Re: 新世界への神話 ( No.3 )
日時: 2009/08/13 12:50
名前: RIDE

前回から1話丸々載せるのは長い文章になるということがわかったので、今回から分割して更新していきたいと思います。


   第2話  発端

 1

 新学期の翌日、すでに夜の闇が浸透している時間。

 ハヤテは、白皇に編入する前の学校の同級生であり、現在も親交のある西沢歩と一緒に夜道を歩いていた。

 二人はバイトの帰りで、夜道は危ないからという歩の強い推しもあって、ハヤテは歩を家まで送ることになった。ナギも同じバイトをしていて、この場にいればそれを阻止したかもしれないが、生憎と言っていいか事情があって今日は休んでた。

 二人は、新学期のこととかを話していた。

「ハヤテ君は、ヒナさんとかと同じクラスになったんでしょ?」
「ええ。だから、がんばらなきゃなぁって・・・・」
「なんで?」

 ハヤテはそこで気まずそうな表情になった。

「これ以上ヒナギクさんに嫌われるのは良くないですから。迷惑かけっぱなしで・・・・」
「は?」

 歩は呆気にとられていた。彼女はヒナギクのハヤテに対する恋心を知っていたので、こんな言葉が出てくるとは予想していなかったのだ。

「でも、冷たい態度も、愛情の裏返しなんてこと・・・・」
「ありえませんよそんな幻想」

 平行線のような気持ちのすれ違いに、歩はただ呆れることしかできなかった。

「あれ、綾崎君ですか?」

 そんな時、反対方向からシュウが歩いていた。後ろにはダイもいる。

「三井君に高杉君。どうしたんですかこんな夜に?」
「ちょっと緊急に買わなくてはいけないものがあって。そちらの方は?」
「前の学校の同級生です。バイトの帰りで家まで送っているんです」

 ハヤテと話しているシュウの後ろでダイはつまらなそうな表情をしていたが、突然人の気配に気づいて叫んだ。

「綾崎、伏せろ!」
「え?は、はい!」

 ワンテンポ遅れて言われた通り行動しようとしたハヤテは、その一瞬でも間に合わないと判断したダイによって押し倒されてしまう。同時に地面に弾丸が着弾した。その弾は、間違いなくハヤテの頭を狙ったものであろう。

「くっ!」

 ダイは半身を起して弾が撃たれた方向に石を投げた。気配がなくなっている。逃走したのだろうか。

「シュウ、追え!」
「はい!」

 シュウは追跡を始め、ダイは放たれた弾丸を見る。わずかだが、ダイが目を見張らしたのをハヤテは見ていた。

 ダイがその弾丸をポケットに入れるのと同時に、シュウが戻ってきた。

「申し訳ありませんダイ様・・・・完全に逃げられてしまいました」
「そうか・・・・」

 ダイは立ち上がって起き上がろうとしているハヤテのほうを向いた。

「綾崎・・・・今日はもう襲われることはないと思うが、気をつけて帰れ」
「え、ええ・・・・」
「しかし、明日また同じことが起こらないとは限らない。しかも襲撃者は俺の知っている奴かもしれない」
「ええっ!?」

 ハヤテは驚いたが、ダイは無視して続ける。

「だから明日、俺はお前を護衛する。1日だけだから、我慢してくれ」
「大丈夫ですよ。僕はそう簡単にやられませんし、多分これは三千院家の遺産狙いではないかと・・・・」

 三千院家の遺産の相続条件は、ハヤテを倒せというものである。襲撃者はそれが狙いなのだとハヤテは考えていた。

 だが、有無を言わせぬダイの圧力を感じ、ハヤテは口が開けなくなる。

「敵はお前が思っている以上に強大だ。周囲を危険にさらしたくないのなら、俺の言うとおりにしろ」

 ダイの圧力は、今まで感じたことがないぐらいに大きかった。そのため、ハヤテはその言葉をのむことしかできなかった。

「わかりました。また明日、会いましょう」

 ハヤテは一礼し、再び歩を送っていた。

「・・・・ダイ様」
「わかっている。こんなに早いとは思わなかったけどな」



 翌朝。

 三千院家の敷地の門から出てきたナギとハヤテを出迎えたのは、ダイであった。

「高杉君」
「言ったろ、護衛するって。まぁ、よろしく頼むぜ」
「護衛の必要なんかない。ハヤテにかかればどんな敵にも負けはしない」

 だからさっさとどこかへ去れと言わんばかりの態度であるナギだが、ダイは全く気にしていなかった。

「念のためだ。さ、行こうぜ」

 ダイは歩き出した。遅れないように二人は付いていく。

 こんな調子で白皇につき、教室に入った3人は無言のまま席に着く。

 3人・・・・とくにダイから異様なプレッシャーが発せられ、教室にいる生徒たちは中々そこに近づけなかった。

「おはよう」

 声をかけたのはヒナギクだった。もっとも席が近いため、和ませなければ持たないと感じたのだ。

「どうしたの?すごい空気が漂っているんだけど?」
「実はですね・・・・」

 ハヤテは昨日起こったことを説明しようとしたが、ダイに眼で制されて黙ってしまう。余計な人間を関わらせたくないためである。

「昨夜ハヤテが何者かに襲われてな、だからこうして警戒しているんだ」

 しかし、ナギがすべて話してしまった。それを聞いてヒナギクはハヤテの身を案じだす。

「襲われたって・・・・ハヤテ君、大丈夫なの?」
「ええ。高杉君に助けてもらいましたから。今日も1日護衛してもらっているんです」

 ヒナギクは何かを考えながら、ダイに問う。

「ねぇ、高杉君は学校が終わってもハヤテ君の護衛するの?」
「ああ。一応翼と大地も一緒にってことで、部活が終わるまで綾崎たちを残らせるつもりだが・・・・」

 ヒナギクは何かを決めたようで、強気な笑みを浮かべて言った。

「私も護衛するわ」
「は?」
「生徒会の仕事もないし、丁度いいわ。生徒会長だから、生徒を守る義務があるもの」

 ヒナギクの心の中にあったのは義務感と、好きな人を守りたいという思いだった。

「中々面白そうね」

 それまで遠くで耳を傾けていた3人が輪の中に入ってきた。泉、美希、理沙の生徒会3人娘である。

「話はきかせてもらった」
「私たちもついて行くのだ〜」

 遊び感覚で同行しようとする3人。そんな魂胆が手に取るように分かるヒナギクは当然、反対した。

「駄目よ。下手をしたら命を落としちゃうのよ」
「大丈夫、いざとなったらヒナにまかせる!」
「少しは自分で自分の身を守ろうとしなさい!」

 ああだこうだと言い合ったが、3人組は折れず、結局ついていくこととなった。

 女子に当たり散らすわけにもいかないので、ダイはため息をつくしかなかった。