Re: 新世界への神話 ( No.36 )
日時: 2010/01/09 12:43
名前: RIDE

更新します。


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 開幕前日。

 エイジ、佳幸、達郎、花南たちはとある屋敷を訪れていた。

 三千院家のもの程度では無いが、やはり豪華な屋敷である。

「よぉ、久しぶりに来たぜ」

 エイジは、車椅子に座っている同年代の少年に話し掛けた。

 少年は車椅子の上で寝ているように見えるが、注意して見ると顔には生気がなく、付き人の世話がなければ食事や移動、排泄もできない。そんな植物状態がもう五年も続いている。

「今日はただ、元気だって伝えに来ただけなんだ。中二になっても相変わらずバスケに夢中で。控えだけどメンバーとして頑張ってんだ。すぐにレギュラーのポジションも獲って見せるさ」

 泣きそうになりながらも健気に話し掛けるエイジを、佳幸たちも切なそうに見ていた。

「兄貴や達兄、花南姐さんも志望校に受かって、もう高校生なんだ。高校生活は大変みたいだけど、その分青春を楽しんでいるみたいで・・・・」

 返事が返ってこないとわかっていても、エイジは語りつづける。

「俺たち待っているからな。おまえが目覚めるまで、待っているからな」

 それを最後に、エイジは少年に背を向けて離れていった。

「なお、何であいつに会ったんだ?」

 屋敷から出た後、達郎は少年のもとへ尋ねた理由をエイジに聞いてみた。

「別に・・・・。ただ、ここに来れば答えが出るんじゃないかって思っただけさ」
「三千院のお嬢さんの、戦いについてか?」

 佳幸が問い掛けると、エイジは黙って頷いた。

「俺は・・・・」

 エイジが口を開きかけた時、突然花南が前方を指した。

「ねえあれ、塁たちじゃない?」

 彼女が指す方向を見ると、確かに塁、伝助、優馬、拓実の四人が話し合っていた。何の話題か気になったため、エイジたちは彼らに近寄った。

「おーい。塁さん、伝さん、優馬さん、拓実さん」
「おまえら。どうしたんだ?」
「ちょっとね。それより、何話してたんスか?」

 塁たちは高尾山で白骨を見つけたこと、それを預かっていた拓実から調査結果が出たとの報せがきたので、こうして集まったということを話した。

「なるほど。それで、その骨から何がわかるんスか?」

 拓実は一息ついてから微妙に緊張感を漂わせながらわかったことを告げる。

「この骨は死後四、五年は経っているって言ってたから、この骨の持ち主は五年前にあの洞窟で亡くなったことになるんだ」
「え、それだけッスか?」

 気抜けしてしまう達郎とエイジだが、他の者たちは皆考え込むような表情をしていた。

「な、なんだよ?それがどういうことなんだ?」
「まったく、本当脳ミソ筋肉ダルマねあんたたち」
「なんだと!」

 ムキになる達郎を無視する花南。間に入った佳幸は仲裁し、達郎たちに説明する。

「五年前といえばあの戦いと同じ時期で、その時は龍鳳の勾玉は確かに霊神宮側に存在していた。もしあのお嬢さんの持っている勾玉が本物で、白骨死体もそれに関わっているとしたら、あの戦いの後すぐに龍鳳は霊神宮を離れたんじゃないかって思うんだ」
「なるほど」

 達郎とエイジは頷くが、すぐにあることに気付く。

「でもあれが本物か偽物かは別にして、何が起こったかはわからねえままじゃん。あれから俺たちは霊神宮と関わろうとしなかったし、そこのところはさっぱりだ」
「いや」

 ここで口を挟んだのは優馬と拓実であった。

「俺と拓実はあれから一年ぐらいの間は霊神宮と接触する機会があった。しかし、その間龍鳳や翼闘士に関する目立った騒ぎは見られなかった」
「考えられるのは二つ、あの勾玉はやっぱり偽物ということか、霊神宮は何か隠しているんじゃないかな」

 霊神宮に対して好印象を持っていない一同は、さらにその不信感が増してきた。

「くそっ!」

 むしゃくしゃした塁は乱暴に頭を掻く。

「こうなると、霊神宮に告げ口していいもんかどうか迷っちまうぜ」

 ナギが行おうとしていることを霊神宮に知らせれば。止めてくれるのではないかと淡い期待を抱いていたが、この話を聞いてしまうと、報告した自分たちの身まで危なくなるんじゃないかと不安が生じ、佳幸たちは黙り込んでしまう。

「どっちにしたって、俺は戦うって決めたよ」

 エイジのその言葉に、七人は驚いたように彼を見た。

「俺思ったんだ。ただ待っているだけじゃどうしようもない。アイツが目覚めた時、全てを受け止めるようにならないほど強くならなきゃいけない。そのためにも、負けちゃいけないんだって」

 佳幸たちは決意を語るエイジにただ惹き付けられていた。

「そのために勝つ、その時まで勝ちつづけるんだって、決めたんだ」

 エイジは天を仰いだ。それはまるで、天へと昇った人に確認するようであった。