【第10話】花菱美希 ( No.40 ) |
- 日時: 2018/02/10 01:47
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
ここ数年ではかつて無い更新頻度。3ヶ月でイケました。 「まさかお前が主役か」という人選ですが、掲載開始当時(2011年ってウソやろ・・・)から考えていたものとなります。
それでは、どーぞ!
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しあわせの花 Cuties 第10話【 花菱美希 】
「わざわざ来て貰ってすまんな、ハヤ太君。とりあえず、茶でも飲んでくれたまえ」
「くれたまえって…僕が淹れたお茶じゃないですか〜」
「ああ、そうだったな。すまんすまん」
この超不定期連載SSに付き合ってくれている諸君、ごきげんよう。花菱美希だ。今回の主役を務める事になった。ここまで本当にチョイ役しか与えられていなかった私が主役だなんて、誰も予想がつかなかっただろう?かくゆう私もそうだ。 とりあえず主役という事なので、なんとなくメインキャラであるハヤ太君を呼び出して適当に色恋沙汰の絡みを見せる…という訳ではない。
「それで、お話というのは…ヒナの事ですか?」
「おお!察しが良くて助かるぞ、ハヤ太君。その通りだ!」
私にとってとても大事な話をするために呼び出したのだ。チョイ役にはチョイ役なりに大事な物を抱えているのだ。
「その…なんて言えばいいのやら…『告白』と言って良いのかな?…させて欲しいのだ」
突拍子の無い話になるが、私はヒナが好きだ。女同士なのになどと言われても、そんなの仕方が無い。好きなものは好きなんだ。私の憧れであり、ヒーローであり、たまにヒロインになる…私にとってのすべてと言って過言ではない。ここにいる彼、綾崎ハヤテに対していつぞや零した事のある「言ったところで絶対に受け入れてもらえない相手」というのがヒナだ。 なぜこのタイミングで想いを打ち明けようなどと考え出したのか、それは彼の主である三千院ナギと例の小さいお姫様の影響を受けたからだ。長くなるので、ここではその経緯は省くとしよう。
「ええ、僕は構いませんよ…というか、僕にそんな許可を取る必要なんて無いですよ」
「ん?というと、私が勝手に告白しても良いとでも言うのか?」
「はい、そもそもヒナは誰のものでもありませんから。誰がヒナを好きになっても、それに対して僕がとやかく言える筋合いはありません」
淡々と返事をするハヤ太君。驚かれたり、慌てふためいたり、ともすれば罵倒されるんじゃないかとも予想していた私にとって、一歩間違えるとヒナに対して非常に無関心にも見える彼の態度は不思議なものに見えた。
「そうか…?ヒナは君の恋人なのにか?」
「確かにそうです。でもそれは僕たち二人の間で交わされた約束にしか過ぎません。だから、他の人は一切関係無いんです。誰だってヒナを好きになれるし、その誰かがヒナに付き合いたいと申し込んでも、僕にはどうする事も出来ません。一方ヒナはヒナで、自分の幸せのために一番好きな人を選ぶべきだと思っています。だから、もしヒナが僕をダメだと思ったのなら、すぐにでも別れてしまうべきなんです。…そんな事にならないよう、僕はヒナに相応しい相手であるために努力し続けなくてはいけないと考え、精進しながら日々を過ごしております」
ストイックというかなんというか、彼の恋愛観は今まで聞いたことの無いものだった。正直ついていけない。「ヒナは僕の彼女なんだから僕のものだ」とでも言ってくれた方がスッキリするというものだ。
「…なんというか、ハヤ太君は恋愛に対してドライなんだな?」
「ハハ、そんな事ありませんよ。男も女もそういった競争の中にいる…その前提の上で、僕はヒナの事を誰よりも愛している自信がありますし、ヒナは僕の事を誰よりも愛してくれていると信じる事が出来ます。アーたんよりも、桂先生よりも。もちろん花菱さん、貴女よりもです…」
「なるほどな…」
彼の恋愛観はヒナに対して絶対の自信を持っているからこその物だという事を思い知らされた。在りし日の彼…優柔不断で、色恋沙汰には疎いフリをして誤魔化すような、ヒナを任す事なんて絶対にありえない、論外だと思っていた綾崎ハヤテとは全くの別人だった。
「ただ、物事に絶対はありません。だから僕は、ヒナが貴女と付き合わってしまわないようにドキドキしながら祈っています。それだけです」
「そうか。なら、気兼ね無く告白させて貰うよ」
「そうですか、頑張って下さい」
「オイオイオイ、私が頑張ると君は困るはずだろう?」
これまた他人事のような態度を見せる彼に訳が分からなくなって、思わず突っかかってしまう。
「ええ。でもヒナ相手にいい加減な告白はして欲しくありませんからね。それに、僕も自分一人では告白する勇気が持てなかったですし…」
「なんとも面倒な性格をしているな君は…」
ともあれ、私の気持ちを打ち明ける上での心配事は無くなったのでよしとしよう。彼の告白についてはノロケ話になると思ったので、あえて聞く事はしなかった。
◆
で、場面は変わって告白当日。 雪路から仕事を押し付けられたという体で泉と理沙を先に返して、昇り慣れた時計塔のエレベーターへ。ボタンを押す手が震えているじゃないか、私らしくもない。
「……」
次にこのエレベーターに入る時、私はヒナとどうなっているんだろうか。考えても仕方ないのは分かっているが、止まらない。
ウィーン
「あ、花菱さん」
「ごきげんようですわ」
開いた扉の前にいたのはハヤ太君とアリス姫。ヒナを生徒会室に呼び出しておいてくれるという約束をしていて、その帰りのようだ。
「ふたりとも、ありがとう」
「いいえ、このくらいお安い御用ですよ」
「部屋でヒナが待ってますわ。私たちは行きますわよ、ハヤテ」
「うん、アーたん。では…」
「ああ」
ウィーン
ついてしまった最上階。相変わらずの大層な扉が生徒会室を守っている。 ここでヒナはどんな顔をして待ってるのだろうか…。もう、どうとでもなれという気持ちでノックもせずに扉を開ける。
「あれ、美希!?」
「なんだ、驚いて…」
ハヤ太君たちはヒナに本当に私の事を伝えなかったようだ。私の顔を見るなりがっかりしたような安心したような顔をする。
「今日私に話があるって、貴女のこと?」
「ああ、私だぞ」
「そうなんだ。…もう、アリスが『特別なお客様』だなんて言うから誰が来るのかと思ってたわ」
お姫様のヤツ、いらんハードルを上げやがって…などという憎まれ口を叩く余裕はこの時の私には無かった。が、いつもはその場に無いポットにはかろうじて気づけたので話題に出してみる。
「ほう、じゃあその紅茶は私のために淹れてくれてたんだな」
「そうよ。はい、どーぞ」
見知らぬ客人を迎えようというヒナの気合を感じる紅茶だった。私のために淹れてくれたものだ。それはもう…
「うまいな」
「それはどーも。特別な葉よ」
興奮しっぱなしだった頭を落ち着けるのにちょうど良い苦味だった。ヒナが話を振るまでは休憩にしよう。
「それで話ってなにかしら?宿題なら見せないわよ?」
「分かってるって、ヒナはお堅いな」
さて、どう切り出すか。時間はたくさんあったのに結局決めきれずにいた。いきなり「好きだ」もセンスが無いだろうしな…。
「ヒナ、私と一緒にテラスに出てくれないか?」
「えぇっ!?テラスに?」
私の提案にヒナは驚く、と言うより明らかに嫌そうな反応だった。まあ予想の範囲内だ。
「私とでは…やっぱり怖いか?」
「そっ、そんな事…あるわけ無いじゃない!ホラ、行くわよ?」
「フフッ、そう。ヒナはいつでもかっこ良くなくちゃな…」
ゆっくりとだが確実に歩を進めるヒナ。私はそれを急かさないよう手を添えるだけ。
「手、離さないでね?」
「ああ、分かってる」
見慣れた学校の敷地、見慣れた大都会のビル群、見慣れた人々の営み。いつもと変わり映えしない風景が広がっていた。見慣れたはずのものなのに、そこから見えた景色は今まで見た何よりも美しく見えた。ヒナの目にもこのすばらしい景色が焼き付けられているだろうか。
「ヒナ、聞いてくれ」
「ん、何かしら?」
「今から私は突拍子も無い事を言う。だけど、ただそれを聞いてくれればそれだけで良いんだ!」
「どうしたの?改まっちゃって。…良いわよ。何を言われても、まずは貴女の言葉を最後まで聞くわ」
「ありがとう。では…」
そのヒナの言葉に勇気を貰って、いざ告白せんと決心…したはずだった。呼吸を整えて、言い出す言葉を整理して、握っていたヒナの右手を取ろうとした時に、気付いてしまった。
「歩君の誕生日と、声優の中尾衣里さんの誕生日は一緒だそうなんだ」
「…それは本当に突拍子も無い話だわね」
あそこまで盛り上げて、決心して、出した言葉がこれ。一体何が私をそうさせたのか。
「怖い思いさせてすまなかった。戻ろうか」
「えっ…こんなの全然大丈夫なんだから!」
「まあ無理するな、ヒナ」
そう、ヒナは無理をしている。告白しようとした時、ヒナの手が震えているのに気付いてしまったのだ。 私では彼女を安心させる事が出来ない。この「告白しようとするシチュエーション」に酔っているのが私だけなんだと分かった瞬間、空しくなった。ヒナの事を一番に想っていると自負していた自分が、実は自分勝手にヒナを振り回していただけだったのだ。
「それで、本命のお話は?まさかあんな事を言うために、わざわざ私をテラスまで連れ出したんじゃないでしょう?」
「……」
・・・
「失恋をした」
「えっ!?」
「どうしようもなくミジメで寂しかったから、変な事を言って誤魔化したんだ」
「美希…」
ここで「慰めて欲しい」だなんて言えない。多分、そう言えばヒナは理由も聞かずに慰めてくれる。それと同じく私が甘えてしまうだろうというのも分かっていた。
「私の肩でいいなら、泣いてもいいから…」
「…ヒナっ!!」
何も聞かずに貸してくれた肩はいつものヒナの温かさで…とても安心出来てしまい、柄にもなく大泣きしてしまった。
◆
「言いたくなかったら言わなくていいんだけど…」
「うん?」
泣くも泣いて、私の呼吸が落ち着いたころにヒナが切り出す。
「失恋の相手って、ひょっとして…ハヤテ?」
「!?」
多分ヒナは勇気を出して聞いてきたのだと思う。が、私にとっては告白以上に突拍子も無い話だった。
「ハハハッ」
「ちょっ、私おかしいこと言った?」
「あー言った言った。安心しろ、ヒナの恋人を盗る気なんてさらっさら無いぞ。…もっともっと素敵な人だ」
「あーっ、ハヤテを馬鹿にするなー」
「馬鹿になんてしてないさ。その人が本当に素敵なんだから仕方が無いんだ」
ハヤ太君だって私と同じ事を思ってるぞ、と言いたかったがやめておこう。
「そう。会ってみたいわね、その素敵な人に」
「すまんなヒナ…」
ヒナが会う事は絶対に出来ないという意味で謝る。
「良いわよ。誰だって知られたくない事のひとつくらい…」
無理に聞いてこないところが実にヒナらしい。その優しさに、今日は甘えさせてもらおう。
◆
「ヒナちゃん、美希ちゃん!」
「遅かったな二人とも」
時計塔からいつもの様に二人で出て行くと、そこには泉と理沙が。先に帰っていいと言っていたのだが…。
「泉、理沙!待っててくれたの?」
「悪かったな遅くなって…」
いつもより明らかに遅い時間だったが、時計塔で何があったのかは二人は聞いてこない。気を遣ってくれているのか、何も考えてないのかは分からない。
「よし、久々にヒナも揃った事だ。明日は休みだし、私の家に泊まりに来い!歩君も呼ぼう」
「え、でも…」
「安心しろ。お姫様には許可を取ってあるし、ハヤ太君に着替えを持ってきてもらってある。もちろんお気に入りの下着もだ」←ちょっ!衣類はアーたんが詰めてくれたんですから誤解を招く言い方しないで!ホントですよ!byハヤテ
「なんで私の許可を取る相手がアリスなのよ!?」←ヒナはまったく気にしてないというのにハヤテは何を慌てているんですの?byアリスちゃん
上手くいったらヒナをそのまま家に泊める約束をハヤ太君たちとしていた。上手くはいってないけど、まあこんな形でもいいだろう。
「やったー!ヒナちゃんとお泊まり久しぶりだ〜!」
「最近ヒナはハヤ太君とばかりお泊まりしてたみたいだからな」
「ちょっ、理沙!変な事を言わないの」
「否定はしないんだな」
「美希まで〜!…もう、行くわよ!」
チョイ役なりに抱えている物、お分かり頂けただろうか。 想い人になれなくとも、私とヒナは友達だ。このかけがえの無い関係を大切にしていこうと思う。
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『今日は二人で温泉に入るわよ♪』
『ほぉ〜、それはイイですね〜…って、え"え"えぇぇ!?』
「ちょっと!なんでこんなトコ撮られてるのよォ〜!!?」
お泊まり会では、ホームシアターでヒナとハヤ太君のこれまでの思い出を動画で振り返った。 もちろん動画提供はあのお姫様だ。
「ヒナちゃんすごーい!だいたーん!」
「まさかヒナの方がハヤ太君の身体目当てだったとはな…」
「あ〜あ。おとなしそうな顔して結構スケベなのが皆にも知られちゃったね、ヒナさん」
「動画はまだまだあるぞ〜!」
「(白目」
このあと、滅茶苦茶カミナリ落とされた。
【つづく】
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【あとがき】
まさかの美希のお話でした。ずーーーっと書きかけのまま作成中フォルダにあったネタをようやく消化できました。ちなみに他2名の話は構想すらありません。 ヒナギクを人の輪の中心とする物語でCutiesとなると、資格十分っちゃあ十分ですよね。これまでの話の中でハヤテやアリスちゃんと一緒にいる時のヒナギクについては苦手なもの(高い所、ヘタレ、素直になれない性格等)を克服する傾向で書いてましたが、美希についてはヒナギクにとってその域に至っていない。そんな対比を感じ取って頂ければと思います。 恋人のポジションはハヤテに、一番の親友のポジションは歩に取られてしまっている不遇な環境ですが、前向きにいっていただきたいキャラです。
余談ですがハヤテの恋愛観については「バキ」のアライJr編に影響されまくっています。…と言って通じる方がいたらうれしい。
ご感想・ご質問などお待ちしております。 ありがとうございました。
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