Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.10 )
日時: 2013/03/04 17:57
名前: 絶影

どうも、絶影です。

それでは第六話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 第六話 今回の主役は三千院ネギ!


ハヤテ達が出かけてしまった後、ナギは不機嫌そうに屋敷を探索していた。

「ゲームもない、パソコンもない、しかもハヤテもいない!
こんなところで私はどう暇を潰せばいいのだ!」

相当めちゃくちゃな言葉に思えるが、ナギは真剣である。

「あ、三千院さん」

マッドサイエンティストこと志織だった。
彼女もまたいつも扱っている機械がないせいか
つまらなそうな顔をしていた。

「なあ先生。早く元の時代に帰りたいのだが?」

そんな志織に早速ナギは愚痴をこぼす。
志織は頭を掻きながら、申し訳なさそうな顔をした。

「ごめんね、部品が壊れちゃってて。
 もう一個似たような奴があればニコイチで直せるかもしれないんだけど」

「いやいや、あれに似たものがこの世界にあるわけがないだろ?」

「でもあれを直さないと帰れない……って、あ!」

志織が突然何かを思い出したようで、声を上げる。
ナギはその訳を尋ねると、今まで大切なはずなのに忘れていたものを告げられた。

「デロリアン」

「あ……」


という訳で……

「何?忘れてきたものがあるから取りに行きたいが、賊徒に襲われたくはないから護衛を頼むだと?」

黒影が何て図々しい奴だ、とばかりにナギを見つめた。
ナギは言い返す。

「だいたいハヤテがいれば何の問題もないのだ!
 それをお前が使いに出したからこんなことになったのではないか!」

黒影は面倒だな、という顔をしている。

「それならば奴が帰って来てからにすれば良いだろう?」

「早くしないと無くなってしまうかも知れないではないではないか!」

ナギの剣幕に黒影は閉口した。
話を断ち切るかのように告げられる。

「今、暇な奴はいない。だからあいつらが帰ってくるまで大人しく待っていろ」

黒影はもう話は終わりだ、とばかりに手を振って追い払おうとしたが、
誰かの声がナギの背後で響いた。

「なあ黒影殿。俺が行ってくるよ」

ナギが振り返るとそこには長身の陸斗が立っていた。
陸斗はナギに笑いかけた。

「可愛いお嬢さんの申し出には従って差し上げないとな」

「待て陸斗。お前には兵の訓練をしておけ、と言ったはずだが?」

黒影は不機嫌そうな声を上げ、陸斗を見据えたが
陸斗の方はどこ吹く風とでも言うようだ。

「硬いこと言うなよ。壮馬や絢奈には自由にさせておいて
 俺を自由にはしてくれないのかい?
 それに訓練の指揮なら琉海の爺さんでも出来ますよね?」

別に自由にさせたわけでは、と言いかけ、
黒影は露骨に舌打ちした。
溜め息をつく。

「わかった。危険な目には遭わせるなよ?
 俺はあの銀髪にこいつらの安全を約束したのだからな」

「はいはい、分かってますよ」

「あと絶対に手を出すなよ?」

「う……了解……」

釘を刺された陸斗は心なしかさっきよりやる気を失ったようだ。
こいつ大丈夫か?と少し心配になる。

「とにかく、頼むぞ?」

「おう、任しとけ。三千院殿」

マリアにも声をかけたら一緒に行くという返事が返ってきた。
ちなみに志織は何か使える物を探すということで来ていない。

一緒に来てくれるのは陸斗の指揮下の兵の一部だという百の兵だった。
ちなみに神崎軍総兵力は約1万5千で、陸斗はその中の4千を従えているらしい。

「俺の配下は全部騎兵なんだよ」

「騎兵?」

「そう。文字通り馬に乗っている兵。
 俺は騎兵の指揮をしているんだ」

「そういえばあの壮馬と絢奈というのは?」

どこかに行ってしまった二人を思い出しながら尋ねた。

「ああ、あいつらは歩兵の指揮官。
 それぞれ5千ずつの歩兵を指揮してる」

「じゃあ琉海さんは何なんですか?」

傍で話を聞いていたマリアが会話に加わった。

「あの人は黒影殿の副官。ありえませんが黒影殿が死んだ時に変わりになる役目の人ですよ」

黒影は不死身なのか?と尋ねたくなったがあえてそこは気にしないことにした。

ナギは数を数えて気がついた。

「では、あの黒影の率いている兵はわずか千ではないか?」

総兵力1万5千でそのうちの1万4千は陸斗、壮馬、絢奈が指揮をしているということは
総指揮官であるはずの黒影は千しか率いてないことになる。

「ああ。だがあの千の騎兵隊は別格で、五千にも一万にも匹敵する精鋭と言われているんだよ。
 それに大抵は俺たちのうちの誰か、もしくは全員があの人の指揮下に入るしな」

「ふ〜ん」

話を聞く限り、1万5のうち5千が騎兵で他の1万は歩兵ということらしい。
ナギは話を聞いていて少し面白くなった。
以前にやった『三国○』とか『信○の野望』とかいうゲームを思い出したからかもしれない。


「そんじゃ行きますか!」

「ああ」

ナギ達の前に馬が引かれてきた。

「ほら、乗りな」

「ああ。……ってこれに?」

「そうだが?」

心なしか、引き出されてきたこの馬は目つきが悪い。
馬がナギの姿を認め、近寄ってきた。

「な、何なのだこいつは……痛た!」

以前ジャ○プで連載していた卓球漫画の馬のようにナギの頭に噛み付いた。

「お前はロシ○ンテなのかぁぁああ!?
 ……って私の頭はたまねぎではなぁぁぁあああああい!!」

ネギ・スプリン○フィールドだからね♪

「そっちでもなぁぁぁぁああああい!!」


解説)以前ジャン○で連載していた卓球漫画でたまねぎが大好物の馬がいたのです♪



数分後



ナギはその馬の首にしがみついていた。
陸斗によると背筋を伸ばすことがうまく馬に乗るためのコツなのだそうが
それがナギには出来ない。
その上、放っておくと勝手な方向に行ってしまうため、陸斗が前で轡(馬につけている紐)を掴んでいる状態だった。

「いや〜さすがはマリア殿。
 本当に初めて馬に乗ったんですか?」

前方で陸斗がマリアを褒める声が聞こえる。
何だか比べられている気がして忌々しい。

「それに比べて三千院殿は……」

思った通り陸斗の声がこちらに向いてきた。
ナギは陸斗を睨み付けた。

「うるさい、黙れ!何でこんなものに乗らなければならないのだ!」

文句を言うナギに陸斗は笑いながら答える。

「馬は乗り手の心をよく掴むんだよ。
 三千院殿が馬をそんな風に想っている限り、従ってくれないぜ?」

「ぬぬぬ……」

「三千院殿は……馬に馬鹿にされているな」

陸斗はナギの乗っている馬をしげしげと眺めて呟いた。
馬はナギの顔……というか頭の辺りを見ている。
また食いつくつもりなのだろうか?

「貴様、馬の分際でこの三千院ナギを馬鹿にしているのか!?」

「ちょっと、落ち着きなさいナギ」

「だがマリア……!?」

マリアの乗っている馬を見ると、ナギでさえ分かるほど、怯えていた。
ナギはそれに少し恐怖を覚えたので口を噤んだ。
陸斗も気付いた素振りは見せていたが、何も言っていない。

「?どうしたんですか、ナギ?」

自分の威圧感に全く気がついていない様子のマリアは
ナギが突然黙り込んだのを見て首を傾げている。

「い、いや!なんでもない!」




「そんで?探し物って何なんだ?」

「ああ、私達が探しているのは丁度あんな感じの奴で……」

ナギが指を指した方向にはデロリアンと農民が十数人。
そして彼らはデロリアンを縄で縛ってどこかに持ち去ろうとしていた。

「なんじゃろうか、これは?」

「知らねぇよ。でもなんか高く売れそうだぜ?」

「見たこともないからのう」


「……あれか?」

「うん。そう、あれ……って、うぉい!待てぇ!待つのだぁぁあああ!!」

ナギが必死に叫ぶと農民達は訝しげに見てきた。

「何ですかな?」

「それは私達のものなのだ!返せ!」

ナギの剣幕に怯みつつも、農民達は不満の声を上げる。

「それは横暴ですぞ!これはわしらが見つけたのですじゃ」

後ろからは、そうだぁ、横暴だぁ!と、声が聞こえる。
ナギは怒鳴り散らした。

「うるさいうるさーい!!とにかく返すのだ!
 おい陸斗、早く取り返せ!」

ナギの剣幕に怯みながらも陸斗はとりなすように言った。

「待てよ三千院殿。その爺共が見つけたなら必然的に
 そいつらの物になるんだぜ?」

それが世界のお約束だろ、と陸斗は付け加えたが、
ナギにとってそんなことは知ったことではない。

「それは元々私達のものだ!それがないと元の世界に戻れないではないか!」

農民達も譲らない。

「これはわしらが見つけたもの。渡すことは出来ませんぞ!」

押し問答である。
だがデロリアンが農民達の手にある以上、ナギの方が幾分、分が悪い。





「なら買ってやる!」

ナギの次なる一手、それは買うことだった。

「何?金か……」

「元々売るつもりだったしな……」

言葉に動揺し始めた農民達を見て、ナギはあと一押しだ、とばかりに叫んだ。

「いくらでも払ってやろうではないか!いくらだ!」

農民達は目を見開いた。
そして、こそこそと集まって話し始めた。

「おい、いくらでも払うって言ってるぜ?」

「そんな値打ち物だったのか?」

「それならふんだくってやろう」


農民達は急に愛想が良くなってナギを見つめた。

「それならばお譲りしましょう。一万ギルで(某ゲームのマネー単位ですが他に思いつかなかったので悪しからず)」

ちなみにこの農民一人が一日を過ごすのに使う金はだいたい十ギルであり、
つまり彼らが百人いたとしても百日は過ごせるという大金なのだ。

「いいだろう、マリア!金を出すのだ!」

「ちょっと、ナギ?」

マリアがナギに顔を近づけてきた。

「どうしたのだ?」

「今の私達にはお金なんてないんですよ?」

「……あ」

うっかり金がないことを忘れていたナギだった。
マリアは呆れたように溜め息をつく。

「仕方がないですわね。ここは私が何とかしましょう」

さすがこういうときには頼もしいな、と思うナギ。

マリアのした行動とは!?



















「陸斗さ〜ん♪」

「……え?話はまとまりましたか、マリア殿?」

「ええ、もう少しで♪
 あの人たち、一万ギルを出せって言うんですよ♪
 出してくださいません?」

マリアは見た人が『恐怖』を覚えるような『微笑み』を投げかけた。
陸斗も例外ではない。

「へ?いや、ちょっと待て……」

「可愛いお嬢さんの申し出には従うんじゃありませんでしたっけ?」

さらににっこりと『優しく』微笑みかける。

「えぇ!?……てかあの時、あんたいなかったはずじゃ?」

「メイドに不可能はありませんわ♪」

「ぬぁぁあああああああ!!」

……こうして尊い陸斗の犠牲によりデロリアンを回収することが出来たナギとマリア。






「……燃え尽きた、真っ白にな……」

「ん?何だお前、そのネタ知っているのか?」

「何の話だ?」

デロリアンを馬に引かせ、黒影の屋敷に帰る途中。
髪が真っ白であり、眼が狂気に満ちている一人の老婆が、ナギ一行の前に立ちはだかった。

「わたしはせかいのおわりをみたぁぁああああ!!」

「ぬおっ!!な、何なのだお前は!?」

いきなり現れ、叫ぶ老婆にナギは飛び上がった。
老婆はさらに訳の分からないことを叫んでいる。

「だ、大丈夫ですか、ナギ?」

マリアが心配してナギに駆け寄った。
老婆はマリアの声を聞き、何かを確認するかのような目でナギを見る。

「……ギ?」

「え?」

老婆が見た目からはとても想像できない俊敏な動きでナギに迫った。

「ネギィイ!!」

「ぬぁぁあああああ!!」

老婆はナギの首を締め付けている。
マリアは引き離そうとしたが想像以上に力が強く、離すことができない。

「ネギ!ネギ!ネギ!」

老婆は口々にネギという言葉を叫んでいた。
その姿に驚いていた陸斗だったが、老婆を力ずくで引き離し、
ようやくナギを老婆から解放させた。

「な、何なのだこいつは!それに……私はネギではなぁあい!!」

陸斗はまだナギに掴みかかろうとする老婆を取り押さえながら答えた。

「こいつはこの辺に住んでいる老婆だよ。
 多分精神が病んでいるのさ」

「そんなこと聞かなくても分かるわ!」

その後、陸斗は老婆を落ち着かせ、家に……というか老婆が住んでいるという洞穴に連れて行った。



「はぁ……何か色々疲れたな……」

「ですわね……」

溜め息をつくナギとマリアだったが
今度は金髪の外人のような男が地から湧き出したように現れた。

「ハァイ!ワタシの名前は……ゴフッ!!」

男は馬上のナギの踵落としによって瞬殺された。

「……は、話を聞きなサーイ!」

「いきなり何なのだ……ってお前、ギルバート!?」

そう、その男はまるでギルバートそっくりの男だったのだ。
男は驚いたようにナギを見つめると言った。

「ワタシをご存知なのデスカ?
 それなら話は早いデス!かーむ教に入りマセンカ?」

「かーむ教?」

「その通りデス!我らが神、かーむ様はいつも我々を見ていマース!
 我らが罪深き行為をした時に我らの世界を滅ぼすおつもりなのデショウ!」

「はぁ?」

さらっと現れ、意味不明な宗教のようなものに入ることを勧めるギルバートという名の男。
もう何が何だか訳が分からない。

「どうしたんだ、三千院殿?――ってお前ギルバート!?」

老婆を送り届けた陸斗が合流してきたらしい。

「オオ……陸斗さん……こんなところで会うとは……」

ギルバートは陸斗を見て、明らかに怯んでいた。

「俺の連れに変なことを吹き込まないでくれるか?」

陸斗は威圧するような声を出す。
元々大男なので、相当な迫力があった。
ギルバートは俯き、大人しく引き下がる。

「分かりマシタ。今回は引きマショウ……。
 ですが覚えておいてくだサイ!あなた達にはいずれ天罰が下るデショウ!」

そう言うと、ギルバートは去って行った。

「……」

この短時間で二人の異常者に会ってしまったナギ達は深い溜め息をついた。



「なぁ陸斗。かーむ教って何なのだ?」

何だかんだで気になったので、かーむ教について尋ねてみた、ナギ。

「あ?興味あるのか?」

陸斗が睨み付けてきた。

「いや別に入ろうって言うんじゃなくて、どんなものなのかなと」

陸斗は溜め息をつき、かーむ教について説明しだした。
話によると、かーむ教というのはギルバートが教祖の信仰宗教なのだそうだ。
ギルバート曰く、神の洗礼を受け、教祖になるようにお告げを受けたらしい。

「今よりずっと昔、この世界に絶望した神が世界を滅ぼしたそうなんだ」

「世界を滅ぼした?」

「ああ。ギルバートの言い分では神に選ばれた者達だけが生き残ったんだと」

そんなのありえないだろ?とばかりの笑みを浮かべながら陸斗は言う。

「ノアの箱舟……みたいな感じなのでしょうか?」

マリアが呟くと、

「?何だそれ?」

陸斗が聞き返してきた。
どうやらキリスト教……というか聖書を知らないらしい。
そういう時代なのだろう。

「まぁ気にするな。それで、どうやって世界を滅ぼしたと言われているのだ?」

「ああ。確か空から来た厄災、とかだったかな?」

「ジェ○バかよ……」

「何だよ、それ?
 まぁとにかくあいつは信徒を増やして軍事勢力にするんじゃないかって
 噂されている奴なんだが、今のところ何もしていないしな。
 信徒も相当な数いるから、無闇に討伐する訳にもいかないんだよ」

ギルバートを討伐したり追い出したりしたら信徒が黙っていないということだろう。
確かに中国で三国時代への幕開けとなったのは太平○という宗教を信じた
教徒達が引き起こした黄○の乱と言われているし、
実際日本でも本○寺などの宗教勢力が権力者に反抗することがあった。

「確かに厄介だな」

「まあな。じゃ、帰りますか!」


その時、一陣の風がナギの頬を撫でた。

どこか胸が騒いだ。
ナギの脳裏にハヤテの姿が突然浮かび上がる。

「ハヤテ……?」

「おい、いくぞ?」

「……ああ」

ぼんやりとだが、何故かハヤテの姿が消えなかった。
何事も無ければいいが……。
ナギは嫌な予感を振り払い、ロシ○ンテ(もう名付けた)にしがみついた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第六話終了です。
それではまた。