Re: 漆黒の原野 白銀の騎士編 ( No.1 )
日時: 2012/11/22 17:17
名前: 絶影

どうも、絶影です。
言い忘れていましたが、不定期更新になります。
良い意味でも悪い意味でも・・・。

それでは本編に。
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 第一話 「始まり」とは常に些細なことをきっかけに起こるものである。たとえそれが偶然の発見だとしてもだ。


「なあハヤテ、タイムマシンって知ってるか?」

このナギの言葉がなければおそらくこの惨事は起こらなかったであろう。
いや、この時にはすでに自分達には逃げ道というものがなく、
蜘蛛が糸で小さな虫を捕らえるように、運命という名の糸に捕らえられていたのかもしれない。

「タイムマシンですか?あの某タヌキ型ロボットのアニメとかで出てくるアレですよね?」

「いや、ネコ型だろ。それよりも過去に戻ってみたいとか、未来に行ってみたいとか思わないか?」

ナギの瞳がハヤテのそれをじっと見つめてくる。
ハヤテは過去の忌々しい記憶を思い起こし、頷いた。

「何故いきなりそんなことを?」

「私は過去に戻って母に……」

そこまで言い、ナギの表情は翳りを帯びた。
会いたいのだろう、とハヤテは推測する。
普段は強気であるが、彼女もまた小さな少女だ。
母が恋しくないはずがない。
以前は指芸で流した話だったが、今回はそうはいかないだろう。

どうすればいいのか、とハヤテが悩んでいるとナギは吹っ切ったように言う。

「まぁ別にいいのだ!今の私にはハヤテやマリアがいるからな!」

少女の精一杯の空元気だった。
去っていくナギの後ろ姿を見て、ハヤテは俯き、溜め息をついた。

「どうかしましたかハヤテ君?」

大人の女性の声。マリアだった。
ハヤテが溜め息をついているのを見て、疑問に思ったようだ。

「ナギがまた何か言っていましたか?」

ナギがまた無理難題をハヤテに押し付けたのかとマリアは若干呆れ気味に尋ねた。

「いえ。ただ、タイムマシンがあったらいいのになぁ〜って思っていました」

「はい?」

いきなりこんなことを言われたら誰だって「何言ってんのこいつ?」みたいな反応をするだろう。
ましてマリアはこういうことの対応には厳しい人だ。
こんな春先の危ない人のような発言をするハヤテに引き気味になるマリアは

「そうですね。神様はきっといますよ」

あくまで大人の対応をしようとしているのか、にっこりと微笑む。
ただ、目は笑っていない。
マリアは突然、鉛筆と紙を取り出すと、さらさらと何かを書いてハヤテに渡してきた。

「とりあえずハヤテ君。ここに病院の場所を書きましたから後で行っておいて下さいね」

ハヤテがその紙を見ると、練馬精神病院への詳細な地図が描かれていた。
再びマリアはにっこりと微笑むとそのまま颯爽と去って行った。

「ちょっ!マリアさーん!」

こうしてマリアに精神病患者の烙印を押されたハヤテはまた大きな溜め息をつく。


「どうしたのハヤテ君?」

今度は凛とした声が聞こえた。
ハヤテが振り向くと、白皇学院生徒会長の桂ヒナギクが立っていた。
彼女は、ハヤテの少し落ち込んでいる顔を覗き込んで、首を傾げた。

思いかけず近くなった少女の顔に気付き、ハヤテは赤面する。

「いえ、別に!何でもないですよ!」

「ふ〜ん、私に言えないようなことなんだ〜」

と、ヒナギクはハヤテをからかう。

「い、いえ!そんな訳では!」

ハヤテは手を前に出してパタパタさせる。
なんとか動揺を抑えたハヤテはさっきナギに聞かれた質問をしてみた。

「ヒナギクさんは過去に戻ってみたいとか考えたことはありますか?」

「え?」

突然のハヤテの質問により、ヒナギクの表情が固まった。
ハヤテもまた首を傾げ、ヒナギクの顔を覗き込む。

「どうかしましたか?」

ヒナギクは無言だった。
また地雷を踏んだのか、と思いハヤテは慌て始める。

「そうじゃなくて!」

ヒナギクはオロオロしているハヤテを見兼ねて言った。

「私は……どうして本当の両親がいなくなってしまったのかを知りたい。
 もちろん、過去に戻れるならね」

ヒナギクはその場を去った。
おそらく両親のことを思い出しながら。


ヒナギクが去った後、ハヤテはタイムマシンについての思考の渦に囚われた。
考えれば考えるほどそれが魅力的に思えてきた。
まず、アテネとの衝突をなくすこと。
次に、あの両親の行動の先回りをして犯罪行為をやめさせること。
そして、思うのだ。タイムマシンがあれば、と。



それから一週間後。東京都某区とある研究所にて。
ここでは日々科学者達が怪しげな研究を重ねている。
彼らの資金はどこから出ているのか?
それはMHE(ミカド・ハイパー・エナジー)という名前から想像はできるであろう。
その中でも一番変人(巷ではマッドサイエンティストという)の女性が一人
自作のロボットを前にある物を披露していた。

「牧村サン、これは?」

ロボットに牧村サンと呼ばれた女性は嬉しそうに答えた。

「これはなんとごみで動いてさらにタイムトラベルもできるという夢のような車だよ♪」

某映画に出てきそうな車だったが、ロボはそれを知らないのか
それともあえて無視したのか分からないが

「さすが主任〜!」

と、女性を誉めそやす。

「ですが、何故これを?」

女性はにこりと笑って、答えた。

「三千院さんに頼まれたから♪」



現在の時刻、午前五時ムラサキノヤカタ玄関先で、
一人の少女がランニングシャツに短パンという軽装で、
軽く準備体操をし、そのまま駆け出そうとする。
そんな少女を見かけたハヤテは声をかける。

「おはようございますヒナギクさん」

少女もハヤテに気付き、明るく挨拶を返す。

「おはようハヤテ君。今日も早いわね」

いつもならばこのままヒナギクは駆け去り、
残ったハヤテは掃除に洗濯と、執事の業務をこなすのであるが、
今日はいつもと違い、怒気を含んだ声も聞こえてきた。

「お前達……いつからそんな密会をしていたのだぁ!」

ナギである。

「み、密会!?」

ヒナギクはその言葉をアレな方向に想像し、顔を真っ赤にするが、
ハヤテは普通に朝に会っていることと捉え、

「え?ヒナギクさんがここに住むようになってからは毎日ですけど?」

何か問題でも?というように、普通に答える。
ナギは怒り狂い、普段では想像できないほどの俊敏な動きでハヤテを地に沈めた。

ナギもおそらく分かってはいるのであろう。
だが、ハヤテの鈍感ぶりに苛立つのは抑えきれないのだ。

「ど、どうして……?」

普通ならばどうして殴るのかということを聞くべきなのであろうが、
ハヤテにとってそんなことは日常茶飯事と言っていいほどであり、
むしろ……。

「こんな朝早くにお嬢さまが?」

ナギが自分やヒナギク並みに早く起きているという異常事態の方が気になった。
ナギはそっちかよ!とがくっと膝を地面につけている。
普段の行動を思い返してください、と心の中で呟く。

ヒナギクはそんな二人を呆れたように見ていたが、
本来の目的を思い出したのか、顔を上げ、門の外を見て
びっくりしたような声を上げる。


「牧村先生?」

「おはよ〜♪桂さんに、三千院さんに綾崎君」

ハヤテはマッドサイエンティストこと牧村志織がムラサキノヤカタに
訪れているという事態に、少なからず驚いた。
だが、ナギは志織を見るなり叫ぶように言った。

「おお!待っていたぞ!」

どうやらナギがこんな朝早く起きていたのは志織に会う為だったようだ。
しかし、何故志織がここに来ているのだろうか?
そんな疑問を打ち消すかのようにナギは口を開く。

「それで、アレは出来たのか?」

「もっちろん♪」

志織はそう言うと一台の車を見せる。
車の種類は……デロリアンだった。

「これってデロリアンですよね?
 あの映画『バッ○・○ゥ・○・フュー○ャー』で有名な。
 随分と古い車のはずですけど……。
 あ、もしかしてタイムトラベルでも出来たりするんですか?」

ハヤテはあくまで冗談のつもりで言った。
確かにタイムトラベルは映画の中だけのものであって実際に
デロリアンを見せられたからといってタイムトラベルが出来るなどと
思う者はいないであろう。

しかし、ハヤテの冗談に反して志織は感心したように答えた。

「良く分かったね!これはタイムマシンなんだよ」

一瞬水を打ったように静まり返った。

「えぇ!?これタイムマシンなんですか!?」

「そんな……映画の話でしょ!?」

ハヤテとヒナギクは驚きの声を上げる。
そんな二人を尻目にナギは志織を褒める。

「さすが天才と言われるだけはあるな」

「えへへ〜それほどでも」

ナギが志織にタイムマシンを作らせたということはわかったが、
何をするつもりなのか、ハヤテにはわからなかった。
隣にいるヒナギクも同じはずだ。
ハヤテは説明してもらおうと口を開きかけたが、ある一人の女性によって中断を余儀なくされる。

「牧村さん?どうしてここに?」

「あ〜マリぽん久しぶり〜♪」

「その呼び方はやめていただけます?」

マリアであった。
おそらく彼女はハヤテやナギがアパートの中にいないのを確認し、
所在を確かめるために外に出てきたのだろう。

「何をしにいらしたんですか?」

マリアはある意味天敵の志織が現れたのを見て少し警戒する。
志織はマリアに警戒されているのも関わらず、気にした様子はなく

「三千院さんにタイムマシンを渡しに来たんだ♪」

と、答える。
マリアは驚いた表情をしてナギを見る。
ナギは少し不貞腐れた顔をしていた。

「いつの間にそんなことを頼んだんですか?」

「一週間位前だよ」

ナギの言葉にハヤテは驚く。
あの時の時点でナギは志織に頼んでいたのだろうか?
それとも自分が同意したからなのか。

「まったく、タイムマシンなんか作らせて……
 どうするつもりなんですか?」

「ていうか、本当にこれ、タイムトラベルが出来るんですか?」

ヒナギクはデロリアンに軽く触れながら尋ねる。
某映画に似たような物を作っても結局は映画の中でのことであって
現実に出来るとは思わないだろう。
そんな至極まともな質問に対し、志織は答える。

「できるよ♪この車の時速88マイル(時速140キロ)を出した時点で設定された年代にいくように出来ているんだよ」

「ほんとに某映画みたいですね……」

「うん♪作者がウィキで調べたからね♪」

軽く裏事情を暴露しながら志織は答える。
だが、ヒナギクはまだ疑っているようだ。
彼女は腕を組み、怪しいところがないか調べている。
そんな彼女に志織は提案した。

「そんなに疑うんだったら、乗ってみる?」

「へ?……で、でも!!」

突然尋ねられ、ヒナギクは困惑する。
そんな彼女にナギは言った。
今日の放課後また集合しよう、と。




いつも通り授業が終わり、
彼らは再び、ムラサキノヤカタの門のところに集結していた。

「準備はいいか?」

ナギの神妙な声。
その言葉に頷く一同。

「ていうかデロリアンって五人も乗れそうに無いんですけど……」

確かにデロリアンには四人が限界で(勝手に決めました)
一人を置いていかざるを終えないだろう。

まず、第一に志織は降りることはできない。
彼女はデロリアンの操作をしなければならないからだ。
次に、ナギ。彼女はこの計画の発案者であり、
降りることなど絶対に承知しないであろう。

この二人を外せないとして残った枠はあと二つ。
さあ、誰が残るのか?
三人の血肉滾る争いが……




起こらなかった。
マリアの一言によって。

「ナギは小さいですからハヤテ君の膝の上ということで♪」

その言葉によって二人の少女の顔が変わった。
一人は悔しいような嬉しいような何とも言えぬ表情になり、
もう一人は軽い嫉妬のような表情を浮かべる。

「まぁ僕は構わないですけど?」

ハヤテはその鈍感スキルを発動した。
二人の顔が変化したことには全く気がついていない。

「ハヤテがそう言うなら……私は……」

ナギは顔を真っ赤にさせて承知したが、

「そんなのダメよ!ハヤテ君!」

ヒナギクは反対の声を上げる。

「え?どうしてですか?」

ハヤテはさも不思議そうにヒナギクに尋ねた。
ヒナギクは口をパクパクさせた。
咄嗟に言い訳を思いつくことが出来なかったのだ。

そして、しどろもどろになりながら叫んだ。

「そんなの……危ないじゃない!」

「大丈夫ですよ、お嬢さまは僕がしっかり掴みますから」

ハヤテは笑顔でヒナギクにそう告げると、ナギは少し勝ち誇ったような笑みをヒナギクに見せる。

「まぁ、そういうことだ!」

ヒナギクはハヤテとナギを交互に睨み付けるとそのまま乱暴に後部座席のドアを開けて乗り込んだ。
そんなヒナギクの様子を見て、ハヤテは頭に疑問符を浮かべ、
ナギは声を出さずに笑っていた。

ハヤテは車に乗り込みながらヒナギクに言う。

「あのヒナギクさん?そんなに乱暴に扱うと壊れてしまいますよ?」

「うるっさい!」

ヒナギクだったら本当に壊しかねない。
ヒナギクの力を肌で知っているハヤテは、
年代物であるデロリアンの耐久はギリギリだろうと推測していたのだ。

ハヤテはナギを自分の膝の上に招き、座らせた。
その様子をヒナギクは忌々しそうに見つめている。
気がつくとマリアは助手席に乗り込み、志織は運転席に乗り込んでいた。
ハヤテはふとある疑問を思いつき、尋ねた。

「そういえばマリアさんって、車の免許はもう取ったんですか?」

「……」

凍る空気。
マリアは重々しくドスの効いた低い声でハヤテに尋ねる。

「ハヤテ君、何歳から車の運転免許を取れるか知っていますか……?」

ハヤテはいきなり変わった空気に戸惑いながら、自分の知っている範囲で答える。

「たしか十八歳の誕生日の二ヶ月くらい前でしたっけ?」

「それでは私の年齢と誕生日を知っていますか……?」

「もちろんですよ、マリアさんは十七さ……あ!」

そこまで言ってようやく気がついたようである。
しかし、時既に遅い。

「ハヤテ君……どうして私が免許を取っていると思ったんですか……!」

マリアの周囲には巨大な絶○が構築されている。

「ま、マリアさん!すみませんでしたぁあ!!」

……結局デロリアンには四人と一つの死体が乗ることとなった。

「いやいや!ぎりぎり死んでませんよ!クラウスさんが三途の川の向こうで手を振っていたのは見えましたけど!」

注意)クラウスさんは死んでいません。出番がないだけです。

「てかクラウスって誰だ?」

「ちょっとナギ。そんな酷いこと言っちゃダメよ。
 クラウスさんは……。
 あら?どんな人だったかしら?」

注意)クラウスさんは三千院家の執事長で白髪のナイスミドルらしいです。
  しかし、その実態はただの変態です。

「おお、解説ご苦労だな作者」

いえいえ♪
クラウスさんが泣いているようですが気にせず先に進めます。


「というか……どこで時速140キロなんてスピードを出すんですか?道路交通法に違反するのでは?」

と、自転車で違反できそうなハヤテが志織に尋ねる。
もう三千院家の私有地は使えないはずであるし、どこでそんなスピードを出すのか。

「いや、普通に高速道路でいいだろ?」

ハヤテの疑問に答えたのはナギだった。

「え?どうしてですか?」

「どうしてって……普通に私達はこの時代からいなくなるんだから道交法なんて関係ないし」

「……あ」




そんな訳で夜の高速道路
ここでは数々のドライバーが生き、そして倒れた場所である。(違うだろ)
パッシングと呼ばれる夜の挑戦状を叩きつけられたレイサーは
その熱き魂をかけて戦わなければならないのである。(違うって)
そんな中、ハヤテ達の乗るデロリアンは……


「キャァァァアアアア!!!」

「牧村せんせぇぇえええええ!!」

「や・め・ろーーー!!!」

「あれれ?人が多すぎる所為か、スピードがでないね〜」

「いや十分出てますからぁぁああああ!!」

現在のスピード約時速130キロ。
景色が凄まじい速度で後ろに飛んでいく。
が、タイムトラベルできるのは時速140キロからなのだ。
それ故延々と走り続けているのである。

「仕方ないここはエイトを解体してつけたロケットブースターを使って……」

「え?あのロボ解体したんですか!?」

ハヤテの疑問に志織は答えず、明らかに怪しいドクロマークのついたボタンをポチッと押した。
すると、デロリアンの排気口部分が変形し、
ロケットの噴射口のような形になった。

「さあみんな!しっかり捕まっててね!」

何かが爆発したような音がした。

「……あれ?」

志織はどこかおかしいと気がついた。
しかしそれを指摘する間もなく、
デロリアンはさらに速度が上がる。

「ぬぁぁああああ!!」

ハヤテ達は悲鳴を上げることしかできなかった。

デロリアンは淡い光を放つ。そして……消えた。
後には、タイヤ後に淡い炎が残っているだけだった。