Re: 新世界への神話 ( No.52 )
日時: 2010/03/16 20:12
名前: RIDE

更新します。


 3
「なにも雷矢様自ら手をお下しになるまでもなりません。そいつらごとき雑魚は我らにおまかせを・・・・」

 最初に雷矢が姿を現した場所に、また新たな男たちが八人出てきた。

「な、なんだあいつら!?」

 黒い衣装で、雷矢と同じようなバイザーを着けた男たち。しかし真に驚くべきところはそこではなかった。

「黒いライオーガ・・・・!?」

 彼ら全員、ライオーガと全く同じ姿形の精霊を従えていた。唯一つ、ライオーガとの違いは使者の男たちと同じように黒い色であることだ。

 その黒いライオーガは、使者と共に闘技場に降りてきた。

「フッ、とったぞ!」
「え!?」

 黒いライオーガたちは皆、ヴァルキリオンたちの背後についていた。

「こうも簡単に後ろを取れるとは・・・・」
「俺たちがその気ならとっくにやられているぞ」

 男たちは、得意げに笑っている。

「貴様ら青銅の精霊と使者は、やはり最低の実力だな」

 そう話す男たちの正体を、拓実や優馬たちは見抜いた。

「まさか、おまえたちは・・・・」

 だが全て言い終わる前に、雷矢の怒号が飛んだ。

「待て!誰がそんなマネをしろと言った!」

 怒鳴られた黒ずくめの男たちは、竦みながらも意見を述べた。

「し、しかし雷矢様、こいつらを・・・・」
「こいつらの始末は今急いで着けなくともよい」

 そこで雷矢は狙いをつけるように主催者側の席を睨んだ。それを見てダイはまずいと思った。翼も大地もシュウも自分と一緒に出て行ったため、あそこを守るものは今誰もいない。

 ライオーガは主催者側の席に向かって飛び上がり、ナギとマリアの前に対峙する。

「ナギッ」

 マリアがかばうようにしてナギの前に進み出た。そんな彼女の鳩尾にライオーガは一発入れ、気絶させる。

 そんなマリアを抱えて、ライオーガは雷矢のもとへ戻っていた。

「おまえたち、持っていくべきものはしっかりと手にしたな」

 雷矢は、黒ずくめの男たちに確認を取った。

「既にちゃんと、手にしました」
「そうか。ならば引き上げるぞ!」
「はっ!」

 雷矢は最後にハヤテに向かって言った。

「ハヤテ。貴様の命はしばらく預けといてやる」

 それを残して、雷矢と黒ずくめの男たちは消えていった。闘技場は静まり返り、エイジたちは呆気に取られていた。

「あいつら、黄金の勾玉とリングを奪うのが目的だったんだな」

 雷矢たちが現れた、黄金の勾玉とリングが置かれていた場所に何も無くなっていることか
ら、優馬はそう推測した。

「あのメイドさんをさらったのは、俺たちに対する挑発かなんかか・・・・」
「でもあの黒ずくめの男の人たち、一体何者なんでしょうか?」

 ヒナギクが首をかしげていると、優馬がその疑問に答えた。

「奴らは、陰鬱の精霊の使者だ」
「陰鬱の精霊?」

 ハヤテとヒナギクが聞いたことのない言葉だ。

「陰鬱の精霊。またの名をネガティブスピリットと呼ばれるそれは、人の淋しさから生まれた妖精が、救われずに黒き姿となり、人の暗い心に取り付く精霊だ」

 二人は優馬の説明に黙って耳を傾けている。

「そして、核である勾玉も黒いそいつらの使者は、私利私欲のためだけに力を使い、霊神宮からも見放された存在だ」

 優馬はそこでハヤテに視線を向ける。

「おまえの兄は、その陰鬱の精霊の使者に魂を売ったんだ」

 それを聞いたハヤテは、辛そうに目を伏せた。

「何をしている!」

 そんな中、ナギの使者たちに対する叱咤の声が響いてきた。

「早く陰鬱の精霊の使者たちを追え!マリアと勾玉とリングを取り返して来い!」
「うるせぇ!指図されるまでもねぇ!」

 上から物を言われて、ムカムカしたエイジは言い返した。

「あんなリングどうだっていいが、目の前で人攫いまでされちゃ放っておくわけにもいかねぇ。ちゃんと取り返してきてやるよ!」

 達郎、氷狩、拓実も頷く。

「塁、伝、あんたたちはここに残ってなさい」

 四人と同様に飛び出そうとする塁と伝助に、花南は釘を刺した。

「リングが砕かれてんでしょ?万が一ということを考えて、行かせるわけにはいかないわ」
「俺も、一緒に行きたいところだが・・・・」

 そう言って、優馬は倒れているギルバートを見た。

「医者として、あんな姿を見過ごすわけにもいかないからな」

 優馬は、ユニアースをギルバートのもとに近づけさせ、治癒能力のある角を当てさせた。
普段は人間の持つ、治そうとする力を尊重するために治療には使わないのだが、精霊の攻撃
を受け重傷を負った場合は別である。

「僕は行きます!」
「私も!」

 ハヤテとヒナギクは名乗り出た。そんな二人を花南は仕方なさそうに承諾した。

「わかったわ。急ぎましょう、まだそんなに遠くへは行っていないはず!」

 花南たち七人の使者は闘技場を出て行った。