Re: 新世界への神話Drei 8月12日更新 ( No.39 )
日時: 2012/08/21 19:53
名前: RIDE
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129

どうも。

八月も後半ですね。
まだまだ暑いですが頑張りましょう。


それでは、本編です。


 3
「…なるほど。よくわかった」

 自分たちの事については話し終えたジェットたち。そして今度は、光たちの話を聞いている。

「この世界にはセフィーロという国が存在するというのは小耳にはさんでいたが、まさかおまえたちが綾崎と同じ世界の人間だったとは驚いたぞ」

 このことに、咲夜や歩たちといったあっちの世界の住人たちは特に驚いていた。

「私たちも、この世界で自分たち以外の地球の人たちと出会うなんて、思いもしなかったわ」

 海は如何にもびっくりしました、と言わんばかりに目を丸くしている。光と風も、同様に衝撃を受けていた。

「私たちとしては、魔法というものがまるで信じられないのだが…」

 理沙が胡散臭そうに光たちを、まるで品定めするかのようにじろじろと見ている。現在精霊という不可思議な存在を目の当たりにしているというのに、魔法という言葉には違った響きがするのだろう。

 そんな中、微笑みを浮かべながら風がジェットたちに近づいた。

「見たところ、傷を負っていらっしゃいますね」

 そう。大群の使者たちを寄せ付けなかったジェットたちとはいえ、全く傷を負わないということは難しいことである。それでも、何でもないように立っていられるのは歴戦を重ねてきた戦士らしく、流石だとも言えよう。

 そんな彼らに向かって、風が手をかざすと、彼女の周囲がそよ風で揺れ出した。

「癒しの風!」

 彼女がそう唱えると、ジェット、ドリル、ジムの身体が魔法によって生じた風に包まれていく。その風が、ジェットたちの傷を塞いでいく。

 どうやら、風は回復魔法が使えるようだ。

「どう、これで信じてもらえるよね?」

 海はこちらを振り返り、得意気に鼻を鳴らした。

 咲夜たちは黙って頷く。光たちが格好よく見えたのか、目を輝かせている。しかし…。

「あんたがやったわけじゃないっちゅうのにな…」

 魔法を見せたのは風だ。それなのに、さも自分がやったような態度の海に若干呆れてしまっているのだ。

「しょうがないでしょ!」

 すると海は逆ギレとまではいかないが、怒ったように熱く言い寄って来た。

「私と光は攻撃用の魔法しか使えないのよ!それに魔法は無闇やたらに使うと自分の身が危なくなるの!」

 魔法は便利だが、意味もなく使うとその威力が自分に跳ね返ってくるのだ。標的が存在して、それに狙いを定めることで魔法の効果を正く発揮させることができるのだ。
魔法は目的のためだけに使わなければならないと導師クレフに教えられた。改めて考えると、魔法というのは契約に基づいているものではないかと思う。

 賑やかに会話している中で、ただ一人雷矢は我関せずといったように輪の中から外れ歩き出そうとしていた。

「あ、おい待てよ!」

 それに気づいたドリルたちは、慌てて彼の前まで走り止めに入った。

「どこに行くんだよ、おまえ」
「決まっている」

 憮然とした様子で雷矢は言い放つ。

「明智天帥のもとだ。奴が何を狙っているのか、この手で吐かせてやる」

 目的自体はこちらと大差はない。ただ、力で訴えるその乱暴な手段は、相変わらずというか、なんというか。

「なんだ?」

 呆れたような目で見ていると、雷矢が睨みを利かせてきた。

「い、いえ、なんでもありません」

 その凄みに脅えた美希たちは、文句がないということを表すため慌てて笑顔を取り繕う。

「そうか…」

 すると雷矢は再び歩き出そうとする。その挙動に、ジェットたちは違和感を覚えた。

 以前の彼は立っているだけでも身を焦がすほどの強烈な憎しみを発していたのだが、今は違う。威厳のようなものは確かに感じられるが、それは剥き出しに放っておらず、自分の身の内に大人しく潜めていた。

「ちょっと待て」

 しかし、それと雷矢を先に行かせるのは別である。

「明智天帥の狙いがわかったとして、その後はどうするつもりだ?」

 サングラス越しに、ジェットの刺すような目が見える。

「まさか、戦うつもりか?」
「奴の考えによっては、あるいは…」

 あるいはなんてものじゃないだろう。

 必ずやるだろう、この男は。絶対に。

「その邪魔をするならば、以前のように弟たちにも手をあげるか?」

 この問いに対し、雷矢は微かに眉をひそめた。誰にも悟られない程度であったので、ジェット以外誰も気付けなかった。

 口調も変化がなかったので、彼がほんの少し心が揺らいだなんて誰もが思いもしなかっただろう。

 そんな雷矢は、こう答えた。

「…今の俺には、明智天帥以外眼中にない」

 それは聞こえようによっては危険だと思われる答えであった。自分の標的以外は例え殺してしまっても構わないと受け取れてしまう。それだけのことを、目の前にいる男はやってきたのだ。

 だがジェットは、今の雷矢からはそのような真似はしないと、なんとなく感じていた。今の言葉だって、狙いはあくまで明智天帥だけであって、他は相手にすることはないということだろう。

 それは、なんとなくだが感じた雷矢の静かな意志からそう考えたのだろう。

「…そうか」

 その上で、ジェットは雷矢にこう返した。

「なら、先へ進め。獅堂たちと一緒にな」
「いいのですか?」

 自分たちも含めてのことに、風は確認をとってみる。

「引きとめる理由はないさ。それに…」
「それに?」

 続けようとした言葉を、海が促そうとするが。

「…いや、なんでもない」

 引きとめようとしてもこの四人は自分たちを倒してでも進むだろうと、敵であった男やまだ子供である少女たちの前で口にするのは、なんとなくジェットのプライドが許せなかった。

「それじゃあ、行こうか」

 光の呼びかけに、海と風は頷く。

 そんな三人に構わず、雷矢は我先にと歩き出していた。

「あ、待ってよ!」

 光たちは慌てて彼のあとを追いかける。雷矢は彼女たちに目もくれず先を目指している。

「いいんですか?ジェットさん」

 雷矢たちの背を見送っているジェットに、ジムが耳打ちをしてくる。どうやら彼は、雷矢の事をまだ完全に信じてはいないようだ。

「大丈夫だろう。後のことは綾崎たちに任せよう」

 雷矢が対面すべきなのは、ハヤテたちであろう。だからこそ、雷矢についてどうするかは、ハヤテたちが決めることなのだ。雷矢もまた、彼らと戦い以外での決着をつかなければならない。

「それに、獅堂たちもいるしな」

 光たち三人に対してジェットがそう思うのは、彼女たちの目を見たからだ。

 ダイやハヤテ、ナギたちと同じ、真っ直ぐな意志の強い目だった。

 ああいう人間は、周囲に強い影響を与えていく。良くも悪くも、だ。

 そして、既に雷矢は影響を受けているに違いない。そうでなければ、あんなに大人しくなれるはずがない。

 と、他人の事で考えることができるのはここまでであった。

「これ以上はすきにさせんぞ!」

 新たな使者の軍団が現れ、ジェットたちに今でも襲いかかろうとしていた。

「まったく、休ませてはくれないみたいだな」

 軽口を叩きながらジェットは刀に手をかけるのであった。






今回はここまでです。

感想、指摘等があったらよろしくお願いします。