Re: 新世界への神話 ( No.72 ) |
- 日時: 2010/09/10 23:41
- 名前: RIDE
- 夜分遅くにすみませんが、更新します。
5 谷底の中を歩いていた雷矢は、大きな地滑りのような音が響いてくるのを聞き取っていた。
「始まったか」
敵が攻めてきたことを理解した雷矢。ならば黄金の勾玉を持って戦いに赴かなければならないのだが、その前にやりたいことがあった。
分かれ道に差し掛かる雷矢。その道の一つは、陰鬱の使者二人が誰も入らせないように遮っていた。
「通せ」
そう命じると、配下の二人はすんなりと空けてくれた。ためらうことなく雷矢は突き進む。
その先には大きな鉄の檻があり、中には捕らえられたマリアが閉じ込められていた。マリアは雷矢が近づいてくるのを感じると、彼を睨みつけた。
「安心しろ、おまえは囮にすぎん」
雷矢は、澄ました顔で言った。
「戦いが終わり、今後三千院家に関わらないと誓うのなら、命は助けてやる」 「何故そんなにまで三千院家に敵対するのですか?」
マリアはそれが気になってしょうがなかった。彼は何故こうまで自分たちのことを憎んでいるのだろうか。
「おまえに語る必要はない」
雷矢は答えなかったが、彼の目からその思いを汲みとったマリアは、瞬時に納得した。
「恨み、なんですね」
それを聞いた雷矢は、微かに眦を上げた。そんな彼に構うことなくマリアは続ける。
「どういったことかはわかりませんが、あなたは三千院家に苦しみを味わされられた。だか ら、三千院家を憎みその恨みを晴らそうとしているのですね・・・・」
無言を貫こうとしたら雷矢だが、口を開かずにはいられなくなった。
「ああ、そうだ!俺は三千院家の奴らが憎い!」
この男からは想像できない程の感情的に雷矢は言い放っていく。
「俺の両親にしたってそうだ!自分の欲のためだけに子供を地獄に送るような奴を、許せるわけがないだろう!!」
そこで雷矢は、マリアが自分を哀れみの目で見ていることに気付いた。思わず雷矢はたじろいでしまう。
「可哀相な人。あなたは苦しみが大きすぎて、相手を憎まずにはいられないのですね・・・・」
その口調から、本気で自分のことのように不憫だと思っていることがわかる。普段なら同情なんか切り捨てるのだが、今の雷矢にはそんな余裕はなかった。
「でも、あなたはそんな弱い人ではないはずです。目を覚ましてください」 「う、うるさいっ」
何とか反論しようとするのだが、何故かマリアの目を見ていると言葉を返すことができず、焦りばかりが募っていく。
「貴方の弟のハヤテ君はどんなに辛くても、決して弱音は吐きませんでした。そんな彼が尊敬しているのですから、貴方も強い人に違いありませんわ!」 「黙れっ!!」
とうとう苛立ちを抑えきれなくなった雷矢は、鉄の檻を力いっぱいに殴りつけた。脅えて身を竦ませたマリアは、それ以上何も言わなかった。
荒く息をつきながら雷矢は立ち去っていった。その内心では、取り乱してしまったことに自己嫌悪していたが、すぐに持ち直していた。
もう誰の言葉にも騙されない、自分の心のままに戦うのだと、憎しみを煮え滾らせるのであった。
|
|