Re: 新世界への神話 ( No.81 )
日時: 2011/01/07 19:31
名前: RIDE

更新します。
第22話ラストです


 
 8
「風間先生!」

 ハヤテは絶叫してしまう。

 飛び込んだことで、伝助は大きな傷を負ってしまった。その傷口から、血が大量に流れている。

「何故助けた!?」

 陰鬱の使者は信じられなかった。この男には自分を助けても意味のないこと。いや、そもそも戦いの中で敵を助ける義理などないはずだ。

 混乱する陰鬱の使者に対し、伝助は苦笑しながら答えた。

「・・・・気がついたら、飛び込んでいました」
「な・・・・!?」

 陰鬱の使者は絶句してしまう。

「そ、そんな理由で助けるなんて・・・・」
「いいじゃないですか。僕が助けたかっただけですし・・・・」

 伝助は、自嘲したまま続けた。

「精霊の力は、そのためにあるのですから・・・・」

 伝助は笑顔を見せるが、誰が見てもそれは弱々しいものと思えた。

「しっかりして下さい、風間先生!」

 ハヤテが伝助のもとへ行き、何とか応急処置をしようとするが、それでも間に合わない程傷は深かった。

「・・・・どうやらこの状況では助かりませんね。ですが、最後に人を助けたとなれば、悪い気分ではありません・・・・」

 そう言って、伝助の目が霞んでいく。

「駄目です!起きてください風間先生!」

 ハヤテは必死に伝助に呼びかける。死なないでくれと願いながら。

 一方、傍らにいる陰鬱の使者は、自分を省みずに他人を救おうとする伝助の姿に衝撃を受けた。自分の命を惜しまないその姿に。

 いや、伝助だって命は惜しいと思っているはず。それでも尚、自分を助けたのだ。

 助けたかった。簡単には言ったが、伝助の思いがどれほど強いかよくわかった。同時に、
彼に仲間がいる理由も。

 そんな彼の思いが、陰鬱の使者を動かした。

「下がれ」

 ハヤテをどかし、彼に向けて手をかざす。

「魔法治療(スープラ)!」

 聞いたことのない単語を唱える。すると、その手から光が伝助に向かって放たれ、光に包
まれた伝助の傷が見る見るうちに塞がっていく。

「起きろ!」

 伝助に活を入れた陰鬱の使者。

 目覚めた伝助は、まず自分が元気であること、次に傷が治っていることに驚愕した。

「私の魔法で治したのだ」
「魔法・・・・?」
「精霊界で人が暮らす世界にある私の故郷。そこには魔法というものが存在している国がある。私も、そこで魔法を習ったのだ」

 理解できないという表情をする伝助とハヤテに対し、陰鬱の使者は付け加えた。

「そこで使われている魔法は、心の強さが直接反映される。精霊と同じ類であるから、安心
してくれ」

 とりあえず、自分は助かったということだ。そして、彼の言葉から察するに、本気で自分を助けたいと思ったこともわかった。

 伝助の怪我が治ったのを確認した陰鬱の使者は、その場を去ろうとする。

「どこへ行くのですか?」
「死に場所さ。私は陰鬱の使者。負けた私は掟に従って命を絶つが、せっかく君に助けてもらったんだ。死に場所ぐらいは選んでもいいだろう」

 そうは言っているが、彼の表情からは自決するという気というものは感じられなかった。彼は彼なりに、陰鬱の使者であろうとしているのだろう。と同時に、勝者である伝助が助けた命なのだから、無駄に落としては相手に失礼とも思っているのかもしれない。

 相手も中々誠実なのだと実感する。そんな彼の背中を見て、伝助はあることを聞かずに入られなかった。

「何故、僕を助けたのですか?」

 先ほどは相手から尋ねられた問いに、彼も伝助と同じ答えを口にした。

「そうしたかったからだ」

 簡潔な答えだった。

 だが、伝助を満足させるには十分すぎるのであった。