Re: 新世界への神話 ( No.85 )
日時: 2011/03/21 22:40
名前: RIDE

更新します。


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「電光石火!」

 まず先に必殺技を放ったのはライオーガだった。右腕に溜めていた電気をスパークさせ、その光でもって相手を目くらませ回避させないようにする。
対して、グルスイーグは氷のヴェールに力を集中させて防御する。しかし、電光石火は小さなダメージとなったとはいえ、その威力は氷のヴェールを突き抜けてしまった。

「さすがにやるな・・・・」

 氷のヴェールを貫き通す相手に、氷狩は油断が許されなかった。

「今度はこちらの番だ!」

 グルスイーグは反撃に出た。

「フリージングスノウズ!」

 しかし、凍気が襲い掛かる瞬間、ライオーガの姿は消えていた。

「なにっ!?」

 気づくと、ライオーガはグルスイーグの背後に回っていた。

「そこか!」

 グルスイーグは振り向きざまに殴るが、これも拳が空を裂いただけで、ライオーガは別の場所にいた。

 氷狩はおかしいと感じていた。確かに奴の力は強大だが、こちらの攻撃がかすりもしないのは明らかに変であった。ライオーガは、回避行動のアクションも何も取っていないのに、だ。

 困惑する中で、雷矢は言った。

「人の絆というものを大切にしているような女々しい奴に、このライオーガを倒せるものか」

 それを聞き、氷狩は気づいた。

「そういえば、おまえは精神攻撃が使えるのだったな・・・・」
「そうだ。このライオーガは精霊のみならず使者の心まで砕くのだ」

 しまった、とそのことを失念していた氷狩は痛感していた。精神攻撃ができる相手なら、敵対する使者の心の中をのぞくことぐらい雑作もないだろう。そして、彼と対峙した時から自分は既に相手の手中にはまっていたのだ。

「桐生氷狩よ、小手調べはここまでだ!」

 ライオーガの右の拳に光が灯り始める。

「幻魔雷光!」

 その光を、グルスイーグに向けて放つ。氷狩は必殺技を浴びたグルスイーグを通して幻覚を見せつけられた。




 自分の目の前に仲間たちがいる。

 皆、氷狩にとって大切な人たちだ。

 そちらへと向かう氷狩。

 だが彼らのもとへ来た途端、仲間たちの体が腐っていき、崩れ落ちてしまった。




「うわあああああーっ!!」

 自分にとってむごいものを見せつけられた氷狩は、たまらず雄叫びをあげた。

「ああああ・・・・」
「どうだ、幻魔雷光によって精神を引き裂かれた衝撃は・・・・?」

 膝をついて身を悶える氷狩を、雷矢は平然として見下ろす。

「気がおかしくなったかもしれんな・・・・」
「う・・・おおおお・・・・」

 そんな氷狩は、体を震わせながら立ちあがってきた。

「せ、精神を攻撃されたとしても、そんなことでは俺は負けない!」

 彼は決然として雷矢を見据える。

「俺の一番大切なものを踏みにじったんだ。覚悟してもらおう!」

 その熱い思いが、グルスイーグの力となっていく。

「俺の、いや今まで人の心を残酷に打ち砕き、殺めてきたその罰を受けろ!」

 グルスイーグは、裁きとなる必殺技を放った。

「フリージングスノウズ!」

 凍気がライオーガに襲いかかる。ライオーガの氷像が出来上がっていると思われたが、そこにライオーガの姿はなかった。

「こ、これは・・・・?」
「残念だったな」

 気がつくと、ライオーガはグルスイーグの背後についていた。ライオーガが必殺技をかわしたことに氷狩は驚き、そんな彼に雷矢は言い放った。

「俺は一度見た必殺技は、二度も通用しないのだ」

 だが氷狩には、わからないことがあった。

「グルスイーグの必殺技を、おまえに見せるのは初めてのはずだが・・・・?」

 フリージングスノウズを破られた時から抱いていた疑問であった。彼に手の内は明かしていないというのに、どうやって雷矢はこちらの必殺技を知ることができたのだろうか。

 その答えとして、雷矢は自分の腕に着けているサンダーリングをかざして氷狩に見せた。

「それは!」

 そこに挿入されているものを見て、氷狩は絶句した。

 サンダーリングには、氷竜と刻まれた黒い勾玉が挿入されていた。先程自分たちが倒したネガティブグルスイーグの勾玉が。

「これを通じて、ネガティブグルスイーグが見たグルスイーグの必殺技を、ライオーガも見ることができたのだ」

 リングに他の精霊の勾玉を挿入すれば、自分の精霊はその力を備えることができる。その特性を利用したのだ。

「そういうことだったのか・・・・」

 ネガティブグルスイーグのことは全く失念していた。いつの間にか勾玉をその手中に入れたのかわからないほど戦闘に集中しすぎていたのだ。周りを見落としていたことで、思わぬところで足を竦んでしまった。

 だからと言ってこのまま負けるわけにはいかない。自分が諦めない限り戦いは終わらないのだ。

 グルスイーグは尚も戦おうとする。しかし幻魔雷光を受けた傷は大きかった。

 その姿は弱々しく、誰が見てもやられるのは当然だと思うほどであった。

「これで終わりだ!」

 ライオーガは右の拳でグルスイーグの左胸を打ち抜いた。そのダメージが使者である氷狩にも伝わり、彼は激しく疼き出した左胸を抑え込んだ。

「所詮はこの程度か・・・・」

 雷矢は落胆したようにため息をついた。

 少しは骨のある奴かと思ったのだが・・・・

「ま、まだだ・・・・」

 しかし、氷狩の目はまだ輝いている。

「このまま引き下がるわけにはいかない。おまえがこれほどの実力者でも俺は動じない。最後まで戦うだけだ」

 その思いを受け、グルスイーグはライオーガに殴りかかった。グルスイーグの右拳が、ライオーガの右腕に軽い傷をつける。

「無駄なことを・・・・」
「む、無駄なことかな?この傷のせいで痛い目を見ても知らないぞ・・・・」

 氷狩は強がりと思える笑みを浮かべたまま倒れる。そこでグルスイーグは力尽きた。

「終わりだな・・・・」

 ライオーガはグルスイーグから拳を引き抜いた。

 ちょうどその時、伝助とハヤテがこの場に現れた。

「氷狩君!」

 伝助とハヤテは倒れている氷狩を見て目を大きく開いた。

「おまえたちもこのようなザコに続いて、やられに来たか」
「な・・・・!」

 ハヤテは倒された氷狩を一笑した雷矢に怒りを沸いた。

「兄さん・・・・桐生君は三千院家とは何の関わりもないのに・・・・こうやって手を下すなんて・・・・」
「俺に歯向かうなら、排除するまでだ」

 それを聞いて、ハヤテは戦闘の構えを取った。対する雷矢は不敵な構えだ。

「この兄に勝てると思っているのか」
「勝たなければなりません。僕はお嬢様の執事、お嬢様の害為すあなたを例え兄であっても全力で止めます!」

 ハヤテはシルフィードと共に一歩前に出ようとする。

 しかし、それを伝助が遮った。

「風間先生、何を・・・・」
「生徒に身内同士での死闘をさせるわけにはいきません。ここは僕が相手をしましょう」

 伝助は、ハヤテと位置を入れ替わった。

「最初に言っておきます」

 雷矢を睨みながら伝助は言った。

「敗者でも、誇りを持って戦ったのです。それを笑うあなたは、もはや使者の風上にもおけません。この場で倒します」

 伝助は、激しく怒りを燃やしていた。