Re: 新世界への神話 ( No.31 ) |
- 日時: 2009/12/28 22:26
- 名前: RIDE
- しばらく音沙汰していませんでしたが、更新します。
第十二話ラストです
4 「ここだな」
ダイたちは精霊の気の流れの源であると思われる場所についた。そこは大きな洞窟となっている。
「なるほど、そういうことだったんだな」
ダイは、自分の推理を語りだした。
「ここにはなにか大切なものがあって、それを守るためにこの先にいると思われる精霊は高尾山全体に気を放っていたんだ。そして、その気を受けた動物たちは凶暴化したって訳か」
精霊とは無関係な人々にとっては、何を言っているのかわからなかったが、ハヤテたち精霊の使者たちはダイが言うとおりだと納得していた。
「可能性はあるわね。何か障壁みたいなものもあるし」 「でも、この洞窟の先には何があるんでしょうか?それに、これだけの力を持つ精霊って一体・・・・?」 「行ってみればわかりますよ」
伝助は前を見据える。
「こいつを倒してから、ですけど」
洞窟の前には最後の砦ともいうべき巨大な動物が待ち構えていた。見るからに、あの巨大熊よりも大きい。
ダイが前に進み出よおうとするが、それを伝助が制止した。
「あなたは無関係の人たちを下がらせてください」
生徒を守る立場にある伝助は、一番信頼できそうな者に生徒たちを任せる。残ったのは伝助とハヤテ、ヒナギクだけとなった。
「綾崎君、桂さん、よく見ていてください。精霊の闘いを」
伝助の傍には既にワイステインが人型形態でいた。そのワイステインに向かって、巨大動物が攻撃を仕掛けてきた。
「ウインドガーディアン!」
ワイステインは風を起こして防御壁をつくり、自分に対する攻撃を防いだ。同時に背中の翼を広げる。
「ウイングトルネード!」
翼から竜巻が放たれ、巨大動物をズタズタに打ちのめしていく。それでも、巨大動物は吹き飛ばされずになんとかこらえ切った。
「意地でもここを通さないとは、立派ですね」
伝助は巨大動物の必死な姿に感動する。
「でも、通させてもらいます。動物虐待で気は引けますが、ワイステインの最大の必殺技を受けてもらいましょう!」
ワイステインは、右の拳を低く構えて力を貯める。
「嵐鷲滑空拳!」
その名のとおり、滑空のような勢いで拳を打ち付ける。巨大動物は後方へ飛ばされ、気を失ってしまう。
「安心して下さい。気を失わせる程度に手加減しましたから」
そう独りつぶやいた後、伝助は結界に向き直る。同時にワイステインは先ほどの必殺技の構えに入った。
「いけ、ワイステイン!」
伝助の心を受けて、先ほど以上の破壊力を秘めた嵐鷲滑空拳が結界とぶつかった。結界は揺らぎ、すっと消えた。
洞窟の中を一行は進む。
メンバーは全員であった。何も知らない人たちについては外で待っててもらおうかと思ったが、気の流れを止めるまでは危険であり、そもそもダイが原因をじかで見たいと言い出し たために、我も我もと声があがってしまい、仕方なく連れて行くことにしたのだ。
洞窟の中にある、元凶と思われるものを発見するには、そんなに時間はかからなかった。
「なんだ、あれは?」
それは光を放っていた。洞窟全体を照らすほどの大きなものではないが、黄金に光っているためその実体を捉えられない。
「一体これは?」
伝助がそれに触れようと手を伸ばすと、黄金の光は眩しさを増した。強い光にほとんどのものが目を眩ませる。
唯一人、誰も気付かない中でナギだけはその光の中であるヴィジョンを見た。
光が収まり、目が慣れていくと、発行していたものの正体が確認できた。
黄金の勾玉に、同じように意匠が施された黄金のリング。そして宝石のように美しい光沢を持ち、水晶のように透き通った勾玉があった。
「これは!」
伝助は驚き、その彼の背後からダイが顔を覗かせ、黄金の勾玉とリングに目を留めた。
「この黄金の勾玉とリングって、精霊の中で一番上のランクにあるっていう黄金精霊(ゴールドスピリット)の勾玉とリングじゃねぇのか?」 「ええ。太古の昔から十二体存在し、また十二体しか存在できないと言われて、黄金の輝きを持ち、他の精霊とは一線を画す力を持つ精霊です。その精霊に選ばれた、最上級の実力の使者に送られる主の証であり、最高の高度を誇る黄金リングまでここにあるなんて」
伝助は、動揺を隠せなかった。
「ですが、もっと驚いたのはこいつです」
伝助の目は、水晶のような勾玉に釘付けであった。
「何故龍鳳がこんなところに?」 「龍鳳(りゅうほう)?」
何のことかわからず首を傾げる。
「龍鳳は、霊神宮を統治する救世主、スセリヒメの精霊です。精霊と言っても、龍鳳はこの世界の創世時から存在していると言われ、また神なのではないかという説もあります」 「いずれにしろ、精霊よりも大きな奴ってことか」
話のスケールの大きさに、傍らで聞いていたハヤテとヒナギクは気が遠くなりそうになるが、話についていけない人たちのことを思えばまだマシだと思い直していた。
「これで謎は解けましたね」
伝助は黄金の勾玉をよく見た。勾玉には、翼闘士と刻まれてあった。
「この翼闘士と思われる精霊は、龍鳳を守るために結界を敷いた。そのために高尾山全体が精霊の気で満ちてしまったんですね」 「山全体を気で覆ったり、動物を凶暴化させたりと、黄金の精霊はおまえらが持ってる青銅の精霊と比べモンになんねえな」
ダイは、黄金の精霊の力に感心していた。しかし、新たな謎も生じる。
「でも、これらは霊神宮にとって必要なモンだろ?なんでこんなところにあるんだ?」 「さあ・・・・。5年前、龍鳳は霊神宮に保管され、黄金の使者も十二人全員いたと聞きましたが、それから僕たちは霊神宮と関わろうとしませんでしたし・・・・」
つまり、この5年間の間に何かが起こったということである。
「とにかく、これらを霊神宮に渡せばわかることです」
伝助はそう言って龍鳳の勾玉を拾おうとした。しかし、それを横からひったくった者がいた。
「これは私が預かる」
ナギであった。彼女はいつもの尊大な態度で龍鳳の勾玉らをリュックに詰め込んでいる。 当然、正義感の強いヒナギクはナギの勝手な行動をとがめる。
「ナギ、それはオモチャじゃないのよ!」 「お嬢様、いくらなんでも・・・・」
さすがにハヤテも主のやったことはどうかと思い、ナギを諌めようとした。
だが、ナギが見返してきたとき、二人は何も言えなくなった。ナギの瞳には先ほどまでの子供っぽさは感じられない。妙に大人っぽいというか、神妙さが出ているというか。とにか く、威圧感みたいなものは無いが、不思議な力を受けているみたいに感じた。
同様にナギの目を見た伝助も、反論する気にはなれなかった。ため息をついて、渋々それを承諾した。
「まあ、その龍鳳の勾玉が本物だとは限りませんし、黄金の勾玉とリングも、それほどの力を持っているだけの模造品という可能性も否定できませんしね。しばらく持っていても、問題は無いと思います」
しかし伝助は不安であった。もちろん、使者でないものに精霊の勾玉を持たせることもそうだが、何よりもナギのあの目であった。これらが光った時、ナギに何かあったのだろうか。
頂上まで登りつめたナギは、その絶景に目を奪われていた。
「どう?最後まで自分の力で登りきった感想は?」
ヒナギクが澄ました顔でナギに問い掛けた。
「ま、悪くない感じだ」
その偉そうな態度は、いつものナギであった。
後ろでは美希たちがガヤガヤ騒いでいた。あの洞窟から出た後、ナギ以外の使者でない者たちは黄金の勾玉らに関する出来事は記憶から消され、動物に襲われたことなど無かったか のように楽しんでいた。
「今日は本当に疲れたなあ」
すがすがしい空気を胸いっぱいに吸うハヤテ。ただ高尾山に登るだけよりも何倍も疲労してしまった。
しかし、この一日が後に精霊に関することで大波乱のきっかけになろうとは、ハヤテや伝助たち使者はもちろん、ダイですら予想できなかった。
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