Re: 新世界への神話Drei 5月23日更新 ( No.28 )
日時: 2012/06/09 21:45
名前: RIDE
参照: http://hinayume.net/hayate/subnovel/read.cgi?no=7129

どうも。
また結構時間がかかってしまいましたね。
まあ、一話完結などを手掛けていたから、しょうがないといえばそうなりますけど…

それでは、更新です


 3
 大聖殿へと続く階段を、佳幸たちは駆け上がっていた。

 この頂上に、明智天師が待ち構えている。それを思うだけで足を速めていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…」

 そんな中、待ったをかける声で止まってしまう。

 最後尾についているナギの足取りが、おぼつかなくなっている。息切れも激しく、肩で息をしている状態であった。

「お嬢様、大丈夫ですか!?」

 急いでハヤテがナギのもとへと駆け寄る。

「み、水……」

 か細い声で求めながら、ナギはハヤテの方へともたれかかる。

「なんだよ、もうバテたのか?」

 達郎が呆れて声を出す。自分たちが走り出してからまだ短時間しか経っていないというのに、こんなに早く疲れてしまうことが情けないように感じた。

「私はおまえたちと違って、繊細にできているのだ。一緒にされては困る」

 ナギは弱々しくも反論する。

「繊細と言うよりは、軟弱なんじゃないか?」

 達郎は何気なく言っただけだが、ナギは言葉に詰まってしまう。

「あんたが繊細だというなら、他の繊細な人たちに失礼だわ。謝りなさい」

 この花南の一言によって、ナギは傷ついてしまう。更に酷いのは、達郎はついうっかり口にしてしまったことなのだが、花南は悪意をもって言い放ったのだ。

「ハ、ハヤテェ…」

 ショックを受けたナギはハヤテへすり寄ってくる。ハヤテは苦笑しながらも彼女の頭をなでて慰める。

「ていうか、花南こそ失礼語れないんじゃ…」
「なんですって」

 またも口を滑らせた達郎を、睨みつける花南。その圧力に、達郎は脅えて軽く悲鳴を上げてしまう。

「達…一言多いんだから」
「しかも本音を意識せずに出してしまうからね」

 佳幸と氷狩はため息をつく。

「花南って本当締まりのない口よね……」

 困ったものを見るようにヒナギクは花南に目を向ける。

「あら、口より先に手が出てしまうよりはマシだけど」
「口も手も心がこもってなきゃ意味がないのよ」

 火花を散らしあう二人。最も以前のように憎しみのぶつけ合いではなく、ただの意地の張り合いでしかない。周囲からも、良いケンカ友達というように見えていた。

 そんな時であった。

「また敵が来るぞ!」

 ユニアースが気配を察したことに気づいた優馬は、みんなに知らせる。

 一同は瞬時に周囲に目をはぐらせ、気を張り詰める。

「おいおい、そんなに警戒するなよ」

 そんなに彼らに声をかけ、それまで姿を消していた三人の男たちが目の前に現れる。

「今ここで戦おうっていう気はないんだからな」

 その三人に、ハヤテたちは見覚えがあった。

「おまえたちは!」

 そう。艶麗との戦闘後、ダイを石像に変え捕らえていった黄金の使者たちだ。

「そういえば、あの時はまだ名乗っていなかったな」

 黄金に光るリングを腕に着けた男たちは、不敵な表情で名乗りをはじめた。

「まず俺が、霊のファムザックが使者、サイガだ」

 三頭犬の精霊を従えた荒々しい風貌をもつ男が、堂々とした態度で明かす。

「俺は圧のプテラクスの使者、ラナロウだ」

 サイガの横に控えている、鋭い目つきでハヤテたちを見据えている男が翼竜の精霊を見せつけた。

「私は月のルーゼスターの使者、リツだ」

 そして、三日月型の武器を持つ精霊の主である、女にも見える顔立ちの男が優雅な振る舞いで紹介した。

「ご丁寧にありがとうございます」

 伝助は相手に対して礼儀よく頭を下げた。

「ですが、戦う気がないならなぜ僕たちの前に現れたのですか?」

 油断がならぬ相手なだけに、慎重に問いかける。何を仕掛けてくるかわからないからだ。

「おまえたちがこれから行く道のりについて、説明してやろうと思ってな」
「それはどうも御親切に」

 塁は軽い調子であるが、目は笑っていない。

 サイガはそんな彼らの進行方向に向けて、指を指した。

「おまえたちの目指す大聖殿は、ここから真っ直ぐに行けばいい」
「ただし、その前には十二の間が待ち受けているがな」

 続けて放ったラナロウの言葉に、一同は眉をひそめた。

「十二の間だって?」
「そうだ」

 リツは笑いながら話す。

「そして十二の間にはそれぞれ黄金の使者が一人ずつ待ち構えており、大聖殿へ向かおうとする者たちに対して鉄壁の守りを敷いているのだ」

 そこまで聞いて、佳幸たちは納得する。

「つまりは黄金の使者たちに勝たない限りは、大聖殿には進めないと…」

 ラナロウが、そうだと言って頷いた。

「褒めてやるぜ。十二の間に黄金の使者が集まるなんて、霊神宮が本気になったってことなんだからな。おまえら青銅クラスのくせにやるじゃねぇか」

 言葉だけをとるなら、称えているように聞こえるが、サイガの口調はそれとは裏腹に見下している感があった。やれるものならやってみろと。

 それは、自分たちは決してやられないという、頂点に立つ者たちの絶大な自信の表れであった。

「よくわかったぜ」

 彼らの話を聞き、塁は好戦的な笑みを見せる。

「なら手っ取り早く、ここでおっぱじめようぜ。どうせ戦うことには変わりないんだろ?」

 拳を鳴らし、雷獣のような威圧を黄金の使者たちにかける。傍らにいるコーロボンブも、その身から電気を外に放っている。

「不作法だな」

 リツはそんな塁を汚らわしいもののように見ている。

「獲物を前に尻尾を振るなど、未熟な青銅らしいな」

 サイガはその通りだと言いながら笑い声をあげる。

「急かすなよ。俺たちの間に着いたら思う存分戦ってやるよ。まあ、俺たちのところにまで着けたらの話だけどな」
「着いてみせるさ」

 と、ここでナギが口を挟んできた。

「着くだけではない。おまえたち黄金の使者を全員打ち破り、十二の間全てを突破してやる!」
「そして必ず、高杉さんを解放してみせる!」

 エイジも揃って宣言した。

 サイガたちは堂々とそんなことを口にした二人に目を丸くするが、すぐにできるものならやってみろと言わんばかりの、高みにいる者の余裕を見せつけた。

「なら、楽しみにしているぜ」

 こちらに笑いかけながら、サイガたちはその場から姿を消していった。

 彼らがいなくなってから、氷狩は塁を諌めた。

「塁さん、今ここで戦うのは得策じゃなかったですよ」

 黄金の使者三人に戦いを挑むのは無謀である。先日あの三人に対して善戦できたのはダイだけであって、自分たちは手も足も出なかった苦い思い出も、まだ久しい。

 ならばサイガたちが言っていた十二の間で一人ずつ戦っていった方が、それでも見込みは少ないが勝機は存在している。

「わかっている」

 それは塁も理解していた。

「俺はただ挑発してみただけだ」
「けど、気をつけた方がいいですね」

 伝助は思案顔となっていた。

「その十二の間には、黄金の使者たちが戦いで有利になるものが仕掛けられている可能性があるわけですし…」

 全員同様のことを思っていた。苦戦は必須だと。

「構うものか」

 そんな彼らに、ナギは鼓舞するように言った。

「最初から強敵と戦うことはわかりきっている。それでも私たちは戦うことを決めたんだ。」
「だから、俺たちは持てる力をぶつければいい」

 エイジも自身に気合を入れる。そんな二人は顔を見合わせると、お互いの気持ちが同じであることを確認しあうかのように頷きあった。

「すっかり意気投合しているね」

 拓実がからかう調子で声をかける。

「ついこの間まではケンカしていたのにね」

 すると二人は、照れたように顔を背けてしまう。

「わ、私は別に、こいつと仲良くするつもりなんかは…」
「俺だって、この女のことを認めたわけじゃ…」

 お互いが意地を張るその姿に、皆苦笑してしまう。

「でも、二人の言うとおりだね」

 佳幸のこの一言で、全員の目が毅然としたものとなる。

「どんなものがこの先にあるかわかりませんけど、絶対大聖殿まで行きましょう!」

 ハヤテのこの言葉を号令に、一同は再び走り出したのであった。



今回はここまで。
次回はちょっと長くなるかも。