Re: 新世界への神話 ( No.41 )
日時: 2010/01/29 21:22
名前: RIDE

更新します。
第十五話ラストです


 3
[第三試合、開始!]

 合図とともにブライアルは構えるが、グルスイーグは人型になったまま突っ立っていた。

「どうぞ攻撃して下さい、とでも言っているのかい?」

 口では余裕だが、内心では警戒しているヒムロ。彼の心情を表すかのように、ブライアルは距離を保とうとする。しかし、グルスイーグはなおも無防備であった。

 このまま相手を伺うよりは、敵の誘いに乗るべきだと、ブライアルは攻撃を仕掛けてきた。

 はじめはグルスイーグの力量を測るため、軽めのラッシュで攻めていく。グルスイーグはそれら全てを足を動かさずに紙一重でかわしていく。

「やはりやるね。でも、そう簡単にはいかないよ」

 ブライアルは拳に力を入れ、必殺技の構えに入った。

「ライリングペタルス!」

 ブライアルはその拳でバラの花を舞い散らした。しかし、パンチ自体は先ほどと変わりはなく、グルスイーグはまた難なくかわす。

 しかし、この必殺技は相手を殴ることではなかった。空中で漂っている無数のバラの花びらがグルスイーグの右腕を覆い、そのまま締め付けるようにまとわりついた。

「かかったね」

 ヒムロは、得意げに笑った。

「この必殺技は殴るものではなく、花びらを飛ばし、相手を拘束させて自由を奪うというものなのだよ」

 ブライアルは続けてライリングペタルスを放つ。右腕の次は両足に花びらががっちりと食い付いた。これでグルスイーグは移動できない。

「決まったね。この勝負、僕がもらった」

 ブライアルは棘の生えた蔦を持って構えた。

「ソーンウィップ!」

 その蔦をもって打撃を与える必殺技でグルスイーグを痛めつけるが、グルスイーグの微動しない表情から見てそんなに苦痛ではないらしい。

「その程度の必殺技では、グルスイーグは倒せないぞ」
「さて、どうかな」

 なぜかヒムロは余裕であった。

「君の精霊の体を見てみたまえ」

 言われたとおり、グルスイーグの身体を見てみると、なんと蔦の棘が刺さっていた。

「その棘には、人間に例えるなら死に至る毒のようなものが含まれているのさ。それも速効性のね」

 つまり、これ以上は何もしなくても勝利は確実ということである。だが、ブライアルはまたも棘の蔦を構えた。情けとして、一思いにとどめを刺す気でいるのだろう。

 再びソーンウィップを放つブライアル。その棘の蔦をグルスイーグは無傷な左手で掴み、そして何故か氷狩は笑っていた。

「もうそろそろ遊びは終わりにするか」

 その瞬間、グルスイーグの左手から凍気が放たれた。掴んでいる棘の蔦だけでなく、それを伝ってブライアルの右腕まで凍結させる。

「これでソーンウィップだけでなく、ブライアルの右腕も使い物にならなくなったな」
「だけど、もう一つの必殺技は残っているよ」

 ブライアルは左腕でライリングペタルスを放った。花びらがグルスイーグの頭を縛り付けるのだが。

「まだわからないのか」
「な・・・・!」

 ヒムロは絶句した。グルスイーグの頭に貼りついた花びらが凍り付いて、ぽろぽろと離れていく。

 右腕や両足から、そして体に刺さっている棘まで同じように地面に落ちていく。

「いくらかかってこようが、グルスイーグにブライアルの必殺技は効かない」

 そういえば、棘が刺さっているのなら今ごろとっくに倒れているはずである、とヒムロは思い当たる。つまり、グルスイーグはまったく傷を負っていないことになる。

「ブライアルの必殺技は全て、グルスイーグの氷のヴェールに遮られている」

 注視すると、グルスイーグの体の周囲が白く光っていることに気付く。

「この氷のヴェールは凍気によるバリアで、炎をもってしてもとけることはない。生半可な攻撃では、このヴェールを突き通すことは不可能だ」

 氷狩が言い終わると、グルスイーグは右の拳を構えた。

「この場から立ち去れ」

 そこにこめられた凍気を、グルスイーグは放った。

「フリージングスノウズ!」

 雪を生じさせるほどの凍気を受けたブライアルは、そのまま凍り付いてしまった。



[ブライアル戦闘不能、グルスイーグの勝利!二回戦進出決定!]

 第一、第二試合の時とは違い、観客は盛り上がらなかった。まるで彼らも、グルスイーグの必殺技によって凍りついたのかのように。

「すごい・・・・」

 ヒナギクも呆然とする。そんな彼女に伝助は言った。

「あなたの戦いは自ら動いて活路を見出そうとしていました。それが悪いとは言いません
が、気持ちまで動いてはいけません。氷のように固まって、じっと構える不動の心が、氷の精霊の使者に必要なんだと思います」
「不動の心・・・・」

 その言葉は、ヒナギクの中で大きく響いた。

 降りてきた氷狩は、次の第四試合で戦いあう佳幸と塁の前に出る。

「二回戦の相手は佳幸か、塁さんか・・・・」

 そう言って二人の眼を見る。両者とも、負ける気はないといった強い瞳だった。

「二人の思いがどれほどなのか見せてもらうから」

 彼らはどんな思いを抱いてこの戦いに参加したのか、どちらの思いが強いのか。どちらかが勝ち進めたとしても、それは自分が相手でも貫きとおせるのか。

 佳幸や塁だけではない。この大会に参加している使者全員が、氷狩の対象である。

「ただ、誰が相手でも、俺は強い意志を持って戦いに臨むだけだ」

 それが氷狩の不動なる心であった。