【第8話】綾崎ハヤテ ( No.32 ) |
- 日時: 2016/11/17 01:51
- 名前: ロッキー・ラックーン
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
1年と3ヶ月ぶりの投稿です。合同本では半年に1回くらい書いておりましたが…。 待っていた読者様がもしいたとすれば、嬉しい反面大変申し訳無いと感じております。
さて今回はハヤテ、雪路の誕生日ネタ。もう1週間も過ぎてるからいいや、と思っていたらまた放置になると思って、このタイミングでも書きました。
それでは、どーぞ!
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「んもう、ハヤテは主役なんだから座ってくつろいでいればいいの!」
「いやいやいやいや、これだけの量を彼女一人に押し付ける男なんていませんってば!」
今日は11月12日、ハヤテの誕生日からは一日遅れの日。ついでにお姉ちゃんの誕生日の二日後でもある。土曜日で明日は休みなので、桂家にハヤテとアリスをお招きしてお誕生会を開いた。お義母さんの発案とアリスのプロデュース(見てるだけ)で、主役の二人もとても楽しそうにしてくれていた。今は宴会の後片付けと食器洗いをしているところだけど…大人二人とアリスは散々飲んで食べての夢の中。もてなされる側のハヤテが手伝ってくれるだなんて事態に…。
「お義母さんったら、あんなにお酒飲んじゃったら寝ちゃうに決まってるでしょ。普段全然飲まないのに…」
「桂先生にずっと付き合ってましたからね。それだけ嬉しかったんだと思いますよ」
お義母さんのお酒を飲む姿は久しぶりに見た。ハヤテの言う通り、お姉ちゃんと一緒にビンを次々と空けていった。ずっとニコニコしていたのが印象的だった。 思い返してみると、今日の都合をつけておくようにお義母さんに言われた日が、もう2ケ月も前の事になる。ハヤテと付き合う事を伝えた翌日に彼の誕生日がいつかを聞かれ、その時から今日の予定を空けておくように言われていた。ずっとずっと今日を楽しみにしていたお義母さんの気持ちは私にも良く分かる。 今回は、そんな楽しみにしていた一日の終わりをお届けします。
しあわせの花 Cuties 第8話【 綾崎ハヤテ 】
「ヒナ、昨日も今日もこんなにお祝いしてくれてありがとうございました」
「どういたしまして」
後片付けが終わって、私の部屋でハヤテと二人きり。アリスのお気に入りの紅茶を淹れてようやくのひと段落。 お礼を言ってきたハヤテの顔は、今日一日ずっと見せていた笑顔と同じだった。
「誕生日が嬉しいだなんて感覚、生まれて初めてですよ。これまでは親に『産んでもらったお礼』と称してお金をたかられるだけの日でしたから…」
「そ、そうなんだ…。ハヤテが喜んでくれたなら、私も嬉しいわ」
さらっと放たれたとんでもない過去の告白に驚きながらも、この二日間がハヤテにとって良い時間だった事に安心した。ちなみに、昨日(11/11)はナギと私主催でアパートの住人たちでお誕生会を開いていた。
「ヒナ、ちょっとだけ語っても良いですか?」
「うん。ちょっとと言わず、好きなだけどうぞ」
「では…コホン」
わざとらしい咳払いをするハヤテ。その合図は、彼の心の奥底を覗ける機会だと理解した。
「僕は、気付いてしまったんです」
「何に?」
「誕生日で嬉しく思うのって、その誕生日を祝ってくれる人がいるからなんだという事に…です。さっきも言いましたけど、これまで僕にとって自分の誕生日は別に全然嬉しくない日でした。僕自身は両親の誕生日には無関心でしたし、兄の誕生日を祝おうと思っても留守にしている時ばかりで…。誕生日に対してありがたみとか、嬉しいだなんて気持ちはちっとも持った覚えがありませんでした。小中学校のクラスメイトなんかはお誕生会を開いてましたけど、もちろん僕は誘われた事なんてありませんでした」
「そうだったの…」
「あ、別にひがんでいるとかじゃないんですよ。誕生日に限らず何かに誘われたりしたのが無いのが事実なだけです。あんまり他人のせいにしたくはないですが、親がアレだったんでクラスメイトの保護者間で僕の家が要注意視されてたようで…」
「……」
チクリと、胸の痛みを感じた。私とハヤテとで、親に対しての考え方が全く違ったのを知った時と同じ痛み。ハヤテが「クラスメイト」という表現をわざわざ使っている事にも気になった。私だったら、何の気もなく「友達」と言っているだろうから…。
「そんな顔しないでください…って、僕がさせちゃったんですよね、スミマセン。本当に言いたいのはこの後です」
「…うん」
「…だけど昨日はアパートの皆さんが、今日はこの家の皆さんが僕の誕生日を自分の事のように喜んでお祝いしてくれて…『この日は僕にとって特別な一日と思っていいんだ』って感じられました。これって、僕の人生では衝撃的な事なんですよ」
「!!」
ハヤテの言葉に、痛かった胸が別の感覚を催して涙が出てきた。 喜んでもらえた。私たちのした事は間違っていなかった。そう思った時には胸の痛みは消え去って晴れやかな気持ちになっていた。
「それは…良かった…わねっ!!」
「はい。僕の誕生日を変えてくれたヒナや皆さんには感謝感激雨あられです」
「うん。…もう!ハヤテのせいで…涙…出てきちゃったじゃない!」
「スミマセン。…こうしていれば僕に見られずに済みますよね?」
ハヤテは馴れた手つきで私を抱き寄せ、表情の見えない体勢になった。別に涙を見られて悔しいとか今日は思わないけど、ハヤテの気遣いに甘えさせてもらう事にした。 考え方が違うのは悪い事じゃない。今日みたいにハヤテの考えを変えるきっかけを作ったり、私がハヤテに歩み寄ったりする事で寂しさは解消される。きっと、これから先もこういう事を繰り返して私とハヤテは分かり合っていくのだろうなと思った。
「……」
「……」
私の涙が乾くまで何分経っただろう?私たちはずっと無言で互いの温もりを感じていた。 そこからふたり言葉を交わすことなく見つめ合い、私は目を閉じた。それを合図にハヤテは私の肩に手を置きゆっくりと近づいて…
「ベタベタな展開ですわねぇ」
「「ファッ!!?」」
いきなり発せられた声に驚いて二人して跳び上がった。すっかり冷めてしまった私の紅茶を優雅にすするアリスがそこにいた。
「ちょっ…いつからいたの!?」
「『ヒナ、ちょっとだけ語ってもいいですか?』からですわ」
「ほぼ最初からじゃないの!!」
「全然気付かなかったよ、アーたん」
私の文句など一向に構わんという様子はいつものごとく。お茶うけに置いておいたクッキーにまで手を出しているアリス。
「誕生日をお祝いするのは、それだけその人を大切に想っているということなのですわ。その人の誕生日を覚えて、その日に『おめでとう』と言う。まずはそれだけで良いのです。プレゼントはあれば嬉しいですが、無くてもその言葉だけで嬉しくなってしまうものです。ハヤテもヒナも、たくさんの人の誕生日を祝えるような人であって欲しいと思いますわ」
「「うん!」」
アリスの言葉に、二人して同じ返事をする。ただ、アリスはクッキーのカスをこぼしまくりながら話していた。お行儀が悪いと後で叱ってあげないと…。
「と言うわけで、11月30日は楽しみにしていますからね?ちなみに私は、プレゼントが無いと不機嫌になるタイプのお姫様ですからお忘れのないように、ですわ!」
「「えぇ〜!?」」
完全に矛盾する誕生日アピールにズッこける私たち。まったく、いい話が台無しじゃないの!プレゼントはもちろん用意するけど…。
「アハハ…アーたんには敵わないですね、ヒナ」
「フフ、そうね」
…いきなりだけど、最近私は11月を「奇跡の月」と呼ぶようになった。もちろん自分の心の中だけで、誰にもそれを言った事は無い。ハヤテとアリスとお姉ちゃん、私の大切な人たちの誕生日がこんなに重なっているから。今日に至るまでの2ヶ月間、どうやったらハヤテとお姉ちゃんが喜んでくれるのかを考えている時間がとても幸せだった。アリスの誕生日までの3週間、きっとまた皆が笑顔になれる日にして見せるわ。
「うーん、『奇跡の月』はちょっとネーミングセンスを感じられませんわね」
「なんで!?カッコイイじゃないの!…ってか、心の中読まないでよ!!」
「え、なんですか?なんですか?」
「あーっもーっ!ハヤテはいいの!!」
この後、私は一切口にしていないのに「奇跡の月」が桂家とアパートの中で流行ってしまったのは別の話…。 ハヤテ、お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!!
【つづく】
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【あとがき】
誕生日観が一変したというハヤテのお話でした。まえがきで「雪路の」と言いつつ、一切出番の無かった件はさておいて、ヒナとアリスちゃんの会話を書けて良かったです。
クイズ大会のお勉強で17巻あたりを読んでいたところ、ハヤテの両親が酷いアレだったのが刺激になりました。両親を改心させようと思ってあえなく失敗し心を半ば壊された経験を持つハヤテが、ヒナによって考えを変えさせられたという対比があったり、無かったり…。
「奇跡の月」…うーんこのネーミングセンス。自分で考えてダサいと思ったのでヒナに使ってもらいました。来年も再来年も奇跡の月をお祝いしたい…みたいな事をヒナに最初は言わせていましたが、それだとアリスちゃんを元に戻す事をまったく考えてないじゃんと気付いたので封印。アリスちゃん流読心術の餌食となってもらいました。
あんまりにも久しぶりで、色々と違和感を覚えた読者様もいるんじゃないかと…。表現のミスとか分かりにくいトコとかは是非ご指摘頂けると…。
それではまたいつの日か。 ありがとうございました!
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