Re: 新世界への神話Drei 6月30日更新 ( No.32 )
日時: 2012/07/12 22:15
名前: RIDE
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129

どうも。
七月に入り暑くなってきましたね。
この時期はいろいろと大変です…。


さて、まずはレス返しから


キーさんへ

ここでの感想ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

山火事になれば結構樹は燃えますから、燃やしてしまえば楽です。
富士の樹海は、行ってみる気ありますか?

サンベアートとロクウェルはは結構強いです。最低でもこのレベルが黄金の使者に必要だということです。
花南の策は、今回を見てくれればわかります。

重ねて言いますが、感想ありがとうございました!


それでは、本編です!
今回も結構長い気もしますが、楽しんでくれるとうれしいです。


 2
「意気込みは十分なようだな」

 そんな彼女を前にしても、ロクウェルは余裕であった。

「だが思い通りにいくとは限らないぞ。第一、構えも取らないとは本当にその気があるのか?」

 ロクウェルを睨む花南。彼女はただそこに立っているだけで、今にでも動き出そうとする気配すらない。誰が見ても、戦う気があるのかと疑ってしまうほどだ。

 しかし、花南は取り済まして言った。

「その必要はないわ。山を力でもおって動かすことは、不可能に近いもの」

 それを聞いたロクウェルは、核心を突かれたかのように驚きの息を漏らす。

「この女は達郎と同じように、相手に先手を打たせたてその動きによってカウンター等を仕掛けるタイプ。自分が動かない、いわば静の攻撃に秀でているのよ」

 花南は先ほどまでの戦いで分かったことを指摘していく。

「ハンタークローなどの、動の攻撃も一応あるけど、それはあんたの本領じゃないわね。そうでなければ、いくら実力があるとはいえ青銅でしかないヒナギクや優馬にかわされるはずがないもの」

 ツリシーズメイズがあまりにも強大であったため、目を離しがちなところを花南はちゃんと注目していたのだ。

「敵の攻撃を防ぎながら、ダメージを与えていく。しかも土砂崩れの後に間を置かずに雪崩を起こした。必殺技だから連続攻撃のようにも見えるけど、実際は固定砲台が迎撃したようなものよ」

 そう。思い返してみればランスディングジョーズやスノスディングウェーブを放った時、ロクウェルは一歩もそこから動いてはいない。

 まさに、不動のまま登山者に険しく待ち構える巨山であった。

「まあ、力のためを必要とせずにあれほどの必殺技を連続で繰り出せるのは黄金の使者によるとことが大きいんでしょうけど、ああして立っているだけであの女は戦闘態勢がとれているのよ」
「大口を叩くだけのことはあるということだな」

 ロクウェルは青銅の使者ながら、あの短い戦闘でここまで読めた相手に感心していた。

 花南は普段から思慮が浅いものに対して、脳ミソ筋肉ダルマとか単純とか罵ってはいるが、それを口にするだけのことはあった。

 これほどの頭の冴えは、切れ者と言われてもおかしくはなかった。

「だが、それがどうしたというのだ?」

 ロクウェルは静だが迫力を込めて尋ねた。

「私の戦い方がわかったからといって勝てるものではない。このままだと、決着は永遠に着かないままだぞ」

 花南が口にしたのはロクウェルに対する攻略法ではない。それに迂闊に攻撃できないとしても、なにもしないのでは彼女の言うとおり、いつまでも戦いに終わりは来ない。

「そうでもないわ」

 花南は花を、ブロッサムボムを取り出す。

「私の完成した必殺技で、山を作る。そして、あんたという山が自ら動かなければならない状態に追い込んでやるわよ」

 そして、こうロクウェルに宣言したのだ。

「私を追い込む、とはな」

 ロクウェルは馬鹿にしたように笑った。

「黄金の使者を相手に、よくそんなことが言えるな」
「そのプライドも、粉々に砕いてやるわ」

 花南は、ブロッサムボムをロクウェルに投げつけた。ひらひらと空中を舞うそれは、またたく間に無数に増えていき、ロクウェルの周囲を覆っていった。

「これが、花南さんの完成した必殺技…?」

 佳幸たちは首を傾げた。どう見ても、今までのブロッサムボムと何ら変わっていない。

 ロクウェルも、それほど脅威とは捉えていないようだ。

「この花、おそらくは爆弾でありそれを周囲に散らすことで身動きを封じるのだろうけど、動く必要のない私には意味がないぞ」

 簡単に見抜かれてしまうようでは、やはり通用しない。それにブロッサムボム一輪における威力は高いわけじゃないので、黄金の使者に与えるダメージは期待できるものではない。

 だが花南は、意味のない技を仕掛けるような間抜けではなかった。

「動かないとは、わざわざありがたいわね」
「なんだと?」

 ロクウェルは花南が何を企んでいるのか疑問に思ってその時だった。

 地面に落ちた花々に、変化が起こったのだ。

「完成した私の必殺技は、相手が動きを止めた時に真価を発揮するのよ」

 花が萎んで種となり、それが芽をつけていき、急スピードに成長し出した。

 そのまま棘の蔦がロクウェルに向かって勢いよく伸びていき、彼女の全身は無数の蔦によって縛りあげられた。

「くっ、これは…」

 蔦に付いてある棘がその身に食いこんでくる。それ自体は大した痛みではないが、蔦がどんどんと締め上げるように揺さぶってくるので、刺された傷口が広がってダメージが大きくなろうとしている。

 更にその蔦から、多くの花が咲き始める。今も宙に舞っているものと同じものが。

「ま、まさか…」

 ロクウェルが察したとおり、蔦が揺れて彼女の体に触れたため、その花が一斉に爆発を起こした。

「花に触れなくても、地に落ちたそれらから棘の蔦が伸び、傷つけながら拘束したところを蔦から咲いた無数のブロッサムボムによる爆発を浴びせる」

 花南は自ら新必殺技について解説をはじめた。

「花は宙を舞い続けているから、爆発で蔦を吹き飛ばしてもまた新しいものを伸ばして、相手を再び絡め取る」

 彼女が語ったとおりに、花は次々と地に落ちていくので爆発によって破れても代わりとなる蔦が生え、ロクウェルに巻きつく。だが全身に隙間がなかった先ほどとは違い、腕や脚、胴などを縛っただけだ。

 何故拘束する場所を限定させたのか、それもすぐにわかった。爆発によって散った無数の花びらがロクウェルにまとわりついて、彼女の身に切り傷をつけていく。全身隈なく拘束していれば、切り刻む箇所がなく、蔦を裂くだけに過ぎない。

「そして、花びらによって体をずたずたに切られていく。これが私の完成した必殺技、花舞封殺陣よ」

 相手を棘付きの蔦で縛り上げ、爆発によってダメージを与え、また縛ると同時に花びらによって切りつけられる。

 威力の低さを手数と知恵で補う、花南の性格がよくあらわれている技である。加えて、かかってしまえば脱出は困難となる、蟻地獄のような恐ろしい一面も持っている。

「塵も積もれば山となる、って言葉があるけど」

 花南は、尚も花舞封殺陣に驚愕しているロクウェルに話す。

「このまま痛めつけ続ければ、大きな傷になるかもしれないわね」

 小さい負傷でも、それが重なっていけば致命傷となってしまう。確かに花南の言うとおりであった。

 山を作る、という彼女の言葉の意味をここでよく理解ができた。

 無限ということはさすがにないが、ループしていくような技を青銅でしかない使者が編み出したことにロクウェルは信じられなかった。とはいえ、このまま大人しくなるほど黄金の使者も甘くはなかった。

「舐めるな!」

 そう叫ぶと同時に、ロクウェルに巻きついていた蔦が破れ散り、花も吹き飛んでしまう。

「気合を入れて、それによって外に放出したエネルギーだけで打ち消したのね」

 白銀の使者でもできない力技だ。黄金の使者というのは本当にかけ離れた存在であることがよくわかる。

「いい気になるなよ」

 ロクウェルはツリシーズメイズで花南を取り囲み、自身は木々によって姿を隠す。

「態勢を整えるための時間稼ぎかしら…」

 ツリシーズメイズに身を潜めた以上、彼女を探し出すことは困難であることは既に承知している。つまり、ロクウェルは崩れにくい防御をとったということだ。

 だが余程狼狽してしまったのか、ロクウェルは気づいていなかった。自ら守りをとったことで、山を自ら動かせたという花南の宣言通りになってしまったことを。

 北風と太陽という話では、両者がどちらが旅人のコートを脱がせるか競い合っていた。北風は強風でコートを吹き飛ばそうとするが、旅人はその度にコートをしっかりと掴んでしまう。しかし太陽が気温を上げていくと、その暑さに旅人はコートを着ていられなくなり、自ら脱いでしまうのだ。

 そして花南はその太陽と同じことをしたのだ。力技ではなく、知恵を絞って相手を誘導させるということを。

 そんな彼女の前に、ツリシーズメイズも破られようとしていた。

 周囲を木々に囲まれた花南は、ある方向へ顔を向ける。

「アイビーウィップ!」

 その先に向けて、蔦の鞭を振るった。それを用いて、隠れていたロクウェルを引きずり出したのだ。

「な、何故…?」

 ユニアースの角でさえ、居場所を突き止めることは不可能だった。だというのに、どうやって自分を見つけることが出来たのだろうか。

 そこでロクウェルはふと自分の身体を見て、あることに気づいて花南に尋ねた。

「貴様、あの花舞封殺陣という必殺技を仕掛けた際、何か目印をつけたのだな!」

 花南は、それを肯定した

「花が爆発した時、あんたの身体に大量の花粉が付着したのよ。その香りで、あんたを見つけることができる、いわば発信機の役割を務めていたのね」

 そこまで言って、花南は呆れたように言った。

「まあ、ツリシーズメイズという木の属性の技を持つフラリーファにとっては力を増すような良い環境だったからあんたを見つけることが出来たのでしょうけど、あんた相当焦っているわね」

 そうでなければ、相手に有利な状況を作ったりしないであろう。図星を突かれたロクウェルは一瞬押し黙ってしまう。

「しかし、私には他にも技があるのだぞ」

 ロクウェルは花南に向けて手をかざす。

「ランスディングジョーズ!」

 すると大量の土砂が波となって、花南を押し潰そうと迫っていく。威力が高いことは明らかであるというのに、花南はよけようという風には見えず、微動だにしない。

「そのまま受ける気か?」

 ロクウェルの予想どおり、花南はそこで立ち尽くしたまま、土砂崩れに呑まれていった。

 普通なら、ランスディングジョーズに巻き込まれればその強い勢いに押し流されてしまう。だがロクウェルは、簡単にいくはずがないと花南に少々脅威を抱きはじめている。

 彼女の予感どおり、土砂が過ぎていった後も、花南はそこに立っていた。ロクウェルの必殺技をこらえ切ったのである。

「地中深くまで根付いた樹は、土砂崩れであっても流されることはないわ」

 それでも、黄金の使者の技を真正面から受けて大ダメージを負わないわけがない。しかし、あの土砂崩れに流されてしまったら花南は確実に倒されていただろう。

「なら、これはどうだ?スノスディングウェーブ!」

 今度は雪が花南を掻き攫おうとしていく。それでも、花南は真っ直ぐに向き合っていた。

 全身に多くの雪を被ったが、尚も花南はその場に立っていた。立ったままでいたのだが…。

「氷漬けを防ぐことは、無理だったような」

 雪と共に襲来してきた冷気によって、その身が凍りついてしまった花南。

「まあ仕方のないことだ。標高高い雪山の、零度以下の冷気なのだからな」

 そう言いながらロクウェルは、花南に向けて右手の鉤爪を掲げる。

「このハンタークローで、仕留める!」

 その鉤爪を、勢い良く振るったロクウェル。花南の身はそれによってえぐられてしまうかと思われた。

 だが、花南の身体はハンタークローを弾いてしまった。

「な!?私の爪を?」

 驚愕するロクウェル。そんな彼女が立っている地点から、根のようなものが伸びて彼女の身体に絡みついてきた。

「木が冷気にやられてしまったと思いこむなんて、本当に脳ミソ筋肉ダルマね」

 聞こえてきたその声は、花南のものであった。凍りついた彼女が何故口を開くことができるのだろうかと思い見てみると、花南にかけた凍結が解かれようとしていた。

「植物は寒い環境にあっても花を閉ざして身を守ろうとしたり、地中にから根で養分を吸い上げたりと、その生命力はしぶといものよ。簡単にやられるものだと思っては困るわ」

 それを聞き、ロクウェルは納得できた。鉤爪を受け付けなかったのは閉じた花のように防御のみに集中したため。力では黄金に圧倒的な差があるとしても、意識をすれば通常よりも防御力が上がるように、全てを守りに集中したのだ。

 そして氷を溶かしたのはロクウェルに絡みついた根が精神エネルギーを吸い取り、それを熱に変換したためであろう。そういえば、とロクウェルは今になって気だるさを感じてきた。

 それは花南にとって、好機であった。

「チェックメイトね」

 花南は茎のような杖を手に構える。

「これで終わりよ!」

 そして、スタークロッドを叩きこもうとする。誰もがここで花南の勝利を確信していた。

 しかし、やはり黄金の使者というのは並大抵ではなかった。

「マグマエルプト!」

 スタークロッドを受けようとする寸前、ロクウェルは花南に向けて掌を突き出す。そこから、まるで噴火のような勢いでマグマが放出され、花南を飛ばしたのだ。

 この一発で形勢は一瞬で逆転してしまった。倒れた花南は致命傷を負ったため、体が思うように動かない。

「私が持つ動の技に関しては、読みが甘かったな。このマグマエルプトは、私の奥の手なのだ」

 そう言いながらロクウェルは花南に近づいていく。対して、花南はよろよろとした動作で起き上がろうとする。

「もうよせ」

 ロクウェルはそんな花南を不憫に思い、穏やかに声をかけた。

「おまえはよく戦った。私に切り札を使わせた相手はそうはいない。青銅の使者ながら見事であった」

 感心を込めて、語りかけるロクウェルだが。

「ふざけないで…」

 対する花南はぎくしゃくとしながらも立ち、毅然とした態度でロクウェルと向き合う。

「あんたなんかに哀れみをかけられるほど、私はまだ落ちぶれてはいないわ…」
「その根性も大したものだな」

 ロクウェルは素直に称賛する。花南が敵であることを、本当に惜しく感じているのだ。

「おまえを称え、最後は私の秘奥義で終わらせる」

 そんな彼女の右拳に、鉤爪が引っ込む代わりに溶岩が集っていく。

「受けろ、火山の一撃!ボルケーノバースト!」

 一瞬、背後に黒熊のオーラが浮かんだロクウェルは、溶岩を込めた拳を繰り出す。その気迫から、秘奥義というのは嘘でないとわかる。

 弱っているところに、黄金の使者による必殺技。しかもフラリーファは焼かれる攻撃を苦手としているのだ。あれを受けてしまえば確実に倒される。

 しかし、体をうまく動かせない状態では、かわすことなどできない。

 もう駄目だ、と花南は自分の敗北を実感し諦めかけてしまう。

 だが、ボルケーノバーストは花南に当たらなかった。

「い、いつの間に…」

 両者の間に何者かが割って入り、ボルケーノバーストをその背を受けて花南を庇ったのだ。

 その人物の名を、花南は叫ばずにはいられなかった。

「佳幸!」




今回ははここまで。
何か指摘とかがあったらよろしくお願いします。