Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.21 ) |
- 日時: 2013/03/04 20:22
- 名前: 絶影
- どうも、絶影です。
それでは、第十七話です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第十七話 決意と覚悟
予感が全くなかった、と言えば嘘になる。 最初に黒影が現れた時、何故か未来のハヤテを見たような気分になったのだ。 そして、ハヤテが軍に誘われた時にその予感は現実のものになった。 だが、ハヤテは戦いたくない、と言った。 だから自分はその意見を尊重させてやりたかった。 旅から戻ってきたヒナギクが黒影に剣を向けた時も、その理由を探ることもせず、 何も気がついていないフリをした。 それは間違っていたのだろうか。 しかし、問い詰めていたとしてどうなったとも思う。
「なあ、マリア」
「何ですか、ナギ?」
「私は、ハヤテに何を言ったら良いのだ?」
そうですね、と呟き、マリアは人差し指を唇に当て、考える仕草をした。
「ハヤテ君に伝えればならない、と思うことを伝えれば良いと思いますよ」
「私が思ったこと……?」
「例えば、嫌いになったから傍にいるな、とか」
「そんなわけないだろ!」
思わずかっとなって声を荒げると、マリアがふっと微笑んだ。 からかわれたのだ、と気がつく。
「ハヤテ君はきっとナギに嫌われたと思っているでしょうから、 ナギがずっと傍にいて欲しいと伝えれば……」
「ずっと傍に……?」
確かに、その通りだった。 自分はハヤテに傍にいて欲しい。 だが、ハヤテはどうなのだろうか? ハヤテは人を傷つけることを嫌う、優しい性格だ。 おそらく自分がそう言えば従ってくれるだろう。 しかし、それはハヤテの意見を、意志を無視するということに繋がるのではないだろうか? ナギは、自分の存在がハヤテの枷になることを恐れていることに気付き、驚いた。 以前は考えもしなかったことだ、と思う。
あの日。王玉を壊して以来、自分は少し変わったと思う。 王玉を破壊することは、確かに悩んだ。 それは、三千院家の膨大な遺産の相続を放棄することに繋がっていて、 今までの気楽な生活を続けられないことを意味した。 だが、そんなものを守ることよりも、ハヤテの苦しみを取り除きたかった。 そして何より、ハヤテがずっと傍にいることを信じていた。
「わかったよ、マリア。私は、私が言いたいことを言う」
マリアが再び、微笑んだ。
暫くすると、辺りが騒がしくなった。 どうやら黒影たちが帰るらしい。 ナギはハヤテの姿を探した。 ハヤテは集まっている村人たちから少し離れた場所に、俯いて立っていた。
「ハヤテ」
呼びかけると、俯いていた顔を上げた。 その顔には戸惑いが浮かんでいる。
「お嬢さま……」
「勝手にするのだ」
「え?」
「お前が何をしていようと、私には関係ない」
ハヤテの表情に絶望の色さえ見えた。 言い方がまずかったか、と反省する。
「そういう意味ではない。ハヤテ。お前が何をしていようが、 私のお前に対する気持ちは変わらないということだ!」
暫く間を置いて、意味を理解したハヤテの顔が綻んだ。 それと同時に涙まで流れてくる。
「ば、馬鹿!なにを泣いているのだ」
「でも……だって……」
泣いているハヤテが徐々に近づいてくる。 ふと何か嫌な予感がした。 そう思ったときには時すでに遅く。 ハヤテに抱き締められていた。
「ば、馬鹿。こんなところで……」
少し……いや、かなりまずい。 もう周囲の注目を相当に集めている。 マリアや志織が近くでにっこりと微笑んでいるのだけでも相当に恥ずかしいというのに、 いつの間にか傍にいたヒナギクは呆れているし、壮馬は顔を赤くしてそっぽを向いており、 絢奈は熱々ね、と呟いている。そして黒影は……驚きの表情を浮かべていた。
「いい加減に……するのだぁああ!!」
「あ、すみません。お嬢さま」
当のハヤテは周囲の様子など気にした様子はなく、笑みを浮かべる。 無神経にも程があるだろ、とは思ったが口には出さない。 ハヤテは周囲を見回し、黒影の姿を認めた。 こちらに頭を下げ、向かっていく。
「まだ、僕を軍に加える気はありますか?」
黒影はナギを、それからハヤテを見つめ、頷いた。
「たとえ僕が死んでも、お嬢さまたちを守ってくれると約束してくれますか?」
「約束、しよう」
「それでは……僕もあなたと共に戦うことを、約束します」
そう言ったハヤテの顔は、決意に満ちていた。
「あの、黒影さん」
ヒナギクだった。どこか、必死だった。 その次に発せられた言葉はナギを驚愕させた。
「私も、ハヤテ君と一緒に戦わせてもらえませんか?」
「何を言っているんですか!?ヒナギクさん」
ハヤテが驚きの声を上げていたが、ヒナギクは一向に気にした様子は無かった。
「ハヤテ君は黙ってて。これは、私の問題なんだから」
口調は穏やかだったが、意志の強さが感じられ、ハヤテは黙り込んだ。
「わかった。お前も靡下に加えてやる。ただし、まずやってもらうことがある」
「何を、ですか?」
「お前には死んでもらう」
言った黒影の顔は、無表情だった。
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第十七話終了です。 それではまた。
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