Re: 新世界への神話 ( No.46 )
日時: 2010/02/19 21:34
名前: RIDE

更新します。
長かった16話ラストです。


 5
 ムーブランとコーロボンブは、互いに剣と拳を握り締める。

 最後の技が、繰り出される時が来たのだ。

「サンダーボルトナックル!」

 先に打ってきたのはコーロボンブであった。ムーブランも同時に駆け出す。

 雷鳴の拳よりも早く稲妻の拳が放たれようとした時、ムーブランは剣を投げつけ、コーロボンブの前へと突き立てた。

 放たれた稲妻の拳は、その剣に吸い寄せられていった。電気が金属に吸い寄せられやすいという性質を利用して反らすとは考えもしなかった塁だが、これではムーブランも必殺技が使えなくなってしまう。

 コーロボンブが慣性のまま雷鳴の拳を打つのと同時に、ムーブランはコーロボンブ目掛けて跳び上がって、拳を構える。その拳に、炎が宿り始めた。

「まさか!」

 そう、相手が知らない技があるのは、コーロボンブだけではなかった。

「ブーストフレイム!」

 ムーブランの拳がコーロボンブの胴へと当たり、さらにそこから火炎放射を浴びせる。無防備で必殺技を受けたコーロボンブは、封印される寸前のところで通常形態に戻った。

「うわあああああぁぁぁっ!」

 そして、コーロボンブが受けた打撃と火炎のダメージが塁の心へと逆流してしまい、雄叫びをあげながら塁はその場に倒れ込んでしまった。

[コーロボンブ戦闘不能、ムーブランの勝利!二回戦進出決定!]

 だが、あまりにも凄絶な戦いに、観客たちは声をあげることができなかった。

 ここまで集中力を持続させてきた佳幸は、疲労感から再び激しく息を切らせながら膝をついた。ムーブランも通常形態に戻っている。

 一方、塁は倒れたまま起き上がる気配を見せない。医者である優馬は心配になって塁のもとへと走っていった。

「これは・・・・!」

 容態を見た優馬は、顔を青ざめてしまう。

「ショックが大きすぎて、心臓が停止している・・・・」

 それは、死を意味することだった。

「そ、そんな・・・・」

 それを聞いた理子は、泣き崩れてしまった。

「なんとかならないのか?」

 それまで無口無表情を貫いてきた板長も同様を見せた。

「方法はあります。ライガリングを塁に着けさせて、そのリングに先ほどの必殺技を打ち込むんです。リングがまったく同じ力をもって、心臓を再び動かします。半壊していても問題はないでしょう。ただ・・・・」

 優馬はより一層表情を曇らせた。

「一つ問題が。時間があまりない上に、心臓を停止させたものと全く同じ力を加えなければ
なりません。それができるのは佳幸だけなんですが・・・・」

 その佳幸は疲労困憊な様子で、誰が見ても早く休ませなければならないと思わせる身であ
った。

「この状態では・・・・」

 だが佳幸は、立ち上がろうと動き始めた。

「くっ・・・・」

 それに合わせてムーブランも人型形態へと変わるが、佳幸はすぐに崩れ落ちそうになる。

「兄貴、しっかり!」

 そこへエイジが駆け寄り、彼を抱き起こした。

「俺も手伝うぜ!」

 達郎も走ってきて、エイジとともに両側から佳幸の肩を担いだ。

「伝助、拓実、来てくれ!」
「言われなくても!」
「すぐ行きます!」

 優馬に呼ばれた二人も、急いでライガリングを拾って塁に着けさせ、それが狙いやすいよ
うに三人で彼を支えた。

「チャンスは一度しかないわね・・・・」

 そうつぶやいた後、花南はハヤテのほうを向いた。

「あんた執事なんでしょ?さっさと二人分の担架をこっちに寄越しなさいよ」
「それはどういう意味?やっぱり岩本君には無理で、稲村さんの死体とともに片付けようっていうこと?」

 詰問するヒナギクの怒りを、やり過ごすように花南は返した。

「そうじゃないわ。塁が復活した後、二人ともすぐには動けないからよ」

 佳幸は必ずやる。そう信じての言動であった。

 その佳幸は、途切れそうな心をなんとか繋ぎとめている。彼の心を受けたムーブランは、拳が届く距離まで近寄って、ライガリングにブーストフレイムを叩き込もうとした。

 だが、その拳を突如人型形態のグルスイーグが止めた。

「慌てるな」

 グルスイーグの使者である氷狩は、佳幸の方へと走ってきた。

「氷狩!おまえなにすんだ・・・・」

 勢い込んで責めようとする達郎を手で制しながら、氷狩は佳幸にアドバイスを送った。

「そこからじゃ近すぎる。リングが処理できずにパンクしてしまうぞ。少し下がらせたほうがいい」

 そう言っている間にグルスイーグが、ムーブランを二、三歩ばかり後ろにずらさせた。

「よし、いいぞ佳幸。ん・・・・?」

 そこで氷狩は、佳幸が自分たちの呼びかけに全く反応を示さないことに気付く。

「やはり、既に気を失っているな」
「ええ!?でも・・・・」

 それならムーブランは通常形態に戻るはず。そんな疑問に、氷狩は簡潔に答えた。

「おそらく、佳幸は本能によって動いているんだろう。立派なことだが、無意識状態では精霊に攻撃させることができない・・・・」

 もうダメだと、氷狩や達郎たちが諦めかけたその時だった。

「佳幸!しっかりしなさい!」

 花南の叱咤激励が闘技場に響く。

「このままじゃあんた、精霊の力で塁を殺したことになるのよ!それでいいの!?」

 その言葉に、佳幸はピクリと反応する。

「精霊は人を殺すためにあるんじゃない・・・・」

 彼は決然とした表情で頭を起こした。

「人を救うための力なんだ!!」

 その叫びとともにムーブランはライガリングにブーストフレイムを打ち込んだ。リングは砕け、優馬や伝助、拓実とともに塁の体が衝撃によって吹っ飛ばされた。

「失敗したのか・・・・?」

 ライガリングの破片を見て、達郎はまさかと思った。

「いや・・・・」

 優馬は安堵の表情を浮かべ、伝助や拓実にも確認を取った。

「聞こえるよな」
「ええ。間違いありません」
「僕にも聞こえます。塁の心臓の鼓動がはっきりと・・・・」

 つまり、塁の蘇生に成功したということだ。闘技場が大きな歓声に包まれた。

 その中で、理子と板長は佳幸に多大な感謝の念を抱いていた。



「ふう、安心しました」
「ええ。死人が出たら大変なことになっていました」

 主催者側の席では、マリアやシュウたちが胸を撫で下ろしていた。しかし、ダイだけはまっすぐにナギを睨んでいる。

「で、チビ女よ。おまえ何する気だったんだ?」

 花南が佳幸を励ます直前、ナギは席から立ち上がって、何か行動を起こそうとしていた。それをダイだけが見逃さなかったのである。

「岩本は自分の精神力で立ち上がったけど、そうでなかったらおまえがあいつを起こしていただろうな。でも具体的に何をするつもりだったんだ?第一、こんな大会を開いた本当の目的は何だ?」

 しかし、ナギは黙秘を貫いていた。

「ま、俺には関係ないからいいけどな」

 ダイは深く追求はせず、謎のままにしておいた。

「翼、大地、シュウ、出るぞ」

 それよりも気になることがあった。ダイは、この闘技場に何か怪しい気配を感じていた。

「ちょっと探ってみるか」



 ハヤテに呼ばれて担架を持ってきた男たちが、佳幸と塁をのせて運んでいくのを、達郎は笑顔で眺めていた。

「本当によかったぜ」
「ああ」

 自分に同調してきた氷狩を、達郎は意外なもののように見た。氷狩はそれに気付かずに続ける。

「皆といると、心が安らぐな。皆も同じようだから、五年前から続く俺たちの仲はまだ健在なんだな」

 照れくさそうに頬を掻く氷狩。

「特に佳幸は、五年前から変わらない思いをもっていた。塁さんも、そして皆も単なる名声のためじゃなく、自分の思いを貫くために戦っているんだな」

 そんなことを口にする氷狩にも、確固たる思いができた。

「俺も、自分が使者であることの誇りをもって戦う」

 そんな氷狩を見ていた達郎は、先ほどのことを思い出して、彼に向かって頭を下げた。

「悪い氷狩。俺止めに入ったのはてっきり邪魔しに来たのかと思っちまって・・・・」
「気にするな。それよりも達郎、花南との戦い頑張れよ」
「おまえもな。二回戦の相手は佳幸だからな」

 二人は、互いに笑顔をかわすのであった。