Re: 新世界への神話 ( No.45 ) |
- 日時: 2010/02/16 20:17
- 名前: RIDE
- 更新します。
4 激しく火花を散らし合う佳幸と塁。
「佳幸、おまえは何のためにそうまでして戦うんだ?」
そう問い掛けた塁だが、いや、と言って首を振った。
「聞くまでもねえことだったな」
塁は横目で観戦しているエイジを見る。
「おまえは強くなろうとしている弟のエイジのために、あいつが乗り越えるべき壁として存在しようとしているんだろう。勝ち進めば、準決勝で当たるからな」
自分のためではなく、他人のために戦える。こういう性格も、五年前から変わっていなかった。
「俺もエイジに惹かれてここに来たけど、もう一つ理由がある」
塁はそれまで抑えてきた闘志を露にしていく。
「老師のもとで修行してきた俺は、そこで働くこと、生きることについて学んだ。老師から得たそれらを試すため意味でも、この戦いに出たんだ」
対峙している佳幸は、それをピリピリと肌で感じていた。
「それで負けたとしたら、俺は老師に顔向けできないんだ」
佳幸の心と同様、五年前から変わらない、雷獣を思わせる塁の闘志。本人は知らないが、この闘志が気に入って塁を招き入れたと老師が語っていたことを、板長は思い出していた。
「老師のためにも、佳幸、おまえを倒す!」
闘技場は緊迫した空気に包まれた。
その中で、ムーブランとコーロボンブは互いに睨みあったまま、微動だにしなかった。
守りを捨てたため、一発でも攻撃を受ければやられてしまうので、動けないのだ。そのため両者は攻撃に集中し、相手の隙を早く見つけようとしているのだ。
「炎龍斬り!」
だが、先手必勝とばかりに、ムーブランは必殺技を放った。攻撃に専念するため、今までのように防御するわけにはいかないと推測した佳幸は、隙など見つける必要はないと判断したのだ。
炎を纏った剣が振り下ろされるが、コーロボンブはその剣筋を素早い動きでかわした。
「そんな・・・・!」 「言ったろ、炎龍斬りは効かないって。要は防御するか回避するかの違いだけだ」
必殺技が完全に通用しなくなったことが証明された今、佳幸に打つ手はなくなってしまった。そして、コーロボンブは詰めとしてサンダーボルトナックルの構えに入った。
「終わりだ!」
だがその時、コーロボンブの身に一本の切り傷が現れた。
「な・・・・!これは一体・・・・!?」
まさかとは思うが、考えられるのは一つしかない。
コーロボンブは、完全にかわし切れてはいなかったのだ。そのことに、ショックを受ける塁。
そこへ、ムーブランはまた炎龍斬りを繰り出した。先ほどと同じように回避するコーロボンブ。
今度こそかわした。塁にはその実感があった。
だがそれは、コーロボンブの身につけられた二本目の傷によって裏切られた。しかもその傷は、一本目のものよりも切り口が深くなっていた。
「見誤っていたのか・・・・?いや・・・・」
間違いない、と塁は確信した。
佳幸の心を受けて、ムーブランの炎龍斬りは進化しているのだと。
となると塁には躊躇ができなくなってしまう。このまま炎龍斬りを続けさせれば、コーロ ボンブはいずれ避けきれなくなってしまう。
「今のうちに、サンダーボルトナックルで仕留めねえと・・・・」
再びコーロボンブの右拳に電気が帯びていく。しかし佳幸は言った。
「悪いけど、僕もサンダーボルトナックルを見抜きましたよ」
単なる脅しかと思ったが、続いた言葉に塁は愕然した。
「稲妻の拳を反らすことさえできれば、雷鳴の拳をかわすことはたやすいですからね」 「!おまえ・・・・」
たった一度受けただけで看破したことに、塁は言葉を失ってしまった。
佳幸と塁の会話を聞いた優馬や伝助は、瞬時に納得した。
「なるほど。サンダーボルトナックルはニ連撃のような技だったんだな」 「え、わかったんスか?」
達郎やエイジ、ハヤテ、ヒナギクは解釈に苦しんでいた。
「雷が起こるとき、まず空が光って、それから音が響くでしょう?」 「あっ、そうだわ!」
伝助の説明を聞いて、ヒナギクは理解できた。
「サンダーボルトナックルも同じことなのね。必殺技を打つ時、その拳から電撃が放たれて、まずそれをお見舞いしてから、本命の拳を入れるんだわ」
それを聞いて、ハヤテと達郎は頷いた。
「電撃はパンチよりも早く相手に届きますからね。だから稲妻の拳、雷鳴の拳というわけですか」 「ああ。電撃は相手の動きを止めるためと、技を確実に入れるためのレールとして放っているんだな」
ひとまず謎は解けた。しかし、同時に心配事ができる。
「理屈はわかったけど、だからと言って攻略できるとは限らねえな。電撃と拳の時間差だって、そんなに間があるわけじゃねえし」 「うん。攻略できる余裕も、佳幸にはあるかどうか・・・・」
達郎と拓実が不安を漏らす中、エイジはきっぱりと言った。
「兄貴は、やるよ」
彼は、超えるべき存在である兄を信じていた。
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