Re: 新世界への神話 ( No.28 )
日時: 2009/11/24 19:55
名前: RIDE

更新します。
今回の第十二話は結構長めとなっております


 第12話  危険なハイキング

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 休みが明け、白皇学院では授業中。

 ナギは、面倒くさそうに授業を受けていた。といってもナギにとっては授業を受ける必要がないほどの学力があるので、本人にはその意欲がないのでが、初日を除けば新学期以来彼女は登校していない。この上でサボることはダメだとマリアから圧されて、渋々登校したのだ。

「あぁ、ダルイなぁ・・・・」

 昼休み、ナギがやる気のないため息をつくのを見て、ハヤテは苦笑を浮かべた。

「フハハハハッ!何だそのザマは!」

 そんな二人に向けて、背後から高笑いをする男子生徒が一人。

「場所を移そう、ハヤテ」
「そうですね」

 どこかへ移動しようとするナギとハヤテ。

「おーいっ!無視しないでくれ―――!」

 そんな二人を男子生徒は必死で止めた。

「誰だおまえは?ハヤテわかるか?」
「東宮康太郎さん。一応、クラスメートです」

 影が薄いような発言に軽くショックを受けるが、東宮康太郎は持ちこたえた。

「綾崎ハヤテ、おまえに話がある」

 東宮はそう言って話を切り出してきた。

「知っているかと思うが、僕には野々原という執事がいて・・・・」
「知っているか?」
「まぁ、かすかに覚えてはいますが・・・・」

 東宮は話を続ける。

「その野々原は先日、留学のためにイギリスに行ってしまったんだ。僕を一人を置いて・・・・」

 めそめそと語るその姿はまるで捨てられた恋人のようであった。

「で、その話が一体我々とどういう関係が・・・・?」
「そこでだ」

 東宮は改まって向き直り、ハヤテを指差す。

「綾崎ハヤテ!おまえを僕の執事にしてやる!」

 それを聞いた途端、ハヤテとナギは呆れ返って何も言えず、再びそのまま去ろうとした。

「あ、待って・・・・」

 二度も無視された東宮は、慌てて二人をこの場に留めさせようとする。

「執事の掛け持ちなんてできません!」
「そういうのは執事募集の広告とか出すなりなんとかしろ」
「それじゃどうにもならないからおまえに頼んでいるんだろ!!」

 切迫した叫びに、思わず二人は彼を注視する。

「もうすぐ新学年最初のオリエンテーション、『クラスのみんなの親睦を深めるための高尾山遠足』があるだろ?」

 ずいぶんと庶民的であるこのイベントは、諸々の事情により例年よりも遅く実行されることになっていた。

「そのイベントは、班を作って登っていくってイベントなんだけど・・・・」

 東宮はそこでしょんぼりしたように顔を落とす。

「僕・・・・、友達いないから、きっと一人ハブられる・・・・」

 さびしそうな人影に、ハヤテとナギは同情してしまう。

「でも、僕はハブられるの平気ですよ」

 そのハヤテの言葉に、ナギと東宮は愕然とし、彼を勇者だと称えたくなった。

「何やってんだ?」

 その場をたまたま通っていたダイが3人を見て近づいてきた。

「実は・・・・」

 ハヤテから事情を聞いたダイは、バカバカしいとばかりに一笑した。

「そんなことで慌てんなよ、まったく」
「じ、じゃあおまえはハブられてもいいっていうのかよ?」

 ダイは一息ついた後、東宮やハヤテたちを睨む。

「俺はハブるとかハブられるとかは問題じゃねぇ。俺の言うことを聞くか聞かねぇかによって決める!」

 三人は、ダメだこの人と呆れてしまった。

「それにしても、山に登るのか・・・・」

 ナギは、不安そうにつぶやいた。



 そして、ハイキング当日。

 登校前の朝、ナギはハイキングが以下に危険なことかを述べていた。実際はサボるための口実なのだが。

「学校行事なんだから行きなさい」

 それを見透かしているマリアは、あえて冷徹な態度をとる。

「山に登って、少しは体力のある子になりなさい」
「高尾山は東京都民がみんな学生の頃登ったりする山なんで、そんなに大変な山じゃないですよ?」

 ハヤテもそれなりにフォローするが、それでもナギは涙目で拒否をする。

「山なんかに登ったら、体力つく前に死んじゃうよ〜だ」
「死にません!」

 マリアはしょうがないと、スクリーンにある映像を呼び出した。

 ナギは、アニメかマンガのおもしろい動画かなんかだと思ったが、その予想とは違ったものであった。

[え、高尾山に登れないお嬢様?そんなのいるわけないじゃん]

 スクリーンには、ナギが勝手に敵視しているエイジが写っていた。どうやら事前に撮影したものらしい。

[小学生でも楽勝な山を登れないなんて、そいつの顔を見てみたいぜ。きっとひ弱で間抜けそうな・・・・]

 エイジの言葉に怒りを爆発させたナギは、劇場に任せてスクリーンを叩き壊した。

「高尾山・・・・登ってやろうじゃないか」

 マリアは心の中で安心していた。挑発が逆効果になるのではないかと心配していたが、うまくいったみたいだ。



 というわけで、白皇学院の生徒たちは、クラスで班を作り、高尾山を登るのだが・・・・。

「こんなの全然楽じゃないのだ」

 始まったばかりだというのに、ナギはブツブツと愚痴をつぶやいている。

「大体、私に体力がないとはいえ、あいつよりはあると思うぞ」

 ナギは後ろを指した。そこには班のメンバーである東宮が倒れていた。

「まったく、これだからお坊ちゃん育ちはダメなんだ」

 同じ班のメンバーである虎鉄は呆れ返っていた。

「東宮君どーしよっか?」

 泉の質問にダイは無慈悲なことを言う。

「置いてって獣のエサにしよう」
「いやいや、班行動ですから置いていくわけにはいかないでしょう。何とか立ち上がってもらわないと・・・・」
「ふふ・・・・近道だ・・・・」

 その時、自暴自棄になったように東宮が立ち上がった。

「こんな山道登ってられるか!僕は近道を行く!」

 東宮はバカヤローなどと叫びながら道から外れた場所へと走り出していく。

「ちょ、東宮さん!」

 ハヤテが制止しようとした時には、東宮の姿は見えなくなっていた。

「いかんハヤテ!これでは班行動が乱れる!早く追いかけるんだ!」

 それは休むためのナギの口実なのだが、そんなことに気付かないハヤテはためらわず東宮を追いかけ始めた。その後ろには虎鉄がつく。

「あれ?高杉君は?」

 残されたナギや泉が辺りを見渡すと、ダイの姿がなくなている。

 信じられないことに、どさくさに紛れてダイは班から逃げ出していた。



「しかし、一人は気楽だとつくづく思うな」

 ダイは背を伸ばし大きく息をついて、草むらに腰を降ろす。

「ダメじゃないですか。勝手に班から離れちゃ」

 そんな彼に近づいたのは、副任の風間伝助だ。しかしダイは彼の言葉にも耳を貸さない。

「同じように一人でいる奴に言われたくないな。しかも副任がよ」
「僕は一応、見回りのつもりなんですけどね」

 だが二人は急に真剣な表情となる。

「それに、あんただって感じているんだろ?ここの妙な気の流れが」
「ええ」

 ダイは立ち上がって伝助とともに茂みの一角を見る。そこから、凶暴化した野生動物が踊り出てきた。

「ワイステイン!」

 伝助の精霊、ワイステインが解放形態となって野生動物に翼を打ちつけた。野生動物はその一撃で去っていった。

「ただの山だと思っていましたが、動物が凶暴化するなんて・・・・」
「ここになんかあるみてぇだな。自然の流れが変わるほどのものが」

 二人は顔を見上げると、互いに頷いた。

「行きましょう」
「おう」

 二人は、再び登り始めた。