Re: 新世界への神話 ( No.27 ) |
- 日時: 2009/11/13 21:18
- 名前: RIDE
- 更新します。
第11話ラストです。
2 三千院家の屋敷の広大な庭には、高級樹林による林があった。
ナギは、その木の一つに寄りかかっていた。
「ふんだ・・・・。ハヤテのバカ・・・・」
ナギは延々とハヤテに対して一人愚痴っていた。
その理由は一つ。彼女は今日一日中ハヤテと二人っきりでいたかったのだ。そのため、今日のハヤテの態度がナギを不愉快にさせたのだ。
「愛する私が帰ってきたというのに、何だあの態度は・・・・」
ナギとハヤテは初めて出会ったとき、とある事情でお互いにズレが生じてしまい、今もそのまま、思い違いが続いているのである。
「ふぅ・・・・」
いつまでもここで落ち込んでいるのも飽きたので、屋敷に戻ってゲームでもしようと思った。まだ攻略中のものがあるので、早くクリアしたかったからだ。
そんな時、突然大きな爆発音が聞こえてきた。
「見つけたぞ」
そして、ナギの前に、明らかに部外者な男が現れた。
「な、なんだおまえは」 「おれは茨棘。三千院ナギ、おまえの命を奪う者だ」
それを聞いて、ナギは自分の身の危険を感じた。逃げ出そうとしたいのだが、恐怖で足が動かない。
「待て!」
そんなナギをかばうかのように、木の上から人影が降りてきた。
「警備用ロボを破壊しただけでなく、ナギお嬢様のお命まで奪おうとは、この不届き者め!」
ハヤテの上司である執事長のクラウス。そして愛沢家の執事である巻田と国枝。
「ナギ!」
彼らが茨棘に挑みかかると同時に、咲夜がナギのもとへ駆け寄った。
「だめやないか!ひとりで外におるなんて!」
それを聞いたナギはムッとして言い返した。
「咲夜こそ、こんな場面でのこのこ来おって!危険なんだぞ!」 「心配あらへん。あいつらに任せとけば・・・・」
しかし咲夜の期待は裏切られることになる。
「ソーンミサイル!」
飛来してきた大型の棘に、三人は吹き飛ばされた。
「このブライアルの前で生身で挑むなど、愚かだな」
茨棘の前には、両腕に茨が巻かれた人型形態の精霊がいた。
「三千院ナギ、次はおまえだ!」
今度はナギに向けて、必殺技であるソーンミサイルを放つ。咲夜はナギをかばうために前に出るが、大きな棘は彼女共々ナギを貫くであろう。本能的に目を閉じる二人。
だがいつまで待っても痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、数々の武器を身に纏った人型形態の精霊が、盾を持って二人を守っていた。
「な、何者だ!?」 「それはこっちのセリフだ」
その言葉とともに、横から少年が割り入ってきた。見た目からナギや咲夜と同年代だと推測でき、背は少し高い。
「精霊の反応があるから行ってみれば、女の子を襲うなんて黙っちゃおけねぇな」
危機感を感じた茨棘は、思わず足がすくんでしまった。
「くっ、ブライアル!」
ブライアルが少年の精霊に襲い掛かった。必殺技が効かないとわかっているので、肉弾戦で戦うつもりだ。
「おまえみたいな奴にはもったいねぇが、ウェンドランの必殺技を見せてやるぜ!」
少年の精霊、ウェンドランが拳を構える。
「流星闇裂弾!」
ウェンドランは拳による連打をブライアルに浴びせる。それはまるで流星の如く。
百発近く殴られて、ブライアルは封印された。
「おのれ!こうなったら・・・・」
茨棘はナギに向かって走り出した。少年を、咲夜を突き飛ばし、懐から刃物を取り出して襲い掛かった。ナギは逃げようかと思ったが、自分の足の速さでは追いつかれてしまう。
呼べば必ず、駆けつけます・・・・!
そんなハヤテの言葉を思い出したナギは、ためらわずに叫んだ。
「ハヤテ―――――ッ!!」
刃物を振り下ろそうとした茨棘の手を、何者かが掴んだ。
「お嬢様に手を出すことは、この僕が許しませんよ」
それはいつになく怒ったハヤテであった。彼は刃物を叩き落とし、茨棘を一発で地に伏せさせた。
「大丈夫ですか、お嬢様?」 「・・・・・・ハヤテッ!」
ナギは迷うことなくハヤテに飛びついた。その後ろで起き上がった茨棘の肩を、先ほど突き飛ばされた少年が掴んだ。
「おまえ、よくも突き飛ばしたな!」
強烈な一撃が茨棘の顔面に入り、ふらついて倒れそうになるところをダイが捕まえる。
「おしまい、てとこだな」
ダイは茨棘を自由にさせないように拘束した。ダイと一緒に駆けつけた佳幸は少年を見て驚いた。
「エイジ!」 「あ、兄貴じゃないか」
佳幸はダイたちに対して少年を紹介した。
「僕の弟で、エイジと言います。八闘士の補欠みたいなものですが、実力は僕たちと同レベルです」
佳幸は、弟にも挨拶するよう促した。
「はじめまして。岩本エイジです」
エイジは頭を下げた後、大げさのように感嘆する。
「いやぁ、金持ちの令嬢の屋敷に行くって兄貴が言ってたけど、部活の練習試合の帰り道にあったなんて偶然だなぁ。広い庭に大きい屋敷、そして美しいお嬢さん」
エイジは咲夜の手を握る。
「お世辞みたいだけど、可憐ですね」 「いや・・・・その、ウチ・・・・」
照れてドギマギする咲夜の横で、ナギは顔をしかめていた。
「おい・・・・」 「ん?君は妹かい?」
妹という言葉に怒鳴りそうになるが、ナギはできるだけ抑えて、震える声で言った。
「確かに咲夜も令嬢だが、ここの主はこの私、三千院ナギだ」 「ええっ?この小学生が?」
それを聞いた途端、我慢が限界となった。ナギは怒りを爆発させる。
「誰が小学生だ!私は今年で14になるのだぞ!」 「嘘!俺とタメなの!?」
驚きを隠せずにいるエイジ。その時、彼の背後に大柄の男たちが現れる。
「君か?勝手に敷地内に入ったのは」 「え?」
三千院家のSPが、エイジをがっちりと拘束した。
クラウスたちを介抱した後、爪牙と茨棘を送るために翼と大地は霊神宮に向かい、残った 者たちは屋敷にいた。
「それにしても、あのお嬢さんが狙われるなんてな」
達郎はまったくの予想外と言わんばかりに驚愕したままである。
「でもこれで、賢明大聖の言うことは信じられるな」
ダイは納得したように語りだした。
「艶麗は間違いなく三界の支配をたくらんでいる。あのチビお嬢さんを標的に入れたのも、三千院家を滅ぼしてこの世界の経済に混乱をもたらそうとしたからに違ぇねぇ」 「確かに、そう納得できますね」
シュウも同意するように頷いた。
「でも、エイジさんのおかげで大事にならなくてよかったですね」
そのエイジは、気に入らないが命の恩人だ、とナギの一言によってSPから解放され、今 は紅茶を淹れているマリアをじろじろと見ている。
「あの、なんですか・・・・?」
当然、見られている方は不愉快である。
「いや、あのナギっていう子は影武者かなんかで、本当はあなたがここのお嬢様・・・・」 「まだ言うか!」
主だということを疑われているナギはエイジに絡んでくる。
「だってさ、このメイドさんの方がお嬢様ぽいっし、かなりの美人だし・・・・」 「私はお嬢様っぽくないし、美人でもないってことか!?」 「とんでもない。お嬢ちゃんも十分かわいいよ」
お嬢ちゃん呼ばわりに納得ができず、ナギはエイジを睨みつづけている。
「まあまあ。それよりも、久しぶりなんやから一緒に遊んだるで」
空気を切り替えるために咲夜が切り出してきた。元々彼女はナギの顔を見にここへ来たのだ。
「そうだ!咲夜、おまえに見せたいものがあるんだ!」
そう言って取り出したのは、グロスホッポーというラジコンであった。
「結構上達したんだぞ」
ナギはリモコンを手にし、ハンドルを切った。グロスホッポ?はナギの操縦通りにキレのある動きを見せる。
「ほぅ、やるようになったやないか」 「へぇ、すごいな」 「どうだ、恐れ入ったか」
咲夜だけでなくエイジも見入ったので、ナギは得意げになる。
「おまえもやってみるか?」
そう言ってナギはエイジにリモコンを差し出す。彼に恥をかかせるつもりなのだ。
「まぁ、いきなり私のように動かせるようには・・・・」
ナギがブツブツ言っている間に、エイジはグロスホッパーを動かした。
力強い走行に迫力のあるドリフトを見せつけられ、操縦は下手だと思っていたナギは黙ってしまった。
「すごいな!やるやないか自分!」 「俺も中々やるだろ?」
絶賛を浴びるエイジをナギは悔しそうに見つめる。どうもエイジにだけは負けたくないらしい。
「俺はもっとすごいのができるぞ」
そう言ってエイジが持っているリモコンを引ったくって操縦するダイ。
アクセル全開でジャンプしたグロスホッパーは、錐もみ状態で飛行した。
「おおっ!!」
全員が感心する。しかし、グロスホッパーの落下先には高価な食器類が並べられていた。
「あ!」
ガッシャ――――ン!と大きな音を立てて、食器類は割れてしまった。
その惨状を、皆何も言わずに眺めている。
「・・・・なんてことをしたんだ、おまえは」
しばらくしてナギが怒り心頭に詰め寄ってくる。マリアも笑顔であるが、激しいプレッシャーをかけている。
「・・・・帰るか」
縮まっているダイをよそに、佳幸、達郎、花南、そしてエイジが帰り支度をはじめる。ハ ヤテは黙って破片を集めている。
「外とか広いとこじゃなくて、部屋の中でラジコンなんか動かしたあなたたちが悪いですよ」
そんなシュウの言葉を、誰も聞いていなかった。
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