Re: 新世界への神話 ( No.44 )
日時: 2010/02/12 20:09
名前: RIDE

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「ど、どういうことなんですか?」

 ハヤテは訳がわからなかった。

「私に聞かないでよ」

 ヒナギクも、何故塁のリングが壊れたのか不可解であった。そんな二人に、花南と達郎が解説する。

「つまり、佳幸はコーロボンブを狙ったんじゃなくて、塁のライガリングを狙って攻撃したのよ」
「老師とかいう人のことを聞かされて、塁さんは内心焦っていた。早く佳幸とのケリを着けたいために、攻撃も防御も常に全力で行こうとするその思いがリングの負荷となって、耐え切れなくなったんだ」

 そう言われても、ハヤテとヒナギクにはまだわからないことがあった。

「だから、それがなんでリングへの負荷になるのよ?」

 これについては伝助が説明した。

「リングは単なる使者の証や、別の精霊の勾玉や宝玉から力を読み取るだけのものじゃありません。精霊へと流れる使者の思いを調整したり、精霊のダメージを使者に逆流させないための機能もあるんですよ」

 言わばリングは、不安定である使者の思いの流れを定常させるため、相手の攻撃から使者を守るためのものでもあるのだ。

「岩本君は、稲村さんのリングの損傷を狙っていたんですか」

 リングのそういった面を知ったハヤテとヒナギクは、自分たちは今までリングに守られ、助けてもらっていたんだなと感心していた。

 その傍らでは、拓実と優馬が冷静に試合を分析していた。

「なんにしろ、この戦いは終わりですね」
「ああ。塁はリングが半壊したとはいえ、コーロボンブはまだ健在だ。対する佳幸は、ムーブランが無傷という点では同じだが、佳幸自身は・・・・」

 その佳幸は、膝をついて息を荒げていた。

「あれだけ必殺技を連発したんだ。高いテンションを維持するのに相当疲労したはずだ」

 今の佳幸の精神状態では、これ以上戦うことはできない。勝つ気でいたのに、リングを損傷するだけで終わった佳幸に、あっけないものを感じる優馬たちであった。



 理子もとても疲れている様子の佳幸を見て、戦いがこれで終わり、塁は祖父のもとへ行けると安心していた。

「さ、塁。早く・・・・」

 しかし塁は、彼女に言った。

「悪い。この戦い長引いて、もしかしたら老師の最期は看取れねぇかもしれねぇ」
「え?でもあの子は・・・・」

 板長も懐疑的な目を向けるが、塁は確信していた。

「あいつは必ずまた立ち上がってくる」

 五年前の戦い、佳幸はその落ち着いた性格とは裏腹に、熱い心をもって戦っていた。今日彼と戦って、その熱い心は失っていないと塁は感じた。そしてその心がある限り、佳幸は何度も立ち上がってくることも思い出していた。

「ま、負けない・・・・」

 その佳幸は、体に力を入れて身を起こそうとする。

「負けられないんだ!」

 迫力をもって立ち上がった佳幸に、闘技場にいるほとんどの者たちは圧倒されてしまった。

 改めて佳幸を見て、戦意が失われていないことを確認した塁は、ライガリングを腕から外した。

「壊れかけのリングなんて飾りにすぎねえ。最後は俺の思いを全部ぶつけてやる」

 佳幸はその意気を買った。

「いいでしょう。でも、そこまでの覚悟を見せてもらうと、なんだかハンデをつけてもらっているようで気が引けちゃいますね」

 そう言って彼も塁にならってリングを地に置いた。

「これでお互い条件は対等。勝負だ、塁さん!」



 リングを外して戦いに臨む二人の姿に、エイジたちは観客同様戦慄を覚えた。

「正気かよ二人とも。確かにリングがなければ自分たちの思いが直に流れ、リングを付けた
ときよりも力を伝えやすいけど・・・・」
「同時に精霊のダメージが使者に逆流しやすくなる。つまり、自分の心を無防備にさらすということだ」
「下手をしたら精神的ショックによってお互い死んでしまうかもしれない」

 誰もが慄然としている中で、佳幸と塁の戦いを目の当たりにしている氷狩は、何故二人はこうまでして戦うのだろうかと疑問を抱いていた。

 一方、ナギたちが座る主催者側の席では。

「ナギ、この試合中止にした方が・・・・」

 これからの試合展開によってはとんでもない騒ぎになるのではと思い、マリアはナギに戦いを止めるように勧告する。

「ナギ?」

 しかし、ナギは黙ったままだった。一瞬意地でも張っているのかと思ったが、ナギの表情は幼い頃からずっと傍にいたマリアでさえ見たことのない真剣なものであった。

「あの二人はもう誰にも止められねえよ」

 代わりに答えたのはダイであった。

「この闘技場があの二人の闘志に支配されちまっているみてえだからな。こうなったらいくところまで見届けなきゃいけねえ。特に俺たちは、関係者なんだからよ」

 それを聞いたマリアはハッとした。

 そう。この戦いを開いたのは他でもない自分たちなのだ。ならば、どんなことがあろうとも最後まで見ておかなければならない責任がある。

 マリアは意を決して佳幸と塁に視線を戻した。