……。

「掴む必要はないじゃないですか!」

「いえいえ、掴むことができればかわすことなんて容易く出来ます。
 黒影殿は三方向から射られた矢を全て掴むことができると言われていますよ」

壮馬はにこやかに笑みを浮かべながら言い返す。

「ささ、始めましょう♪」

壮馬が恐い……と初めて思った。



「あ、そうだ。風呂入る?」

果てしなく長く感じた訓練が終わった後、絢奈が問いかけてきた。
ヒナギクは戸惑いながらも聞き返す。

「お風呂ってあったんですか?」

「そりゃあるわよ」

「でも今までそんなこと、一度も……」

「ああ、確か作者がやりたいネタがあるからその時まで風呂を出したくなかったって言ってたわ」

「物凄く嫌な予感がするんですけど」

そんな訳で風呂に辿り着いたヒナギクと絢奈。
その風呂はなかなか大きく、感心した。
話によると、絢奈が加入するまでここは男湯だったそうだ。
だが、絢奈が加わった時に黒影に掛け合い、奪い取った。
ちなみに男湯はその後、庭の隅にひっそりと作られたのだという。



ハヤテは疲労困憊の状態だった。
朝から歩兵達と共に走らされ、馬に乗る練習、それから黒影に突き倒され、壮馬に矢を射られ……。
壮馬曰く、厳しい訓練によって鍛えられた者は戦場で死ぬことが少なくなる、らしい。
だが、この訓練では戦場に出る前に死んでしまうような気がした。
実際、死んでしまう兵もいるという。

「綾崎殿。風呂に行きましょうよ」

壮馬がこんなことを言い出したのは、夕日が落ち始めた頃だった。
ようやく終わった、と倒れこんでしまいたいのを何とか抑え、
ハヤテは屋敷の中にある、風呂と書かれた表札を思い出す。

「それで、綾崎殿。風呂は庭の外に――ってあれ?」

壮馬が振り向いた時、ハヤテの姿は既に無かった。

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第十九話終了です。
それでは、また。