Re: 新世界への神話 ( No.30 ) |
- 日時: 2009/12/11 19:13
- 名前: RIDE
- 更新します。
3 一方。
ナギは美希、理沙と同様息を切らせながら歩いていた。
「これ終わったらこの山買い取って平地にしてやる・・・・」 「同感だな・・・・」 「やめてよね、そういう逆恨みみたいなこと」
ヒナギクはそんな三人に山の醍醐味を教えようとしたその時だった。
「あ!」
千桜が何か見つけたようだ。彼女が指した方向を見ると、そこにはタヌキの子供が。
その可愛らしさに、全員タヌキの方へと駆け寄っていった。
「!こ、これは・・・・」
近づいてみると、タヌキの身体中に数々の傷があることに気付いた。しかも、負って間もないようで、その痛々しい姿に一同は絶句してしまう。
「一体誰がこんなことを・・・・」
その犯人はすぐに現れた。タヌキを追ってきたと思われる獰猛な犬が草むらから踊り出て、五人めがけて飛び掛ってくる。
「キャァァァァッ!」
だが不思議なことに、犬は空中で何かにぶつかったように転倒し、叩かれるように去っていた。普通の人たちにはそう見えた。
実際はヴァルキリオンが解放形態となって、ヒナギクたちを犬から守り、追い払ったのだ。
「ヴァルキリオン、どうしたの・・・・?」 「この山一帯、精霊の気に満ちている」 「え?」 「おーい」
そこへ、ダイと伝助が合流してきた。
「高杉君!だめじゃない勝手に離れちゃ」
しかしダイは、反省する様子もなくふんぞり返る。
「俺は俺の好きなようにやるだけだ」
今すぐ成敗したいところだが、それよりも気になることがあった。
「風間先生、高尾山に精霊の気が満ちているというのは・・・・」
八闘士の一人なら確かな答えが出てくると思い、ヒナギクは質問した。
「そうです。いま、その原因を探っているところです」
精霊の仕業だということがわかったので、ヒナギクは気を引き締める。
「ん?あそこか・・・」
ダイはある一点を指した。
「誰か戦ってんのか・・・・?」 「ハヤテ君たちかも!」 「行きましょう。全員で」
全員でってことは、ナギや美希たちも一緒ということだ。彼女たちの身を考えれば、当然ヒナギクは伝助の言葉に反対する。
「危険です!もし何かあったら・・・・」 「ですが、ここで離れてもし彼女たちがさっきのような動物に出くわしたら、それこそ危険ですよ」
確かに一理あった。一番の安全というのは、目が届くことなのかもしれない。
一行は、ダイが示す方向へと進み始めた。
「ダブル執事キック!!」
ハヤテと虎鉄は同時に巨大熊に蹴りを入れた。熊は倒れこむかと思われたが、こらえ切った。
「くそっ!これでもダメか!」
予想以上に強い巨大熊に手を焼かせるハヤテたち。そんな中、雪路があるアイディアをひらめかせる。
「ここは頭を使って戦うのよ!」
そう言って近くに落ちていた木の棒を拾う。
「動物が動くものを狙う習性を利用して、これを谷底に投げ捨てれば・・・・」
木の棒を追って巨大熊も谷へと落ちるかと思ったが、熊は動く気配を見せなかった。ただ、ため息とともに雪路を哀れみの目で見下していた。
「動物のくせに、ナマイキだぞー!!」
とにかくこれで打つ手は無くなった。こうなったらシルフィードに戦わせるしかない。ハヤテがそう考えた時だった。
「そのアイディア、誘導するものが木の棒以外ならいいんじゃないか!?」
全員、声のした方向を向く。
「例えば、人間とか!」
なんと、東宮が崖近くに生えている樹の枝に立っていた。一応、命綱のつもりなのか、その辺に生えていたツタで自分の身と樹を繋いでいた。
「だ―――!!東宮くーん!!」 「こんな人のアイディア、発展させてもダメですよ!!」
端から見れば緩やかな自殺であるが、東宮は身を引かなかった。
彼の心の中には彼の執事であった野々原の残した言葉があった。誰かを守れる、強く、勇気のある男になれと。
「さあこい熊野郎!僕の勇気、おまえに見せて・・・・」
東宮が言い終わる前に、巨大熊は爪で樹の幹を切り倒した。
「わ!?わっ、わー!!」
そのまま真っ逆さまに落ちていく東宮。
野々原・・・・僕にはまだ・・・・!
そんな心の叫びを表すかのように、東宮は空中で腕を差し出した。すると、その腕を掴んだ者が。
「!綾・・崎・・」
虎鉄に支えられ、その虎鉄は雪路に支えられ、雪路はワタルに支えられ。そんな形でハヤテは東宮を救出したのだ。
しかし、危機が去ったわけではない。巨大熊は東宮を引き上げているハヤテたちに狙いをつけ、腕を振り上げる。そこへシルフィードが解放形態となって、巨大熊を追い払った。
「たいした勇気でしたよ」
東宮を引き上げたハヤテは、彼を褒め称えた。
「綾崎・・・・」
東宮はそっとハヤテの腕を掴む。
「ダメなのだ!」
そこへ、ヒナギクたちとともにダイと伝助に先導されたナギがやって来た。
「リアルで男同士など、そんな・・・・」 「いいじゃねぇか、なー!」
その隙を狙って虎鉄は後ろからハヤテに抱きついた。
ぎゃあぎゃあと騒いでいる彼らを見て、ダイは呆れるようなため息をついた。
「緊張感を解いた途端これかよ・・・・。ま、いいか。進もうぜ」 「ええ」
ダイと伝助は歩き出そうとする。
「待ってください。僕も行きます」 「私も、一緒に行かせてください」
ハヤテとヒナギクが進み出た。他の者たちも全員、同様の表情をしている。
「どうする?」
ダイはそっと伝助に耳打ちした。
「仕方ありません。幸い、精霊は記憶を消すこともできるので、精霊の事を知っているもの以外都合の悪いところは後で忘れさせましょう」
それを聞いて、ダイはまた深くため息をつくのであった。
「ついてこい」
二人の後を追う一同。その際、伊澄は誰にも知られないよう愛歌を呼び止め、そっと彼女の胸元に倒れこむように寄り添った。
そして、伊澄が彼女の胸元の石に触れた途端、その石に模様みたいなものが浮かび出たことに愛歌は驚いた。
「それは、愛歌さんが持つには、大きすぎる力だと思いますよ」
伊澄の力に呆然としながら、愛歌は会釈して見せた。
「私も、そう思います」
二人は遅れないよう早足でついていった。
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