Re: しあわせの花(ハヤヒナ)【ヒナ編第1話更新】 ( No.47 ) |
- 日時: 2011/12/22 04:20
- 名前: ロッキー・ラックーン
- 参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7738
- こんにちは、ロッキー・ラックーンです。
『HiNA2』聞いてます。良い感じです。 ちなみに映画のHPにある特設サイトから、伊藤静さんによるHiNA2全曲紹介ラジオが配信されてます。作詞家さんまで呼んでてスゴイです。
今回はヒナとアリスの絡みです。 それではどーぞ!
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「ヒナギクさん、明日学校終わってからお暇ですか?」
とある金曜の夜、お風呂あがりに縁側で涼んでいた私にハヤテ君からのいきなりの質問。 土曜日は午前授業のみ。…という事は!!
「ええ、明日は特にする事は無いわ…何かあるの?」
本当は生徒会の仕事が残っていたけど、今夜中に頭の中にまとめて、明日早出して書類を作れば十分イケると思い、即答。 「何かあるの?」だなんて、自分で言ってて笑ってしまいそうになるセリフだ。期待しかしてないくせに。
「良かった〜!実は明日、アーたんが一人で留守番になってしまうので、昼食の面倒を見てあげて欲しいんですよ。お願いしてもよろしいでしょうか?」
「……」
「ヒナギクさん…?」
「…あ、お昼ご飯ね!お安いご用よ♪」
ほんの刹那の間だけど、眉間にシワが寄ってしまった。 ハヤテ君に、見られてないわよね…?
しあわせの花 -Heart of Daisy- 第2話【 母と子と 】
「はぁ…」
大きなため息をつきながら自宅へ向かう土曜日の昼間。 空は晴れ、穏やかな陽気がとても気持ち良い。 それとは対照的な私の心情。
…もう、聞き方が思わせぶりなのよ!
その日、ナギとハル子は同人誌のイベントに参加するためお休み。 「生徒会役員がそんな理由で学校を欠席だなんて」と思わない事も無いけど、何ヶ月も前から決まってて、それに向かって本気で頑張っていたイベントなら致し方ないとも思う。 ちなみに、剣道の大会は土曜に開かれる事が多く、参加する際は公用欠席扱いになる。 部としての活動かどうかの違いだけで、普段頑張っている事の成果を発揮するのに変わりはないから、非難するのは少し違うなというのが私のスタンスだ。
という訳で、今日の放課後ハヤテ君はフリーの状態なんだと思っていた。 だから冒頭の彼のセリフに異様なまでの期待をしてしまったのだ。 実際は、ハヤテ君とマリアさん共々二人の手伝いとして借り出され、残るアパートの住人は私とアリスだけ。 ただ明日の予定を聞かれただけで舞い上がってしまった事への自己嫌悪。それがため息の理由の一つ目。 そう、一つ目という言い方をするからには二つ目もある。
かなりぶっちゃけた話にはなるけど、私はアリスが苦手だ。 特徴的な髪型、年齢に不相応な立ち居振る舞い、元々不思議な力を秘めているところ…何よりハヤテ君が「アーたん」と呼んでいる事。裏は取れてはいないけど、あの子は十中八九、天王州さんだ。 で、そんな彼女がなぜあんな姿に、なぜ記憶が無いのか、なぜ私と一緒に暮らす必要があるのか、なぜその理由を私に教えてくれないのか、疑問に感じる点がたくさんある。 そんな風に思ってる中で、一緒に住んでいても…
いや、ごめんなさい。 私がアリスを苦手に思ってる理由はこんな事じゃない。 きっと鋭い読者の皆さんなら分かってるはず。 【ハヤテ君の好きな人が彼女である事に劣等感を抱いているから】 …これに尽きると思う。
ハヤテ君の愛してる人はこの人なんだと思うと、切なくて胸が張り裂けそうになる。 ハヤテ君の愛するその目で見られると、ハヤテ君の愛するその声で話しかけられると、ハヤテ君の愛するその手で触れられると、妬ましくて仕方なくなる。 多分だけど、もし私がハヤテ君の恋人になれたとして、他のハヤテ君が好きな女の子にこう思われたとしたら理不尽だと感じると思う。 分かってる。分かってるのに自分の心が制御出来ない。 ホント、バカみたい。
「…早く帰ろう」
ブンブンと頭を振る。 こんなダメな事をずっと考えていても仕方ない。 逆に考えれば、せっかくの二人っきりになるチャンスだ。 コミュニケーションをしっかり取って、お互いの考えてる事をすり合わせるには今日しか無い。 そう自分に言い聞かせて駆け足でアパートへと向かうのだった。
・・・
「ただいまー」
「おかえりなさい、ヒナギクさん」
縁側にいたアリスは、私の姿が玄関から見えるとマリアさんのサンダルを履いて近寄ってきた。 幼い身体に不釣合いなサンダルでひょこひょこと歩いてきて私を迎えてくれた。
「ひなたぼっこ?」
「はい。とても気持ちの良い陽気でしたので…」
さっきも言ったとおり、陰鬱とした気分の私をせせら笑うかのような陽気。 そんな陽気の中を走って来たから汗もかいたし、お腹も空いてしまった。
「お腹空いたでしょ?すぐにお昼ご飯作るから!」
「はい、お願いします」
足早に自室に戻って制服を着替え、いつも使っているエプロンで身体を覆いながら台所へと向かった。 手を洗いアルコール消毒も済ませ、作るメニューは…焼きそば。焼いたソバだ。 昨日の夜の時点で冷蔵庫の中身を下見しておいたので、材料はバッチリ揃っていて、調理する時間もそんなにかからないお手軽メニューだ。
ところで、いつだったかナギが名作だと薦めてきたから読ませてもらったマンガに「『焼きそばが食べたい時』と『カップ焼きそばが食べたい時』は別の時であり、『カップ焼きそば』は『焼きそば』に近いものだが、焼きそばに勝ってもいないし負けてもいない」というセリフがあって、妙に納得してしまった事をなんとなく思い出した。確かにあの二つは全くの別物だと私も思う。 ちなみに「綾崎ハヤテに本気で恋焦がれてる時」と「叶わぬ恋に没頭する哀れな自分に酔ってる時」は紙一重で別物だ。「カップ焼きそば現象」とは違って、後者は明らかに前者に負けているけど…。
…と余計な事を考えている間に野菜とお肉の切り分けも終了。 後は順番に炒めれば…
「ヒナギクさん」
「!!」
気付いたら、アリスが私のエプロンのすそを掴んでいた。 正直、かなり驚いた。余計な考え事をしてたのもあり、身体が震えてしまった。
「なに?これから火を使うから危ないわよ」
「すみません、ココで見ててもよろしいでしょうか?」
「良いわよ。でもココじゃ近いから、そこの椅子に座ってなさい」
「はい!」
油の跳ねない距離までアリスを遠ざけ、調理再開。 お肉(赤みが無くなる手前まで)→野菜(水分をしっかり飛ばす)→麺(水を少量加えると蒸し焼きに出来て美味しい)の順番でフライパンに入れる。
「何を作ってるのですか?」
「焼きそばよ。もう少しで出来るからね」
「なんで水を入れるんですか?」
「こうすると全体に熱が伝わって美味しくなるのよ」
「へ〜っ、そうなんですか…良い匂いですわ」
…焼きそばを作りながらの会話の最中、強烈なフラッシュバックに襲われた。 私が桂家に来て、初めてお義母さんと二人っきりになった時、お義母さんは焼きそばをお昼ご飯に作っていた。 10年位前の話で、今の今まで全然覚えてなかったのに…
その頃の私はひどく不安定で、お義父さんやお義母さんは優しくしてくれていたのに、なんやかんやと反発してた記憶がある。 「偽者の親のくせに」とか「本当のお母さんに会わせろ」とか、酷い事を言っていた。 まあ、6つか7つの子供がいきなりそんな環境の変化に順応できても不気味だけど… とにかく、その時に食べた焼きそばが本当に美味しくて、その時お義母さんと初めて笑って会話した記憶がある。
「ヒナギクさん、泣いてらっしゃるんですか?」
「!!」
気付いたら涙がこぼれていた。 私はハッとして慌てて目をこする。
「なっ、泣いてなんかないわよ!!煙が目にしみちゃって…ケホケホ…えーっと、もうすぐだからね♪さぁ、そこの棚からお皿を出して!」
「…は〜い」
無理やり作った笑顔でごまかし、出来上がった焼きそばをお皿に盛り付ける。 う〜ん、我ながら良い出来ね。
「美味しそうですわね〜!早く食べましょ食べましょ!!」
「はいはい、そんなに急かさないで」
アリスが二人分の箸を出し、私が二人分のお茶を用意する。食卓完成!
「「いただきまーす!!」」
うん、味は言うまでも無く上々。 アリスも美味しそうに食べてくれている。
「美味しい?」
「はい、とっても美味しいです!」
「ふふっ、良かった…」
笑顔で答えるアリス。その姿を見ていたら、これまで感じていた氷のような感情がみるみる融けていくような気がした。 無邪気というか、愛らしいというか…とにかく、本気でハヤテ君の事を想っている時と同じような…温かい気持ちになった。
「『焼きそば』というものはこんなに美味しいものなのですね!ヒナギクさんのおかげで私の好物が一つ増えましたわ♪」
「おかわりもあるから、たくさん食べてね」
焼きそば自体は市販のものを調理しただけだから少し恥ずかしいけど…かなりウケが良いようで何より。 私もかなりお腹が空いていたので、始めは二人分には多いかなと思ってフライパンに残していた分もあっという間に完食。
「「ごちそうさまでした!」」
食べ終わったら仲良く片付け。 その後は歯磨き。 ふと、永久歯が生え揃った体が幼児化したら歯並びとかはどうなるんだろうとか思いもしたが、禁則事項のようなので考えるのをやめた。
「ふ〜っ、お腹もいっぱいになりましたし、一緒にひなたぼっこでもしませんか?」
「うん、良いわよ」
さっき私が帰ってきた時もやってたのにというツッコミも入れずに誘いを受ける。(後から聞いた話だと、日中起きている時はたいがい縁側でボーっとしてるらしい) ちょうど、色んな話が出来るチャンスだと思った。 座布団と温かいお茶とちょっとした毛布(アリスいわく「極楽3点セット」というらしい)を用意して、縁側へ。
「う〜ん、今日は特別気持ちの良い日ですね〜」
「そうね…ふぁ〜あ」
大きなあくび。いけないいけない、完全に気が抜けてしまっている。 でも、お腹いっぱいご飯を食べた後にこの陽気。仕方ないか。
「いつもこうしてるの?」
「はい、お天気の空を眺めながらボーッっとする。こんなに楽しい事はありませんわ!」
「そ、そう…」
いきなりの●太君みたいな事を力説するアリス。 確かに、気持ち良くて眠くなっちゃって、幸せな気分に浸れるけど。
「ねえ、アリス…」
「はい?」
「寂しくない?お父さんもお母さんもいなくて…」
なんとなく。ただなんとなく聞いてみただけだった。 私の場合は、お姉ちゃんがいた。今でこそなんだかんだとけなすような事を言うけど、お姉ちゃん無しで今の私は存在しえない。 今、この子は誰を支えにして生きているんだろうかと思ってしまったのだ。
「う〜ん…父も母も知らないから分かりませんわね…でも…」
「?」
「寂しいなんて事はひとつもありませんわ…私には素敵な『ママ』がいますから♪」
「え?それって…」
「ふふふっ♪」
屈託の無い笑顔で私を見つめるアリス。 …きっと、私もお姉ちゃんをあんな瞳で見てた。 「この人だけは、自分をスキでいてくれる。離れないでいてくれる」…そう信じている目だ。
友情でも、恋でもない…自分の中に初めて芽生えた感情。愛情…っていうのかな? 多分、お姉ちゃんやお義父さんお義母さんが私に対して持ってくれている気持ち。 この子を守りたい。裏切りたくない。そんな気持ちで胸がいっぱい。 誰かに信頼される事って、こんなに心を動かされる事なんだ…
気が付いたら、アリスを抱きしめていた。 彼女が戸惑っているのもお構いなし。
「えっ、あの…ヒナギクさん?」
「『ヒナ』で良いわ…というか、そう呼んでちょうだい」
「?」
「『ママ』は恥ずかしいからやめてもらいたいけど、『ヒナギクさん』だなんて他人行儀じゃない…ね?」
余談だけど、私は自分の名前の呼ばれ方をその人との関係のバロメーターにしている。 要は、親しい人からは「ヒナ」と呼ばれたいのだ。 もちろんハヤテ君にもいつかそう呼んで貰う日を夢見てるし、歩からも「さん付け」をやめて欲しいと思ってる。
「分かりました…ヒナ」
「うん。」
さっきまでの私はナシ。好きになっちゃった。 私はこの子、アリスの母親だ。 どんな苦境に立たされようと、私はこの子を守る。
「ところでヒナ」
「ん?なあに?」
「ハヤテにはもっと積極的に行った方が良いと思うのですが…あの通り鈍感なのですし」
「!!?」
いきなりのダメ出し。 アレ!?このままキレイに終わるんじゃなかったの?作者さん!(←ごめんなさい)
「え、その…ハヤテ君も忙しいみたいだし」
「ヒナはハヤテが好きなんでしょう?」
「う、うん…」
「だったら、もっとアプローチしないとダメですわ!ハヤテは鈍感なくせに妙にモテるみたいですから、『見てるだけ』『思ってるだけ』はNGです!」
「は、はいっ」
子供らしからぬ剣幕で私に迫るアリス。 つられて従ってしまう私。
「『ママ』であるヒナが『パパ』であるハヤテを好きなのは、私にとってとても嬉しい事なのです。ですから、ヒナは思う存分ハヤテへの恋を実らせてください」
「えっ、でも…」
「『天王州アテネ』の事ですか?ごめんなさい、ヒナ。今は何も話す事ができません…でもきっといつか全てをお話ししますから。貴女は貴女の道を進んでください」
「……」
私の心を見透かしたような言葉。やっぱりこの子は不思議な力を持っている。 でもそんな事、もうどうでも良いや。 私はアリスを信じるし、アリスも私を信じてくれていると思う。 しばらくはそんな感じで付き合っていこう。
「どうやったら、ハヤテ君の前で素直になれるかな…?」
「それは何と言っても表情ですわ。好きな人の前でしかめっ面をしてて、本人も相手も嬉しいわけがありません!…では、ヒナ」
「?」
「『嬉しい〜♪ハヤテ君、ありがとう!ニコッ』ハイ、続けて!」
「う、嬉しい〜#ハヤテ君、ありがとう?(棒)」
「全然ダメダメです、下の下ですわ!さあ、もう一度!!」
不用意な私の一言で急に始まったアリス先生のレッスン。 それから皆が帰ってくるまで続いたのだった。
数日後・・・
「ありがとうございました、ヒナギクさん」
「いいえ、またいつでもいらっしゃい」
私の部屋。宿題に困っていたハヤテ君に手助けをしてあげていた。 そろそろハヤテ君、帰っちゃうわね…よーし、アリスの過酷な特訓の成果を見せてやるわ。
「では、そろそろ僕はおいとまさせて頂き…」
「ハヤテ君」
「?」
「いい夢見られると良いわね…おやすみっ」チュッ
(凍った間)
「はわわわわわ!ヒナギクさん!!?」
「あの、いや、その…おやすみっ!!」バタン
アリス神拳奥義その4「おやすみのキス」あえなく失敗… 扉を乱暴に閉めてハヤテ君を追い出した。
「あ゙ぁぁぁあああ!なにやってるの私わーーー!!もう死にたいわーーーー!!!」
「ヒナ、大成功ですわよ!!厳しい特訓に耐えた甲斐がありましたわね」
頭を掻きむしる私の横で、押し入れから出てきた娘は誇らしげに肩を叩いてきたのだった。orz
つづく
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・・・ちなみに
「ヒナギクさん…キス…夢…」
「おい、ハヤテ!ハヤテ!!…へんじがない。 ただの しかばねのようだ」
当のハヤテはあれから3日ほど夢うつつだったそうだ。
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【あとがき】
28巻アリス初登場から、29巻10話までヒナとアリスの会話が皆無なのにアリスが「ヒナ」と呼んでいたのを見て思いついた話です。 本編は完全にルカ中心のためヒナ・アリスの関係は完全にしょられてましたので…。 ハヤテ編4.5話の焼きそばエピソードの補完をしつつ書いてみました。
■カップ焼きそば現象 「みな●け」からです。私自身かなり納得させてもらった説です。
■のび●君みたいな… 「あったかいふとんで、ぐっすりねる!こんな楽しいことがあるか」というセリフのパロディです。 アリスの日常を一話にしてみると面白いんじゃないでしょうか?ハヤテの日常はとてもキツそうで見てられませんでした。
■アリス アリスはハヤテにとっても重要でしたが、ヒナにとっても歩と同レベルのキーパーソンです。 「ヒナとハヤテをくっつけたい」「アテネの記憶が無い」という設定にしましたので、簡単に動かせる最強キャラです。 アテネの記憶に干渉されないという意味で、アリスは「ちびアテネ」と言うより「アリス」という独立した人格として動かしています。 逆にアテネになってしまうと、アリスの記憶がアテネの人格に干渉する。アテネとアリス二人で「アテネ」という人格になる。 心の自由の点でアリス>アテネという力関係になるんです。記憶が無い事で逆に。 そうしないと、いたる所でアテネが干渉してきてハヤヒナが成立しなくなっちゃうんですよね。 これからもアリスの暴走っぷりを書きたいと思います。 それにしても、31巻ではヒナとマリアさんまで同人イベントに行っちゃって、アリスは一人ぼっち(とトラ一頭)で家にいるんですかね〜?
■ヒナの記憶 ヒナはとっても良い子だから義理の両親ともすぐに打ち解けたと思いますが、焼きそばエピソードのためにちょっと反抗期のある設定にさせてもらいました。 アリスと昔の自分を重ねた結果、自分が受けた愛情をそのままアリスに向けてやるという結論に。 イヤイヤ言いつつアリスの特訓を受けてるのも愛情表現の一つです。
さてさて、解説はこんなところです。 ヒナ編になってから、ハヤヒナが全然出てませんね。書きたい… 次回はそんな願望を無理矢理叶える形になるかもしれません。
ご感想・ご質問などお待ちしております。 ありがとうございました。
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