Re: 新世界への神話 ( No.26 )
日時: 2009/11/11 17:20
名前: RIDE

今日はハヤテの誕生日。
ですが話とは関係ありません。
第11話、更新します。


  第11話 八闘士

 1
「ナギッ!!」

 長く留守にしていた主の屋敷への帰還を出迎えたのは、彼女にとって姉同然のメイドであった。

「マリア・・・・」

 よく見ると、マリアの目にはうっすら涙が浮かんでいる。

「おかえり、ナギ・・・・」

 それを聞いた途端、ナギは泣きじゃくりながらマリアに抱きついた。それまでの不安がぽろぽろと零れ落ちるかのように。

 そんな彼女に、マリアは何も言わずにナギの頭を優しく撫でていた。

「ハヤテ君もお疲れでしょう。ナギのことは私に任せて、今日はもうお休みになってください」
「わかりました。ではお言葉に甘えて」

 信頼できるメイドに今日の残りの仕事を引き受けてくれたハヤテは、開放感とともに自室で身体を休めるのであった。



 翌日。

「邪魔するぜ」
「ダイ様、ちゃんと行儀よくしてくださいよ」

 休日の昼間に、ダイは三千院家の屋敷にズカズカと上がりこんだ。後ろにはシュウ、翼、大地の三人が続く。

「おまえたち、何をしに来たんだ?」

 屋敷の主であるナギは、不機嫌を露わに出迎えた。

「これからの戦いについて話し合おうと思ったんだ」

 ダイは、そんな彼女の気持ちはよそにしている。

「他にもここへ来る奴らがいるぜ」

 ちょうどそのタイミングで、来客者がまた訪れてきた。

「へぇ、ピカピカだな」
「なんだかよくわからねぇけど、高価なもんが並べられてんな」
「まったく。二人とも、庶民面しないで。私まで同じように見られるじゃない」

 二人の少年を引き連れて、花南が客間へ入ってきた。彼女はダイを見つけて一言言った。

「私の手を煩わせないでって言った筈よ。それなのに、こんなところに呼ばせるなんていい度胸してるじゃない」
「はぁ・・・・このタカビー女は・・・・」
「なんですって!」

 後ろでため息をついた少年を、花南は容赦殴る。一方、ナギはそんな光景が目に入らないようだ。

「何故ここなんだ・・・・?」
「ここなら、高級な紅茶が飲み放題だからな。あと、高級な茶菓子も・・・・」
「誰が出すか!」

 髪を逆立てしそうな勢いでナギが怒鳴る。その様子を、猫みたいだなとダイは他人事のように思う。

「さっきからから失礼だな」

 人のことは言えないはずなのだが、ダイは唇を尖らせる。

「ここで話そうといったのは綾崎だぜ」
「なに!?」

 ナギは振り返って背後にいる執事を睨む。危機を感じたハヤテの全身に冷や汗が垂れる。

「ハヤテ・・・・・・・・」
「は、はい?」

 なんとか爆発させないようにと慎重になるハヤテ。

「長らく敵に捕まっていて、行方不明だったこの私がようやく帰ってきたのだぞ。なんとも思わないのか?」
「ええ。ですからもう二度とこんなことが起こらないようにと対策を練るのも兼ねていろいろと討議しようかと・・・・」

 プルプルとナギが怒りに小さく震えだす。ハヤテは気付いていない。

「本当はヒナギクさんも呼びたかったんですけど、生徒会の仕事で忙しいと仰ってましたし・・・・」
「ハヤテの・・・・」
「え?」
「バカァ―――――ッ!!」

 強烈な平手打ちが顔面に入り、ハヤテはその場でダウンしてしまう。

「フンだ。私は庭にいるぞ。勝手に話しでもしてるがいい」

 ご立腹な様子でナギは出て行った。

「どうしたんでしょうか、お嬢様?」
「いけませんよハヤテ君。再会して間もないんですから」
「そうか。お嬢様は話し合うことよりも、僕が一言任せてくださいと言って欲しかったんですね」

 ピントのずれた解釈に、忠告したマリアをはじめ普段他人事に無関心な態度のダイでさえ違うだろ、という視線を送る。

「まあ、当たらずしも遠からずなんですけどね」
「え?」
「いえ。紅茶を出してきますね」

 マリアは、逃げるように容器などを運びに行った。



「で、話をする前に綾崎、一つ聞きたいことがある」

 ダイが真剣な表情でハヤテに問う。

「おまえは、これからも俺たちと共に戦うつもりか?」

 するとハヤテは、呆気にとられた表情になった。

「何言ってるんですか。僕は風のシルフィードの使者で・・・・」
「元々おまえはさらわれた自分のご主人を助けるために使者となった。そして昨日、その主人は帰ってきた。もうおまえは戦わなくていいはずだ」

 調子を崩すことなくダイは続ける。

「本当言うと、艶麗なんて俺とシユウたちだけでも事足りる。八闘士なんてモンたちも加わっても戦力が有り余るぐらいだ。でもおまえは、そんな俺たちについていけるのか?」

 ハヤテはようやくダイの言いたいことがわかった。

 抜けるなら、今だと。

 ハヤテは何か言おうと思うのだが、言葉が選べない。詰まってしまうと変な調子になって
しまうので、慎重なものをとろうとするのだが、そうすることによって逆に袋小路に入ってしまい、内心パニックになってしまう。

「落ち着け」

 そんなハヤテの前にシルフィードが現れ、助言を与えていく。

「ゆっくり呼吸しろ。そして頭に浮かんだ真っ直ぐな言葉を話せ。それが正しい言葉だ」

 言われたとおりに呼吸を整えるハヤテ。すると頭の中が明瞭となり、自然と口が開いていく。

「・・・・僕にはもう戦うための明確な理由はありません。でも、兄さんのことがありますし、精霊の使者に選ばれたからには、これからも戦わなければと考えていたんです。自分にできることですから。でも艶麗との戦いが終わった後のことは・・・・」

 黙って聞いていたダイは、決断したように頷いた。

「わかった。とりあえず、この戦いだけは手伝ってもらう。考えてみれば、俺がこんなことを言う権利はねぇからな」
「いえ。僕も皆さんに心配かけないように強くなりますから」

 ハヤテはてっきり、ダイは自分が弱いから特に理由がないなら降ろすつもりでいたのだと思っていた。

 しかしダイは、これ以上人を巻き込みたくないためにあえて突き放すことを言ったのだ。そのことに、ハヤテは気付かなかった。

「でもそれならヒナギクさんにこそ言うべきでは?女の子ですし・・・・?」
「あら、女の子は戦ってはいけないのかしら?」

 しまった、とハヤテは思った。この場にいる唯一の女子である花南が、笑顔で嫌味を言う。

「下手をしたら、その辺の女よりも可愛く見えるお顔なのに、たいした口よね」
「はうっ!」

 花南の言葉が、ハヤテの心にクリティカルヒットした。

「まったく、このタカビー女は・・・・」
「なんですって!」

 花南は後ろにいる少年の一人を、引っぱたいた。

「ダメだよ花南さん。達も一応謝って」

 もう一人の少年が二人を諌める。

「桂については聞くまでもないだろ。綾崎、おまえがいる限り」
「なんでですか?あ、生徒会長だから生徒を守らなければと考えているんでしょうね。迷惑かけないようになおさら頑張らないと」

 ダイは内心呆れていた。どうしたらここまで鈍感になれるのかと。

 人前では態度に出さないため、あまり知られてはいないが、ヒナギクはハヤテに対して恋心を抱いている。ダイがそれを知ったのは、常人よりも優れたカンだからである。

 この鈍感がやがて相手や自分を傷つけるかもしれない・・・・。

 そこでダイは考えるのを止めた。所詮は他人事だ。違う世界の住人である自分には関係な
いし、自分から変わろうとしない限りはいくら忠告しても無駄であるとわかっていたからだ。

「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね」

 少年たちがハヤテたちのほうを向いた。

「僕は岩本佳幸。花南さんと同じく、八闘士の一人です」
「俺は西園寺達郎。俺も八闘士の一人だ」

 岩本佳幸は頭を下げ、西園寺達郎は笑顔を見せる。

「よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 ハヤテと佳幸は、互いに握手しあった。

「名乗りも済ませたとこで、これからについて話し合おうぜ」

 ようやく本題に入ると、まず佳幸が口を開いた。

「艶麗の手下については問題ないでしょう。ほとんどが青銅精霊の使者でしょうし」
「青銅精霊(ブロンズスピリット)?」

 聞きなれない単語に、首を傾げるダイたち。

「呆れた。そんなことも知らないの?」

 ため息をついた花南を窘めてから、佳幸は説明した。

「精霊はスピリットと呼ばれることもあって、それらは主にリングと勾玉の硬度によって、上から順に黄金(ゴールド)、白銀(シルバー)、青銅というふうにクラス分けされています。当然、上のクラスの使者たちは強く、逆に青銅は最下層の使者たちが多数所属しておりま
す」
「おまえたちの精霊はどのクラスなんだ?」
「青銅です。八闘士全員同じクラスです」
「一番最下層なのに八闘士と言われているのか・・・・」

 何か言いたそうなダイの態度が、花南の癇に障る。

「なによ、文句でもあるの?」
「いや、逆にその枠に収まりきれない実力があるんだなって思っただけさ」

 花南は納得いかないようだったが、そういうことにしておいた。

「あの、僕のシルフィードは・・・・」

 オズオズと訊ねたハヤテに対して、達郎が答えた。

「ああ。シルフィードやヴァルキリオン、盗まれた精霊に関しては皆青銅クラスっすよ」
「艶麗の手下についても同様だと思いますので、それに関しては問題ないでしょう。ですが・・・・」

 佳幸はそこで思案顔となった。

「艶麗の実力については未知数ですので、僕たちでも倒せるかどうか・・・・」
「それはおまえたちが考えることじゃねぇだろ」

 ダイは自信有り気に宣言する。

「あの女は俺が倒す。頼まれたことだからな」
「ジンジャー・コールドも、今度こそ斬ってみせる」

 翼も意気を込めるように拳を握った。

「ところで、兄さんは艶麗側につくと思いますか?」

 ライオーガを奪ったハヤテの兄、綾崎雷矢を思い浮かべると、困惑してしまう。

「あの男はどう出るかわからねぇからな・・・・」
「でもこれだけ聞くと、なんか楽勝って感じがしねぇか?」

 大地が暢気な声で言うが、どこか張り詰めたものを感じる。

「そうですね」

 佳幸やシュウも同様に意味ありげな笑みを浮かべた。

「相手に気付かれるような偵察を遣わせているんですから」

 一瞬してこの部屋の空気が凍りついた。

「ムーブラン!」

 佳幸が部屋の一角を睨むと同時に、炎龍を模した彼の精霊、火のムーブランが解放形態でそこへ突進する。

 体当たりによるダメージのため、虎の姿形をした精霊と男が現れた。

「てめぇも艶麗の手下か」
「そうだ。我が名は爪牙。こいつはタイガネル」

 爪牙の精霊、タイガネルは開放形態から人型形態へと変わっていく。

「こうなったら、おまえたちの命を頂く!」

 佳幸が身構えるが、達郎がそれを止める。

「ここは俺に任せとけって。ジャーグイン!」

 達郎の傍に、鮫をイメージした彼の精霊、水のジャーグインが現れ、一気に人型形態へと変わった。

「くらえっ!」

 先制攻撃を仕掛けたのはタイガネルであった。

「バンカーズネイル!」

 五本の指が重なって打ち杭のようになり、ジャーグインに突き立てようとする。

 しかし、達郎は余裕の笑みを浮かべた。

「甘いな。ジャーグインの必殺技は攻撃と防御が同時にできるんだぜ!」
「なにっ!?」
「自分の技の威力を喰らいやがれ!」

 ジャーグインの掌から水の球体が発生する。

「ハイドロスプラッシュ!」

 その掌をタイガネルに向けると、水球から激しい勢いで水が放射された。水流はバンカーズネイルを押し戻し、タイガネルは自分の必殺技の威力も加わった水流を受け、そのダメージの大きさによって封印されてしまった。

「あ・・・・・・」

 動揺した隙を逃さず、シュウと大地は爪牙を取り押さえた。

「まったく、こんなのが偵察じゃ艶麗ってのもたかがしれてるわね」

 花南は屈んで爪牙の顔を見た。爪牙は何故か笑っている。

「何がおかしいのよ」
「おまえら、俺たちの目的が偵察だけかと思ったか?」

 その言葉に引っかかった佳幸は爪牙に訊ねた。

「たち?仲間がいるのか?」
「ああ。今ごろ相棒は、三千院ナギの命を狙っているだろうぜ」

 それを聞いた途端、ハヤテは全身の血が引いたように感じた。屋敷の庭とはいえナギは今外にいて、しかも一人きりでいる・・・・。

「お嬢様!!」
「あ、綾崎さん!」

 シュウが制止する前に、ハヤテは飛び出していった。

「翼、大地、シュウ!その男を見張っていろ!」
「達、花南さんもよろしく!」

 ダイと佳幸は急いで後を追った。