Re: 新世界への神話 ( No.62 )
日時: 2010/05/18 19:59
名前: RIDE

更新します。
今回から第20話の始まりです



 第20話 伝説の秘境


 1
 とある道場で、塁は瞑想していた。

 この道場は塁の職場である料亭の敷地内に建てられた小さな武術の道場で、料亭の従業員は皆、ここで武術を極める義務があるのだ。この道場はその自信を鍛えるため場所として建てられたのだ。

 精神を集中させていた塁は、こちらに近づいてくる足音を聞き目を開けた。

 入ってきたのは板長と、スピリアルウォーズで危篤状態だと聞かされていた老師であった。

「ホッホッホッ。心は静まったか?塁よ」

 八十歳を超えている老人は、朗らかに笑った。どう見ても危篤になるとは思えない元気な様子である。

 実は危篤というのは嘘で、塁の心を試すものであった。真実を知った時、塁は老師に対して怒りを覚えたが、何より老師の思惑通りに少なからず動揺してしまった自分の未熟さを痛感してしまった。だから塁はここで自分の心に活を入れなおしていたのだ。

「はい。十分に落ち着きました」
「そうか。その様子だとまた新たな戦いに赴くようじゃな」

 先ほど、三千院家から連絡が入ってきた。陰鬱の精霊の使者たちからの挑戦状が送られてきたとのことだ。

 一週間後、精霊界のダスク峡谷へ、黄金リングを持参して来いと。そしてもし現れなかった場合、人質の命はないとも記されていた。

 間近に迫った陰鬱の使者たちとの戦いに備えて、塁は自分のテンションを高め、維持しようとしている。

「ええ。申し訳ありませんが、来週にまた呼ばれる用事が出来ましたので、空けてもらえないでしょうか」
「ふむ・・・・」

 老師は、塁に対して目を光らせる。

「板長、組み手の相手をしてやれ」

 それは、許可を出したということを意味していた。

 頷いた板長は、塁の前まで歩いて行った。塁も立ち上がって構えをとる。

 二人はそのまま組み手を始めた。

 伝助は自分たちのリングを修復させるために精霊界の秘境にいる。ならば自分は彼が持ってきてくれるその直ったリングに値する使者でならなくてはならない。そうやって塁は自分を鍛えているのだ。

 伝助は必ずリングの修復を頼んで、すぐにでも直ったリングを持って帰ってくる。

 塁は、そう信じていた。