Re: 新世界への神話Drei 6月20日更新 ( No.30 )
日時: 2012/06/30 18:44
名前: RIDE
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129

どうも。
昨日、親知らずを抜きました。
痛みはなかったんですか、それまであった歯がないとそれなりに不安になるわけで…。
血もなかなか止まらなかったし。


今はもう平気ですけどね。


さて、今回からは第34話。
まず先手を担うのは誰か?


それでは更新します。



 第34話 山に咲く花


 1
 先へと進むハヤテたちは、二人目の黄金の使者が待つ間に着いた。

「ここが第二の間か」

 門の上には、山の間と刻まれている。

「山、か…」
「まだ二番目なのに、すごいものが出てくるよな」

 山という単語の響きから、スケールの大きさを想像する氷狩と達郎。

「これから私たちは、黄金の使者たちと戦っていくのね」

 本格的に黄金の使者たちとの戦闘が始まろうとする前に、ヒナギクは緊張する。

 佳幸たちも、表情が強張っていく。

「入るぞ」

 そんな中、ナギが皆を促していく。

「何があろうと、私たちは前に進むだけだ」

 彼女の言葉に全員が頷き合う。その気持ちだけは、どんなことがあっても変わらないつもりだった。

「よし、行こうぜ!」

 塁が力を込めて門を開く。

 中へ入ると、一人の女性が彼らを待ち受けていた。

「貴様らが大聖殿へ向かおうとしている奴らか」

 女性なためそれほど筋肉はついていないが、体格は大きい。顔立ちも凛々しいというよりは勇ましいと言った感じであり、それが魅力を醸し出している。

「悪いが通すなと言われているのでな。ここから先へは行かせん」
「つまり、通りたければ…ってことかい?」

 拓実が笑顔を繕いながら尋ねた。

「そういうことだ。この私を倒せばこの山の間は通してやる」

 女の傍らに、黒熊の姿をとった精霊が現れた。

「だがおまえたちにそれができるか?この山のサンベアートが使者、ロクウェルを相手に」

 そう言い、ロクウェルはサンベアートと一体化をした。

「さあ、かかって来い!」

 その黄金に光る姿からは、威圧感もあってか巨大な存在感をもたらしている。

「真っ向から立ちはだかってくるのか」

 相手の正々堂々とした態度に、優馬は敵ながら感心してしまう。

「わかりやすくていいじゃないですか」
「そうですね」

 伝助とハヤテは受けて立とうと臨んでおり、既に一体化している。

 ただ、勢いに乗るほど迂闊でもなかった。彼女にとっては自分たちは侵入者で、それから霊神宮を守ろうとしているのだ。なにか仕掛けを張っているかもしれないし、そうでなくても自分たちよりはるかに強い使者なのだ。慎重になる必要がある。

 とはいえ臆して縮ごまってはいけない。自分たちはただ力をぶつけていくしかないのだから。

 二人は後ろを振り返る。佳幸たちもいつでも戦えるように一体化をしていた。

 言わなくてもいつの間に備える準備の良さは流石であった。いくつもの戦いを経験しているだけである。

 確認をとった後、伝助は先手を打った。

「ウイングトルネード!」

 背中の翼を起こして、そこから竜巻を発生させてロクウェル目掛けて放つ。

「フォレストブロック!」

 対してロクウェルは、自身の前に何本もの樹木を生えさせて堤防を作り、伝助の必殺技をガードする。

 更に彼女は周囲にも樹を次々と出現させ、この場は森のような環境となってしまう。

「木で俺たちを囲んだのか…」

 氷狩が毒づく。これでは木に視界が遮られて相手の姿を捉えることができない。

 その中で、ヒナギクはロクウェルの姿を見つけた。

「そこね!」

 飛びかかるヒナギク。しかし攻撃は虚しく空を切ってしまう。それどころか、死角から躍り出たロクウェルの右手に装備している鉤爪を受けてしまう。ヒナギクはよろめいてしまうが、幸い深いダメージではない。

「皆、慌てるな!」

 困惑する状況で、優馬が冷静になることを呼び掛ける。

「ユニアースの角で、奴を探し出せばいいことだ」

 そう言って、手にした槍を見せる。実はこれは、ユニアースの角が武器に変わったもので、当然角であった時の力も使用可能なのだ。

 その能力でもって、ロクウェルを探知しようとするのだが…。

「…バカな」
「どうしたんスか?」

 愕然とした優馬に、エイジは何事か尋ねる。

「角の索敵が…働いていない!?」

 今までどんな敵でも探り当てることのできたユニアースの角が、ここでは居場所も反応も特定できない。

 予想外の事態に戸惑う優馬。ロクウェルは、そんな優馬を狙う。

「優馬さん、危ない!」

 エイジの声によって、ロクウェルに気づいた優馬は咄嗟にかわした。それでも鉤爪によって傷をつけられてしまうが、これもまた浅く済んだ。

「ありがとな、エイジ」

 礼を言う優馬の内心は、大きく動揺していた。

 何故、角がロクウェルを察知できなかったのか。戦う前はちゃんとと機能していたというのに。

「そんなもので私の姿を捉えられるはずがない」

 ロクウェルの声がこの場に響いていく。

「私が仕掛けたこのツリシーズメイズの中では、特殊な波動が漂っている。ユニアースの角など、使えなくなるのだ」

 それを聞き、優馬は思い当たることがあった。

「なるほど…富士の樹海と同じか」

 日本の霊峰として知られている、富士山。その北西に位置する青木ヶ原の樹海。そこは昔、富士山の火山活動によって流れ出た溶岩の上に、1200年程の時を経て現在の深い森が形成されたのだ。その地中には磁鉄鉱を含んでいるため、方位磁石に一、二度のズレが生じてしまうのだ。

 このツリシーズメイズもその磁気と似たような、ユニアースの角を狂わせる特殊な力を発しているのだろう。それも、全く使えなくなるほどの強いものが。

「先ほどの娘といい、私のハンタークローを避けたことは褒めてやるが、この森の中にいる以上、おまえたちは攻撃できん。それに、ここから脱出も不可能だ」

 ロクウェルの言うとおりであった。彼女の姿を見つけることが出来ないのなら攻撃のしようがないし、出口も見当たらない。それらを探し当てるためのユニアースの角も使えない。

「なら、この森を焼き払うしかない!」

 こういった状況を打開するため、佳幸は青龍刀を構えた。その刀身に、炎を纏わせている。

「炎龍斬り!」

 佳幸は剣を振るった。すると刀身から炎が離れて、龍の形となって周囲の木々をすべて燃やしていく。

「バカめ!」

 これを見たロクウェルのせせら笑いが聞こえてくる。

「それでは自分たちも炎に囲まれてしまうぞ!」

 そう。佳幸たちの周囲は森を燃やす火によって逃げ場がなくなってしまう。これでは状況を悪化させてしまったことになる。

 だが佳幸は考えなしで行動したわけじゃない。

「俺を忘れてもらっちゃ困るな」

 達郎が全方位に放水を行い、消火をしていく。全ての樹は佳幸の炎によって燃えつくされており、視界は晴れている。

 そのため、ロクウェルの姿は何にも隠れることはなく、目にすることができた。

「今度こそこっちの攻撃を受けてもらうぜ!」

 達郎は彼女に向けて掌を突き出した。

「ハイドロスプラッシュ!」

 水流が勢いよく放たれ、襲いかかろうとしている。だというのに、ロクウェルはかわそうとする気配すら見せない。

 このまま受け止めるつもりなのかと思いきや、ロクウェルは達郎と似たような構えをとってきた。

「キラーフラッディング!」

 すると相手も、同じように水流を押し寄せてきた。しかしそれはハイドロスプラッシュよりも巨大で、まるで大洪水を想像させてしまう。

「な…なんだよあれ」

 ハイドロスプラッシュを飲み込み、自分たちの方へと向かう大きな水流に、必殺技を押し返された達郎や佳幸は呆気にとられてしまう。

 そのまま、二人は押し流されてしまった。

「山にあるのが森だけと思ったら大間違いだぞ」

 ロクウェルは厳かな声で語る。

「このキラーフラッディングは大河川が氾濫が起こしたように、溢れるばかりの河の水が全てを流し出す。ハイドロスプラッシュなど、これの比にもならん」

 幸い、達郎が寸前でキラーフラッディングの威力を受け流すように水を操ったため二人はまだ無事であった。それでも全てを防ぎきることは無理だったようで、負傷が大きく倒れてしまう。

 そんな二人の分まで攻めようということか、塁、ハヤテ、氷狩の三人がロクウェルに向かって駆け出す。

 それに対しても、ロクウェルは平然としたまま今度は掌を地面に向けた。

「ランスディングジョーズ!」

 そこから三人に向かってまるで線を引くように、地面が軟質な土へと変わる。しかも、その土は滑らかであり、塁たちは気を抜くと転げ落ちてしまうような険しい坂を上っているように思ってしまう。

 更に正面からは、土がまるで顎門のように三人を飲み込もうとして大きく唸りだしている。

「次は土砂崩れか!」

 巨大な岩石も、塁たちを潰そうと転がってくる。

 当然、このままおとなしくやられようとする三人ではなかった。まず三人はその場で軽くジャンプした。

「フリージングスノウズ!」

 そこから氷狩が、地面に向けて必殺技を放つ。その凍気によって土は凍り、地滑りは止まった。

 着地する三人。その内の塁とハヤテは、こちらへ勢いよく転がってくる岩石を迎撃する。

「サンダーボルトナックル!」
「疾風怒濤!」

 それぞれの必殺技によって、岩石は粉々に砕け散った。

 この勢いでロクウェルを、と意気込む三人だったが、すぐに絶句してしまう。

 目の前に大量の雪が、先ほどの土砂のように大きく波を打っていた。

「スノスディングウェーブ!」

 その雪崩にハヤテたちは飲み込まれ、地面へと強く叩きつけられた。

 このように大規模な必殺技を素早く連発できるロクウェルに驚愕しながら拓実は矢を番えるが、放てなかった。磁気を含んだ鉱物によって、反らされることを悟ったからだ。

「八闘士と言われていても、この程度の力しか持っていなかったとはな」

 ロクウェルは落胆の声を漏らした。

「貴様らが何を考えているのか、私は知らん。私はただサンベアートと共に、この力で以て戦えばいいのだからな」

 だから、と言わんばかりに彼女は佳幸たちを指差す。

「半端な力しかないのなら去れ。私の力にやられてしまうだけだぞ」

 その言葉に、癇に障ったのか佳幸たちは唸った。当然、逃げ出す気もない。

「冗談じゃないわ」

 そんな彼らの中で、真っ先に動き出したのは花南だった。

「こっちは大聖殿に行くって決めたんだから、そう簡単に引き下がるわけにはいかないのよ」

 彼女はある程度の距離まで歩き、ロクウェルと睨み合う。

「忠告を無視するとは、青銅のくせに身の程知らずだな」
「生憎、私や力や戦闘だけしか考えることのできないような脳ミソ筋肉ダルマな人間の言うことなんか聞き入れないのよ。頭が鈍そうだもの」

 いつものように、相手への侮蔑を口にする花南。

「ましてや、大きな力を見せつけて私たちに尻尾を振れと言わんばかりの態度が、最高に気に入らないわ!」

 それを聞いて、エイジはつい肩を落としてしまう。

「あーあ、姐さんのあの性格は変わってねぇなぁ…」
「どういうことだ?」

 傍らにいるナギが質問した。

「いやな、五年前俺たちがであったばかりの頃…小学生の時も、自分の力を誇示してケンカを売って来た奴に対して姐さんは買ったんだよ。噛みつけるならやってみろとか言われて、本当にやっちまったように。しかも、その相手を精神的にも参るまで、叩きのめしちまったんだ」
「そ、そうなのか…」

 ナギもさすがに呆れてしまう。小学生の時ならばまだよいが、現在では大人げないとしか言いようがない。

 その花南は、ロクウェルに向けてはっきりと言い放った。

「今からあんたに痛い目見せてやるわ、覚悟しなさい」




今回はここまで。
しょっぱなから長くなったような気がしますが、どうですか?


感想、指摘があればよろしくお願いします。
それでは。